その弍―龍断刀と兄弟刀―
板橋の上には次々と押し寄せてくる敵の群衆――
しかし此処だと、軍勢が包囲できなくなってしまうので優位だ。
といっても、こちら一に対し向こうは万を超える軍勢だが。
「そこをどけ……」
敵の一人が言うのに対し
「引き下がるなら今の内だぞ……」
と、直樹の声が返ってきた。
「なんだと……」
「かまわん。叩きのめして奈落の底へ送ってやれ」
頭から侮りきって、肩をそびやかし、直樹へ近寄った敵が、
「それっ!!」
腰に引っ提げた刀をぱっと引き抜き、直樹の右肩目掛けて刀を振り下ろした。
と、思った時には、その敵の巨体がふわりと宙に浮き、奈落の底へ落ち込んでいった。
一瞬の出来事に皆が呆気にとられる中、直樹は冷静に右手で刀を振りかぶるとブンと振った。
「さて、次は誰だ」
すっと、残った敵へ直樹が近寄って来た。
「うぬ!!」
猛然と、男が刀を叩きつけて来る。
体をひらいてかわした直樹へ、すかさず踏み込んだ男は、
「たあっ!!」
必殺の一撃を送り込んできた。
相当な使い手である。
だが、直樹を薙ぎ払ったその一撃も、悪戯に闇の幕を切り裂いたのみであった。
直樹の体が、宙に七尺(※二一〇センチ)程も飛び上がり、男の大刀風を足下にながしたとみるや、男の首すじを峰打ちに一撃して直樹が地に足をつけた。
そして男の懐から斜め上に太刀風を浴びせた。
「御所御車返し!!」
長さ四尺五寸(※一三五センチ)。見るからに尋常ではないその刀――いかな素材で作られたか、龍の鱗すら両断するという大刀「車駐」を、直樹は小枝でも扱うかの如くに容易く振るった。
「――ッ!」
重量にして人一人分程もあるそれを前に、男は成す術なく吹き飛ばされ、奈落へ沈んだ。
「くそっ……構うな!! かかれっ!! かかれっ!!」
今度は一斉に敵が押し寄せてきた。
直樹はそれを右に左に薙ぎ払い、一人また一人と奈落の底へと姿を消していった。
――たとえ死んでも、誰一人として通さぬ!!
直樹は決死の覚悟で、渾身の一撃を振るった――
***
櫻門東広場では、大勢の敵軍を眼の前に刀を構える英莉衣の姿――
その左の刀は前へ構えて、常に敵の眼に突きつけ、右手の刀は横へ開いて肩から腕――切先まで緩やかな水平に持ち――これは敵の眼の外にあそばせておくというような形をとる。
この二つの刀。左を「東錦」右を「綾錦」という。
この両刀は五樹の一つ、扶桑に生息しているとされる伝説の生物、一角獣の角で作られたとされる兄弟刀である。
どちらも癖が強く一本でも扱いが難しいとされているが、それを両方で扱えるのは、その名通り熊のような強靭な肉体と、柔軟性のある脳を持つ英莉衣だけである。
敵が正面を嫌って右と窺ってくれば、すぐ体ぐるみ右へ寄り、その敵を牽制し、左と直感すれば、ぱっと東錦が伸びて、その者を二つの刀の中へかかえてしまう。
英莉衣がそうして前へ突きつけている東錦には、磁石のような魔力があった。
その先へかかった敵は、丁度モチ竿に止まった蜻蛉のように、退く間もかわす間もなく、あっという間に綾錦の餌食となる。
「こいつ!!」
痺れを切らした敵がためらいなく刀を抜いた。
そのまま刀身を直線に構えて殺到してくる。英莉衣も前に走った。
すれ違いざまの一撃で、英莉衣は脇腹をかすられたが、相手の腕あたりを斬った手応えを感じた。
立ち止まって素早く振り向いた相手が、無言のまま再び猛然と突っ込んでくる。
――そのまま一本の刀のように見える攻撃的な男だ。
英莉衣は今度は動かずに、足を踏み固めて待った。
胸元にきた刀を両手の刀ではね上げる。そして一撃を送り、それをかわして横に飛んだ相手に吸い付くように体を寄せた。
ふわりと英莉衣は身を沈めざま、同時に、敵のみぞおち目掛けて、渾身の一撃を込める。
「うげっ…………」
太刀を取り落とした敵が、みぞおちを英莉衣の拳に強打され、のめり込むように倒れ伏した。
その背後から二人の男が抜刀して走り寄った。
もとより英莉衣に、油断のあるわけがない。
「あっ……」
という間に、この二人も当身をくらって転倒してしまった。




