登場~シューティング.マスター
ニューヨークでの銃火器の所持は認められていないという。
このニュージャージーに住所を置いているジョニーさんの名義で買って貰うことになった。
隼人は、自分で持って帰りたかったが、銃と弾丸もジョニーさんが必要な時以外は預かっていると言う。
帰ろうとしていた所へ。
「「「オオ―――――」」」
(うんっ! なんだ?)
あれほどうるさかった射撃場が今は音もまばらに聞こえ、その合間から歓声と共に拍手が聞こえてきた。
(なんだろう?)
興味を引いたのかジョニーさんが、ドアを開けて射撃場の方を何事かと覗き込んだ。
「隼人、人の射撃のスタイルも役に立つかもしれん、すこし覗いてから帰るか」
二人して集まった歓声の人々の後ろへと並んだ。
女の人だった。
片方だけのレンズのついた変わったフレームの眼鏡を装着している。
的に対して真横を向いて、ユニフォームの様なジャージの上下に片腕を真っすぐに伸ばし、肩口から覗き込むように伸ばした手には、コンパクトにグリップ部分に小さく塊を見せる銃、そこから細長い銃身が伸びている。
(なんだろう? 全く武器の凄みを感じさせないんだけれど?)
銃にもべたべたとステッカーがはりついて、隼人たちが使っていたものとは、全く別のものに見えた。
今日,学んだ射撃のスタイルとも全く違っていた。
「パスッ パスッ パスッ パスッ パスッ」
音も静かで銃身も全く跳ね上がらない。静止画のような銃とその姿から連続して射撃を続けていく。
小さな薬きょうだけが、次々と飛び散っていく。
周りは、射撃を終えた人たちが集まりだしていた。
(すごいな、皆、食い入るように集中して見つめている)
小さな射撃音と床に落ちる薬きょうの音。
息を飲み込む音さえ、聞こえる緊張感が漂っている。
先ほどの大音響の響いていた射撃場とは思えない雰囲気に変わって来ていた。
「あれは、競技用ピストルだ。みてみろ、なかなかのもんだな」
25メートル先のターゲットが返ってくる。
皆、礼儀正しく静かな中に拍手が響き渡る。
女の人は、じっとその弾痕の後を見つめている。
「チッ」
小さく舌打ちが聞こえたような気がした。
(なんだろう? うまくいかなかったのかな?)
隼人も興味が沸いてそれを覗き込んだ。
しかし、的の真ん中には小口径で撃ったとは思えない大きさの穴が一つだけポツンと空いているだけだった。
(ああ、そうか。一発だけで、あとは全部外れたのかな。大げさに騒ぎすぎだよ)
「一発だけですね。ジョニーさん」
隼人がぼそりと残念そうにつぶやくと、周りの大人たちが振り向き一斉に笑いだした。
額に片手を当てて笑いながらジョニーさんが答える。
「いや、隼人あれは最初の弾痕の後にすべての弾を通しているからだよ」
(ええっ! あの一点にすべての銃弾が集まっているというのか? 25メートルも離れてすべての弾が?)
隼人は、自分があれだけ撃ち続けて一発もど真ん中には当たらなかったものが、すべてこの2cmにも満たないほどの穴に通したという話が信じられなかった。
新しい的がセットされて移動していく。
「パスッ パスッ パスッ パスッ パスッ」
(確かに、僅かにターゲットが揺れるけど最初の弾痕以外に跡が残らないぞ!!)
静かな場内。
連続した発射音。
一点の黒い弾痕。
感心したように、ジョニーさんが口を開いた。
「さすがだな、競技用ピストルならではの弾のあとだな、9mm弾じゃこうもいかない」
「パスッ… パスッ パスッ パスッ パスッ」
黒い穴が横に広がった。
ちいさくジョニーさんが呟いた。
「俺たちの実践的な使い方とは根本的に違う。所詮、競技でのお遊びだな」
「…パスッ パスッ パスッ パスッ…パスッ パスッ!」
(うっ! 広がった。 あっ! 横にずれたぞ)
モニター画面に映し出されていた的には三つの黒い点が映し出された。
「行こうか。隼人」
隼人はジョニーさんの発言の後に弾痕がずれた事が気になったが、ジョニーさんに促されて背を向けた。
発射音が途絶え、辺りが静まり返る。
「…………」
コトリと銃をテーブルに置いた音が入口に向いていた背中で響いた。
「待ちなさい! あなた。聞き捨てならないわ!!」
(うわーっ! やっぱり、聞こえてたんだ)
ゴーグルを外しながら行く手を遮るように女性がジョニーさんの前に回り込んできた。
体格のいいジョニーさんと痩身の女性が見上げるように対峙する。
静かになった場内は別の緊張感が漂い始めていた。
(いや———っ!)
車の窓の外を、高速で流れる風景をぼんやりとながめる。
日常になりつつある研究所への通勤も少し慣れてきた隼人だった。
午前中大抵の時間は、言語の通じない人たちとのコミュニケーションの取り方を学んだりした。
ガイアスの話の記録を聞いて、異世界『セラ』での人々の人間性や暮らしぶりを想定したりといった座学的な時間をすごす。
伝え聞いた危険な生き物やある程度の対処方法などと共に、サバイバルの知識も教え込まれた。
そのサバイバルの実地訓練が思わぬところから上がってきていた。
午後からの、簡単な手術に合わせて医務棟に移動しながら隼人は二日前の出来事を思い出していた。
「待ちなさい! あなた。聞き捨てならないわ!!」
後ろから投げかけられた、粗い言葉にジョニーさんが足を止めた。
女性は、回り込んでくると見上げるようなジョニーさんに臆することなく言い放つ。
「まるで、私の腕が、この競技ピストルの性能のおかげでターゲットの点数を稼いでいるみたいじゃない! 私は、このために多くの時間を使っているの!私たちが、今まで費やしてきた時間をお遊びって切り捨てたわね! その言葉容認できないわ」
隼人、
(うわっ! めっさ怒ってるし)
銀髪の痩身の女性から発せられる怒気にあてられ隼人は青ざめてその横で立ち竦んでいる。
ジョニーさんも対応に困った風で、思わぬ怒りを買ったことに困惑の表情を見せている。
「いや、そういったつもりで言ったんじゃないんだが、気を悪くしたのなら謝るよ。済まない。競技ピストルの性能と君の熟練した腕がこの整備された射撃場の環境にぴったりと合って素晴らしい結果を目にしたものだから、つい口走ってしまったらしい」
ジョニーさんは、目を少し伏せると謝罪の言葉?を口にしたようだ。
しかし、女性の碧眼はさらに見開かれ。
「あら、あなたの腕前も見ていたわ。多少は使えるみたいで面白いと思っていたけど。随分と上からの目線で物を言うのね。私がこれしか扱えないとでも思っているのね。私もデザート.イーグルのコレクションくらいあってよ」
謝罪は通らずにますます深みにはまっていく。
「いや、俺たちは事情があって実践的な射撃の訓練がしたかっただけなんだ。
それで、つい9mm弾での想定と比較してしまった。済まないことをした」
女性の追撃が続く。
「フフフッ。実践的な訓練? ……それがこの射撃場で? ……それを言うならハンティングの方がまだましよ」
「私も射撃場以外でも使える所をみせてあげるわ! あなたの特異な9mm弾でね。ハンティングで私と勝負しなさい! 場所と費用は私がすべて持つ。こんどのホリデイ.ウイークエンドの2日間で野外キャンプしながら勝負よ!」
隼人、
(うわーっ! ジョニーさん口は災いの元だよ。女の人に謝るの下手だな~
どんどん怒りを誘っているし。どうすんだよ)
女性が怒りに任せて話をどんどん進めていく。
さすがに、これはまずいとでも思ったのかジョニアスが話を止めようとする。
「野外訓練的なものはやろうとは思っていたけれど見ず知らずの君を巻き込んでするつもりはないよ。君は本来の競技ピストルに専念すればいいだろう?」
「あ~ら、逃げるのかしら。すこし腕が立つからって女の私に無様に負けることが怖いのね。おかわいそうに。それに競技ピストルは、メンタルな競技よ。 すこしの迷いも見過ごせないの。今の私にとってこれはほっておけない事になったわ。」
「そこの少年、あなたも一蓮托生付き合いなさい」
(えっ! 俺もですか?)
ジョニーさんが折れた。
「わかった、そこまで言うのなら付き合おう。ただしハンティングはだめだ。狩猟期間が過ぎているし、出来るところも遠すぎるからな」
「傭兵訓練に貸し出している動的射撃訓練場を知っている。そこで君の射撃を見ようじゃないか。俺たち二人は、その周辺でサバイバル訓練もするがな。それでどうだ。半分は俺の提案だ。折半でいいだろう」
隼人の次の休みに美緒里を誘ってみようとの淡い計画も、上司の一言で泡に消えてしまった。
可愛らしい美緒里の代わりに、この怖いお姉さんとイカツイお兄さんにしごかれる絵面しか思い描けない可哀そうな週末に変わってしまった。




