宣戦布告よ!
雨降って地固まったと思う。
三悪人は私に対してびくびくしながら接するようになった。
困ったなあ、こいつらは使い捨てにする予定なのに、慕われたら情が移るじゃないか。
とりあえずそんな感情は見せないようにして、三悪人に仕事を使える事にした。
「ヘビヘビンダは、元は盗賊の首領。
お前のように、殺されても誰も悲しまないような悪人を集めて来なさい!
コボルト男は元兵士長。ここの戦闘員の訓練をお願いするわ。
イカデーモンは、私の改造実験の助手を」
「「「イイーーッ!!!」」」
「いや、それは戦闘員用の挨拶だから、幹部のあんたたちは普通にして……」
「あ、はい」
「承知しました」
何とも気の抜けた返事をして、二人の悪人はダンジョンから外に出ていった。
逃げ出す可能性もあるけど、多分あいつら、私に逆らったら命はないと思ったようだし、きっと大丈夫よね。
「お嬢様……」
「大首領と呼びなさい、イカデーモン! この場で私をお嬢様と呼んで良いのは、執事のヤンと女官長のサラだけだから」
「え? 私は女官長なのですか? 初めて聞きました」
「自分は執事? 自分は一介の兵士ですが?」
サラとヤンが気の抜けた事を言い出す。緊張感がなくなるから考えて発言して欲しい。
それはともかく、私はイカデーモンの方を見ると、
「さっき殺した、大首領の間に住んでいたモンスタースパイダーの死骸を使うわよ。
私、ぐちゃぐちゃに潰れた虫とか触りたくないから、あんたお願いね」
イカデーモンの人間態はビミョーな表情をしていたが、従うしかないわよ。
モンスタースパイダーと戦闘員の合成を行っていると、コボルト男がやって来た。
「大首領、客人が参りました」
誰だろう? と思ったけど、軍服をラフにしているコボルト男には先に言わないとならない事がある。
「貴方は、どんな時でもちゃんと軍服を着ていなさい!
そして部下には『服装のたるみは精神のたるみだ!』ってパワハラをする!
そういうキャラなんだから、徹底しなさい!」
「ははっ!
……って、初めて聞いたのですが。
それはさておき、大首領に会いたいという者が参っております」
「誰かしら?」
「勝手に入らせてもらったわ、御邪魔するね」
化粧が濃い中年女性がそこに居た。
「誰かしら?」
「私はパドリラ、人は私を『荒野の魔女』とも呼ぶ。よろしくね」
そうだ、この世界は何とかいう乙女ゲームの世界。
本来のマリア・ド・ブルジアは、婚約破棄と追放の屈辱によって悪堕ちし、荒野の魔女によって「虚無の魔女」へと変化するのだった!
そういうシナリオを、特撮知識で書き換えた。
だから、荒野の魔女に会う予定は無かったんだけど、まさかあっちから会いに来るとは……。
「私みたいな者にはね、妙な勘ってものがあるのさ。
どうも、ダンジョンに住み着いた公爵令嬢がいて、それの下についた方がこの先面白い、そういうお告げがあったのさ」
「お告げ? 誰から?」
「誰だろうね? きっとろくでもない存在だと思うね」
うん、きっとゲームの運営だね、こんな甘ったるいゲームの関係者なら、ろくでもない事間違いなしだ!
「それで、あんたに仕えたくてやって来たのさ」
「あ、間に合ってますので、お帰りください」
せっかく乙女ゲームとやらから逸脱しているのに、フラグのような人物に居着かれても困る。
「まあ、そんな事をお言いじゃないよ。私は役に立つさね。ほら、これをご覧」
荒野の魔女は水晶球を見せる。
だが水晶球の中ではなく、そこから放たれた光がダンジョンの壁面に映像が映し出された。
「ほらご覧よ、騎士たちが集結しているだろう?」
「そうですね」
そこには私の婚約破棄を行った王子が何やら演説している姿があった。
「あんたのいたイスカリオ王国が、ここに攻め寄せて来るという事だよ。
あんたの父が通報したそうだ。
そりゃ辺境の城から塔が一個、歩いて立ち去ったともなれば内々で済ますわけにもいくまいて」
それは予測していた。
だけど、そんな事よりもこの水晶は素晴らしい。
戦闘員の中で強行偵察型という、目と耳だけ強化したタイプを作ろうかと思っていたが、ここに広域偵察女がいるなら、そっちの方が使える。
「確かに役に立つと分かりました。
荒野の魔女、貴女を人間偵察衛星として雇います」
「えいせい? なんだそれは?」
「知らなかったらそれで良いで~す」
と言いながら、そういえばこの世界には月が三個あり、不思議な夜空だという事を思い出した。
そしてもう一つ、思い出した事がある。
「荒野の魔女、パドリラと言いましたね?」
「ああ」
「パ●ドーラ様と名前を改めるつもりはありませんか?」
「は? 嫌だよ。これでも自分の名前には誇りがあるんでね」
「じゃあ、ドリだけ活かして、ヘドリ■ン女王とか」
「なんで女王? 嫌ってさっきも言ったろう。何なんだい、一体全体」
「いやあ、よく見たら女優の曽〇町子さんそっくりなお顔じゃないですか」
「誰かは知らんが、それで?」
「だからこそ、パン●゛ーラ様とかヘ■゛リアン女王となれば嬉しいな、と。
衣装なら作りますよ?」
「……なんか、あんたの頭からイメージが流れて来たよ……。
嫌だよ、そんな奇怪な服装は!」
「えー? 悪役なら丁度良い威厳だと思ったのですが」
「えへん! お嬢様、よろしいでしょうか?」
サラが話をさえぎって来た。
そして荒野の魔女にお茶を淹れながら、
「どうするのですか?
公爵閣下の通報で、勇者及び王国騎士団がここに攻めて来るのですよ?
叩きのめす算段を立てないと!」
え? うちの女官長、やけに好戦的じゃないスか?
「叩きのめす?」
「当然です。さっき、馬鹿王子とその横にいる性女……じゃなく聖女とやらも確認しました。
叩きのめした後で、馬鹿王子はオークと、聖女はヒキガエルとキメラにしましょう!」
「えー、なに、怖いよサラちゃん」
「それくらいは許されるかと!」
うん、私に対する愛情が強くて、婚約破棄を招いた人たちが許せないんだね。
貴女の忠誠心は嬉しいけど、正直私、あの二人に対して思うところはないんだわ。
だから、計画通りに事を運ぶわね。
「イカデーモン!」
「はっ、ここに!」
イカの怪人を見て荒野の魔女が目を丸くし、
「またおかしなデザインの魔物を作り出したねえ」
と呆れつつも感心していた。
かなりの強さや再生能力を秘めていると、なんか見抜いているわ。
まあ、今の彼は怪人製造の担当者。呼んだのは進捗確認の為。
「怪奇スパイダー男は良い感じ?」
「はい、スパイダー男は間もなく目覚めます」
「ダメダメダメダメ、スパイダー男じゃなく、怪奇スパイダー男ね」
「そこのところはどうでも良いのでは?」
「折角の第一話なんだから、合わせないと?」
「一話? 一体何の事でしょう?」
「まあ良いわ。私しか知らない情報だから。
よし、怪奇スパイダー男が目覚めたら、戦闘員十人ほど引き連れて、イスカリオ王国騎士団を迎え討たせてちょうだい」
「お言葉ですが大首領、たった一人の改造人間で百人近い騎士団と戦うのは、戦力的に問題があると思います」
「そうよ。怪奇スパイダー男はやられ役なの。
私たちからの宣戦布告として送りつけるけど、それが済んだら適当な戦いをして、相手の手の内をさらけ出したなら、後は倒されても良いの。
あの子がどんな倒され方をするかを見て、今後の方針を立てようと思っているわ」
イカデーモンが息を呑むのと同時に、荒野の魔女がくぐもった笑いをする。
「想像以上に冷徹な女だねえ。
せっかく作ったホムンクルスのキメラを、敵の戦力を測る為だけに使い捨てかい?
その犠牲の上に、奴らを倒せる戦力を整えるとはね。
ダンジョンに居を構えるのは、魔素を使っていくらでも消耗型の魔物を作れるからだね。
そのスパイダー男が死んでも、魔素は巡り巡ってダンジョンに帰って来る。
また新しいキメラを作れるって事かい」
おお、今までの中で一番理解度が高い。
流石は三つの戦隊で敵の女王を演じた女優にそっくりなだけある。
「そういう事だから、怪奇スパイダー男を出撃させるように」
「御意!」
「では水晶での投影をお願いね」
「ふふふ、お気に召したようで何よりさ」
「サラは、見物する時には上質のお茶とお菓子を準備してね」
「余り良い趣味とは言えませんね。
お嬢様の言いつけには従いますが、私は王国騎士団を叩きのめして来て欲しいので、スパイダー男にもお茶の水筒を渡して、『気合い入れろや! ケツまくって逃げんじゃねえぞ、ワレ!』と発破をかけて来ます」
うちの女官長、実は私以上に武闘派なのではないだろうか?
とりあえず、気合を注入されて怪奇スパイダー男は敵を迎え撃ちに出撃した。
私たち、悪の秘密結社からの宣戦布告よ。
王国騎士団に馬鹿王子と、あと聖女よ、とくと受け止めなさい。
そして私は致命的な過ちに気がついた。
「組織の正式名称、まだ決めてなかった。
怪奇スパイダー男も、どこを代表した怪人なのか、ありゃ分かってないわ……」
とりあえず悪の秘密結社(仮)からの刺客よ、王子たち、心して迎え撃ちなさい!
19時にも更新します。




