その捌―懺悔―
「はぁっ…………はあっ…………」
気がつけば、この場に立っているのは綾人ただ一人だけだった。
目線を下ろすと血で塗れた両手。
さっきまでの人を斬った感覚が生々しく、まだ残っていた。
そして、辺りは見るも無残な姿になった敵の死体の山。
立ち込める腐敗臭と血の匂い……
「うっ……うげっ……おえっ…………」
腹の底から沸き上がってくる気持ち悪さに、綾人は堪らず握っていた刀を手放し、地に両手をつくと胃の中のものを全て吐き出した。といっても、胃の中はほとんど何も残っておらず、黄色い粘稠性を帯びた胃液しか出てこなかった。
綾人は激しく咳き込み、何度も嘔吐した。
もう、吐き出すものも無くなり、ようやく嘔吐くのが治まった綾人は、ふらつく足を前に進め、倒れている直樹の元へと膝をついた。
「直樹…………」
綾人の声はもう、掠れた声しか出てこない。
直樹を見ても返事が返ってくることはない……
(分かってる。分かってるんだ。直樹はもう…………)
「うっ…………んんっ…………」
と、その時、
微かに声がした。
「直樹!? 直樹!! おい! 直樹!!」
直樹がゆっくりと目を開ける。
(生きてる。生きてるんだ!)
「直樹っ!!」
「ううっ……綾人か……良かった……無事で良かった……」
直樹が綾人の顔を見て、優しく微笑みながら言った。
そんな直樹の言葉に、綾人の抑え込んでいた全ての感情が爆発した。
「すまない!! 直樹!! 本当にすまない!! 俺のっ……俺のせいでっ……本当に申し訳ない!!」
溢れ出る涙を流し、両手をつき必死に地に頭を擦りつける綾人。
そんな綾人を慌てて直樹が止める。
「おいおい、止めろ!! 綾人!! 俺なら大丈夫だから!! こんな怪我……痛くも痒くもねぇから!!」
そう言う直樹だが、直樹の左腕の付け根あたりからはドクドクとおびただしい量の血が流れ、そこから先は一目見ただけでも、もう使い物にならないことを物語っていた。
綾人のとめどなく流れる涙は、直樹が生きていたという安堵からでも、同情からくる悲しみからでもなかった。
ただただ悔しかった。
あの時、あの一瞬で直樹の人生を変えてしまったかも知れないのだ。
俺を守る為に――
「申し訳ない!! 申し訳ない!! 申し訳ない!!」
何度も何度も謝る綾人を、直樹は震える右腕でしっかりと抱き込んだ。
「俺の方こそすまない……心配かけちまって……でもお前が無事で居てくれるだけで俺は良いんだ。こんな俺を許してくれよな……」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
もう出ないと思っていた声を、あらん限り張り上げて、綾人は泣き叫んだ――




