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異世界放浪記  作者: まほろば
ヘベロフカへ
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真夜中に



開けっぱなしな入口の扉の後ろに隠れてビクビクしながら外に人が居ないか必死に耳をそばだてる。

幸いおじさんたちの声はしなかった。

もし店主が息を吹き返したら…まだ夜明けには早いけど怯えながら此処に居るよりは外で民家の陰にでも隠れた方が良い気がした。

急かされるように宿を出て隠れられそうな場所を探す。

焦る視界の片隅に乱雑に積まれてるがらくたが目に付いた。

あそこなら…。

小走りに近付いてみると其処は家と家の隙間で家の中で使われてただろう椅子とか大小の棚とかザルとかが乱雑に積まれていてそれが雨ざらしになってるから地面に付いてる所は腐り掛けていた。

身を縮めれば隠れられそうな気がする。

出来るだけお腹を引っ込めて積まれてる物の後ろへと移動した。

此処で朝までは辛いけどあのまま宿屋に居るのは耐えられない。

馬車乗り場まで戻りたくても今動けばあのおじさんたちに見付かる気がして動けなかった。

気持ちは急くけど夜が明けるまでまだ暫く有る気がする。

こんな事なら最初から夜営にしておけば良かったな。

そんな事思ってたらお腹が『ぐー』って鳴った。



そういえば夕食をおじいさんに渡してから何も食べてない。

だからってこの状況で鳴るって…。

自分の事なのに可笑しくて呆れてたら変にコチコチだった気持ちが少しだけ軽くなった。

確か倉庫にサンドイッチがあったはず…。

倉庫にあったのは細長いパンにお肉を挟んだホットドッグみたいなパンで手を汚さずに食べるには最適だった。

少しずつ食べた。

お腹は空いているけど一気に食べてお腹が痛くなるのは怖かった。

空腹が治まったら考える余裕も出てきておじさんの1人が『窓が空いてるのが見えたから』って言ってたのを思い出した。

きっとあのおじさんたちはお金が欲しかったんだと思う。

それなら私よりもっとお金を持ってる商人を狙えば良いのに。

「あっ!」

思わず両手で口を隠して必死に周りをうかがった。

暫くじっとしていたけど誰かが起きた感じは伝わって来なかった。

良かった…。

ホッと胸を撫で下ろしながら馬車の乗り場の方角を見た。

ベドウィッティーで降りた商人たちは何処へ?



宿屋の泊まり客は冒険者やみすぼらしい格好の人ばかりで馬車で一緒だった商人は1人も泊まってなかった。

なら何処に泊まったの?

町の何処かに別の宿屋?

あっ、右だ!

唐突に頭の中に閃いた。

バルサムと同じで右に向かえば良かったのかも。

夜が明けたら急いで乗り場まで戻ろう。

そして次の町までの馬車の時間と…。

あ…。

ベドウィッティーへ降りてから驚きの連続で、ヘベロフカへ来た目的をすっかり忘れてしまっていた。

「…祠を探さなきゃ」

でも今は夜が明けるのを息を潜めて待つしかない。

何時明けるのか分からない時間の中で何時しか気持ちは過去に引き戻されていた。

初めてこの世界に放り出された時は夜の暗さとウサギに怯えて、今は夜の暗さと人に怯えている。

ウサギより同じ人の方が危険なんだと目の前の現実が教えていた。

国境でおじさんから言われた言葉が繰り返し繰り返し思い出されて気持ちが重かった。



空がうっすら明るくなるとあちこちから窓を開けたり炊事の火をおこしたりする音がし始めた。

道路に人影が見えるまで我慢して早足に馬車の乗り場へと戻った。

まだ屋台も出ていない乗り場から右の道へ向かう。

左側と違って右側は奥に行くほど町らしい景色に変わっていった。

馬車乗り場から1番奥にギルドと宿屋の看板が連なってあった。

こんな所に…。

こじんまりした看板には冒険者ギルドと商業ギルドが並べて書かれていて隣の宿屋と繋がっているように見えた。

振り返って見ると乗り場まで家が10件くらいしか無くて、自分の運の悪さに脱力感と疲労感が重なって襲って来た。

あの時おじいさんを追い掛けて行かなかったら…今さらなのに思ってしまう自分が情けない。

兎に角乗り場に戻って次の町への時刻表を見て来ようと道を引き返した。

次の町はベリキンビール。

ベリキンまでの馬車の出発は明後日で6日だった。

出発までの2日間でこの町に祠が有るのか確かめないと次の馬車に乗り遅れる。



「…どうしょう」

祠を探す前に今すぐベッドに潜りたいけどこんな朝早く宿に行ったら絶対怪しまれる。

不審に思われないように夕方まで時間を潰したいけど…見回してもそんな場所は無さそうだった。

「…どうしょう」

再びギルドの近くまで戻って辺りをぐるりと見渡した。

町の左はもう動きだしていたのにこっちの右側はまだ静かなまま。

ベドウィッティーの町は馬車乗り場の右と左で違う町が背中合わせになってる感じだった。

何か時間潰しになるものは…。

困り果てて周りを見ていたら頭の中にバルサムの祠が浮かんだ。

この町に祠が有るなら町の外れのはず、時間はもて余すほど有るから試しにぐるりと町の外周を歩いてみようか。

小さな町だから1週30分も掛からないと思う。

魔物に襲われる可能性を考えてシンと買った剣を腰に差した。

右?左?

分かれ道で迷ったら殆んどの人が利き腕の方を選ぶらしい。

私も考えるより先に足は右に向かっていた。

歩き始めてみるとベドウィッティーは畑に囲まれた町だった。

ヨハン伯爵の領地とは比べられない痩せた畑がこの町の暮らしを表している気がしてついため息を着いてしまう。

1周した感じでは目当ての祠は見付けられなかった。

ギルドで聞いてみようか。

まだ早すぎだから町の周りをもう1周してからギルドに行ってみた。



ギルドには受付が一つしか無くて両方を兼任している感じだった。

受付はおじさんで不機嫌な顔で朝早くに訪ねてきた私をギロリと睨んでいた。

「…おはようございます」

おずおずとカウンターに近付いて朝の挨拶をした。

「ガキが何のようだ!」

警戒していたのにおじさんの怒鳴り付ける声に思わず後ずさってしまった。

逃げ出したくても膝が震えて動けない。

「用があるならさっさと言え!」

「あ、あの宿を…」

怖さが思ってもいない言葉を言わせる。

「ああ?宿だと」

おじさんは私の頭から足の先までじろじろと見て言った。

「金は有るのか。隣は一晩金貨5枚だぞ」

向こうの宿と同じ値段。

言葉に出来ない気持ちを飲み込んで震える手でお財布代わりの袋を出した。

念のため、出す前に袋の中身を金貨6枚と細かいのだけにしておいて正解だった。

おじさんは私の手から袋をもぎ取るとカウンターの上にひっくり返した。

「ガキのくせに持ってやがる。これは宿の紹介料だ」

おじさんは金貨を1枚取りながらそう言った。

「あ、…」

「何だ、文句が有るのか。俺が通さねぇと宿には泊まれねぇぞ。それでも良いんだな」

そう言われてしまったら何も言い返せない。



何とか受付のおじさんに書いて貰った紹介状を持ってギルド内の通路を通って隣の宿へ行った。

宿にはギルドを通らないと行けない?

途中チラッと後ろを振り向いた。

もしかしたら此処を通る度に通行料だとお金を取られるかも…鬱々とした気分で宿への扉を明けたら、宿の受付もおじさんだった。

「ガキが何の用だ」

高圧的な言い方にムッとしながらも小心者の私はおずおずと紹介状を出した。

「お前が客だと、金は有るんだろうな」

ギルドのおじさんよりもっと威圧感が強い。

壊れたロボットみたいな動作で袋の中から金貨5枚を出した。

「ちっ、持ってやがる」

おじさんは私を睨み付けながら鍵を放り投げてきた。

「2階の奧だ」

こくこく頷いてカウンターの横の階段をかけ上がった。

上がりながら一瞬足が止まる。

明日もだ…。

もう一泊此処に泊まるしかない現実が重かった。

問題はお金だ。

明日の分の金貨5枚をどうしょう…。

倉庫から補充したら怪しまれる気がする。

なら…毛皮を売る?

それか…。



最後の討伐のお金はまだギルドカードに入ってるはずだからカードで払おうか。

でもカードを使うのは抵抗があった。

日本でも私が持ってるカードは銀行のキャッシュカードだけ。

クレジットカードを作りませんか?

銀行の窓口でたまに言われるけど断ってる。

今は全然状況が違うのに、それでもやっぱりカードは嫌だった。

悩みながら1番奥の部屋のドアを開けた。

埃臭いけど左の宿と比べたら全然まし。

窓を開けて見える景色は痩せた畑ばかり。

ホッとしたからか肩から力が抜けて『ほぅう』と口から安堵のため息が出た。

この町に祠が有るようには見えない。

受付のおじさんに聞いてみたいけど教えてくれるとは思えなかった。

「…どうしょう」

これが口癖になりそうで何と無く凹む。

「よっし」

兎に角今は疲れきってる体を休めなくちゃ。

恐る恐る部屋の真ん中にドンと置かれたベッドに近付いた。

嫌でも昨日のベッドが脳裏に甦る。

思ったより清潔そうだけどやっぱりマントにくるまって横になった。

「!」

突然隣の部屋から話声が聞こえて来た思わず飛び起きた。

昨日みたいに合鍵を使われたら意味無いのに本能が鍵が閉まっているか確かめさせた。

今頃恐怖から震えが来る。

無理矢理頭までマントに潜ってぎゅっと目を瞑った。






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