その拾漆―終尾の開幕―
もくもくと砂埃が立ち込める中、立っているのは臣龍のみ――
時間が経つにつれて段々と視界が晴れていくと、辺り一面には黒い集団が無造作に転がっているのだった。
誰も何一つ動きを見せない中――その陰から、ごそごそと立ち上がる人影。
「おんどりゃあ〜! 俺らも殺す気かぁ〜!!」
その人影――健二郎が拳を振り回しながら、物凄い剣幕で迫ってきた。
「あ、悪い」
あまり悪びれもなく龍二が言う。
「――やるなら一言言わんかいッ!」
いきり立った健二郎に勢いよく肩を掴まれ、盛大に唾をぶちまけられる龍二。
「ちょっと健二郎さん! 振り落とすなんて、酷いじゃないですか」
健二郎の後に続いて、残りの四人も足元をおぼつかせながらやって来た。
どうやら怒りのあまり、健二郎に振り落とされたらしい恭徳は、英莉衣に支えられながらも、健二郎への不満を止めない。
「文句ならこの二人に言いや!」
どうやら健二郎の怒りは相当のようだ――健二郎に肩を強く掴まれながらも冷静な表情で龍二は言った。
「ああ、悪かったな……けど避けるだろ? お前らなら」
「それはっ……まあ、せやな」
グッと言葉に詰まる健二郎。
無理もない。
――「お前らなら」。龍二の言ったそれは、暗に仲間への絶対的な信頼を示しているのだから。
故に、怒るに怒れなくなった健二郎は、それ以上なにも言い返すことなく、むしろ機嫌良く龍二の背中を叩いた。
「痛……っ!?」
「ま、気い付けや? それで死んだら末代まで祟るで~」
「あ、ああ、すまなかった」
傷だらけの素肌へ受けた衝撃に顔をしかめながらも、龍二は素直に謝罪の言葉を述べたのだった。
(健二郎、上手く丸め込まれてるな……)
(健二郎さんって、ほんと単純なんだから)
苦笑する綾人と恭徳。
「にしても、これが大和魂の力か……」
ふと、英莉衣が感嘆した様子で呟いた。
「だがな。ちゃんと制御しないと駄目じゃないか! 危うくこの地まで滅ぼす所だ!」
そう厳しい声で窘めるのは、意外にも直樹だった。
(いや、あんたに言われたくねぇよ……)
臣の言う通り、確かに直樹の斬撃の跡は一町(※百メートル)程にも渡って確実に土地を変形させてしまっているが。
珍しく怒った様子の直樹に、二人とも口を噤むしかなかった。
そんな二人を直樹は交互に見つめ、今度はふと表情を和らげると、
「だが、良くやったな。お前達」
頬を緩め優しい表情で龍二と臣、それぞれの頭を右手で力強く撫でた。
まるで子供のような得意気な笑みを浮かべる龍二と、止めろと手を払い除けようとする臣。
子供扱いするなと臣が言うが、満更でもないことはその表情からも見て取れた。
温かな雰囲気が漂う中――それまで全くの動きを見せなかった黒の集団の中から、一人の男が立ち上がった。
十万人の中で、ただ一人残った男はふらふらと傷付いた身体を上げると、七人の中から臣を視線の先に捉える。
勇敢にも男は逃げることも、言葉を発することなく、ゆっくりと正眼の構えをとった。
その覚悟を受け取った臣も、男の前にゆっくりと歩み寄ると、刀を構える。
二人は微動だにせず、お互いの様子を静かに伺うと同時に走り寄って行った――
――シュッ!!
刀を振るった空を斬る音がはっきりと聴こえる程であった。
一瞬の間を置いて、男はゆっくりと振り返ると、
「――見事……!」
そう告げて、その場に崩れ落ちた。
敵ながら天晴れな最期であった。
臣は刀を鞘に収め、静かに黙祷すると、仲間達の元へと戻っていった。
これで終わったのだ。
七人はほっとしたように、表情を緩めた――
「――お見事です。まさかあれほどまでの大軍を倒してしまうとは……」
すると突如、パチパチパチと手を叩く音と、低くはないが落ち着いた静かな口調が響き渡る。
「正直、我々の想像を遥かに超えるものでしたよ」
「流石あの伝説の侍、鴛鴦が集っただけのことはある」
もう一方は、高低の安定していない声。どうやら、二人いるようだ。
「――誰だっ!!」
謎の声に警戒した七人は、瞬時に刀の柄に手を掛ける。
しかし、闇の中から現れたその姿に、思わず抜く手を止めた。
それは、一つに結んだ馬の尾のような長髪と短くまとめた髪の、腰に刀を掲げた二人の"少年"だったのだ――
終わりの始まり――
果たして、彼らは何者なのか――
次回、衝撃の事実が明らかに――!?