相手が弱すぎるのも考えもの
「まーた、人間ども蹂躙したんだね?」
荒野の魔女が呆れた声で話しかけて来た。
私は頭を抱えている。
「そんなつもりは無かったのよ」
この世界には、イスカリオ王国以外にも人間の国が存在する。
ガリアノ王国、カナニア王国、ペリシ共和国連合、ヤメン部族連合等等。
イスカリオ王国は、先の戦いで怪奇スパイダー男一人に大敗を喫した。
あそこで無理をせず、引き際を見極めて兵を引いた馬鹿王子の軍事の判断力は評価できる。
他の部分で、どうしてあんなに考えが甘く、浅はかなのか、割と疑問に思うわ。
でも軍事だけはまともなお蔭で、多くの兵士は無駄死にせずに済み、人間たちの国に情報を持ち帰る事に成功した。
その結果、今度は各国と手を組んで、英雄・聖戦士・神の使徒・大魔導士といった称号を持つ者たちだけの精鋭集団を編成して、こちらに押し寄せて来た。
有象無象は居ても役に立たないと判断したようだ。
私はとても嬉しかった。今度こそ、ちゃんとこっちの手先を倒してくれるだろう。
私は完成したばかりの怪魔ゴーレム「ヘルスレイヴ」で迎え討った。
そして、ヘルスレイヴが通り抜けただけで、奴らは吹き飛ばされて敗北した。
解せぬ!
私は、マッハ1を出したら衝撃波が起きると分かっていたから、それよりは速度を落としたんだよ。
そして、柔軟な関節や、身体を捻って姿勢制御出来るように、固い素材にはしていない。
マッハ1を出せる人間が、的確にゴーレムを成している核の部分を貫けば、あっさり倒せたのだよ!
「……あーっと、大首領。独り言が漏れ出ていたよ。
そして、それを聞いた上で言わせてもらうけどね……。
人間は音と同じ速さで動けないから!」
荒野の魔女がツッコミを入れて来る。
そんなはずはない、人間はマッハを出せる!
「だって、私が知っている異世界では、三つ編みお下げの武闘家が音速の突きについて、
『そこは二千年前に既に我々が通った道だ!』って言ってたのよ。
あととあるボクサーというか学生というか顔面神経痛男子が、ダイヤモンドより硬いナックルを着けて、衝撃波で拳が壊れないようにして音速のパンチを撃っていたわよ。
あと、女神に仕える少年少女たちは、音速拳が最低限で、最強格だと光の速度の拳よ!」
荒野の魔女が呆れている。そして溜息混じりに、
「とりあえず、この世界の者には無理じゃ」
と言っていた。
だから私は、お茶のお代わりを淹れに来た女官長のサラにも聞いてみる。
「人間、やれば出来るものだよね?」
「そうですよ! 人間気合があれば、何でも出来ます」
「音の速さの攻撃とか、出来るよね?」
「いや、それは無理なんじゃないですかね」
「でも、私が知ってる異世界では、そういうのがゴロゴロしたよ」
「じゃあ出来ます! お嬢様が実際に見て、やれてる人がいるなら、きっと出来ます。
出来ないと言っているのは、甘ったれているだけです!」
「ありがとう! 私も自信が持てたわ!」
折角私たちが盛り上がっているところを、
「いやいやいやいや、人間出来る事と出来ない事があるから」
と荒野の魔女が否定して来た。まったく空気が読めない婆さんだ。
「身体強化魔法とかありますよね? バフってやつ」
私は質問する。それさえあれば出来るんじゃないのか?
「確かに強化は出来る。しかし、どんなに強化しても、骨と腱と関節には限度ってものがあるので」
「詳しく」
「大首領は怪魔ゴーレムの前に、ロボットとやらを開発していただろ?」
「そうね」
「あの音速での反復横跳びで、どこが壊れたか覚えてるね?」
「膝のジョイント部分、ブレーキ制御部分、フレーム……。
ああ、人間で言ったら膝関節とアキレス腱と脛骨か!」
「あんたという超一流の錬金術師が作った金属でも歪んだり、壊れたりしたんだ。
人間の身体を強化したところで、音速反復横跳びなんてしたら、一往復であちこちの腱は切れるわ、軟骨潰れるわ、血管切れて内出血起こすわで大変な事になるからね!」
「随分と膝の故障とかに詳しいのね? もしかして、お婆さんになって膝痛持ちだとか?」
「そうなの、年取ると足ったり座ったりすると膝と腰が……って、何言わせんだい!
私はまだまだ、ピチピチのお姉さまなのだよ!」
「言ってて無理あるって、自分で気づいてますよね」
「やかましいわ! えーっと、そういう訳で、大首領の認識はおかしい!」
「えー? でも私は、音速の十倍でも全然問題ないんだけど」
「自分に施した人体改造が、とんでもないレベルと気づきなされ!
えーと、骨の強度がオリハルコン並み、細胞一個一個が自己修復・自己増殖・自己進化……」
「あ、自己進化は自分の考えてない進化をするかもしれないので、そこは省いた。
やはりどう成長するかは、自分で制御できないと」
「と・に・か・く・! 大首領は見た目は人間だけど、中身は人知を超えた何かになっているって自覚しな」
うーむ、困った。
私が何者になったかはさておき、私の改造人間、ゴーレム、キメラは私が倒せる事を基準に作っている。
だから弱いはずなんだけど、どうも普通の人間は、その弱いモノと同じ動作すら出来ないようだ。
「お嬢様、提案があります」
これまで黙って聞いていた執事のヤンが挙手する。
「人体改造ならイカデーモンが得意だそうですね。
薬師と名乗って、おかしな薬を飲ませ、経過観察していた事が捕縛の理由でしたから。
なので、あの者に怪人の作成はお任せになればよろしいのでは?」
え? それじゃ私の楽しみが無くなるじゃん。
「賛成さね。あいつなら、普通の強さの魔物を作れる。
人間と戦うなら、それで十分なのさ。
明らかに限界突破した魔物を作って、それでいて一気に敵を滅ぼさないのなら、作る意味がないだろうて」
「でも、イカデーモンは私が作ったホムンクルスの改造は出来ないぞ。
私が助手としてついて、教えてやれば良いのかな?」
「いや、大首領は大人しく、そこの椅子にふんぞり返っていなされ!」
「そうですよ、お嬢様。自ら動かず、時には配下に丸投げなさって下さい」
「そうは言ってもですね、お二人はお嬢様との関係が短いから知らないでしょうが、お嬢様はとにかく細部にこだわる性格なのです。
大雑把な部分も多いのに、妙に細かい時があるんですよね。
ここに来る前、公爵令嬢としてイスカリオ王国王子の婚約者だった時も、とにかく細かくダメ出しをなさっていました。
たまに帰郷して、領内を見回ったついでに、王子の思考について『五箇条の条書』という意見書、追加十箇条をもまとめて、提出しておいででした。
いつか王子もブチ切れるとは思っていましたが、案の定といいますか。
それはそれとして、馬鹿王子とクソ聖女はブチ殺すというのが私の方針です」
サラの暴露に、魔女とヤンがドン引きしてるじゃないか!
なんか王子にも事情があったんだね、とか同情してるんじゃないよ!
それ、今の転生者である私の人格が戻る前、公爵令嬢としてのマリアの時の話だから!
今の私は単なる特撮オタク、政治や軍事に一々うるさく口出ししないから!
「まあ、私の事は置いておこう。
イカデーモンに、事細かに指示を出し、細部に渡って調整をせず、任せた方が良いって事ね?」
「「御意!!」」
「でも、あいつが人間しか改造出来ない点はどうするの?
うち、そんなに人間いないよ。
サラとヤンを改造するなんてもっての他だし、魔女さん、貴女改造されてみる?」
「まっぴらごめんだ!」
そう言っていると、タイミングが良いのか、三悪人の一人・ヘビヘビンダが、使い捨てにしても心が痛まない、ドグサレ悪人を大量にスカウトして戻って来たという報が入った。
材料が揃ったって事だね!
直ちに怪人製作担当のイカデーモンを呼び出しましょう。
「……というわけで、人間界の各国への侵略には、貴方の怪人に任せたいと思います」
「ぐふふふふふ……貴女様にお仕えして良かった!
人を、わしの手で強化出来るのだ!
わしとて、根っからの悪ではない。
病気や怪我をする人間を少しでも減らしたい、その思いが人体改造に繋がっただけだ。
ちょっと二十ヶ所くらいで間違って毒草を処方したり、脳の手術で失敗しただけど、人はわしをヤブ医者呼ばわりし、資格を剝奪しおった。
あれは病気の方が悪いのであって、わしの責任ではない!
わしの手にかかる事を誇りに思ってもらわんと。
技術の進歩には犠牲が付き物で、尊い犠牲になったのだから文句はないじゃろうて。
それなのにわしを悪者扱いし、投獄すらされた。
だが、ここのわしの価値を見出してくれた偉大な大首領がいる!
見ていて下され、十人に一人は確実に成功させますし、何とか二人か三人までレベルを上げてみせますぞ!」
うん、清々しいまでのクズだ!
こいつの手にかかる、何も知らない悪党がかわいそうだが、自業自得と思ってもらおう。
こうして、人間の英雄でも何とか対処可能な改造人間の目途は立った。
あ、細かい指示はしないけど、これだけは守って欲しいな。
怪人を作る動物の順番は、吸血コウモリ、毒サソリ、食虫植物、カマキリ、カメレオン、蜂、毒蛇の順にしてね!
それを第一シリーズとすると、過去に倒された怪人の長所を集めた第二シリーズ怪人で……。
「お嬢様、それを細かい指示と言うのです……」
サラに止められてしまいました……。




