悪の組織と金の組織と
私とサラは今、ペリシ共和国連合を構成するファン・ブローニ共和国、その中に在るムイハナア商会の本部に居る。
支部の方で商談をしようと思っていたら、代表の一人ウォーリーと名乗る胡散臭い男と出会い、本部貴賓室に案内されたの。
最初は胡散臭さばかりが気になったけど、いきなり出会ったばかりの美女二人を、こんな豪勢な部屋に招待するなんて、あまりにも有り得なさ過ぎて裏が読み取れて来たわ。
正直、悪の秘密結社の私たちは、VIP扱いされるような衣服どころか、旅装でも質素な恰好なのに。
どこの馬の骨か分からない女二人を、騙してどこかに売りさばくならともかく、丁重にもてなす気満々なのを見ると、私の頭の中でパズルがどんどん組み合わせって、答えが見えて来た。
「正直、腹の探り合いで時間を潰す趣味はないの。
それもゲームとして面白いけど、今は留守宅を長く空けたくないので。
で、私の事をどこまで知っているの?」
その問いに、ウォーリーは表情ひとつ変えずに、
「さて、何からお答えしましょうか、ブルジア公爵令嬢マリア様、いや、今は秘密結社アクジャネカの大首領マリエル様とお呼びしたらよろしいでしょうか?」
なんて言ってきやがった。
だから、本当はキャラじゃないけど私も腹黒い感じで話してみる。
「ふうん、荒野の魔女パドリラは契約通り働くようね」
その言葉に、ウォーリーは片方の眉だけをピクっと動かす。
「契約、とおっしゃいますと?」
「まずね、私たちの組織名って、まだ誰も知らないはずなのよ」
「それはおかしい。勇者連合を迎え討つ際、組織名を決めて堂々と名乗ったと聞いております」
「それが間違いなのよ。
うちのゴーレムちゃん、組織名をアピールする前に、秒で蹴散らしてしまったのよ。
そして、ゴーレムを使ってアピールする予定を知っているのは、組織の内部の人間。
そうなると、情報を売り込みに来た荒野の魔女が、私たちの情報も外部に売っていると考えれば辻褄が合うのよ。
それに、あの魔女は魔法アイテムを扱う。一体どこで仕入れているんでしょうね」
私の説明を聞き終わると、胡散臭く両手を広げ、お手上げポーズを取った。
「お見事です、令嬢。素晴らしい、実に素晴らしい頭脳をお持ちです。
失礼ですが、このウォーリー感動すら覚えております」
流石にそろそろ、自分のキャラでない腹芸に胸焼けがして来た。
さっさと本題に入ろう。
「で、悪の秘密結社の危険度の評価は終わったようだから、早く取引の話に入りたい。
先も言ったが、時間を無駄にしたくないのよ」
「そうですか、もっとお喋りを楽しみたかったのに、残念です。
でしたら、貴女方が必要となさる物資をお申しつけ下さい。
店の者に用意させましょう」
「それはサラから聞いて。
ウォーリー代表、貴方との話は終わりじゃないのよ。
言ったでしょ、無駄話している暇は無いって」
今度こそ胡散臭い商人の意表を衝いたようだ。
物資買い付けに来た事、その際に略奪する気はなく、市場経済すら壊す気が無いという所までは、荒野の魔女を通じて情報を仕入れていたのだろう。
そして、粗暴な悪人ではなく、女性二人で魔の森を抜けて向かったという事も聞いていた。
だからこそ、到着地点で、護衛もろくに連れずに待ち伏せ出来たのだろう。
だけど、この場で考えついた商談には、事前情報が無い分警戒した模様。
「まずは、度々買い付けに来るのは面倒だから、貴方たちからアジトまで取引に来て欲しいの」
その言葉に、ウォーリーはふうっと溜息を吐く。
「我々か弱い商人に、あの魔の森を通って物資を届けろと?
それは出来ない相談ですよ、令嬢」
「腹の探り合いは不要と言いましたよね。
私たちはムイハナア商会を代理人とする契約を結びます。
ムイハナア商会はギルドに依頼し、必要物資の調達と輸送する冒険者を雇う。
私たちからも、ダンジョンで取れた鉱物や魔石を輸出しましょう。
代理店契約をする以上、それらはムイハナア商会が独占的に取引出来ます」
「ふむ、中々魅力的な条件ですね。
ならばこちらもビジネスとして話しましょう。
冒険者や傭兵を使っても、魔の森を通るリスクから、商品を届けも受け取りも出来ない。
ご提案はお断りします……と言いたいところですが、令嬢には何か解決策があると思われます。
それを伺いたい」
大分真面目な表情になったな。
こちらの器を試すような態度が改まったのは良い事だ。
もちろん、私にはアイデアがあった。
「私たちが作る戦闘用ゴーレムもお売りします。
それだけでなく、製法も教えましょう」
「なんですと?」
やった、ついにこの商人を驚かす事に成功した!
こちらの軍事機密を取引の材料にするとは思ってなかったようね。
でも、たったさっき思い浮かんだアイデアから、ゴーレムはもう軍事機密ではなくなったのよ。
「私たちのゴーレムの強さはご存じよね?」
「もちろん。勇者連合が手も足も出ずに敗退した、と聞いております」
「じゃあ、その報告者は処罰しましょう。
手も足も出なかったどころか、ただ通り抜けただけで彼らは負けたのです。
手も足も出ない、だと戦って何とかなったと誤解するでしょう?」
「……我々が監視をしていたと、お気づきで?」
「ゴーレムには記録装置がついていてね、戦場を観察する、戦闘とは無関係の一行をちゃんと確認出来たわよ」
「はあ、なるほど」
ウォーリーは汗をハンカチで拭いている。それは冷や汗か、脂汗か?
「そのゴーレムを売りますので、護衛に加えて下さい。
傀儡の術を使う者なら操る事も出来ますし、自動操縦で寝ずの番もさせられます」
「なるほど、魅力的な申し出です。
しかし、それでよろしいのですか?
我々に製法まで教えるなどと、軍事機密を外に漏らすも同然でしょう。
私たちギルドに属する商会は、取引情報は共有しないが、技術知識を共有し、ギルドに属する他の商会や工房、さらには傭兵組織に対して、求められる情報は可能な限り提示する約束となっています。
ゴーレムの製造情報については工房や錬金術師に情報開示し、必要な装備を調達する際は他の商会にも今何体あるのかを話し、傭兵や冒険者には操縦法を包み隠さず教える事になります。
その上で、取引に関しては相互不干渉。
情報を得た他の商会が、イスカリオ王国の代理店としてゴーレムをそちらに売る事もありますぞ。
令嬢、貴女の捕縛や取引禁止を要請する手配書を出した、貴女の祖国に、ですぞ」
それを聞いて私は思わず手を打った!
この商人、思った以上に使える!
私は満面の笑顔になっていたと思う。
「それこそが望みなの!」
この台詞を聞いたウォーリーは、理解出来ないという表情になっていた。
ここも説明をしないとね!
「正直、私たち悪の秘密結社は、イスカリオ王国をはじめとする人間の先頭集団の弱さに呆れています。
もっと強くなってもらう必要があるのです。
少なくとも、通り抜けただけで衝撃波に吹っ飛ばされ、何で負けたのかすら分からないようなレベルでは、私たちの真の恐ろしさは伝わりません」
「だから、私たちを利用される、と?」
「そうです!
貴方たちに製法も教えますし、完成品も売ります。
そして、たまに私たちのゴーレムで隊商を襲わせます。
マッチポンプの極みですが、貴方たちのゴーレムが私たちのものを撃退すれば、商品価値は上がるでしょう」
「…………」
がめつい商人が、頭の中で様々な計算をしているようだ。
しばし黙っていようか。
「分かった。
貴女は私どもに大儲けをさせるつもりですね?
貴女たちは、商業を潰したり、攻め込んで物資を略奪するつもりはないと聞いております。
もう隠しません、貴女がたの内部情報はかなり掴んでおります」
「気にしていませんよ。
パドリラも罰するつもりはないし、今のまま情報を各地と売り買いする事を認めます。
まあ、何となくそうかな、とは思っていたけど、やっぱり腹が立ったから、次から婆あ呼びする事で納めましょう」
「助かります。
では話を元に戻すと、我々に大儲けさせる以上、我々も貴女がたへの物資供給は断れない。
そしてゴーレムを護衛につけた隊商が何度も往復すると、そこは交易路になる。
貴女は組織のアジトなんて呼んでいる場所を、れっきとした都市に成長させるつもりですな」
「まあ、大体正解と言っておきます。
都市ほど立派なものにはならない小所帯ですが、都市のような機能は確かに必要ですからね」
こう言うと、ウォーリーは握手を求めて手を伸ばして来た。
「無駄話をするより、余程刺激的でした。
是非この話を進めさせてもらいます。
確認ですが、私どもが秘密結社アクジャネカの代理人となる事、貴女様のもたらす技術はギルドで共有しても構わない事、相違ありませんな?」
「相違ない」
こうして私たちは握手をして、このペリシ共和国連合を介した世界各地との交易を行う事となった。
忘れないように言っておくけど、悪の秘密結社としての行動はちゃんとするわよ。
経済を壊してしまうと、後々再建が面倒で、それにばかり手間を取られるから、経済は侵略とは別の形で掌握しておきたいだけ。
こうして契約を終えた私は、ウォーリーに案内されて港に来ていた。
お茶や砂糖は海外からの輸入品。
サラが買い付けを終えたようだけど、それはそれとして貿易船とか倉庫とかの様子も見ておきたい。
海に来て、そういった物を見終わった後、私はちょっとした物に目が留まった。
「ヒトデです。内陸のイスカリオ王国やブルジア公爵領では、海の生き物は珍しいでしょう?」
なんて言って来たが、こちとら転生者だ、ヒトデくらい知っている。
私にとっては、やってみたい事にヒトデが必要だったから、見ていただけ。
ヘビヘビンダが連れて来た悪人の中に、チョビひげの小男がいたよね。
よし、そいつの改造した姿は決まった!
そうと分かれば、地球におけるドイツ軍の軍服に近い服を調達しないと!
そして、そいつの鳴き声は「イーっ!」にはしない。
ちゃんと「ヒトデ・ヒッ(以下検閲により削除)」と叫ばせよう!




