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ソルの願い (挿絵)

     挿絵(By みてみん)



「転移の魔法を教えてください!」

「異世界へと行ってみたいんです。魔力が足りないのは解っています。一瞬だけでも覗いてくる。転移だけでも一度やって見たいんです」


「ハハハッ さすがにガイアスの弟子だね、またおかしな事を吹き込まれちまったねえ。魔導士にもなっていないひよっこが、大魔法をご所望とは。あたしも恐ろしくてそんな転移やって見たいとは思わないけれど、男の子だね」


「…………」


「いいだろうよ。覚えるのは難しいだろうけれど羊皮紙に魔法陣の文様を書いてやろうかね」


「まず、近い所の転移を繰り返して、転移した先をイメージするんだよ。一度行ったことがあるなら分かりやすいだろう。それから魔法陣から流れ込んでくる転移の術式を覚えな」


「行ったことのない場所なら、その場所に転移の術式を組んだ魔法陣の設備場がいる。どちらにせよ誰か魔方陣を組める誰かが先にそこへたどり着かなければならないけどね」


「転移には魔力がいる。異世界なんて行ったらどれだけの魔石に魔力を蓄えていったらいいのかわかりゃしないよ。行ったことのあるガイ(ガイアス)ぐらいにしか解らないだろうね。下手すりゃ、行ったきり帰ってこれないかもしれない」


 ソルは、とんでもなく面倒なことをお願いしている事に気が付いたが見知らぬ世界を見たい思いは消えなかった。


「近い場所での転移の修行を繰り返します。お金をためてたくさんの魔石を買えたら一瞬でも異世界を覗いてきたいです」


 マーマリアは、待ってなと言い残し屋敷の奥へと姿を消したが、すぐに戻ってきたその脇には巨大な魔法の書を抱えていた。

 縦80cm横50センチほどの分厚い古ぼけたそれは、マーマリアの生涯で作り出された魔法を既存の物に追加して作られた魔法の書だった。


 一つのページを捲るとその上に真っ新な羊皮紙を載せる。

 手をかざすと。焼き色の付いた複雑な文様の魔法陣が浮かび上がった。

 そして、また別のページと繰り返し七枚もの羊皮紙に魔法陣を写し取った


「この一枚一枚は、別々の魔法だが一度に使うことで転移の魔法になるのさ。一枚でも欠けたら失敗するよ。あたしはこれをすべて覚えているが、お前は術が発動した時に此の魔方陣から、頭に流れ込んでくる文章を同じように唱えればいい」


 マーマリアは、七枚の紙を一つに紐で括ると床に置いた。

 焼き色の付いた魔法陣がオレンジ色に輝きだすとマーマリアを包むように広がりを見せる。

 さらに、それが円柱形に立ち上がり発光しながら回りだした。

 中心のマーマリアが薄く消えていく。


 慌てて、ウルが叫ぶ。


「マー!」


 次の瞬間、部屋の隅に現れたマーマリアが悪戯っぽく返事を返す。


「ふふっ なんだい? ウル」


「こんな具合に使うのさ。ほらお前にあげるよ、持っておいき。たったこれだけだというのに、おなかが空いちまったよ。どれスープの残りでも食べようかね」


「それとソル、転移の魔法を組み合わせた魔法陣で使えるなんてことを絶対に人に話すんじゃないよ。どんな悪どい事に使われるかもしれないからね。羊皮紙の魔法陣で組み合わせて誰でも使えるなんて知れたら戦争や暗殺にでも使われてしまうからね。お前に渡したのは言わば秘伝だ」


 それから、ソルは使ってはならない決め事を事細かく約束させられた。

 ウルたちは、二日ほど里帰りを楽しんだ後またプラディアの街へと帰ることとなった。

 帰りに、マーマリアから練習には使えるだろうと色の抜け落ちかけた屑魔石の欠片をいくつかもらった。

 ソルは、勾配のきつい坂道から峠の分水嶺の見晴らしの良い休息場所を思い出し、足元に転移の書を置いた。


「ウル! 早く輪っかの中に入って! いくよー」


 オレンジに輝きだした円陣の中にウルが抱き着く様に飛び込んでくる。


「うん! ソルの魔法楽しみだね。あの山の上までぴょ~んて行くんだ」


 ソルの頭の中に、休息場所の映像が流れ込んでくる、更に魔法陣が発動しマーマリアの声で魔法の呪文が聞こえてくる。

 それに続いて同じ文言をソルも唱える。

 円陣からオレンジの輪がクルクルと立ち上がり二人を包んでいく。

 その時、バッタが円陣の中に飛び込んできた。


「あっ! しっしっ 出ろ」


 思わず、ソルが詠唱を中断して余計なことを言ってしまった。


「シュィ——ン」


 立ち上がりかけたオレンジの輪が元に戻るように地面に吸い込まれていく。

 光が消えていく、失敗。


「あーっ なんで余計な事言っちゃうのよ。失敗だよ。もう此の魔石使えなーい」


「ごめん! もう一回いくよ」


 オレンジの光が二人を包み込んでいく。

 ソルは、真剣に一言一句間違わないように慎重に言葉を重ねる。

 光が逆再生のようにシュルシュルと回りながら転移の書に吸い込まれていくと、そこには、開けた山頂から眼下に広がる山々が広がっていた。


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