その壱―武士櫻―
この世には、ひときわ大きく堂々とそびえ立つ一本の樹がある。
――この樹の名は「世界樹」
全ての生命の源であり、全ての夢を司る世界の象徴ともいえる神聖な樹である。
その昔、神がこの世を創られた時、地の全ての生物がこの世界樹の元に集ったそうだ。
それが世の始まりとされる――
時が過ぎ、世は人類が大半を占めるようになり、世界樹を囲むようにして村が作られていった。
だが時が経ってもなお、人々は世界樹への恩恵を忘れることなく暮らしてきた。
そして「世界樹」もまた進化を遂げ、新たに四つの樹が誕生した。
夢と希望に溢れ、願いが叶うとされる「虹の樹」
樹の力故にその幹、枝に至るまで金色に光輝き、どんな闇夜をも照らす「光の樹」
伝説の生物が集う大自然と人々の心を豊かにする「扶桑」
そして大和魂の象徴である「武士櫻」である。
この神聖なる五本の樹の内、どれか一つでも失えば、その樹々達の力は失われ、たちまち世界は闇に覆われてしまうとされている。
その伝説の樹の一つである「武士櫻」――
それは大和魂の象徴であり、この樹を見つけた者の運命を切り開くとされている伝説の樹である。
また輪廻転生を司る樹である。
武士櫻は目にした全ての者を虜にしてしまうほど美しく、桜の花は年中枯れることなく、その美しさを保っている。
そして、その幹の部分には輪廻転生の力を秘める、髑髏の形が刻み込まれていた――
***
――時は神代曙歴二三二二年。
変わりゆく季節は四の月。
現在、武士櫻にはその周りを取り囲むように、通称「櫻門」と呼ばれる堅牢な門が建てられ、代々守り続けられていた。
難解不落と呼ばれている、この門が今、悪しき者達によって、破られようとしていた――
櫻門の周辺には、全身黒ずくめの覆面をした男達が埋め尽くしている。
――悪しき者達だ。
全身黒ずくめの男達は私利私欲の為、"武士櫻"を求めていた。
その様子はまるで死骸に群がる烏のようだ――
櫻門近くのある地では、一人の侍を中心として黒々とした敵の軍勢が取り囲んでいた。
侍の周りには見渡す限りの敵、敵、敵。
目尻の上がった細目をもつ小柄な侍は恐れる様子もなく敵を見据えている。
「お前一人で何が出来る?」
「お前この状況、分かってんだろうなぁ?」
覆面の男達がせせら笑う。
そんな男達に対し、侍が口端を上げてこう返す。
「…………ああ……だが、この場では俺一人でもな……"独り"じゃねぇ。俺達は"七人"で戦ってんだよ!」
風に煽られ栗色の髪色をした前髪を揺らしながら、その男――朝霧綾人が柄に手をかけ白刀を抜く。
***
櫻門に繋がる「板橋の上」――
――ドドドドドド
響き渡る足音と共に、黒い軍勢が"武士櫻"を求め、"櫻門"に辿り着くための唯一の道である板橋の上を渡っていた。
その下は底の見えぬ、真っ暗な闇である。
突然、敵の軍勢が橋の真ん中に人影を見つけ、足を止める。
「おい、誰かいるぞ!」
六尺(※一八〇センチ)を超える長身。強靱な肉体が垣間見える体格の良い男――金剛直樹が、黒長髪を靡かせながら言った。
「ここから先は、誰一人として通さぬ!」
***
櫻門「西広場」――
「おうおう! 続々と気よるな〜」
独特の故郷言葉全開でくっきりと刻まれた二重瞼が特徴の男、茂庭健二郎が片手をおでこに当て、遠くを見る仕草をしている。
余裕ぶる健二郎に対し、敵がいきり立つ。
「舐めた真似しやがる……」
「泣いて後悔しても遅いぞ!!」
「その言葉……そっくりそのまま返してやらぁ!」
健二郎が勢いよく腰の鞘から刀を引き抜いた。
***
櫻門「東広場」――
敵の軍勢はず、ず、ず、とただ土に草鞋を擦り合う音だけをさせて、小麦色の肌に彫りの深い顔立ちの男――熊谷英莉衣を包囲しようと近づいて来る。
――と、英莉衣は。
右手に一本、そして左手にも一本の刀を手にした。
「こいつ二刀流か……!?」
英莉衣は二本の刀を背中で交差させると、左眉をふっと上げた。
***
櫻門「北広場」――
此処は"武士櫻"の丁度、裏側にあたる地だ。
この地で一人の侍を取り囲むように四方八方から敵がゆっくりと近寄る。
相手は小柄で、無造作に広がる金色の髪に子犬のような容姿をした、まだ若い侍だ。
「餓鬼は大人しくお家へ帰んな」
「子犬みたいに、ひ弱な面してるお前に一体何が出来るんだ?」
敵が矮躯な侍を挑発し嘲笑った。
そんな挑発にのることなく、侍がゆっくりと刀を抜く。
「一つだけ忠告しておきます……子犬でも鋭い牙を持っています。そして……」
その男――望月恭徳は子犬のような容姿を一変させ、敵を睨んだ。
「子犬も怒らすと猛犬に変わりますよ――」
***
櫻門「正門」――
屋根の上には三人の男。
二人は覆面の男で、もう一人は烏のように真っ黒な長髪を一つに束ねた男である。
夜風が吹き長髪の男の髪が靡いている。
その下には大勢の敵の群衆――黒い海が波打っているようだ。
屋根上の二人の覆面男が口を開く。
「まさか……こんなところにも居るとはな……」
「屋根から入り込めば容易いと思ったが」
暗闇を照らす三日月が、もう一人の長髪の男を照らし出す。
細い光に映し出された男の横顔は、凛とした瞳に筋の通った鼻筋と口髭が特徴的な美形だ。
その男――衣笠龍二が口を開いた。
「甘いな……俺達を見くびるな……」
「俺達?」
「それにこの先には、俺よりも怖い"魔物"が居るぞ……」
龍二が口端を引き上げ、意味深な笑みを浮かべる。
***
櫻門「場内」――
武士櫻は神々しく堂々たるその存在を知らしめていた――
武士櫻が風に煽られ、その枝を揺らす。
桜の花びらが一面に積もり、まるで桃色の絨毯のようだ。
そんな美しい情景にそぐわない黒い集団が、その力を手にしようと、一歩、また一歩と近づいていた。
その武士櫻の前には一人の男が、背を向けて立っていた――
「お前は誰だ?」
黄金色の髪の男がゆっくりと振り向く。
その目はまるで相手を威圧する獣のように鋭い。
「こいつは……確か……! あの"桜丘の魔物"……!!」
男の迫力に敵は一瞬たじろぐ。
「馬鹿! びびってるんじゃねぇ! 魔物だろうが何だろうが、相手は一人だ! やっちまえ!!」
いきり立つ敵にその男――鞍馬武臣が呟いた。
「よくもまあ、群れやがって……」
臣は腰にしている鞘から、ゆっくりと白刀を引き抜いた。
ゴオォォォォ――――
その瞬間――腹の底から響く、もの凄い地響きと共に近くの火山が爆発した。
その音を合図に、臣は目の前の軍勢を見据え、走り出した――
敵も一斉に迎え撃つ。
――キィィン!!!!
金属音が響き渡る。
"七人"に対し迎え撃つ敵は、その数"十万人"――
絶対不可能に近いこの闘い。
それでも男達は戦う事を決して止めない。
挑戦し続ける事でしか生き抜けない過酷なこの場所。
この時代に立ち続けるために。
大切な人達を守り抜くために。
生命をかけて挑み続けるのだ。
全てをかけた闘いが今、幕を開けた――
"七人"対"十万人"――
七人の運命はいかに!?
遂に"武士櫻の闘い"が幕を開けた――!!




