第18話 吸血貴族はアニオタ系アイドルがお好き
カジュアルコスプレショップ「こみぱるん」は、コスプレを趣味とする女性に人気の店だった。
コミマやテーマコス等のイベント用に、学園祭や演劇で使用するために、また自宅で撮影し動画サイトにアップしたり、衣装を着て生放送を行ったりするマニア系女子(まれに男の娘)ユーザーの希望を「こみぱるん」は秋場原でも一・二を争う抜群の品揃えで答えていた。
それゆえ、店内にある衣装はほぼ全て女性向けのものばかりであり、店の雰囲気も女性が入りやすいよう、鮮やかな花やカラフルなイラスト等でかわいくしつらえられていた。
この店に男性が入ってくるのは、衣装を納入に来る業者の人間くらいのはずだった。
だがいま彼女たちの目に映っていたのは、どこからどうみてもこの店にはふさわしくない、小太りで暑苦しそうな男の姿だった。
くたびれたポロシャツの内側に黄色いTシャツ。
胸にはなにやら青い髪をした二次元の女性キャクターらしきものが描かれているが、彼の体型に対しサイズが小さすぎるため、絵柄が横にひっぱられてもはや原型をとどめていない。
腰から下は短パンにスニーカーで、ショルダーバックをたすきがけにしているという、オタク系にありがちな機能性を重視した格好だった。
はりつけたようなぼさぼさの髪に、小さなフレームのメガネ。
今日は比較的涼しい日のはずだったが、なぜか彼の額には汗がじっとりとにじんでいる。
口元をややゆがませ、レンズの奥に濁った瞳を光らせながら、彼はうめくような声を発した。
「ミナミナ……やっぱり、こんなところにいたんだ……」
男は怪しげにニヤつきながら、ふらふらと店内に入ってくる。
その異様な雰囲気に、何も言えないまま思わず身構えるミナミナとユラ。
だが男はそんな彼女らの表情などうかがう様子もなく、ずかずかと前へ進み出る。
そしてミナミナのところまでやってくると、太いゴボウのような腕をぬっと差し出し、引きつった笑顔で告げた。
「い、いろいろ調べて、ミナミナがこの店に通っていることがようやく分かったんだ……。でも、いつも男たちが見張っていて近づけなかった。今日はあいつらいないんだね。ミナミナもようやく解放されたんだ。さあ、帰ろう」
のぼせるような口調のまま、彼はミナミナの細い腕をとると、そのまま無理に引っ張る。
「あの、ちょ、ちょっとっ!?」
「どうしたのミナミナ。家出は終わりだよ。早く僕の家に帰ろう」
「な、なんのことなのか分からないんですけどーっ? ファンの方ですか? ちょっ、痛いですから、離して下さいっ……!」
「まだあいつらに洗脳されているようだね。早く洗脳を解かないと……ぼ、僕の家ならミナミナを助けられるから。さ、いこう」
「ミナミナは洗脳なんてされてませんよー? と、とりあえずいったん話してみませんかー?」
「だめだ。ぐずぐずしていたらあいつらが来る。早くここから脱出しないと。まったく、ミナミナが家出なんてするからこんなことになったんだよ?」
意味不明な言動の男から逃れようとするミナミナの後ろで、ユラが顔を白黒させる。とつぜんのことにどうしていいか、判断がつかないようだった。
「ミナミナさん! 大変、どうしよう……」
「ち、ちょっと、ミナミナは家出なんてしてませんから~! お、落ち着いてくださ~い!」
「待たぬか」
そのとき――
イオネラはミナミナの腕をつかむと、男からぐいっと引き離した。
「――!」
「イオネラ様!」
突然割り込んできた赤髪の少女に、男は声を奮わせる。
「なっ! なななにをするんだ!」
「おぬしこそ、ミナミナに何をしておるのじゃ。嫌がっておるではないか」
「ぼ、僕は、ミナミナと一緒に家に帰るんだ! ミナミナは僕の妹で、黒服のやつらに脅されて、しかたなくアイドルとしてテレビに出ているんだ。でももう大丈夫。僕が解放してあげるよ。さあ、僕とミナミナだけの、楽しい元の生活に戻ろう」
「――こやつの言っていることは本当か、ミナミナ?」
ふり返ってイオネラが聞くと、ミナミナは思い切り首を横に振った。
「ミナミナには兄なんていません! 黒い服の人はいつもミナミナを守ってくれているボディガードの人なんです。っていうかミナミナ、この人とは一度も話したことないんですけど!」
「ではなぜこやつはそのようなことを……?」
「そういう設定なんです!」ユラが答えた。
「あの人の勝手な妄想で、ミナミナがそういう設定になってしまってるんです!」
「おお、なるほど! これが設定というやつか。以前からの疑問だったのじゃ。皆わらわのそぶりが設定だと訳の分からぬことを言ってくるものじゃからのう。これでひとつわらわの中での謎が解けたぞ。胸のつかえがとれた気分じゃ」
満足そうに微笑むイオネラをよそに、男はぶるぶると全身を震わせていた。
「せ、設定なんかじゃないっ! ミナミナはだまされてるんだ! 洗脳されてるだけなんだ! それなのに、なんで気づかないんだ……
み、みんなで僕のことをバカにして……ミナミナ救出作戦をジャマしようとしてるんだろ。許さないぞ。ぜったい許さないぞ……!」
そうぶつぶつとつぶやきながら、彼はショルダーバッグを開けると、中から黒く長い、先端がコの字型になった器具をとりだした。
「――スタンガン!?」
凶器を持ち出した相手に、ユラが思わず叫ぶ。
緊張に顔をこわばらせるミナミナとユラ。だがその前で、イオネラだけは変わらず落ち着いた表情をみせていた。
「――スタンガン、というのはなんじゃ? それほどすごい武器なのか?」
「イオネラ様、ご、ご存じないんですか? あれに触れられたら、電気ショックで一瞬にして気絶してしまうんですよ……!」
青ざめた顔のユラに、イオネラは依然として腕を組んだまま悠然と答えた。
「ふむ。電撃系の魔法があの中に封じ込められていると、そういうことじゃな?」
だいぶ違うが、ユラは混乱した頭で「だ、だいたいそういうことです……!」とうなずいた。
その前で、男はいら立ちを表すように、カチカチとスタンガンの電源のオン・オフを繰り返しながらひとりごとをつぶやく。
「くそっ、くそっ……! 真実を知っているのは僕だけなんだ……みんな陰謀にだまされているんだ……なんでそのことにみんな気づかないんだ……! 僕は必ず、ミナミナをあいつらから解放するんだ……。
フ、フフ……改造して出力を上げたこのスタンガンなら、あんなやつら敵じゃない。絶対に、妹のミナミナを取り戻してみせる……!」
ミナミナはやや後ずさりながら、いまにも腰が砕けそうなユラに伝える。
「ゆ、ユラ。もしものときは、ミナミナのことはいいから全力で逃げて」
「で、でも!」
「このままだと、ユラが襲われるから。それだけは絶対だめだから!」
と言いながらも、目の前でゆがんだ笑みを浮かべる男に、どんなときも明るい人気絶頂アニオタ系アイドル・ミナミナも、さすがに恐怖のメーターが胸からあふれそうになっていた。
「ひ、ひさびさにミナミナ、ピンチかも……。警備の人呼んでも間に合わないし、どうしよう……」
「なにをあわてておるのじゃ、おぬしら」
だが、こんな状況でもイオネラは変わらず普段と同じ表情のままだった。
ミナミナは彼女の様子にさらに戸惑う。
「だ、だって、スタンガン持った男の人がミナミナのこと狙ってるのに、慌てない方がおかしいっていうか? 超大ピンチだし……!」
「何を言っておるのじゃ。わらわがおるじゃろう。何を心配することがあるのじゃ?」
当然のように告げるイオネラに、ミナミナが目を見開く。
「あの……あなたは?」
「こ、この方はっ!」ユラが口を挟む。
「トランシルヴァニア公国という国の、皇女さまなんです! 大変な身分の方なんです!」
「お、皇女さま?」
とても信じられないという表情のミナミナに、イオネラは口をとがらせた。
「皇女ではない。吸血貴族じゃ。主の身分くらい正確に覚えよ。ま、とりあえずはあやつをねじふせねばなるまいな。おぬしらは下がっていろ。少々手荒にやるでの」
この状況で、頼もしいとすら思えるイオネラの背中。堂々とした態度。
その動じない姿は確かに位の高い人間の証明であるように、ミナミナには思えた。
スタンガンを構える小太りの妄想男。
悠然とした姿勢で対峙するイオネラ。
先にとびかかったのは、男の方だった。
「ミナミナァー! 僕が必ず取り戻してやるー!!」
駆け出した男は、イオネラの眼前まで間をつめると、勢いよくスタンガンを突き出す!
だが――
イオネラはその場にすぐさましゃがみこみ、突き出されたスタンガンをかわす。
そして、そのまま男のふところに飛び込むと、小太りな彼の体を一気に持ち上げる!
「おあっ!?」
何がおきたのか分からず慌てる男。
いつのまにか両手も、両足も、どこにつくことも無く宙をぶらついている状態。
おそらく体重が100キロ近くある男を、イオネラは女性とは思えない力で楽々頭の上に持ち上げていた。
リフティングの選手のようなイオネラのその姿に、ミナミナも、ユラも、目を疑った。
それはまるで、ゲームでCGのキャラが他キャラを軽く持ち上げる非現実的な光景に似ていた。
するとすぐさま、イオネラは勢いよく男の体を後方へ放り投げる。
「ぐはぁっ!!」
男はゴスロリ系衣装のコーナーにぶつけられ、大きな音を立てながら派手に倒れる。
周囲のハンガーラックが巻き込まれ、男と一緒にがしゃんという音とともに横倒しになった。
わずかな間の静寂。勝敗は、一瞬で決した。
ミナミナとユラの目には、放り投げられてもみくちゃになった男。
そして、なにごともなかったかのように両手を払いながらたたずむ、どこかの国の高貴な身分の少女が映っていた。
「そのていどの腕でわらわに挑もうなどとは、片腹痛いわ。『これ』がどれほどの威力を有するものなのか知らぬが、前のめりに突き出すだけとは、あまりに隙だらけじゃぞ。もう少し精進せい」
言いながら、イオネラが足元に転がっているスタンガンを拾い上げる。
男は一瞬気を失っていたらしく、ようやく苦しそうなうめき声とともにうごめき始めた。
「うう……い、痛い……な、なんだお……いた……い」
どうやら投げられて床にぶつかったときに、腰のあたりを打ちつけたらしい。
立ち上がることもできないまま、男は必死に周囲を両手で探る。
「あれ、あれ……ない……ないっ?」
「おぬしの探しているものはこれか?」
イオネラが手の中にあるスタンガンをみせつける。それに気づいた瞬間、男はがく然とし、表情から一気に戦意が失せた。
さきほどまでの威勢がどこへやら、顔をうつむかせ、立ち上がる気力すら無くしたようだった。
そんな男を見下ろしながら、イオネラは息をつく。
「おぬしの武器はこれだけか? 全く、おぬしは闘いの常識というものを心得ておらぬ。他人と相対するときは常に予備の武器を――」
そのとき。
いままで後ろにひかえていたミナミナが急に走り出した。
そしてなぜか、上体を力なく起こそうとしている妄想男のもとへ駆け寄る。
「ミナミナさん!?」
ユラが驚く。だがミナミナはかまわず、男を介抱した。
「だいじょうぶですか? ごめんなさい、ミナミナのせいでこんなことに……」
「み、ミナミナ……!」
間近にせまった彼女の顔に、男の方が緊張で強ばる。ミナミナはそんな彼へ、真剣な表情で告げた。
「痛かったですか? 本当にごめんなさい。でも、こうするしかなかったの。あなたの心に届かせるには……。
ミナミナなら大丈夫。黒服の男に一日中囲まれても、陰謀に操られていたとしても、それはミナミナがアイドルとして生き続けるために、自分で選んだことだから」
そしてはかない笑顔をみせるミナミナ。男はメガネの後ろの細まった瞳を、輝かせた。
「ミナミナ……」
「でも、あなたの気持ちは受け取ったよ。うれしかった。ありがとう……。ミナミナ、日本一のアイドルになるために、精一杯がんばるから!」
そう告げ、ミナミナは男の両手をつかむと、彼の両目をみつめたまま胸の前で包み込む。
「だから、これからも応援して……ね?」
「……!」
男がさらに口を動かそうとする。だが、はっきりと言葉が出てこない。
すると男は急に立ち上がり、ふらふらと後ずさりすると、そのまま店の外へ駆け出した。
「あっ!」とユラが声を上げるが、ミナミナはただ無言で彼の姿を見送るだけだった。
男の侵入により不穏だった店内に、ようやく静寂がおとずれた。
ミナミナもしゃがんでいた状態から立ち上がると、一部始終をずっとながめていたイオネラに近づき、頭を下げた。
「助けていただいて、ありがとうございました。ミナミナのせいで、危ない目に……でもおかげで助かりました」
笑顔をつくるミナミナに、イオネラは理解できないといった表情で眉をひそめた。
「おぬし、甘すぎるぞ……。あの妄想設定の貴族男は、この電撃魔法のこもった武器でおぬしを襲おうとしたのじゃろう? あんなゆるい対応では、また近いうちに同じことをやってこぬとも限らん」
「いいんです。それがミナミナのやり方だから」
童顔にふさわしくない、あらゆる事情を悟ったかのような複雑な笑顔を一瞬だけみせるミナミナ。
それから、彼女はまたイオネラへ営業スマイルを向けた。
「助けていただいたお礼に、サインしますよー。あ、写真撮影もしましょうか?」
再び陽気に話し始めるミナミナに、イオネラは首を振った。
「そんなものに興味はない。ただわらわはおぬしと顔見知りだから、声をかけただけじゃ」
「顔見知り……そういえばさっきもそんなこと、言ってましたよね? でもごめんなさい、ミナミナ、どこで会ったか全然覚えてなくて……」
「なら、これでどうじゃ」
するとイオネラは、自分の顔を指差しながら魔法を解いた。
赤髪に猫目の顔が、一瞬にして黒髪・黒い瞳の日本人顔に変わる。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
それをみた瞬間、ミナミナは驚きで思わず声を上げた。
店の扉を閉めようとしていたユラがびくっとし背筋をのばす。
「ななな、なんですか!? ミナミナさん、どうかしましたか!?」
「バイオロイドさん!? バイオロイドさんですよね!?」
「うむ。ようやく気づいてくれたか」
うなずくイオネラに、ミナミナは興奮した表情で話す。
「気づかないわけないですよー! い、いまのどうやったんですかっ? 顔が一瞬で切り替わって……手品かなにかですか?」
「手品ではない。魔法じゃ。幻想魔法の一種により、顔だけ本来のわらわの顔に似せておるのじゃ」
「マホウ……? あっ、そ、そういう設定なんですね?」
「ミナミナさん、設定じゃありませんよ!」扉にかっちり鍵をかけたユラが、興奮しつつミナミナのところまで走り寄ってくる。
「この方は、イオネラ・シェーンベルク様。トランシルヴァニア公国という国の吸血貴族――大変高い身分の方なんです!」
「イオネラ・シェーンベルク……トランシルヴァニア……?」
ミナミナはそれがどの架空の作品にあたるのか考えをめぐらせたが、ついに思い浮かばないようだった。
「吸血鬼設定の作品はいっぱいあるけど、そんな名前のキャラ、ミナミナも知らない……」
「ですよね? 私も深夜アニメを全部思い返してみたんですけど、イオネラなんていうキャラいなくて……本物! この方はまじりっけ無しの本物の貴族の方なんですよ!」
「うそ……ほんとに……? いや、でもそれが本当だったとしても、魔法が使えるって……そ、それ以前に、どうしてバイオロイドさんの体に……?」
「ミナミナさん、その『バイオロイドさん』っていうのは、なんですか?」
それぞれに積み重なる疑問の数々に混乱するミナミナとユラ。それへ、イオネラはもっともらしくうなずいた。
「うむ。おぬしたちにはわらわの事情を詳しく話しておかねばならぬな。まずわらわは――」
そして、イオネラはミナミナとユラに対し、現代へやってきてから現在までの成り行きを話し始めた。
「……ほんとですか、その話」
イオネラの説明を聞いて、ミナミナが目を泳がせる。
「本当じゃ。おぬしも疑り深いのう」
「だ、だって」ミナミナが戸惑う。「ミナミナがあのとき開いた棺おけから魂が抜け出して、バイオロイドさんの体に取り入って……それから、顔だけ魔法で変えつつ、下僕となった人間の血を吸いながら生活してるって……完全に厨二病的展開じゃないですか!」
「なんじゃその『ちゅうにびょう』とかいうのは。とにかく、わらわはいまとある下僕の家で血を吸いながら、世界征服に向け魔力を蓄えているところなのじゃ。こうして顔を変身させていることや、さきほどの男を簡単に投げとばしたことを考えれば、人間に真似できぬ所業であることくらい分かるじゃろう」
「でも……でも、この世の中に、本当に魔法を使う吸血鬼がいるとか……」
言葉とは裏腹に、ミナミナの目は期待に満ちていた。
「まだ信じられないんですけど……でも、こんな日がこないかなって、ずっと思い描いてた……アニメやゲームの世界の住人に出会えないかって、実際にお話したりできないかって……
ううん、設定だとしてもかまいません! 魔法を使ったり、血を吸ったりって、こんなにリアルな吸血鬼キャラの人、設定超えてるし……ミナミナ、イオネラさんと今すぐお友だちになりたい! いいですよね!」
「もちろん、わらわもそのつもりで話しかけたのじゃ。おぬしの名声をもってすれば、わらわの目標であるニホン征服、そしてひいては世界征服も夢ではない」
「吸血鬼が世界征服! ああ、まさにラノベ的設定ですよね!!」
両手を合わせ感動するミナミナ。友人なのになぜか世界征服にかりだされていることには全く疑問をもたず、むしろ本物の吸血鬼に出会えたという感動が彼女の胸を覆い尽くしていた。
「ユラも友だちになろうよ! めったに会えないよこんな人!」
「ユラはもう、さきほどイオネラ様の使用人として召し抱えて頂きました。本物の貴族の方にお仕えすることができ、本望です。だからお友だちなどという大それたことはとても」
「あー、そういう設定ずる~い! ミナミナも何かつくろうかな……」
興奮冷めやらぬ状態のミナミナは、さらにイオネラに尋ねた。
「ところでイオネラさんは、おいくつなんですか? ミナミナと同じくらいにみえますけど?」
「わらわは西暦一四○八年に没したから正確には現在六〇五歳になるが、魂を封じられたのは十六歳のときじゃ。じゃから現在十六歳ということにしておるのう」
「うそ! ミナミナと同い年だよ~! イオちゃ~~~~ん!!」
完全にイオネラのキャラに心酔したミナミナは、同じ歳だとわかるやいなや、なれなれしい呼び名でいきなりイオネラに抱きついた。
「こ、こら、やめぬか! 仮にも貴族であるわらわに対しそのような無礼な態度、おぬしがたとえアイドルという高い身分の人間だとしても、許した覚えはないぞ!」
「えー? いいでしょ? あだ名じゃないと呼びづらいしー。イオちゃん、連絡先交換しよ!」
やや強引に話を押し進めながら、ミナミナはイオネラから離れると、ウェストポーチから桃色のスマートフォンを取り出す。
「イオちゃん、メルアド教えて! あ、LINESとかやってる? そっちでもいいよ!」
「いや、わらわはそのようなものは持ち合わせておらぬ」
「あっ、そうか。中世からきたんだもんね。スマホなんて持ってるわけないか……」
なぜか納得するミナミナ。「じゃあ、連絡したいときどうしよう……」
すると、イオネラが思い出したように猫目を開いた。
「おお、そうじゃ。たしか下僕から渡されたスマホがあったのう。これならばどうじゃ?」
イオネラが服のポケットから取り出す。
それは家を出るときに雄斗から渡された、真っ黒で味気ない、やや旧型のスマホだった。
「詳しい操作方法は分からぬが、これならば通信できるのではないか?」
「うん、大丈夫! やったあ! これでイオちゃんといつでもつながれるね」
「あ、ユラにもユラにも!」
ミナミナはイオネラからスマホを受け取ると、すばやく番号とアドレスを探し出して、自分のスマホへ転送した。
ついでにユラのスマホ(白いレースで飾られた豪華な)にも転送する。
「ありがとー。またメールするよ~。あ、ついったあずもやってるから、よかったらみてね!」
「うむ。しかしこのニホンという国では、だれしもがこのような小さなものをいじくりながら、連絡をとりあっておるのか。容易には理解しがたいが……わらわもこの国の文化をさらに学ばねばならぬようじゃのう」
妙なところで感心しつつ、イオネラはミナミナというニホンを代表するアイドル(とユラという忠実な使用人)を配下に加えたことに、満足感を覚えていたのだった。
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<0023>
7/3(水)12:15
From:minamina-◆○9707△@ezbank.ne.jp
Sbject:やっほー\(^o^)/
キャー!イオちゃーん(=^0^=)ミナミナだよ~♪
昨日はありがとー! こみぱるんの衣装探し、楽しかったよ~!!
ミナミナ、イオちゃんみたいな人と出会えて感動です!
あと、ミナミナ最大のピンチを救ってくれて本当に感謝してます。。。
アイドルの仕事が忙しくてなかなか会えないけど、
今度オフができたら連絡するから、またいっしょに遊ぼうね(^^)
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滅多に鳴るはずのないスマホが鳴り、着信メールを確認した雄斗は、苦虫をかみつぶしたような顔になった。
「どうしたの雄斗? 苦虫をかみつぶしたような顔になってるよ?」
昼休みの教室。
近寄ってきた小詩に、雄斗は自分の席でスマホの画面を見ながら小さくつぶやいた。
「……ミナミナからメールがきた」
「ミナミナ――って、あの、アイドルのミナミナ?」
雄斗がうなずく。
その真面目な顔を見て、小詩は思わず噴き出した。
「ぷっ……はは。雄斗もそんな冗談、言うんだね。ミナミナから雄斗にメールなんて来るはずないでしょ」
「そう、だよな。やっぱり。最近多いんだよな、イタズラメール。そろそろメルアド替えるか……」
そうぼやきながら、「イオちゃん」がイオネラであるということに思い至らなかった雄斗はメールを無視し、何事もなかったかのように小詩と教室を出たのだった。




