その伍―猛刃―
綾人は囲まれていた。
相手は何千もの黒い敵の軍勢。
もう何千人もの敵を倒してきたが、まだまだ減る様子はない。
綾人は刀を構え、間合いをとる。
敵も同じように構え、間合いをとると、稲妻のように振りかぶってきた。
気合の入ったその一撃を、綾人は刀で受け、払った。
間髪入れずに背中から敵が突いてくる。それを身を翻して避け、その勢いで刀を振りかぶった。
敵が地に崩れ落ちる。
「おお、さすがだな! 綾人!」
ふと名前を呼ばれ、声のした方を向くと、そこには直樹の姿があった――
「おいおい、直樹!! 何してるんだ! 作戦はどうした?」
「こっちの方は全部倒したからよ! 此処で食い止めておけば向こうに渡ることもないだろう」
それはそうだけど、と口ごもる綾人に、直樹が更に言葉を投げる。
「それに、あいつらが作戦なんか守れると思うか?」
「それもそうだな……」
――全く困った"連中"だよ。
直樹の言葉に納得した綾人はふと笑みを浮かべた。
だからこそ、俺達は最強なんだ。
俺達は決して仲間を見捨てない。
それでこそ俺達"三代目"だ。
「よっしゃ!! いくぞ!! 相棒!!」
「おう!!」
二対千の闘いが始まった。
直樹は腹の底から発する低い気合をかけては、蝗のように飛びかかる軍勢を、右に左に撃ち払う。敵はたちまちに目をまわして倒れ伏した。
綾人は燕の如く飛びまわり、軍勢の外側から
「やあっ!!」
甲高い気合声を発して打ち据えた。
「うぐっ……」
「ぎっあっ……」
「うわ、わ……」
たちまちに数十名が、その場へ叩き伏せられ、悶絶してしまった。
「畜生め、畜生め!!」
いきり立った敵が綾人目掛けて、刀を振りかぶった。
白刃を叩きつけた敵を、ついとかわした綾人が、刀の切先で敵の脾腹を撃つ。
「うう……」
がくりと膝をつき、そのまま敵はうつ伏せに倒れた。
と、その瞬間――
「くたばれ!!」
綾人の背後から敵が斬りかかった――
「綾人!!」
直樹の叫び声と同時に――
ザクッと何かが斬れる鈍い音。
――ぐはっ………!!
という声。ドサッと何が倒れる音。
「――――!!!?」
綾人の肌がぞくり、と粟立つ。全身が冷水を浴びたように冷たくなっていく。
――見たくない。信じたくない。今、起こったことは全て夢だ。
頼むからそうであってくれ!
妙な悪寒が全身を駆け巡り、拍子に冷たい汗が綾人の額を濡らした。
綾人が恐る恐る背後を振り返ると、そこには――
地面に横たわる直樹の姿――
「直樹ぃ!!!!」
綾人は瞬時に直樹の元へ駆け寄った。
「直樹! 直樹! 直樹!! 直樹!!」
何度呼びかけても、直樹は答えない。
地面に広がっていくおびただしい量のそれが、最悪の事態をまざまざと物語っている。
戦場では必ず誰かが傷つき、命を落とす。
それが例え、家族であろうと親友であろうと。
明日は我が身かも知れない。
血を血で洗い流す。
――それが戦争だ。
それは綾人も充分に承知の上だ。
だけどそんなの納得出来るわけがない。
何故だ。何故だ。何故だ。
何故、大切な仲間なのだ。
何故、大切な相棒なのだ。
神様は非情だ。非情だ。非情だ。
時間よ。巻き戻ってくれ。
頼むから。俺の残り人生を全て差し出したっていい。
だから、直樹は。直樹だけは……
――連れて行かないでくれ!!!!
「直樹ィィィィ!!!!」
綾人は何度も何度も、声にならない声を張り上げた。
「はははっ! 図体ばっかでかい癖に出しゃばりやがって! 一丁前に仲間守ろうとするからこのざまだよ」
「ははっははっははっ!!!!」
残忍で非情な敵の笑い声が辺りに響き渡る――
綾人は倒れている直樹からゆっくりと顔を上げる。
その目は激しい怒りに満ちていた。
絶望、悲しみ、そんなものは無い。
今の綾人にあるのは、激しい憎しみと怒りだけだ――
綾人は刀を取り上げると、一歩一歩ゆっくりと敵に近づいていく。
その目は、敵を見据えたまま――
「――――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
この地全体に響かんとする怒号。
綾人はそんな声を上げながら、全速力で敵の群衆に突っ込んでいった――




