あたしも街につれてって~!
「爺さん、きれいに剥いでくれよ。きれいな白い毛皮だ。プラディアに持っていけばいい値で売れる」
「なんだ、英雄様がずいぶんけち臭いこと言ってんじゃねえよ。言われなくったって、この村じゃ一番の解体の腕だ」
門番の爺が、慣れた手つきで獣から服でも脱がせるように毛皮をはぎ取り終える。
その後ろの屋敷では、少年たちがウルの祖母マーマリアに手当てをしてもらっていた。
「ああ、後ろ脚の肉は、隣村の小僧どもに持たしてやるから先に切り分けてくれ。俺が送ってやる」
それを聞いて、マーマリアがガイアスに怒鳴った。
「隣村なんだ、一時も馬車で走れば着くんだからそんな事に魔法を使うんじゃないよ。ちったあ、自重おし」
「この村の辺りで、派手な魔法を使うんじゃないよ。 あたしもようやく静かに暮らしているんだから。また、うるさい奴らに付きまとわれたんじゃ、叶わないからね」
まるで悪戯をとがめられた子供のように、チリチリ頭を掻くとガイアスは口をへの字に結ぶとあごを突き出した。
辺境都市プラディアでは、英雄と一目置かれるこの男もこの老婆の前では只の小僧のように扱われる。
本来ならば、このような辺鄙な村で、農民相手の小道具で生活をたてて居る様な女ではない。
魔力の扱いにたけ、画期的な魔術で動く魔道具を生み出し、自身でも様々な魔術を駆使する魔導士として、遠く離れた王都でも1.2を争う魔女だった。
しかし、権力に取り込もうとする輩との扱いに嫌気がさして、このような辺境に移り住んでいた。
当時王都で、ただ魔力の大きさにものを言わせて暴れまわっていた浮浪児のガイアス。
それを捕まえて、ただの乱暴者だった小僧を一端の魔導士に仕立てあげた。
ギルドに所属させると、それまでの罪滅ぼしをさせる様にわざと難しいクエストを受けさせ信頼を取り戻していった。
更には、国がらみの仕事も増え命がけの仕事もこなし、英雄とさえ讃えられるほどの男になっていた。
注目をこのガイアスに擦り付けると、さっさとマーマリアは隠匿してこの地に移り住んでいたのだった。
ガイアスも後を追うように、この土地の一番の都市、辺境都市プラディアに屋敷を構え、何かにつけてマーマリアを訪ねて来ていた。
「じいさん、荷馬車をかりるぞ。『マー(マーマリア)!』明かりの魔道具をかしてくれ!」
辿り着くころには、暗くなってしまうだろう。
肉を運んで、少年たちも集まってきた。
うちの一人、ナイフを使っていた少年がおどおどしながら。
「ガイアスさん、俺を弟子にしてくれ。魔力も人より多い、辺境都市プラディアで冒険者をやりながら、魔導士になりたいんだ」
「ふっ、魔導士になりたいだと、坊主、魔導士がどんなものか分かるまい? 冒険者をやっている内に、方輪になるのがせいぜいだぞ。やめておけ
ガイアスが鼻で笑う。
多少の魔法は使えても、魔導士と呼ばれるほどの存在はこの国でも数えるほどしか存在しない。
近くで、荷物を馬車に積み込みながらそれを聞いていたソルタニオは驚いた。
十二歳になっていたソルタニオにとって、辺境都市プラディアは自分とは無関係の遠い地であり、このまま家の農家を継ぐと漠然とした思いしかなかった。
新しい未来が広がって、夢を見せつけられてしまった。
そこへ、幼いウルまで割り込んできた。
「あたしも!あたしも。あたしは騎士様になる!かっこいい鎧を着て悪い奴や、こんな狼なんか『ばしゅっ!』て、やっつけちゃうんだ~」
すっかり、一刀両断に魔物を倒したガイアスの姿に感化されてしまったらしい。
幼い戯言に周りが、ほのぼのとしてしまった。
しかし、考え込んでいたマーマリアが口を開く。
「ああ、確かにそのジャッファは魔力が多いみたいだ。隣村の村長の三男だから家を出るようになっても構わないだろう」
マーマリアがその隣村の少年ジャッファに問いかけた。
「隣村には魔術師が一人もいないんだろ? おまえがその気ならあたしが、口を利いてやるさ。ただ一つ条件があるよ。このガイアスに付いて修業して十年たったら、お前の村に帰ってきて村の為に働くんだよ。それが出来るならガイアスに預けてやるよ」
少年は、思わぬ助け船に目を輝かせてうなずいた。
「おい! マー(マーマリア)。勝手に決めんじゃない。俺はまだこんなお荷物はごめんだぞ」
驚いたことを言い出したマーマリアにガイアスは面食らった。
「ガイ! あたしと離れてから随分好き勝手にやっているみたいじゃないか。お前も、そろそろ後釜を育てることぐらい考えな! 弟子に教えることで、自分の魔術を高めることにもなるのさ。気づかなかったことも、見えて来る事もあるんだよ。教えることは、お前の為の修行だとでも思いな!」
すかさず、ジャッファが礼を言う。
「よろしくお願いいたします。師匠!」
ガイアスが眼がしらを揉む。
マーマリアが更に言い出した。
「ガイ、お前のプラディアの屋敷は、どうせ使用人ぐらいしか通ってこないんだろ。それなら、このウルも街の学び舎に通わせてやっておくれ。もう十歳になる。子供の少ないこの村であたしが教えるよりかは、たくさんの人に揉まれて学んだ方がいいだろう」
ウルがパっと顔を輝かせた。
「やった! やった!プラディアに行ける、騎士様になる」
ウルは、すっかり勘違いをして喜んでいる。
しかし、目の前で浮かない顔のソルタニオに気が付く。
「ソルも一緒にいこ!」
「ソルも一緒にいこうよ。ねえ、いいでしょ!マー(マーマリア)」
ガイアスは、もう諦めたように言い放った。
「ああ、此奴も次男だったな。どうせ近くの町に丁稚にでも出されるんだろ。家の屋敷の小間使いにでも雇ってやるよ。二人も三人も変わらねえ」
「お俺も連れってくれるのか?」
「いやなのか?」
ぶんぶんと音がするほど、ソルタニオは首をふる。
「マー(マーマリア)、此奴の親父にも話を付けておいてくれよ」
こうして、ソル達三人は辺境都市プラディアでガイアスの世話になる事となっ-た。




