マーマリアから……二人へ (挿絵)
「待て、マテ————ッ」
「ゴン!」
「やったよ!ソル、これで8羽目だね。マー(マーマリア)の冬のコートだって作れるよ。大量~」
「あっ! あそこにも」
ソルとウルは、二日の道のりを歩いて故郷の村へと目指していた。
道すがら、うさぎの魔物を見つける度にお土産にしようと追いかけまわしている。
素早いウルは,木剣を手に見つける度に走っては追いかける、うさぎの逃げる先にソルが小さな障壁を現わしては足止めをする。
うさぎが、障壁にぶつかってころぶ。
ウルが、走ってきた勢いのまま飛び込むように木剣でうさぎの頭を叩いた。
「チェースト!」 「ゴン!」
ウルが、ホクホク顔でうさぎを拾おうとした時、目の前の藪の下からヌルッと幅広い舌の様なものがうさぎを絡めとり藪へと引きずり込もうとする。
「アッ あたしのうさぎ!」
ウルが、うさぎの足を引っ張る。
藪の向こうの何かもうさぎを引っ張る。
ザザッと藪が割れて、その持ち主が姿を現した。
ウルの背丈と同じぐらいのおおきな顔、その口元に加えられたうさぎの足を掴んだまま、森の主の大虎の眼光を目の前にした。
「わっ わっ ぎゃあー! マッマヌー」
うさぎを放すと木剣を構える。
「ゴアオオオオオ————」
大気を揺るがし、大虎が何もかも凍り付かせるような咆哮を上げた。
ウルは、この巨獣に何の威力も持たない木剣を構えたまま、固まってしまって動けない。
サーベルタイガーは、うさぎをポトリと口元から落とす。
大きな体で、ウルの周りをぐるりと回る。
大きな顔を近づけてきたかと思うと、足元から顔までウルをベロリとひと舐めした。
「森の主マヌー様、此れでどうか」
ソルが、袋からもう一羽のうさぎを足元にほおる。
大虎が、うさぎを見る。
「ガウウ!」
ソルが、更にもう一羽投げ込む。
大虎は、フウと息を吐くとその場に座り込み、足元のうさぎに食らいついた。
「ウル‼ 今のうちに」
ウルがそっと、うさぎに夢中の大虎の横を忍び足で通り過ぎる。
ソルに抱き着くと、二人してそっとその場を離れる。
二人は、そっと歩いた後振り返った。
大虎は、じっと此方を見ていたが一声上げる。
「ガオッ」
「ギャーッ」
ウルは我慢していた怖さに耐えかねて一目散に走りだした。
「ワーッ 待ってよウルー」
ソルも、もう後ろを振り返らずに必死に走り出した。
その後ろでは、大虎マヌーがせしめたうさぎをのんびりと食べている。
「そんな、訳ですんごい怖かったんだから。あんな近くで森の主に出会うなんて死ぬかと思ったよ。マー(マーマリア)」
ソルとウルは、無事に村へと辿り着くとマーマリアに二人の冒険を話している所だった。
夕餉に間に合い、ソルもマーマリアの家で御相伴にあずかっている。
「そうかい。ケガが無くて無事でよかったよ。もっともあの大虎は、自分で狩をするより人の獲物を奪い取るのが楽でいいと思っているのさ。だから狩をする者を簡単に殺しはしないよ」
「自分の為に、獲物を狩ってくれる便利な狩人とでも思っているのさ。見つかったら、さっさと獲物を渡して逃げるんだよ」
うさぎとジャガイモを煮込んだスープをすくい美味しそうにウルがほおばる。
マーマリアは、少し見ない間にすっかり逞しくなった孫娘の頭をなでる。
「どうだい、騎士様になるぐらい強くなったのかねえ。その木剣ではうさぎぐらいしか叩けないだろ」
マーマリアは、すこし剣術を身に着けたウルが身の丈の合わない魔物にでも向かいやしないかと心配した。
「うん! 道場じゃ一番すばしっこいだから、もう少し背が伸びれば力が付くし女剣士としてバンバン名前を売ってやるんだ」
少し待ってなと、マーマリアはすこし考えた様だが席を立って屋敷の奥へと向かう。
帰ってくるとその手には一振りの大剣が携えられていた。
柄には、小粒の真っ赤な石がはめ込まれ、鞘には美しいバラのレリーフが刻まれていた。
「木剣じゃ、危なっかしくて森も歩けないだろ。これを持っておいき」
ウルが、眼を輝かせて剣を見る。
「スゴイ! 大剣だよね。でもあたしには、すこし大きくて使えないかも」
マーマリアが、にやりと口角を上げると。
「ウル、あたしが誰か忘れているんじゃあないかい。国一番の魔導士マーマリアだよ。ただの大剣をかわいい孫にやるもんかね」
「これは、以前ガイ(ガイアス)が大けがした時にとって置いた血とある特別な魔石を埋め込んで作り上げた魔法剣だよ。持つものに合わせて剣のサイズと形が変わるのさ。持ってごらん。それにお前にだって話しておくことがある」
ウルが、大剣に手を伸ばし腰に携えた。
するすると縮尺が変わり、大剣が細身の60cmほどの剣に変わっていく。
「抜いてごらん。もっと驚くことが起きるはずさ」
「シュリン」
ウルが剣を掲げる。
すると、足元にシルバーの具足が現れその足に取りついた。
つぎつぎに足元から体を包み込むようにして銀の鎧が空中に現れるとその小さな体を包んでいく。
最後にその可愛らしい顔をバイザーの付いた銀の兜が覆いつくした。
あっという間に、ちいさな鎧騎士が出来上がった。
「なに! なにが起こったの、前が見えないよ~」
バイザーが下りて前が見えにくいのか、ガシャガシャとウルが地団太を踏む。
マーマリアが、笑ってバイザーを上げた。
「あっ! 銀の鎧! いつの間にあたしが着たの?」
ウルが珍しそうに自分の姿を見回している。
「ウル! 騎士様は、そのままでいいのかい? ほかに願いはないのかい?」
「折角なのに、こんなにあたしが小さいんじゃ、もう少し大きくなりたい」
「それを、心の底から願ってごらん」
「?」
「ウ—————ン」
兜の間から、ブロンドの髪が伸びてくるそれに伴い背丈がみるみる上がっていく。
足は長く臀部は張り、天上に届きそうなシルバーの偉丈夫がそこに現れた。
近くに居たソルが腰を抜かして座り込み、見上げる。
マーマリアも思いがけないほど大きく変身したウルに驚いた。
ウルは、何が起きたのかわからず首をかしげている。
「ソルとマー、急に小さくなっちゃったよ」
ウルが髪をファサリと振って、兜を脱いだ。
ソルは、眼を見開く。
そこには、艶やかな金髪をなびかせ、切れ長の眼でソルを見おろす美しい巨人が現れた。
ソルが狼狽して、声を繋ぐ。
「ウル、本当にウルなのか?」
ウルは、甲冑に包まれた自分の手を、体を見回すようにくるくると回る。
髪を触り、自分のおしりを触る。
「これが、あたし?」
「そうさね、ウルが望んだ騎士様の姿だね」
ちょっと、大きくなりすぎの様だがまあいいかと、マーマリアは微笑んだ。
「その姿の時は、早さも力も何倍にもなるんだよ。ただ時間はお前の魔力の続く限りさね。そこらは自分で精進するんだよ」
自分をよく見ようとドタドタと騒ぎまわる。
目を見張るような巨人の美女に変身したウルだが、中身は変わらず15歳の小娘の動きそのままだった。
「こら! 静かにおし! 家が壊れちまうじゃないか。剣に命じて鎧を脱ぐんだよ!」
ウルは、しばらく此のままでいたいと愚図ったが、マーマリアが大剣を取り上げ、小さく口で唱えるとあっという間に元の小娘に縮んでいき、鎧もスッと消え失せた。
「人前で、鎧に変身するんじゃないよ。面倒になるからね」
鮮やかな赤いバラに色づいた剣の鞘を眺めてウルはうなずく。
全くとんでもない代物を15歳の小娘にマーマリアは渡してしまった。
「さて、ウルだけにプレゼントってわけには行かなくなったね。ソル! お前何か欲しいものはないのかい?」
「………………」
ウルは、ガイアスが魔石を失ったことを話すかどうか決めかねていた。
もちろん、ガイアスからはマーマリアには絶対に秘密にしろと厳命を受けている。
「異世界」この言葉にあれからどれほど恋焦がれるほどの思いが募って来たことか。
異世界へと向かえる為にはどれほどの修行が必要か、どれほどの魔力量が必要か、まだ思い付きも出来なかった。
ただ、行ってみたい。
転移だけでもしてみたかった。




