魔王軍襲来
「そいつが怪魔ゴーレムってやつかい?」
荒野の魔女が話しかけて来る。私は不機嫌に頷くだけだった。
この世界でのロボットは実用的でなかった。
私の中のスキル「世界の真理」を使って、金属骨格や装甲、パワーユニットに制御装置を錬金術で作っても良い。
だけど、動きがどうにもスローで、怪人級の大型のものだと、一回動かした後に関節だの駆動系だのを総メンテナンスしなければならない。
それよりは、ゴーレムという魔力で操作出来るものの方が扱いが楽だった。
「……ロボットとやらに何を求めたかは分からないが、あんたの扱い方が悪いと思うぞ。
音と同じ速さで反復横跳びさせたり、この空気が無くなる高さまでジャンプさせてから墜落させたり、火山の中で泳がせたりしたら、ゴーレムだってぶっ壊れるだろうに」
荒野の魔女がなんか呆れた口調で話しかけ続ける。
確かに強度試験でそういう事はやった。
それくらいロボットなら出来て当然でしょ?
大気圏をビニール袋みたいなのかぶって突破して来たり、マグマの中で敵と戦ったりしたロボットも創作の中ではあったんだし。
あ、なんか「世界の真理」から回答が来た。
その設定、監督が非現実的だと判断して劇場版では書き替えた?
あとロボットじゃなく人造人間だから間違えるな?
まあ、なんかロボットを開発しようとすると、「世界の真理」がねちっこくダメ出しして来るのもウザいから、この世界ではロボットは開発しない事にする。
まあ、私の機嫌が悪いのはそれが理由ではない。
私の悪の秘密結社の名前が「アクジャネカ」という、実に気に入らないものになったからだ。
第何回目かの幹部会議での事。
「もうこの不毛な会議、やめにしないかい?」
荒野の魔女が愚痴を零す。
まあ、スライムが魔王になる創作でも、魔王の集団につける名称が決まらず苦労したという逸話があった。
主人公が秒で決めて皆を驚愕させたが。
私、その気分はよく分かるのよ。
「お嬢様、いっそこのまま『悪の秘密結社』という名前で良くないですか?
名前にこだわって、こうした会合を繰り返すのは時間の無駄です」
ヤンの意見に皆は「そうだ!」「それにしないか?」と言ってくる。
「ダメよ! 私たちは魔王たちとも違う悪の集団なの!
盗賊だって首領の名前を使って、なんとか盗賊団とか言ってるじゃない。
もっと記号としてハッキリした方が良いのよ!
主人公が『これはゴル〇゛ムの仕業だ!』とか叫ぶようなのが良い。
そうして電柱が高いのも、ポストが赤いのも、全て我々の仕業と言われたい。
それでこそ悪じゃないか!」
私の言にサラが手を打った。
「それ、良いですね」
「流石はうちの女官長、分かってくれるね」
「アクジャナイカって組織名、合ってると思います。
でももうちょっと短くして、アクジャネカでどうでしょう?」
「悪の秘密結社アクジャネカ、良いんじゃないの」
「賛成!」
「それにしよう」
「決まり!」
「いやあ、これでこの不毛な会議から解放される」
こうして、実にダサい名前に決まってしまった。
覆したいけど、皆がもうこれ以上名称決め会議は嫌だと表情で訴えてるから、大首領の私としても気を使わざるを得ない。
実に忸怩たる思いである……。
というわけで、組織名にいまだに納得していない私は、不機嫌なまま戦闘ゴーレムを作っているわけなのだが……、
「ちょいお待ち、大首領。なんか来るよ」
荒野の魔女が警告を発して来た。
いやあ、最初は「乙女ゲームの世界に戻るフラグ」かと思ったけど、人間レーダーとしても優秀だし、仲間に入れて正解だったな。
その何者かは、空を飛んでダンジョンに向かってきたそうなので、お出迎えしないと。
「来たわね」
空に黒いシミが見えたと思ったら。あっという間にコウモリのような羽根を持った人型となる。
それがフワリと着陸すると、こちらを睨め付けて来た。
「パドリラ、一体どういう事だ?」
その者は私たちは無視して、どうやら知人である荒野の魔女に話しかける。
「おそらくお尋ねに来られると思っていましたが、貴方ですか、アドローズ子爵」
「どういう事だと聞いている。
お前は、魔王陛下を暗殺するつもりなのか?」
荒野の魔女はため息を吐きながら、首を横に振って否定した。
「私じゃないのですよ、子爵。
私にあのような怪物を造る能力など無い事は、ご存じでしょうに。
魔界への接続を教えたのは確かに私です。
しかし、あれはこちらの秘密結社アクジャネカが作った改造人間です」
アドローズ子爵と言われた悪魔は、私たちに視線を向ける。
そして礼儀正しく、
「私の名は魔界の子爵にして、人間界での交渉を司る役目を与えられたアドローズと申します。
強力な魔人のようですが、何故あのような敵対行為を取ったのか、お聞かせいただきたい」
と挨拶して来た。
……一番偉そうなコボルト男に対して……。
元はパワハラ兵士長なだけあって、それなりの服を着せた人間態は威厳があるんだよなあ。
「その件、俺は全く関与していない。
やらかしたのは、そちらの大首領様である」
主君に向かって「やらかす」とか言っている時点で、心の底から敬意を持ってはいないな。
それでこそ悪人だ、素晴らしいぞ。
と思っていると、アドローズ子爵は私を品定めするように、上から下まで嘗め回すような目をする。
「アクジャネカとか言ったな? おぞましい名前だ。
にも関わらず、上玉の女だな。
なるほど、そこにいる魔人たちの誰かがトップにいると従わない奴が出るから、こうして傀儡を上に置いているという事か。
魔力も威圧感もまるで感じない、お飾りという事だな」
上品なんだか下品なんだか、賢いんだか間抜けなんだか、判断に困る事を言い出す。
「おい、女。お前が首領らしいから聞いてやろう。
あの恐ろしい魔物は誰が作った? 何の為に魔界に送った?
お飾りでも首領なんだから、知っているだろう?」
態度についてはさておき、聞かれたからには答えてあげるが世の情け!
「怪奇スパイダー男は、私のホムンクルス技術と、あそこのイカデーモンの魔導技術の結晶です」
なんかイカデーモンが全力否定してるけど、あんた手伝ったんだから誇りを持ちなさい。
「怪奇スパイダー男は、我が領土を攻めようとした人間どもに宣戦布告する為に作りました。
しかし、宣戦布告どころか、一国の騎士団を蹴散らしてしまいまして。
それで、こいつはどれくらい強いんだろうと思って、腕試しで魔界に送ったのです」
「馬鹿を言うな!
あれは魔王様か、その直下の四天王でないと倒せないレベル。
そんな化け物を腕試しで送ったなどと、信じられるか?」
「いやあ、なんかそれくらいの強さになっちゃったんですよねえ、すみません」
頭を掻いた私に、アドローズ子爵は何やら思案顔になる。
そして、
「どうやらお前たちは、恐ろしい魔物製造技術を持っているが、制御出来ないようだな。
そして魔王様の偉大さも知らぬ教養の無さ。
滅ぼしてしまっても良いが、おそらくそれだけの技術、魔王様はお喜びになるだろう。
喜ぶが良い、お前たちを丸ごと召し抱えてやろう。
私が仲立ちすれば、魔王様も暗殺されかけた事など水に流してくれよう。
魔王様は、反乱するくらい元気が良いと、配下に寛大だからなあ」
へえ、魔王って生ぬるい悪と思っていたけど、案外私と同じ価値観もあったんだ。
「どうだ、素晴らしい提案だろう?
そこのお飾り首領、お前の長い黒髪と黒い瞳は、魔王様も気に入るだろう。
第六十六側妻の座が空いている。
魔王様にお仕えし、お情けをいただき、そして魔物を生み続けるのだ」
「私が魔王に仕えれば、そんな座を用意してくれるんだ」
「ああ、そうだ。素晴らしいお方だろう?」
「だが、断る」
やっとこの台詞も言える場面があった!
感謝するわ、そういう話の展開になって。
驚きの後、こちらを睨んでいる子爵に、正当な理由でお断りを入れないと。
「私、私より弱い方の配下に入る気はありませんの。
今回はご縁がなかったとお伝え下さい。
今後の魔王様の益々のご活躍をお祈りいたします」
うん、ちゃんと定型文使ったし、失礼はないよね?
「おのれ、魔王様が弱いだと? うぬぼれおって!
お前はここにいる者の中で、最も弱い。
大首領というからには、頭は回るのだろうが、所詮そこまでの事。
他の魔人の影に隠れてふんぞり返るつもりだろうが、そうはいかない。
おい、お前ら、今からこの女を躾け直してやるが、異存は無いな?
手など出すなよ!」
「どうぞ、どうぞどうぞ!」
どこぞの三人組お笑い軍団のような仕草で対応するな!
サラとヤン以外は忠誠心が無いなあ。
皆の反応を見た子爵は、ニヤリと笑うと、オーラを全開にした。
周囲を威圧する濃厚な魔力の靄。
次の瞬間、子爵は驚いた表情になる。
「お、お前、なんでこの魔力を吸収できる?」
私は自分に施した人体改造の成果で、細胞内のミトコンドリアが魔力をも食らってエネルギーに変換するようになっているのよ。
魔法で私を倒す事は不可能。
「どうやら見くびっておった。この化け物め!」
子爵はどこからか取り出した剣を手に切りかかってくる。
しかし、私の身体には効かない。
細胞一個一個がバリアを勝手に作って、余剰魔力を消費するから、私は寝ていても防御は万全だし、打撃や斬撃といった物理攻撃も無効なのよ。
「とりあえず、礼儀を弁えましょうか、子爵。
私はその座を捨てたとはいえ、人間界での爵位は公爵令嬢だったのよ。
頭を垂れて蹲え。平伏せよ」
そう言って子爵の頭を抑えつける。
抗ってきたから、頭を抑える手にちょっと力を入れてみた。
ぐしゃ!
「ぐしゃ?」
見るとアドローズ子爵という悪魔は、胴体だけになっていた。
頭は?
うわ、ここで潰れてる、バッチぃ!
荒野の魔女が、子爵に従って来た下級悪魔たちに告げた。
「見ての通りだ。
帰って魔王陛下に、見たままを伝えるが良い。
そしてこの地下迷宮には手を出さないよう進言せよ。
……旧知の存在が、磨り潰される姿とか、私も見たくないものでねえ……」
悪魔たちが去っていく。
そしてイカデーモンとコボルト男が、
「やっぱりあの程度だと、大首領にはかなわないか」
「無理もない、アレは我々よりも弱かったぞ」
「そうだよなあ、俺たちスパイダー男より強く作られてるもんなあ」
「その俺たちを軽くあしらう大首領だし、あわよくばと思ったけど無理だったな」
と後ろで話し合っている。
聞こえているからね!




