最初の町は…
お久し振りでございます
忘れた頃の投稿
平に申し訳なく
もし
こんなずぼらな書き手を見限らず
お待ち下さった御方がいらして下さいましたら
とても幸いです
m(_ _)m
国境からヘベロフカの最初の町ベドウィッティーまでの間は酷くつまらない旅になった。
おじさんもヘベロフカへ行くと勝手に思い込んでいたから用事を終えて昨日のバルサム行きの馬車に乗ったと知った時はショックで、せめてベドウィッティーまででも良いからおじさんが居てくれたら…そんな沈んだ気持ちで馬車に乗った。
乗客は11人で荷台に乗る人は0。
後から教えられたけどヘベロフカでは荷台に乗ってはいけない決まりだそうだ。
意味不明。
乗客はバイトラからの商人が殆んどで冒険者は私とおじいさんの2人。
そのおじいさんは怪我をしてるらしく左手で右胸と右肩を庇うように押さえなから青白い顔で周りに話し掛けてくるなオーラを撒き散らしていた。
良く見ると黒ずんだ血のシミが着ている服に点々とある。
旅の途中で魔物に襲われた?
それとも討伐で怪我?
気にはなってもポーションを渡す愚行はしない。
御者は冒険者同士って思ったのか私とおじいさんを同じ馬車にしたかった感じだったけど結果は別々の馬車になった。
おじいさんと同じ馬車に乗り合わせた乗客はさも嫌そうにおじいさんから顔を背けてる。
そんなだから旅の雰囲気は最低だった。
誰とも話さない6日間は時間の経つのが長くてベドウィッティーに着いた時は長かった…と肩で大きく息を吐いたほど気持ちが疲れていた。
ベドウィッティーの印象は過疎化で寂れた村。
手入れをしていない家が固まって建ってて近い将来廃墟になりそうに見えた。
町の中央に作られた馬車乗り場には雨ざらしな屋台が3つ出ていて店主のおじさんたちは3人とも不機嫌な顔で降りてくる客を睨み付けていた。
何を売っているのか良く見えないけど近付くのは危険に思えて止めた。
周りを見回しても宿もギルドも無さそう。
本当は屋台のおじさんたちから宿はないか聞きたかったけどとても聞ける雰囲気じゃない。
迷ってるうちに空が暗くなってきた。
「…どうしよう」
まさかヘベロフカの初日から野宿とか止めて欲しい。
溜め息を付いていたら冒険者のおじいさんが左の路地を曲がるところが見えた。
もしかしたら…。
微かな可能性に掛けておじいさんの後を追い掛ける。
路地の奥の家は通りの家よりもっとボロボロで中には半分潰れたような家もあって人が住んで居るのかも怪しかった。
おじいさんは路地を2回曲がった宿屋の看板の有るボロ家へと入って行った。
どうしよう…でも背に腹は変えられない。
急いで私もおじいさんの後から宿屋に入った。
…。
中は信じられないくらい汚かった。
これでも宿屋なの?
此処へ泊まるのかと思ったら身体中が痒くなった。
「部屋は個室だけだ」
おじいさんは返事もしないで硬貨を受付のカウンターに投げ捨て、宿の店主は舌打ちして散らばった硬貨を数えてからおじいさんに向かって乱暴に鍵を投げ付けた。
その光景を入口で見ていた私に店主が気付いて投げ槍に聞いてきた。
「冷やかしはとっとと出ていけ。それとも客か」
値踏みするような店主の目が凄く嫌だった。
「あの、1泊幾らですか?」
「一晩金貨5枚だ」
吐き出すように言う店主が開いた右手を突き出してきた。
高い。
高くても野宿するよりはまし。
財布の代わりの袋から金貨を5枚出して店主の手に乗せた。
「奥のへやだ」
店主はカウンターの横の階段を顎で指して木札が付いている鍵を私に向けて放り投げてきた。
危うく取り落としそうになって慌てて両手で受け取る。
運動音痴な私が落とさなかったのは奇跡だと思う。
「あの、お風呂は…」
「有る分けねぇだろ」
聞かなければ良かったと思いながら急いで階段を上がった。
階段の隅にゴミと埃が黒く塊になっていて何時から掃除してないのかとか思いながら覚悟を決めて言われた部屋のドアを開けると中に籠っていた埃臭い空気が襲ってきた。
想像以上の汚さと耐えきれない臭いに思わず服の袖口を鼻に押し当てて暗い部屋の壁に窓を探した。
空気を入れ換えなくてはとてもじゃないけど寝られない。
暗くて、これなら明かりを貰ってから来れば良かった、って後悔しながら手探りで窓を探した。
やっと見付けて大きく開け放った。
宿に入った時はまだ夕方だったのに開けた窓の外はもう暗くなっていて半端な月明かりに部屋の真ん中のベッドが辛うじて見えた。
何時洗ったのかと思うほど色が変わっているシーツと上掛けに身震いが出る。
此処で寝るのかと思ったらまだ野宿の方がましだったかも…と本気で思った。
もし明日の朝次の町への馬車が無かったら…野宿しかない。
こんな事になるんだったらおじいさんがこの宿へ入った時に潔く諦めて野宿にすれば良かった。
溜め息をつきながら窓を閉めたらまた異臭が部屋を占めた。
今夜は窓を開けたまま寝よう。
もし泥棒が入ったら…現実的な危険よりこの臭いが我慢できなかった。
換気が出来るまでこの部屋で待つのは拷問に近い。
時間を潰すため近くを見てみようと思った所に宿の店主の夕食を知らせる声が響いた。
夕食は…チャレンジし掛けて降参した。
薄暗い食堂で四隅にある灯りを頼りにテーブルに付くと、運ばれてきたのは深皿にシチューじゃなくて濁ったスープと黒いパンがひと切れ。
見た目不味そうだけど…この先を考えたら倉庫の食糧は温存したかった。
「パンの追加は1枚銀貨1枚だっ!」
怒鳴る店主の言葉にスプーンを持とうとした手が止まってしまう。
この食事で追加のパンは有料?
もう呆れてしまって『食べなきゃ』って気持ちも失せていた。
席を立とうとして…誰かに見られてる気がしてそっと周りを見たら、斜め前の席に馬車で一緒だったおじいさんが睨むように此方を見ていた。
私がポカンとしていた間におじいさんの前の皿は空になったらしかった。
何でそう思ったのか自分でも分からない。
私はおじいさんに頷いて椅子から立ち上がった。
私が歩き出すより速くおじいさんが移動してきて皿とパンを自分の手元に引き寄せていた。
疲れた気分で部屋に戻ると無意識にため息が出る。
この世界は生きるのに厳しい、そう何度も見てきたはずなのに。
なのに食堂でおじいさんにあって、またこの世界の苦さが胸を突いた。
気持ちが重いからか体もだるい。
今日はもう寝よう…重い足を引き摺って何処に寝ようか迷っていた時。
「あ」
慌ててドアの鍵を閉めた。
窓より中からの危険を警戒しなくては。
もしもの時を考えて窓側から見えないベッドの横に毛布を引いてその上でマントにくるまった。
これなら窓からも廊下側からも見付かり難い。
それが私を助けた。
真夜中、声を殺した会話がドアの向こうからした。
緊張でうとうとしてはハッと起きる、そんな浅い眠りを何度も繰り返していたから廊下のひそひそ声にも飛び起きる事が出来た。
心臓がどくどくと跳ねあがる。
声が小さくて会話の中身は分からないけど、声でおじさん2人だとは分かった。
廊下に居る人に気付かれないようマントと毛布を倉庫に締まってドアの横に移動した。
ここならもしドアが開いてもドアの後ろになるから入ってきた人に直ぐには見付からないはず。
じっと息を殺して廊下の声に意識を集中した。
カチャリと鍵が開く音に思わず悲鳴をあげそうになった。
両手で口を押さえて必死に息を止める。
心臓の音がばくばくうるさくて『おじさんたちに気付かれませんように』とふるふる震えながら神様に祈った。
静かにドアが開いて…部屋の中を覗いてる感じがした。
「誰も居ねえじゃねえか」
「窓が空いてるのが外から見えたんだよ」
思わずギュッと目を閉じる。
やっぱり窓を開けて寝るのは危険だったんだ。
自分の軽率さを悔やんでももう遅い。
此処で死ぬのかと思ったら体がスーっと冷える思いがした。
「部屋を間違えたんじゃねえのか?」
「窓が空いてるだろ。絶対この部屋だ。」
「ベッドに誰も居ねえぞ」
「窓から逃げたのかも」
ちっ、と舌打ちが聞こえた。
「親父を殴って鍵を奪ったのが無駄じゃねえか」
「俺のせいじゃねぇ。俺は窓が開けっぱなしだと話しただけだ」
おじさんたちはドアを開けっぱなしでドカドカと階段を降りて行った。
足音が聞こえなくなってから詰めていた息をふぅうーと吐いた。
背中にじっとりと汗をかいてる。
今すぐ逃げ出したくても今出て行ったらおじさんたちに捕まる気がして内心びくびくしながら夜が明けるのを待つ事にした。
「あ…」
おじさんたちの話が本当なら、気が付いたこの宿の店主がきっと怒鳴り込んでくる。
そう思ったら怖くて身震いが出た
店主が気が付く前に逃げなきゃ…。
開いているドアからそーっと廊下を覗いてみる。
誰かが起きた感じは無さそうだった。
なるべく音を立てないよう階段を降りた。
ひっ…。
声が喉にひきって悲鳴が悲鳴にならなかった。
カウンターの中に店主が倒れていて床がべっとり汚れていた。
どうか生きてますように…。
このままだったら死んでしまうかもしれない…でも此処でポーションを使ったら…。
治安の良いとは思えないこの町でポーションを使う勇気は生まれなかった。




