物資を調達するぞ!
「お嬢様、茶菓子が底を尽きます」
サラが顔を近づけながら、圧をかけて来た。
「そうだね、買い出しに行かないと……」
私はたじろぎながらそう答えるも、サラは涙目で首を横に振る。
「魔の森を突っ切って買い物に行けと言うのですか?
私は怪人でもゴーレムでもないんですよ」
聞けば、私がイスカリオ王国ブルジア公爵領から逃げ出した時、ゴーレムと化して使った塔の中にあった備蓄物資を食いつないでいたんだとか。
「でも、結構お肉多かったよね?」
「それはダンジョンで狩る事が出来るから、自給自足が出来ます。
野菜は、荒野の魔女さんに採って来てもらってますが、小麦とお茶と砂糖は買わないと手に入れられません」
そうなのだ。
小麦はまだしも、お茶と砂糖は海外から輸入している。
この大地には複数の国と魔物の領域が存在しているが、そのどこでも収穫できない作物なのだ。
だから、どこかの都市に買いに行く他、手に入れる術がないのだ。
しかし……。
「どうやら、あんたの父親は国に訴え、その国から各地に回状が出されたようだよ。
あんたに一切の物を売るなってな」
荒野の魔女の情報網はありがたい。
魔の森の奥地にあるダンジョンに籠っていながら、人間の国の情報を探る事が出来るからだ。
なんでも、北の方にいる邪神から、眷属であるカラスとかウサギの目と感覚を共有する事で、世界各地を見渡せるらしい能力を学んだとか。
「そのついでで、魔女さんが買い物してくればいいと思います!」
といサラに対しては、
「目だけで買い物が出来るかい!」
ともっともな回答をしていた。
「買い物とかする悪の秘密結社って聞いた事ないよ。
町を襲って、必要なものを奪ってくれば良いじゃないのさ」
魔女はそんな事を言っていたが、確かに一理はあるが二理はない。
「うわ、魔女さん、野蛮!
欲しいからお金も払わずに物だけ持っていくって、我がままに育った子供じゃないですか!」
私は、そんなサラの言葉に続いて、
「私たちは、市場とかを破壊する気はないんですよ。
物流、流通、そういうのは今まで通りで良いんです。
貴族だの王国だの、そんなのを脅かせたら良いんであって……」
そう、私たちの最終目標はそっちにはない。
だから女官長のサラも執事のヤンも、あえて改造しない人間のままで側に置いている。
この辺は、話しても理解しづいらいから、私は「目を見たら何でも一回だけ命令を順守させられる中二病」を倣って、理解出来る人以外には余計な説明をしない事にしていた。
「まあ、当てはあるから、早々に手を打つとしますか」
私はサラとヤンをゴーレム格納庫に呼ぶ。
「この前、人間界の英雄連合と戦ったゴーレム『ヘルスレイヴ』には、見た物を記録する水晶を埋め込んでいたんで、それを再生、再生っと」
勇者とか大魔導士とかを、通過しただけで蹴散らしてしまったゴーレム。
あいつらは根性無しにも、不利を悟って逃げてしまったから、得られた情報は余りない。
それでも、どこの国の者が攻めて来たかが記録から読み取れる。
「ガリアノ王国、カナニア王国の旗はありますね」
「その国はイスカリオの同盟国だし、王族や貴族は相互に婚姻関係を結んでいるから、まあ歩調を合わせるわね」
「お嬢様、これはヤメン部族連合の旗印ですが、何故四色もの別々の旗があるのですか?」
「城の守備隊だったヤンは知らないか。
ヤメン部族連合は、八個の大きな部族の集まりなのよ。
あそこは人間だけでなく、獣人、亜人、魚人、魔人、精霊種といった種族も部族を形成しているわ。
部族でなく、旗って単位だけで、八旗の部族長は国王並みの権力を持っている。
だから、気に入らなかったら兵士を派遣しない。
八旗の長の中から国の代表を持ちまわりで選出するけど、自分の国を守る時の指揮官になる以外は、基本親睦会の幹事でしないわよ、あそこの代表は」
というわけで、紅旗と藍旗、黄色旗と灰色旗が参戦、淡青旗と緑色旗、白銀旗と黒色旗は未参戦。
参戦していないのは、それぞれ魚人とエルフ族、精霊種に魔人族が長をしていたわね。
やはりその辺とは交渉の余地がありそうだけど、それは後回しにしましょう。
「人間主体の国ではあるけど、ペリシ共和国連合は参戦しなかった。
やはりね、と思ったわ。
あそこは商人の国で、元首は統領を名乗っているけど、実質的な権限はギルドが握っているから。
自分たちの損になる行動はしない。
まあ、ちゃっかり軍需品は売って、金儲けはしたんでしょうけどね」
私は自分の見立てを話す。
ペリシ共和国連合は、ファン・ブローニ共和国、マルス共和国、ウィンド市国、モリオーネ自治領という四個の共和国と、貴族ながらグリニッド公国とで成り立っている。
それは交易都市が置かれた広大な湾の利害調整組織であり、多国籍企業である商会の互助組織であるギルドが実質的な支配者といえた。
ここの政体について詳しくは説明しないけど、要するにお互い知っていても不干渉を決め込んでいるから、一方の商会が魔界と手を組んで交易しながら、人間界の国との付き合いがあるどこかの共和国を通じて、本来出来ないはずの魔界と人間界の物資交換を可能としているというわけ。
王国や貴族の独立邦は基本、共通の神を信仰し、各地の神殿という横の繋がりを持っているけど、ここはビジネスで繋がっている。
なので、宗教的な各王国から「ペリシ人」と侮蔑的な響きで呼ばれる時は、「守銭奴」「業つくばり」という意味になるわ。
つまり、魔物とすら手を組む彼らだから、私たち悪の秘密結社と手を組んでもおかしくはない!
今は、私たちがどんな組織で、どう扱うかを検討している最中でしょうね。
だったら、私たちから押しかけてみましょうか。
私はそう言うと、ヤンに留守を任せて、サラと買い物兼交渉をしに行く事にした。
「……お嬢様……」
ペリシ共和国連合ギルドに属するムイハナア商会の支部前。
ここからは変な物に乗っていたら、何かと取引が難しくなるから、それを隠した後、徒歩で向かわないとならない。
なのにサラは、既にグロッキーで顔面蒼白になっている。
「どうしたの? 買い物はこれからでしょ!」
私は励ましてみたが、帰ってきたのは殺意が籠っているが、相当に弱々しい、光の消えた目だった。
「なんで、多足歩行型ゴーレムなんて作ったんですか?
あれで走ったら、揺れて、乗り物酔いするじゃないですか!」
「え? 気に入らなかった?
ちゃんと化猫の見た目にしたじゃない」
「そういう問題じゃありません。
ああ、具合悪い。
乗り心地最悪でした」
「でも、あれじゃないと魔の森を突っ切って走れないし」
「馬車で良かったんじゃないですか?」
「ダメよ、車軸が折れる」
「折れないようにお嬢様の錬金術で補強すれば……」
「その場合、サスペンションとか足回りをしっかり作って、ゴムのタイヤにしないと……」
「どうしてそうしなかったんですか?」
「うん、私が男の子なら、そうしていたかもしれない。
でも、どの道サラは乗り物酔いしたと思うよ?」
「どうしてですか?」
「来る途中、峠があったのを覚えている?」
「ありましたね!
この猫ゴーレムがジャンプひとっ飛びした、物凄い怖い場所が!」
「もしね、四輪の自動で動くゴーレムを、足回りとか考えて作るような性格だったなら、確実に峠は攻めたわ!」
「峠を攻める? どういう意味ですか?」
「車輪を削りながら、サスを歪めながら、速度を落とさずに峠道をドリフト走行する事よ。
賑やかな音楽を鳴らしながらね」
「どうしてそんな無意味な事をするんですか?」
「だから、車輪とかサスとかブレーキとかそういうチューニングする人の、性質よ!」
私の断言にサラは、
「よく分かんないですけど、絶対それ極論で言ってますよね?
そうじゃない人もいますよね!」
と言い返して来た。
いいや、私が男なら、流線形の本体のゴーレムに「豆腐店」と貼って、魔の道最速を競うわよ!
「そういえば、物質瞬間移送機って作ってましたよね。
あれを使えば良かったんじゃないでしょうか?」
「あれは行く分にはいいけど、帰る事が出来ないから。
一方通行の装置だから、改良している最中……」
「なにやら面白そうな話をなさってますね?」
私とサラに話しかけて来た男がいる。
人間だけど、私が今まで見てきた貴族のボンクラや、低レベル戦士たちとまるで違う空気をまとっている。
強さとかではないが、ただ者ではない。
それを一言で表現するなら「胡散臭い」。
口ひげを生やし、隙がないその者は、私たちの返事を待たずにこう言った。
「おかしな気配がしたので、到着予想地点に先回りしていました。
実に面白い乗り物でやって来ましたね。
あの乗り物にも興味がありますが、それよりも、下りて来たのがこんな可愛らしいお嬢様方だという事に驚かされました。
どうでしょう? 私のオフィスに招待しますので、お話をお聞かせいただけませんか?
私、ムイハナア商会の代表の一人、ウォーリーと申します。
今後も末永いお付き合いを、お願いしたいところでございますよ」
なるほど、馬鹿王子たちより手ごわそうな御仁のようだ。
※ ムイハナア、右から左に読めば元ネタは分かるかと。




