その玖―温もり―
固く冷たい地の感覚。
氷のような地の冷たさが、しんしんと全身に伝わってくる。
(僕はどこにいるんだ……?)
「…………り……ゆ……のり……!!」
(断片的な声だけが頭に響く……)
「…………のり……恭徳……恭徳……!!」
(ん?なんだろう……微かに聞こえてくる……僕を呼ぶ声……)
地に横たわっていた恭徳が、薄らと目を開けると、
そこには、ぼやけて見える二つの人影――
「おい! 恭徳!! 大丈夫か? しっかりせいや!」
(この声は……健二郎さん?)
「恭徳!! 聞こえるか? 恭徳!!」
(それに……この声は英莉衣さんだ……)
恭徳がゆっくりと目を開けると、そこには、健二郎と英莉衣の姿――
「良かったぁ!! 気がついた〜!!」
「おい! お前ぇ〜!! 心配さすなやぁ〜!!」
――英莉衣さん……健二郎さん……
良かった……お二人とも無事だったんだ…………
ん? そういえば、なんだか右頬がほんのり熱いような…………? ……なんかジンジンする――痛
「痛っ!!!!」
突如、強烈な痛みを感じ、恭徳は飛び起きると右頬を抑えた。
「あー、だから叩きすぎなんだって……」
そらみろという目で健二郎を見つめる英莉衣。
「だっていくら呼びかけても、返事がないけん! 俺、もう怖なって! 必死やってん…………」
その横で必死に弁解する健二郎。
二人の様子から、この右頬の痛みの訳を察する恭徳。
「ありがとうございます。健二郎さんの魂の叫び、僕の元にしっかりと届きましたから。お陰で僕、なんとか踏みとどまることができました!」
恭徳はしっかりと健二郎を見て言った。
「おう! そうか! さすが健ちゃんやろ!」
自画自賛し、うんうんと頷き右拳に親指を立てる健二郎。
やれやれ、と苦笑いを浮かべる英莉衣。
(きっと今、僕の顔見たら、もの凄く腫れてるんだろうな……)
そんなことを思いながらも、くすりと笑いが零れる恭徳であった。
「よし! ほんじゃそろそろ行きますか! 恭徳、歩けるか?」
健二郎の問いに恭徳は、立ち上がろうとするが、足の骨が抜かれたかのように、ふらふらと倒れ込んでしまう。
「おい? 大丈夫か?」
慌てて英莉衣が恭徳を抱える。
「しょうがないやっちゃな〜、ほら!」
そう言って健二郎が屈んで背中を向ける。
「えっ?」
戸惑う恭徳に、健二郎が言った。
「おぶってやるけん、乗りや」
「でも……」
「ええから、早う乗りや!」
恭徳は英莉衣に支えてもらいながらも、健二郎の背中にもたれかかった。
健二郎がよいしょ、と立ち上がり、歩き出す。
健二郎の背中はとても温かかった。
温かくて大きな背中。これは幼い頃味わった感覚だった。
「父さん…………」
「おいおい、俺はお前のおとんちゃうで!」
そう言って振り返ろうとする健二郎を慌てて制止する英莉衣。
人差し指を口に当て、背中を指さす英莉衣を訝しがりながら、今度はそっと振り向く健二郎。
そこには、健二郎の背中で心地良さそうに眠る恭徳の姿。
「ったく、こいつは……何、人の背中で寝とんねん……」
「まあまあ、健二郎。そのままにしといてやれよ……よっぽど疲れたんだろう」
英莉衣の言葉に健二郎が頷く。
「ああ、分かっとるよ。俺もそこまで鬼やないし。それにあの軍勢を一人で倒したんや……こいつは大したやつやで」
「そうだな……」
いつも恭徳とは何かとやり合っている健二郎だが、実力のほうは認めているようだった。
「それにしても、こいつ……重うなったな〜」
「健二郎、まるで父親みたいだな」
「英莉ちゃんまで、止めてくれや〜」
そんな会話をしながら、恭徳を背負った健二郎と英莉衣は、歩みを進めていった――




