ウルの漁夫のリ~! (挿絵)
初めての転移魔法、歩いて登ってもさほどの時間は掛からない距離。
自分で、会得した魔法ではなかった。
マーマリアに、作ってもらった転移の書に従って只同じ文言を繰り返すだけの単調な魔法になってしまった。
世間では禁句ともいわれる大魔法。
それでも、ソルはうれしかった。
この短い距離の転移の先には、(異世界渡りの転移)へと通じている。
「やったー! ソル転移成功だね! これでソルも魔法使いかな?」
ウルが眼下の山々を見おろしながら嬉しそうにはしゃぐ。
「よし! 今の感触を忘れない内にもう一回だ。ウルッ 入って」
立て続けの短い距離の転移。
次に現れた場所では、目の前で小さなリスが縄張り争いに夢中でいきなり現れた二人に気が付かない。
後ろ足で立ち上がって、相撲のように組み合って争っていた。
目ざとく見つけたウルが、木剣で叩く。
「コンッ コンッ」
「やったーリス取ったど~」
「ハハッ おいしい所へ出くわしたね。ウル、まだまだ行くよ~。今度は木剣を構えていてよ。」
オレンジの輪の中に消えていく二人。
さらに続けての転移魔法。
光が逆再生で魔法の書に吸い込まれていく。
辺りがもうもうと物凄い土埃だ。
(イメージにあった場所は日当たりのよい穏やかな崖の上の休憩場所だったはず、この土埃は難だろう)
ウルが、木剣を構えながら。
「リス、いないねえ」
「ズザザザザ——」
「グオオオオオ————」
ウルの目の前に巨大な黄色地に黒い模様の大虎が土埃の中から転がり出てきた。
「マヌー!!」
驚いたことに此の森の主大虎マヌ—が戦っている。
風が土埃を吹き飛ばした。
「グワオオオ————」
そこには、立ち上がり4メートルにもなる赤頭の大熊が大虎の森の縄張りを得ようと立ち向かって来ていた。
巨大な二頭が立ち上がり丸太の様な互いの腕で応戦する。
重量級の凄まじいいパワーがお互いの毛皮をかきむしり、肉を弾き飛ばす。
「ウル! は離れて! 逃げるんだ。早く」
ソル達は、離れた岩陰に飛び込むように走り込んだ。
「この森の支配者争いに出くわしたんだ。そっと離れて逃げよう。巻き込まれたら大変だ」
ウルが、森の中へとソルの手を引いて逃げようとする。
「待って! ここでマヌーが負けたらこの森はどうなるの? マヌーは獲物の横取りはするけれど、人は殺さないと祖母ちゃんが言ってたよ」
「あの大熊が支配者になれば、とても危険な森になってしまうよ」
ウルがソルの手を掴んで目を見据える・
「マヌーに加勢をしようよ!」
「あたしには、この大剣がある。ソルには魔法の書。」
「鎧を着たあたしを、大熊の後ろに転移させて。後ろ足を一閃切りつけて崖下へと飛びこんで逃げるよ。成功しても、失敗しても次の休息所で落ち合おうよ」
ソルは、迷ったが確かにあの大熊が此処でのさばるようだと村の人々に必ず被害が出る。
ウルの提案が、出来るような気がしてきた。
「分かった! 次の泉の休息所で落ち合おう。絶対にまともに戦うなよ!
後ろから剣を一振りしたら崖下へ飛び込んで逃げるんだよ」
「大丈夫! すごい力を感じるの。足を切ったら全力で逃げるよ」
ウルが剣を抜く。
全身を甲冑が包んでいく。
目立たないように小さな体のままだ。
岩陰からソルが争いを観察しながら詠唱をすると、目の前のウルが光に包まれて消えていく。
力の拮抗した巨獣たちが、壮絶な爪の殴り合いを一旦引き、間合いを取って睨みあった。
一瞬でも、眼を放すとそれは敗北につながることを野生の獣たちは知っている。
「ボワン」
しゃがむように大熊の背後にウルの姿が現れる。
ウルは、鎧の力を感じていた。
「最大の大剣!!」
小柄なウルには不相応な巨大な大剣がその手に現れる。
しかし、ウルには力がみなぎっていた。
「チェースト————!!」
気合の叫びにようやく大熊が振り向く。
それよりも早く後ろに伸ばした後ろ足の腱を狙って振り払う。
「ザンッ——」
巨大な体躯を支える丸太のような後ろ足が宙を舞った。
「あれ?……」
支えを失った大熊がもんどりうって横倒しに倒れる。
ウルは、一瞬奇妙な感じを受けたが打合せ道理そのまま振り切った勢いのまま崖下へとダイブした。
その様子をソルは見ていた。
自分の身の丈をはるかに超える大剣振るうウル。
巨大な剣にも関わらず剣の動きは、早くてソルには見えなかった
次の瞬間には大熊の後ろ脚が飛び、もんどりうって横倒しになった。
大虎もこの機を逃さず襲い掛かる。
無様に腹を覗かせるそこへ渾身の力の爪が振るわれた。
大量のはらわたと内蔵部分がえぐり取られて宙に舞う。
その大半は、崖下へと飛び散っていった。
断末魔のように痙攣を繰り返す大熊。
その上に前足をのしかけると。
「ガオオオオオオ————」
大虎は勝どきの咆哮を森へと放った。
ソルは、飛び散る内蔵の中に日の光を浴びてキラリと光るものが崖下へと落ちていった事を見逃さなかった。
「あれは、魔石 でかい魔石だった」
約束も忘れて崖下へと転移を試みる。
様子は解らないが大した高さではないはず。
転移の光が収まり地面の感触を探すが浮遊感がソルを襲う。
「「きゃーっ! わーっ」」
丁度、崖の上から落ちてきた魔石を拾ったウルの両腕の上にソルが落ちてきた。
「すごいモノ、拾っちゃった」
ウルは、お姫様抱っこしながらソルに魔石を見せる。
「さっきの大熊の魔石だね、大虎からのプレゼントだね。ソル」
ソルが笑う。
ウルもつられて笑う。
「「アハハハハハ————」」
オレンジの光が二人を包むと笑い声を残して消えていった。




