その肆―相棒―
櫻門西広場では、突如襲ってきた、豪雨が降り注ぐ中、健二郎とその周りの大勢の刺客が戦いを繰り広げていた――
吹きつける横殴りの雨のせいで、更に視界は悪くなっていた。
しかもこの豪雨はどうやら此処だけのようである。
健二郎はほとほと自分の運のなさを恨んだ。
そんな悪状況の中、敵の一人が抜き打ちに健二郎へ斬りつけてきた。
健二郎は飛び退ってかわしたが、かわしきれず左の肩先を斬り裂かれた。
「たあっ!!」
畳み掛けて、敵が二の大刀を真向から打ち込んできた。
敵の打ち込みをはらいのけ、飛びちがって振り返りざま、健二郎は相手の左首筋を斬り払った。
敵がどさっと倒れ伏した。
その瞬間、敵に斬られた左肩に激痛が走る――電流を流されたかのような感覚に健二郎は堪らず傷を押さえた。
この雨のせいで傷口が更に痛むようだ――まるで傷口に塩を塗り込まれているような痛みだった。
――くっ、ここまでかっ……!!
健二郎が斬られた左肩を押さえ激しく喘ぐ。
「やあーーーっ!!」
その時――健二郎の背後から敵が迫り来る。
――しまった!!
健二郎は振り返るが、猛刃を防ぐのには間に合わない――
――キィィィン!!!
突然、健二郎を襲った刀が止まった。
「龍二?」
健二郎が突如、目の前に現れた長髪の後ろ姿を見て言葉を零した。
瞬時に健二郎と敵の間に降り立った龍二が、敵の刃を止めたのであった。
龍二は刀を弾くと、敵の右肩目掛け、振り下ろした。
敵は前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。
「龍二、ほんまありがとな! おかげで助かったわ!」
「茂庭、その傷……」
龍二が健二郎の左肩を見て言った。
「大丈夫や! こんなもん、ただの擦り傷や!」
そこへ向こうから、敵を薙ぎ倒しながら、英莉衣もやって来た。
「健二郎!! 援護するぞ!!」
「おう! 英莉衣!! ありがとうな!!」
そして、健二郎は龍二の方を振り向く。
「龍二! 此処はもう大丈夫や! お前は早う"あいつ"の元へ行ってやれ! もう随分と向こうに敵がなだれ込んどる! さすがのあいつでも、この数は相手しきれん!」
「ここは俺達に任せろ!!」
二人の言葉に龍二は黙って頷き、その場を急いで立ち去った。
「よしっ!! それじゃ、いっちょかましましょうか!!」
背後から龍二の気配が遠ざかっていくのを感じながら、目の前の軍勢を見据え、健二郎と英莉衣は駆け出したのであった――
***
全身に叩きつける豪雨に耐え、途中、迫り来る敵の軍勢を薙ぎ倒しながら。
心臓は破裂しそうなくらい激しく脈打つ。
それでも龍二は走ることを止めない。
――急がねば! あいつの元へ――大切な"相方"の元へ――!!
***
地に積もっている桜の花びらが真っ赤な血の色に染まっていく。
それでも、この武士櫻を守る為、世界を守る為、致し方ないのだ。
何百人、何千人倒しても、巣から這い出る蟻のように次々と敵は襲いかかってくる――
さすがの臣でも疲れの色が浮かび始めていた。
その時、一瞬の間も置かずに二人の敵が同時に斬りかかってきた。
臣は男達の刃をはね上げながら、体を、沈めて二人の間をすり抜けた。
だが、敵は油断ならない俊敏な動きを身につけていた。
臣が振り向いた時には、敵はもう眼の前に迫っていた。
「くそっ……避けきれねぇ……!」
――仕方ない。片目だろうが両目だろうが、くれてやる!
臣はそう覚悟した――
しかし、臣の眼先にあった二本の刃は止まり、ぐえっという声と共に崩れ落ちた。
「おいおい、お前の美顔をそんな奴らにくれてやるなよ。それでも"最恐の侍"と謳われた侍か?」
振り下ろした刀から顔を上げたその男――龍二が臣の方を見て言った。
突如、現れた龍二の挑発に臣がいきり立つ。
「うるせぇ! そんなことより、お前ここで何してる? 作戦は?」
その間にも斬りこんでくる敵を薙ぎ払いながら、龍二は少しずつ臣との距離を縮めていく。
「んなもん知らねぇよ!」
「はぁ??」
(あんなに念入りに段取りしたのに……)
本来ならば、各自の強さに合わせて割り振りした場所で、敵が居なくなるまで闘い続ける予定だったのだが――
「いいから! お前は早く自分の持ち場に戻れよ!!」
「いや! 戻らねぇ!!!!」
臣の言葉を断固として拒否する龍二。
――ったく、訳わかんねぇよ。
「なんでだよ?」
「仲間が大変な時に助けるのが仲間だろ!」
龍二の言葉に臣は一瞬、言葉を詰まらせた。
――"仲間"か……作戦無視とは、こいつらほんと無茶苦茶なんだから……
臣がふっと笑みを浮べる。
龍二も臣の元に来て、二人は背中合わせになった。
「馬鹿が……せいぜい足引っ張らねぇようにしろよ!」
口元に笑みを浮かべ、刀を構える臣。
「おう!」
刀を構え、同じく笑みを浮かべ答える龍二。
そして、二人は黒い敵軍を真っ直ぐに見据える。
『――うぉおおおお―――!!!』
二人は腹の底から気合をかけ、敵軍の中へ駆け出していった――
――今の俺達にはもう、怖いものなどない。
何故なら、隣には頼もしい"相棒"がいるからだ――




