硬貨と言葉と準備と
何ヵ月空いたやら(汗)
もし
読んでやろう
と
奇特な方がいらっしゃったら
m(_ _)mフカブカ
侯爵の相手が嫌になったらしくギルドマスターは侯爵を見ておじさんを見ました。
「警備に付く冒険者は居ないだろうから騎士を同行させるしかないな。騎士では侯爵を押さえられないだろうが構うものか」
侯爵の言いなりに冒険者へ斬りつけようとした騎士など国境には必要無い。
「馬車の支度が整うまで頼む」
おじさんは肩をすくめて嫌々頷いた。
「無礼者っ!わしは侯爵だぞっ」
「侯爵なら侯爵らしくしたらどうだ」
おじさんがギロリと睨むと侯爵は驚いた顔で固まってしまった。
魔物を討伐する時と同じ顔で睨まれたら侯爵じゃなくても動けなくなると思う。
おじさんは侯爵を威嚇しながら力ずくで馬車に乗せてしまった。
侯爵を乗せた馬車を見送ったおじさんは真っ直ぐ私の方へ歩いてきた。
「嬢ちゃんはヘベロフカに行くのか?」
「…はい」
突然聞かれて思わず身構える。
冒険者の姿で国境に来たら普通ヘベロフカに行くと思うのが当然なのにおじさんの探るような視線が私を警戒させた。
「これは聞き方が不味かったな」
おじさんは苦笑しながら私を見ると言いました。
「偶然だがバルサムで祠へ日参しているのを見て、これは噂を信じて全部の国を回るつもりじゃないのかと思ってな」
「え、ぁ…」
祠でうろうろ探していたのを見られてたんだと思うと恥ずかしくて頬が熱くなりました。
「確かに無茶が出来るのは若いうちだけだが女子供には勧められないな。それに、軍資金は有るのか?」
「え、それは…バルサムで狩った狼とウサギを売ったらお金出来るかな、って…」
動揺でどもりながら必死に誤魔化した。
「ウサギ?鉱山側も行ったのか?」
逃げ腰で頷きました。
「ウサギを1人で狩れるなら『止めておけ』とは言わないがこの先は危険だぞ」
おじさんはさらっと『魔物より人間がな』と付け足しました。
「…え?」
意味が分からなくておじさんを見上げると意地悪く笑いながら教えてくれました。
「この先の3つの国は一握りの王族以外は飢えて狂暴になっている。食い物を持っているだけで襲われると思え」
「え、え」
思ってもいなかった話に思考がフリーズ。
「バルサムでウサギと狼を売ったのは勿体無かったな。此処で売れば両替する手間もなくヘベロフカの硬貨に変えられたんだぞ」
「え?あ…」
無意識に手が背中の袋を掴んでいた。
狼とウサギをヘベロフカの硬貨に両替出来れば倉庫のお金を出さなくても済む。
バルサムで売らないで良かった。
考えるのに夢中でおじさんの存在を忘れていた。
「この分だとまだ変えてないな」
「え?あ…はぃ」
返事をしてから失敗だと思った。
「あ…」
倉庫と違って魔法の袋の中は時間が止まらないから国境へ着くまでに腐ってる可能性に心臓がどくどくした。
狩ったばかりだと分かる狼とウサギを出したら…結果を想像するだけで思わず両手に力が入った。
絶対売れない。
どうしよう…。
頭の中が真っ白になって固まってたらおじさんが名案を思い付いたリアクションで話始めた。
「子供だと買い叩かれるからな。俺が一緒に行って売ってやろう」
「え、え、ぇ」
動揺しずぎてて自分が間抜けな声を出してる意識も無い。
私が返事をする前におじさんはヘベロフカ側の冒険者ギルドへ歩き出してしまっていて逃げ出したくても逃げられるはずも無くて、もうやけくそ?
こうなったら開き直ってやる!
半分自棄でおじさんの後を追った。
後から狩り場と町はかなり離れてるから狩った獲物は何日も魔法の袋の中とかざらで、1週間くらいなら腐る心配も無いと教えられた時は脱力した。
袋の中の時間は止まってなくても冷蔵庫並みの保冷が出来るのかも。
袋の中に手を入れてみたら調べられると思うけどもし入れてみて手が無くなったら…想像するだけで怖くて無理だった。
本でもゲームでも魔法の袋の中は異空間って決まってるもの。
ヘベロフカ側の冒険者ギルドはバイトラとは微妙に雰囲気が違っていて、職員からチラリと嫌ーな感じの見方をされた。
此処で売るのは嫌だったけどおじさんはさっさと買い取りカウンターへ向かってて断れる雰囲気じゃない。
本当は嫌だけど、嫌々買い取りカウンターに付いていった。
「買い取りを頼む」
カウンターに居たヘベロフカの職員が事務的におじさんに頭を下げた。
おじさんが魔法の袋から魔物を出してカウンターに並べると、職員も手慣れた動作で乗せられた魔物を査定していく。
終わりに記入したメモをおじさんに渡した。
「次は嬢ちゃんだ。この先で両替は出来ないから在るだけ売ってしまえ」
私は急いで狼を魔法の袋に移して出していった。
考えて傷の少ないグレーのウサギを2匹だけ出した。
「素人か、傷が多くて買うにも値が下がるが良いのか」
王都でガロさんにも言われてたから目をそらして頷くしかない。
「この子は子供でも俺の友人だ、下手な真似はしない方が良いぞ」
おじさんが声を落としてカウンターの職員に言うと職員のぎょっとして引き釣った顔がおじさんから奥に座っているおじいさんに向いた。
職員の救いを求めた視線はおじいさんに睨み付けられて『マスター』と口が動くだけで声にならなかった。
おじいさんがギルドマスター?
おじさんはおじいさんを見ないしおじいさんもおじさんを見ない。
これって…半信半疑で2人を見ていたらおじいさんが嫌そうに顎でおじさんを指して職員に頷いて見せた。
おじさんって…疑問を口に出来る空気じゃないから見なかった振りをして下を向いた。
結果グレーのウサギは1枚大金貨14枚で売れた。
傷がなければ18枚だったと教えられたら損した気分が半端無かった。
「これだけじゃあヘベロフカの半分も歩けないぞ」
おじさんに売れる物は全部出してしまえ、と言われてグレーのウサギを全部出した。
袋の中に傷の多いのを残していたのを知っておじさんは何か言い掛けて止めた。
やっぱりだけど、全部出してもヘベロフカの通貨で大金貨90枚と細かいのが少しにしかならなかった。
買い叩かれた気分が半端ない。
受付で受け取ったヘベロフカの硬貨はバイトラの硬貨と大差なく見えた。
彫られてる?模様も似てるような違うような…宿に落ち着いたら両方を見比べてみよう。
「ありがとうございました」
「なんの礼を言われるほどの事じゃ無い」
おじさんの後ろから冒険者ギルドを出た。
「ヘベロフカで、間違ってバイトラの硬貨を出しても戻って来ないからな」
「え?」
ヘベロフカの通貨は主に鉄で出来ていてバイトラは銅だそうだ。
「バイトラの硬貨を潰して銅として使う方が金になる」
「え、ホントに?」
驚きの話だった。
「この先の3国は鉄の硬貨を使っているから盗まれたくないならバイトラの硬貨は隠しておくんだな」
…大金貨が鉄。
複雑な気持ちでヘベロフカの大金貨を見た。
今まで気を付けて見てなかったから鉄と言われても区別が付かなかった。
「あ…」
今さらだけど、硬貨のサイズで価値を区別してる?
銅貨が1番小さい?
「この先の3国の通貨は鉄を溶かして鋳型に流し込んだだけだ」
だから歪んだ感じの硬貨がたまにあるんだ、と納得してしまった。
払い間違えないように気を付けないと変なトラブルに巻き込まれる気がする。
万が一を考えてバイトラの硬貨は倉庫に移動させておこう。
実際に金と銀を硬貨に使っているのは大国のアスティカだけで他の5国は大金貨も銅と鉄だそうだ。
「大国と言えども金貨の中の金の量は微々たる物で溶かしても金にならない」
「金貨として使う方が良いって感じ?」
「そうだな」
ヘベロフカの最初の町のベドウィッティーまでは馬車で6日ヘベロフカの金貨で8枚だった。
馬車が出るのは明後日。
それまで何をしよう。
「あ、地図」
雑でも良いからヘベロフカの地図が欲しい。
多分ヘベロフカの冒険者ギルドに有るはず。
「どうした?」
おじさんに覗き込まれてあたふたと地図の話をした。
「確かに地図は受付に有るが見れるもんじゃないぞ」
「正確な地図はヘベロフカの王都で買うのでそれまでの間有れば安心だから…」
「本気で大陸中を回る気か」
おじさんは呆れた顔を私に向けて笑った。
「回るのは良いが言葉はどうする。俺がヘベロフカ語で受付と話していたのは分かったか?」
「…少しだけ。買い取りの職員への苦情?」
おじさんに答えながら、私は内心違う事を考えていました。
おじさんはヘベロフカ語で話してたって言っていたけど私にはバイトラ語と同じに聞こえていたから。
ゲームや本の設定で言葉は全部分かるとか有るけどもしかしたらそれ?
ヨゼフ伯爵の所で読み書き出来たのもそれだから?
今さら気付いた抜けてる自分にガックリ。
「気を付けて行けよ」
「え?」
おじさんはヘベロフカ側の宿屋で誰かと待ち合わせているから、とあっさり行ってしまった。
ポカンとその背中を見送ってから名前を聞いてなかった事に気か付いた。
初めは変なおじさんだと思って警戒してたのに結果助けて貰うばかりでちゃんとお礼を言えば良かったと残念な気持ちになった。
明後日、名前を聞いてみよう。




