地下迷宮(ダンジョン)でする事
元監獄塔で、今は悪の秘密結社の動く拠点であるゴーレムは、私たちを乗せたまま目的地にたどり着く。
ここは地下迷宮。ここには濃い魔素から生まれる魔物が多数生息している。
私はコボルト男、イカデーモン、ヘビヘビンダの三人に、
「お前たちの力を試す場所だ。強化されたその身を確かめてくるが良い」
と言って、ダンジョンの中に放逐する。
彼らは不満たらたらで、ダンジョンの奥地に向かっていった。
「大丈夫なのですか?
奴ら、これ幸いと逃げ出すかもしれませんよ」
ヤンが不安を口にする。
「大丈夫よ。あいつらは絶対に戻ってくる。
戻ってきて、私を殺してこの秘密結社を乗っ取ろうとするから」
その返事に、サラとヤンが警戒感を滲ませた。
「大丈夫じゃないですよね? それ」
「お嬢様、直ちに守りを固めるなどしないと!」
私は手のひらを振って、心配ご無用とジェスチャーをする。
「そんな事より、私はダンジョン内でする事があるの。
手伝ってもらえるかしら」
ヤンとサラは、黙って頷いた。
そして歩く事しばし、ちょっとした広い場所を見つける事に成功。
そこに住んでいたモンスタースパイダーを、ヤンが戦って倒す。
なかなかやりますわね。
「お嬢様、こんな場所で一体何をなさるのですか?」
ヤンが尋ねてきた、よくぞ聞いてくれた!
「ダンジョンって不思議よねえ。殺しても殺しても、次から次へと魔物が出て来る。
冒険者たちが殺しつくしても、しばらくしたらまた復活している」
「確かに不思議ではありますが、ダンジョンとはそのようなものと心得ております」
「ここの魔物って、生き物なのかしら?」
「そりゃあ、生き物でしょう」
「普通、生き物は父と母がいて、母のお腹から産まれるもの。
それは魔物とて同じ。
だからこそ、どこからともなく生まれるダンジョンの魔物は生き物かどうか疑問に思わない?」
「言われてみれば確かにそうです。
ですが、我々としたら魔物の退治の方が優先なので、そのような事に思い至る事はありませんでした」
「そうよね。魔物退治こそ最優先事項。
そしてダンジョンから生まれる魔物を殺す事に、誰も罪悪感など覚えない」
「左様です」
「という事は、ここで戦闘員を作れば、罪悪感なく大量生産出来るって事よね?」
「はい?」
「ここにホムンクルスの製造プラントを作ります!
そして、ここで生まれたモノたちを戦闘員として送り出します!」
「お嬢様……魔物を自作して、それを兵士にするおつもりですか?」
「なにそれ、怖い。
私が作りたいのは戦闘員であって、兵士じゃないんだけど」
「どう違うのですか?」
「兵士は国の為に戦う人たち。戦闘員は、ヒーローの引き立て役」
「?????? さっぱり理解出来ません」
「ここで生まれた魔物なら、皆遠慮なく殺すよね?」
「はい」
「ならば、ここで生まれた戦闘員は、殺されてもまったく痛くないという事です」
「あの、意味が分かりません。
なんで殺される前提の兵士を作るのですか?
どうせなら覇業の手助けとなる兵士を作った方が良いのではないですか?」
「それって、私が望んだ事じゃないよね」
「そうでした。お嬢様のお望みは、世界制覇とは違いました。
どうぞ、お嬢様のお気の向くままに」
「ありがとう」
こうして私は、人型の魔物「戦闘員」を大量生産する事にしたわ。
「お嬢様、いっぱい出て来ましたね」
黒ずくめで、目だけこちらを向いている人のようなモノに、サラがドン引きしている。
「うぎぎぎ……」
そんな声を出した戦闘員に、私は容赦なくツッコミの手を放った。
「違う、そうじゃない!」
吹き飛ばされて、壁面に激突して死亡する戦闘員。
他の戦闘員たちがおびえた目で私を見ている。
恐怖による支配も、こういう場合は必要だね。
「いい? 返事をする時は右手を高く上げ、脳天から声を出すように、
『イイーーッ!』
って叫びなさい」
「?」
「一丁前に悩まない。返事は『イイーーッ!』よ」
「ぃぃー……」
「声が小さい、もう一回!」
「イイーー……」
「まだまだ、何を恥ずかしがっているの!
もっと甲高い声で!
せーのっ!」
「イイーーッ!」
「やれば出来るじゃない。
それで行くわよ」
横から呆れた声がする。
「自分、お嬢様に従う心に迷いはありませんが、それでもたまについていけない時がある」
「ヤン兵士、深く考えないの! 慣れよ、慣れ!
長くお仕えした私でさえ、お嬢様にこんな一面があったのは知らなかった。
でも、頭を空っぽにして、私は何も見なかった、何も聞かなかったと唱えれば、それで良いのよ」
「そういうものですか?」
サラとヤンが何か言ってるよ。
そんな彼らとは違った場所から、拍手の音がする。
「ご機嫌ですねえ、ブルジア公爵令嬢」
「いやはや素晴らしいものです、手下をこんなに作られるとは」
「これだけあれば、あらゆる悪事が可能ですなあ」
声の主は三悪人だった。
「修行は済んだ?」
「ああ、済んだ済んだ。
確かにこの身体、前より余程強くなっている」
「ああ、これなら人なんて簡単に殺せる」
「礼を言うよ、お嬢さん。改造された時は、恨みに思ったものだけどな」
「そう、ありがとう。あと、もう一個教えておくわ。
気を鎮めて穏やかな心になる。はい深呼吸を一回。
そうしてから、右手で顔を上から下になでるように動かしてみて。
ほら、元に人間態に戻ったでしょ!」
「ほお、こんな事が出来たんだ」
「逆に、『変身』と叫びながら、両腕で下から上に、シャツを脱ぐ動作をしてみて。
ほら、怪人態に変身できた」
「こりゃ便利だな」
「ああ、町や城に潜り込んで、好き放題出来るな」
「まったく便利な能力だよ。殺すのがもったいないくらいだ」
おお、来たわね!
ほら、サラとヤン、こうなるって予め言っていたんだから、殺気を滲ませない!
「私を倒す気よね?」
「そうだ!」
「錬金術が凄いみたいだけど、俺は俺より弱いやつに従う気はねえ!」
「悪事をするのに、あんたの指図は受けない!」
「試しに聞くけど、私を殺して、その後はどういう悪事をするつもり?」
「そりゃ、村に押し入って、皆殺しにして食糧と金目のものを奪う」
「城を奪って、俺が領主様になって、俺に従わない者はなぶり殺す」
「わしも人体改造には興味があってな。
捕らえた人間を次々と実験台にして、我が技術を磨くのよ」
「はあ~……」
思わずため息がこぼれた。
この程度の小悪党に組織は任せられない。
所詮こいつらは、部隊の指揮官程度が関の山だったようね。
「さっき、自分より弱い相手に従えないって言った人がいたけど……」
私はチラッとコボルト男を見る。
「私は、私よりスケールの小さい悪に、組織を渡す気になれないの」
そう言うや否や、三悪人も目が光った。
「交渉決裂ですな!」
「あんたのすまし顔を引き裂けると思うと、ゾクゾクする。
あんたは、軟弱な部下みたいに泣き叫ばないでくれよ」
「いやいや、生かして捕らえてくれよ。
わしはあいつで人体実験をしたい」
ヘビヘビンダが牙から毒を滴らせ、コボルト男が牙をむき出しにし、イカデーモンは触手を伸ばす。
「お嬢ちゃん、他の二人ではなく、わしに捕まった方が良いですぞ!」
イカデーモンが触手を飛ばして、私に巻き付けた。
「いただき!」
「どこが?」
私は力任せに触手を引きちぎる。
ゲソとして焼いて食べたらどうかな? と変な妄想が浮かんで来た。
「黙って死ねや」
コボルト男が首筋を嚙みちぎろうと飛び掛かってきたが、私は掌底打ちで軽く弾き返した。
その伸びた手に、ヘビヘビンダが体を伸ばして噛みつく。
「毒を注入した。賢いお嬢様なら、何を意味するか分かるだろう?」
蛇の目がニヤリと笑う。いやあ、悪党映えするじゃないの。
「この世界じゃ知られていないけど、蛇毒って血清で対処出来るのよ。
ほら、こうやって」
私は指から血清を出してみせた。
それを使うわけではない。
要は、とっくに無効化していると教えてあげただけ。
「後で再生してあげるから、痛いのは覚悟しなさいね」
私は手にエネルギーを纏わせてぶっ放す。
錬金術は、一旦物を分解して、再構築する。
その分解に使うエネルギーを纏った手で触ると、三悪人の身体の一部が崩壊し、彼らは倒れた。
「おのれえ、俺をこんな目に遭わせやがって! ぶっ殺す!」
余裕が消えたヘビヘビンダに、私は待ってましたとばかりにこの言葉を告げた。
「ぶっ殺すなんて、そんな言葉を使うなよ。
そう思ったなら、さっさと実行する。
だから『ぶっ殺した』なら使っていい」
うひょー、私ってカッコいいよね? 私の事を兄貴って呼んでもいいわよ!
「その強さ、ただの貴族のお嬢ちゃんじゃないな……」
流石は人体実験大好きとか言った、クズ薬師のイカデーモン、ちゃんと見ているねえ。
「一体いつ、どこでそんな強さを手に入れた?」
よし!
その流れなら私もこう言える。
「ならばこちらも聞こう。
一体いつから、私が一回も実験していない人体改造をぶっつけ本番でやるような、馬鹿な女と思っていた?」
「な……」
「お前たちを改造した時、既に自分の身体で強化改造の実験は済んでいたのよ。
細胞の中に存在するミトコンドリアに微小な魔法陣を刻み、そこから空間のエネルギーを取り込んで全身に循環させる。
悪の秘密結社の総首領と言ってる女が、弱いままなわけないでしょ。
この塔に幽閉された時には、既に自分で人体実験は終わってたのよ」
正確には、あの断罪劇が始まる直前、私という自我が目覚めた後にやったのだけど。
「恐れ入った……」
イカデーモンが傷ついた身体ながら、土下座をする。
他の悪人も勝てないって分かったようね、倣って平伏する。
「よし、今日はここまで。
再生してあげるから、動かないでね。
そして、一個言っておく事がある」
三悪人は怯えた目で私を見て来た。
そんな怖がらなくて良いのに。
「これに懲りずに、また勝てると思ったら反逆して来てね(ハート)」
可愛く言ったのに、ますます怯えてしまったわ、根性ねーな!!
マリア嬢の単純な戦闘力は、ボールを七つ集める作品の、女性の方の人造人間と同じくらいです。
某宇宙の帝王(修行前)より相当に強いです。
単純な戦闘力だけなので、この人他にも裏技色々知っているから、この世界ではチートです。
今日はここまでで、三連休最後の明日まで一日二話投稿します。
明日17時に再開します。




