しゃけうめ~トクニカワ
「にいちゃん!」
最初にあったその時の笑顔そのままに、美緒里に続いて玄関を入ると、元気な声が出迎えてくれた。
腕は包帯を巻いてはいるが、いたって元気そうな表情を見せてくれる。
(おっ! 颯太っ、元気そうだな。なんだか救われるな)
その後ろから、二人の母親が笑顔を見せている。
(おっお母さん! 此処は、第一印象が大事だよな。まずはお母さんに気に入ってもらわねば! 俺は、爽やか青年…爽やか青年…………)
隼人は、必死に自分に暗示をかける。
「こんにちは! お招きいただきありがとうございます。川端.隼人といいます。颯太くんでしたか、ケガの具合は大丈夫だったでしょうか。ひどい傷に見えましたが」
隼人は、少年の頭をなでながら心配そうに腕の包帯を気にした。
女性は、笑顔を崩すことなく。
「まあっ、あなたが美緒里の言っていた人ね。颯太もあなたの事ばっかりよ。さあ、中に入って」
(せっ成功か!? お母さまにも気に入ってもらえましたか?)
部屋は、隼人の部屋のシックで落ち着いた部屋とは違い白を基調にモダンでいかにもタワーマンションにありそうな華やかなつくりとなっていた。
母親は、それに劣らぬ華やかさを振りまいてダイニングの席へと勧めてくれた。
隣には少年が、席を取り話しかけたいのかうずうずとしている。
食事の準備をしながら、朝方の顛末を女性が話してくれた。
警察からの、呼び出しに驚いて出かけたものの事情に詳しい人たちの説明もあって示談は案外すんなりと、まとまったとの事であった。
相手方も、一時は興奮して騒ぎを起こした事を謝罪し、治療費も問題ないとの事であった。隼人のことも、善意の行動として捉えられ追及されることはないという。
(そうか~ 俺の事も、上手いこと治めてくれたんだな。お母さんにもランナーさんにも感謝だな。ありがとうございます!!)
隼人も、気にしていた事もありほっとする。
あの時の、初老のランナーを思い出して心の中で感謝した。
テーブルには、豪華な料理が並んでいく。
目を引くのが大皿に山盛りに盛られ分厚くカットされた鮭のソテーだろうか。
キノコのたっぷりとかかったソースからは醤油の香ばしさとバターの香りがただよっている。
(くわ~っ うまそ~っ この匂いたまらんわ)
最近の隼人の食生活は、悲しいものがあった。
秋絵が来るまでは、料理も出来ず買ってきたハンバーガーか食べに行くにしてもパスタとか軽食ばかりで味気ないものばかりだった。
いつの間にか、部屋着に着替えた美緒里はサラダが入った大きな木目のボールを抱えて来て席に着いた。
美緒里が、鮭を取り分けてくれる。
ふたきれ程盛ったうえにキノコのバターソースをたっぷりと乗せるとレモンを片手でキュッと絞った。
「さあ、たべて!」
(うおっ! 美緒里ちゃんが、自らよそってくれた! しかも目の前でじっと見つめてくるし、それにこの料理! こりゃ~飛ぶわ~)
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
箸で中ほどから切り分け大きめの「プリッ」とした身を口に運ぶ。
バターの濃厚な香りが一気に食欲を押した。
(うああああああ~)
焼きすぎないほろりとくずれたシャケの身からは魚のあぶら.うまみが口の中を満たしていく。
飲み込まないうちに、味のしみ込んだキノコを一片、一緒に口に押しこんだ。
慣れ親しんだ醤油のすこしばかりの塩気とレモンの酸味が引き締めてくれる。
隼人は、ゆっくりと口の中で楽しむとそれらを飲み込んだ。
「……うまい! うまいです」
(美味いよ~~! くっ)
お世辞など、上手なことなど言えない隼人だが、本心の言葉が自然とこぼれ出た。
キッチンからどうかしらと見ていた母親も嬉しそうだ。
どんぶりに、ご飯を軽く盛るとテーブルにことりと置いた。
「そんなに、おいしそうに食べてくれると嬉しいわ。その鮭キングサーモンと言うの日本では珍しいのよ、いいお魚が手に入ってよかったわ。ふふっ、とんかつも作っちゃう。食べるでしょ」
(YES!!)
隼人は、昼間の注射の影響なのか腹がいつも以上に空いていた。
黙々と食べる。
皿が空くたびに、まるで合いの手を打つように、美緒里がどんどんと空いた皿によそっていく。
「お母さんの料理、おいしいでしょ?」
(うん! うん! うん! うん! うん! )
自分でも、箸をすすめながら嬉しそうに聴いてくる。
隣では、まるで張り合うように少年が一生懸命にシャケにかぶりついている。
二敗目のどんぶりのお替わりは、大盛で出てきた。
追加でつくったサクサクしたフィレのトンカツをご飯に乗せてソースをかけていただく。
料理の上手な美緒里の母親だった。
食べながら聞いた話では、父親の転勤で家族そろって越してきたのだという。
家族は、鹿児島の枕崎という港町に住み、父親だけが永いこと単身赴任で東京で働いていたという。
しかし、最近父親の勤める製薬会社が、こちらの資金の行き詰った会社を買収し、そこに送り込まれる人選に白羽の矢が立ってしまったという。
娘の大学への興味もあり、いっそ家族ぐるみでとの条件をつけても会社側の承諾を得られたために、こうしてひさしぶりの家族での暮らしが異国の地でかなったというのだった。
この豪勢なコンドミニアムも社宅として此方の会社が保持していたのだという。
せっかくの家族での暮らしだが、父親は新しい職場での仕事がまだ忙しいらしく残業の日々が続いているという。
この日も遅くなるとのことで宜しくとの話だった。
美緒里が、思い出したように効いてくる。
「そういえば、さっき隼人くん一人住まいとか言ってなかった? やっぱり此方の大学生とか?」
隼人も聞いてばかりもいられないので。
「最初、その予定だったのだけど此方に叔父さんの会社があって、その伝手で就職したんだ。入ったばかりで。まあ昨日からだけど」
(ほんと、いろいろとありましてジェットコースターの日々ですよ!)
「もう少しすれば、母さんも仕事が片付いて一緒に住むようになるのだけど」
美緒里が、目を見張って驚いている。
「ええぇ~、高校出てすぐにニューヨークで仕事、就職?あたしたちが、鹿児島の田舎から此処のコンドミニアムに住んでいるのも驚きだけど、隼人くんにもびっくりだよ!」
隼人も思った。
(ほんとだよ、驚きすぎることが多すぎて話せないけれど自分が一番びっくりしているよ)
「住んでいる所も、近いのかな?」
隼人も少し、悪戯っぽく答えた。
「そうだね、お隣さん。隣の棟の7階だよ。これからもよろしくお願いします」
(毎日、うかがいたいくらいです!!)




