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S.A.K.U.R.A.~蒼の魂~  作者: 猫人間
【第弍章】武士櫻の闘い
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その拾―傷―

 一体どれだけの数、斬っただろうか。


 この数日の間に臣の姿は見る影もなく変わっていた。

 服は所々斬り裂かれ、そこからは生傷が覗く。

 額は汗と血で滲んでいる。

 髪は乱れ、その血と汗に貼りついて見える。

 そのため、彼の形相は、ただでさえ恐ろしくなっているところへ、魔王の(くま)をかいたように、世にもあるまじき物凄さに見えるのだった。


「はあっ……はあっ……」


 さすがに、呼吸も全身でつき始めてきた。

 (さめ)(えら)ような助骨が大きな波を打つ。

 もはや、脳は完全にその機能を果たしておらず、機械的に身体が動いているようなものだ。

 そして、それは隣にいる"相棒"も同じようだ。


 龍二もまた同様に集団の野犬に襲われたかのような酷い成りで、その美しい横顔は汗と血で汚れている。


「おい、大丈夫か? ……龍二」


 刀を構え目先は敵を見据えたまま、臣が声をかける。


 すると龍二がふと笑みを浮かべた。


「どうした?」


 思わず龍二を見る臣。


「……いや、だって、臣が俺の名を呼んでくれたの初めてだったから……嬉しくて」

「は? ……ったく、こんな時に馬鹿かよ……」


 呆れて再び目線を戻す臣だが、龍二の笑顔に心なしか先程よりも元気が出たような気がした。


(これなら、まだまだいけそうだ)


 再び勢いを取り戻した二人に、敵の一人が喚いた。


「くそっ、武士櫻は眼の前だってのに……相手はたったの二人だぞ! さっさと片付けっちまえ!」


 男の言葉に圧され敵陣が太刀を振りかぶりながら踏みこんでくる。


 臣はその長大な体軀を縮めるや、敵の横合いに向かって一気に跳躍した。敵の脇を跳び抜ける刹那、その横胴を薙ぎ払った。


櫻壽(おうじゅ)!!」


 腹の底から響かせる掛け声とその太刀風で、桜の花びらと共に敵の陣が吹っ飛ぶ。


 長さ二尺五寸(※七五センチ)。その美しく波打つ波紋が特徴――名刀「千本(せんぼん)(ざくら)」がなせる必殺奥義だ。


 一方の龍二も引き下がるように、その胴目掛け重い一太刀を浴びせた。

 斬られながら敵も鋭く刀を突き出したが、その刃先は龍二の袖を斬り裂いただけだった。

 男は崩れるように膝をつき、それから徐々に身体を傾けて横転した。


「どいつもこいつも使えねぇ屑ばかりだな! 退け! 俺が始末してやる!」


 そう言って龍二の目の前に立ちはだかるのは、先程から喚いていた男だった。

 男は龍二と向かい合うやいなや、間を入れずに踏みこんできた。

 打ちかかる男の太刀を、首の一振りでかわし峰打ちで逆胴を決める。


「いいっ!!」


 龍二の強烈な一打に男は左胴を押さえ顔を歪める。が、次の瞬間、龍二の顔面目掛けて、砂を蹴り上げた。


「いっ……!!」


 痛みで咄嗟に龍二は両目を押さえる。

 その隙をついて、男が猛刀を振った。


 ――しまった……!!


 男の卑怯なやり口になす術なく、白銀の切っ先が龍二を襲った――


「龍二!!!!」


 向かい合っていた敵を斬り払い、臣が叫んだ。


 龍二の顔面は右額から口端までの六寸(※一八センチ)ほど斜め下に切り裂かれ、その傷口からはおびただしい量の血が溢れていた。

 龍二の美顔が血で汚れていく。

 横顔が真っ赤な血の色で染まっていく。


 その時、龍二の姿があの日見た情景と重なった――


 真っ赤に染められた桜の花びら。

 灰となっていく故郷。

 辺り一面にころがる人。

 死体。死体。死体――


「ヴわぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァ!!!」


 突然、臣が大地を揺るがすほどの叫び声を上げ、両手で頭を抱え込んだ。

 血走った目は見開かれ、呼吸は荒い。


 ――俺は誰も守れなかった。

 守れなかった。守れなかった。守れなかった。守れなかった。

 あの時も今も。俺は誰一人として救えなかった。


(そして俺はまた、失ってしまうのか――?)

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