怪奇スパイダー男の強さは予想以上だった(敵が弱すぎるだけとも言う)
その日、私が放った第一の刺客・怪奇スパイダー男と十人の戦闘員がイスカリオ王国騎士団の前に立ちはだかる。
私たちはその様子を、荒野の魔女の映写装置で、ダンジョンから一歩も動かずに鑑賞していた。
「うーん、うちの組織名、いい具合に濁音が続く名前ないかなあ?」
「あの、お嬢様。変わった名前でなく、一回聞いたらどんな組織か分かる名前の方が良いのではないですか?」
「お、サラちゃん、それはどんな名前だい?」
「イカデーモンといい、スパイダー男といい、お嬢様が実験で生み出した怪物。
だから改造実験帝国とか」
「悪くはないけど、既に存在するしなあ」
「「「「「どこに?」」」」」
女官長サラ、執事ヤン、荒野の魔女パドリラ、イカデーモン、コボルト男が揃って聞き返してきた。
(ヘビヘビンダは悪党募集の為、アジトに不在)
この世界には存在しないとだけ答えておこう。
続いて荒野の魔女が発言する。
「魔物ってのは進化するものだけど、このダンジョンの魔物の進化はちょっと異常だね。
なんというか、邪道な進化って感じさね。
だから邪進化帝国っていうのはどうだい?」
「それもあるからなあ……」
「「「「「どこに?」」」」」
気持ち良いくらい声が揃ってるわ。
「自分はお嬢様に最後まで従います。それでもお嬢様の頭の中身を測りかねております。
だから、私ヤンからは暗黒科学帝国というのを提唱させてもらいます」
「それもあるんだ」
「「「「「だから、どこに?」」」」」
全員頭を抱えているわ。
この世にそんなにたくさんの悪の組織があるのか? とね。
大丈夫、全部滅んでいるからさ。
版権の問題で名前を使えないだけ。
異世界まで版権で使用料取り立てに来る組織があるかは分からないけどね。
「お、敵がスパイダー男を発見しましたぞ!」
「よし! 魔女、ボリューム上げて。サラちゃん、茶菓子!」
「はい、今熱々のを淹れますね。
スパイダー男さん、頑張って!」
今でこそ可愛く「頑張って」なんて、双子の兄弟に甲子園に連れて行ってみたいな調子で言ってるけど、あんた怪奇スパイダー男が出撃する前、異世界河内弁で、胸倉掴みながら気合入れてたの知ってるからね。
「はーい、皆さん、お茶ですよ~。
って、一体どうしたんですか? 戦いはどうなったんですか?」
サラがトレイにお茶とお菓子を持ってきながら尋ねる。
「終わった……」
私は頭を抱えながら答える。
「スパイダー男の奴、もう負けたのか、使えねえなあ、チッ」
サラちゃん、素が出て来てるよ。
私に代わって、ヤンが説明する。
「スパイダー男が勝ったんだ。しかも圧勝」
「ぅシャアッ!」
サラが拳を握って雄たけびを上げる。
この子、武闘派だし、体育会系のノリなんだよね。
「でも、勝ったなら、なんでこんなビミョーな空気になっているんですか?」
猫をかぶり直して、かわいい仕草で首を傾げるサラ。
「相手が弱すぎたんだ」
私はそう言うと、荒野の魔女にリプレイ映像を流させた。
~~~~~
「魔導師たちよ、クモの化け物など恐れるに足らず!
火炎魔法を一斉発射せよ!」
馬鹿王子でも、戦術はまともなようで、初手で虫を焼き尽くす火力を一気にぶつけて来た。
だが、その火炎魔法の爆炎が去った後、彼らが見たのは
(なにかあったの?)
と言った感じの表情で、顔をポリポリ掻いている怪奇スパイダー男であった。
「馬鹿な……」
呆気に取られた王子と騎士団。
そして、何を思ったのか、
「うわああああああ」
そう喊声を挙げながら騎士の一人が大剣を怪奇スパイダー男に叩きつける。
そして、全く切れる事はなく、怪奇スパイダー男の胴体に当たると弾き返されていた。
だが、それを契機に騎士たちは剣や槍、盾を持って突撃を仕掛ける。
怪奇スパイダー男は軽く手を振った。
それはあたかも、目の前でうるさい羽根虫を追い払うかのようなものであった。
強力な風が巻き起こり、甲冑をつけた騎士たちが吹き飛ばされる。
「退け……」
「は?」
「ここは撤退だ! 出直すぞ! こんな化け物とは予想外だ!
引け~! 引け~! 全軍離脱だ!」
~~~~~
こうして王国騎士団は、サラがお湯を沸騰させるまでの間に、敗北を悟って逃げ去ったのである。
見終わって、サラもハアーっと溜息を吐いていた。
「勝ったのは良いですが、もっと盛り上がりが欲しかったですね」
「まったくだ」
そう言う私とサラに、
「ちょいお待ち! そういう問題じゃないから!」
と荒野の魔女がツッコミを入れて来た。
「一体何なんだい、あの強さは?」
「強い? 適度に調整したんだけどね」
「適度って、どれくらい?」
「一話で倒されるくらい。
そう、中々ヤバい組織ではあるけど、主人公たちが必殺技を披露したら、爆死するくらいの強さ」
「何を言っているか、今一つ分からないけど、主人公たちの必殺技って?」
「バッタ男のジャンプキックとか、銀色の巨人が十字に組んで放つ光波熱線とか、宇宙刑事の光る剣とか」
「……聞いていいかい? それって、人間が出せる火力なのかい?」
「頑張ればいけるんじゃない?」
「ハッキリとは分からないけど、今あんたの脳から流れて来たイメージを水晶で投影するからね!」
なんかキレ気味な魔女は、ダンジョンの壁に私が見た特撮の映像を映し出した。
「えーっと、無理なんじゃないですか?」と言うヤン。
「これ、人間じゃないですよね?」とツッコむサラ。
「光る剣って、どうやって開発したんですか?」と聞いてくるイカデーモン。
「なんか大首領の想定する敵って、強過ぎるんですけど。自分たちも勝てないです」とほざくコボルト男。
「分かったかい?
あんた、強く調整し過ぎたんだよ!
この世界の誰が、あんな化け物たちの必殺技でしか倒せない魔物と戦えるって言うんだい?
強いて言えば、魔王様くらいだろ!」
「魔王なら何とかなるんだ!」
私がそう言うと、魔女は「言うんじゃなかった」とつぶやきながら、頭を抱えた。
怪奇スパイダー男は褒めてやる。
でも、この子は一話で死なないといけない宿命なの!
かわいそうだけど、魔王にぶつけて、その強さを確認しないと。
「で、魔界ってどこにあるの?」
荒野の魔女は呆れながら、
「この世にはないよ。そうさね、鏡の中の世界というか、天と地の狭間というか、現世に対して違う世界というか……そんな場所だから、魔法陣で召喚しないと顕現しないよ。
こっちから行くのは不可能さね」
と教えてくれる。
この女性、割と親切なんだと思った。
でも大丈夫!
「こんな事もあろうかと(これも一回言ってみたかった!)、瞬間物質移送機を開発しておいた。
原理としては魔法陣を使った召喚のようなもので、魔法陣を敵陣に展開し、召喚されるという形で相手の庭先に戦力を送り込みます」
「なんだい、それは?
そんなぶっ壊れ道具があったなら、怪奇スパイダー男を歩いて向かわせないで、さっさと敵の城内に送り込めば圧勝出来たじゃないか!」
荒野の魔女が実に真っ当なツッコミをしてくる。
そうなんだけど、それは私のやりたい事じゃないんだよね。
まあ、この女にはそれを教える気はないけどさ。
さて、話を戻そう。
「魔界からの召喚が出来るって事は、逆転させれば送り込む事も出来るって事。
さあて魔女さん、私に魔界の情報を教えなさい。
私のスキル『世界の真理』で術式は分かるけど、魔界の正確な位置までは分からないから、貴女の占いによる情報入力が必要なんだよ。
さあ、早く!」
荒野の魔女はぶつくさ言いながら水晶に手をかざし、魔界の位置を教えてくれた。
これで怪奇スパイダー男を送り込む事が出来る!
そして怪奇スパイダー男は魔王によって撃破された。
極限魔法を七連発放つのは流石魔王ね!
それでも持ちこたえている怪奇スパイダー男に、魔剣グラムを抜いて斬撃を放つ。
致命傷を負う怪奇スパイダー男。
そして、魔界の稲妻を魔剣で受け、黒いスパークが見える状態の一撃でトドメを差す。
これは見ごたえのある対決だった。
怪奇スパイダー男よ、使い捨て怪人とはいえ、君の雄姿は忘れないぞ!
そう言っている私の横で、荒野の魔女がまたぶつくさ言っていた。
「アレ、魔王様の全力……。
それでやっと倒せる強力な魔物が、やられ役だって?
異常よ、絶対に異常よ、異常に決まっている……」
特撮番組ではやっと一話が終わったくらいだ。
先はまだ長いんだし、そう思いつめないで欲しいものだ。
スタートダッシュはここまで。
明日から平日は一日一話、17時に更新とします。




