不思議の国へ女子きた~ (挿絵)
朝にも増して、公園のひろい通りは健康ジャンキーのカラフルなウエアであふれている。
モニュメントの場所は、受付のおばちゃんに聞くと公園の東側で近いという情報を仕入れて早めに出て歩いてきていた。
アリスのモニュメントは、すぐに見つかった。
女の子との待ち合わせ、隼人の動機が高まる。
少し薄暗くなりかけた、いくつかあるベンチにはそれぞれに何組かの人々が腰を下ろしている。
その一つに、ひとりだけ少女が座って居るのが見える。
(おっ! いたいたっ)
隼人は、女の子と二人きりで待ち合わせなどしたことのないことに今更ながら気が付いた。
近づいて行くと、此方に気が付いたのか立ち上がってぺこりと頭を下げてくる。
朝のジョギングのスタイルと違って、白いブラウスのささやかに膨らんだ胸元まで長い黒髪を下ろして別人のようだ。
(おおふっ かっ可愛い! 朝と違ってだいぶイメージが違う)
その上に前を開けた短いジーンズの上着、膝下のえんじの長いスカートに編み上げのブーツを履いて年相応の女の子らしいスタイル。
「こんにちは? ……もう今晩はかな。来てくれてありがとう」
小首をかしげ美緒里は、少しはにかみながら硬いながらも笑顔を見せた。
隼人の、鼓動が一気に高まる。
年頃の女子に免疫のない隼人の頭の中は、この時、目の前の美少女の画像で埋め尽くされた。
見とれていた隼人は、一瞬の言葉に詰まった。
「すぅはぁ」
隼人は、呼吸を思い出したのかのように大きく息を整えた。
(ふふふっ なんかおかしい人っ)
美緒里は、隼人の仕草がおかしかったのか今度は本当の笑顔をみせた。
「はっ、こんにちは。家が割と近いんで問題ないよ」
(おっ しゃべれた!)
「弟さんのケガの具合はどう? 骨までは折れては無さそうだったけど大丈夫だったのかな? 血がだいぶ出ていたようだけど」
隼人も、一息に喋ったことでなにかと緊張もほぐれて気持ちが落ち着いてきた。
更に気持ちを落ち着かせようと、周りに視線を送るとその先のベンチの若い二人が何やらいちゃつきだしているのが目に入ってしまった。
(ぐわーっ 逆効果~、刺激を高めるんじゃないよ~)
まだ、越してきて間もないと聞いていた美緒里のこと、目印になればと、とっさに浮かんだ待ち合わせの場所だったのだろう。
たまたま、熱烈なシーンに美緒里も気がついて返事が出てこない。
「…………」
(うわわわっ! こんな所でなにやってるの。こんな場所へ呼び出した私が変に思われちゃうよ~)
「おっお母さんが、お礼をしたいから晩御飯を一緒にって。誘ってくる様に言われたの。うちも近くて歩いて行けるから。よかったらうちでご飯たべて。弟も喜ぶと思うの」
(落ち着いて、わたしっ)
美緒里は、周りの雰囲気が変わってきたことに耐えきれなくなり隼人への返事も忘れてアタフタと焦りだした。
出会ったばかりの付き合いなどない若い二人へ、アリスのブロンズ像が意地悪そうな視線を投げかけている。
まわりの小人や動物たちも催促するかのように「ざわざわ」と騒ぎ立てる。
こういった雰囲気に弱い隼人、この場を逃げ出したい焦りは美緒里と同じだったようだ。
初めての家への招待にも関わらず隼人は、小心者の気持ちをごまかすように答えた。
「あぁ ありがとう。今一人住まいで晩御飯どうしようか、考えていたんだ。喜んでごちそうになるよ」
美緒里も、断られたらと思っていたところもありほっとする。
「そう、よかった~。近いから案内するわ、行きましょう」
(そうだねっ)
二人して、少しうつむきながら待ち合わせ場所を後に、早々に歩き出した。
理由の分からない敗北感がうっすらと二人をつつんでいる。
「……ヒッヒヒヒヒ」
去り際に隼人は何となくブロンズ像をながめると、うさぎとネズミがはやし立てるような声を聴いたような気がした。
もと来た道をたどるようにして、二人並んで歩く。
隼人は、朝と同じパーカーだけ脱いでジャージできていた。
場所が近いこともあって、気楽な気分そのままに家で過ごしていたそのままの姿。
緑色のジャージ、学生の頃の授業で使っていた奴をそのまま着ていた。
美緒里は、女の子らしいドレスアップといってもいい可愛らしい恰好。
隼人、
(か~っ! これだよ、これ! これぞデートだよ。公園を只並んで歩く。隣には美少女~~我が人生にくいなし!!)
なんてことはない、並んで歩いているだけの隼人だが肩も触れ合いそうに隣を歩く美緒里を意識してしまう。
歩くたびに前へ振り出すように動く女の子のスカートが、新鮮で目の端に映ってしまう。
「並ぶと気づいたけど、隼人くんて背高いんだね。あっ! 君なんて言っちゃったけど年上かな? 私は今年高校を出たばかりなの。こっちの大学に入ったばかりよ」
隼人もすこし驚きながらも。
「え~同じ歳か~。年下だと思っていたんだけど俺も今年高校卒業したばかりなんだ」
すると美緒里が一歩前へ踏み出し覗き込むように見上げて少しはしゃいだ声を上げた。
「え~っ! 私たちって同級生! あっ同級生て言葉おかしいけど、高校出たばかりの二人が、日本と離れたニューヨークで会うなんておもしろーい!」
(わー! なに恋愛小説の出会いみたい!)
隼人は、いきなり胸に飛びこむように見上げてくる美緒里の瞳に息がとまった。
(おおっ みっ美緒里ちゃんっ)
美緒里のぽてりとした唇……覗く八重歯……かわいらしいおでこ……切れ長の瞳……そのすべてが高まる鼓動の心臓に焼き付けられてしまった。
一瞬にして、隼人の心のなかに美緒里は跳びこんできた。
「じゃあ、隼人くんって呼んでもいいよね。私のことも伊集院て苗字長いから美緒里でいいよ。名前で呼んで!」
夕方の穏やかな通りだったが、突然沸き上がった風が二人を前へと促すかのように吹き抜けた。
吹き抜けた風が美緒里の前髪をかきあげて、あどけなさの残るおでこをあらわにする。
隼人も偶然にも同じ歳、たったそれだけの共通点が見つかった事になんだか急に親しくなったような気がした。
夕まずめの公園を、せわしなく走る人々のスピードの中、二人だけの歩みはゆっくりと進んでいった。
更に公園をでて隼人が来た道をなぞる様に道案内の美緒里が進む。
隼人は思う。
(日本人も住んでいる人が多いとは聞いていたんだけど意外と近くにすんでいるんだな。そこ右に曲がって1ブロックでうちのマンションだよな)
隼人の住む建物は、対を成すように二つの建物が向かい合うようなデザインで同じ敷地内に建っている。
「ここよ。ふふっ、かっこいいでしょ!」
(でしょ~! ごじまーん)
自慢げに手のひらを広げて指し示したのは隼人の住む隣の建物だった。
(え~隣だよね、こんな近くだったなんて毎日顔合わせられる?)
ロビーも、全く同じ作りになっていた。
そこには、うちの受付のおばちゃんが此処のロビーの受付の女の人となにか話をしている。
美緒里が普通に日本語で「ただいま」と声をかけると、二人して振り向いた。
おばちゃんが隼人に気づいて、微笑むと親指を小さく立てる。
そのとなりのお姉さんも美緒里に向かって親指を立てている。
顔を見合わせると、受付の二人は同時に同じポーズをとったのがおかしかったのか笑いだした。
隼人は、すこしひきつった笑顔で手をあげる。
美緒里は恥ずかし気にエレベータのボタンを二度続けて押した。




