それぞれの状況
魔の森では勇者一行が苦戦をしていた。
「やっと倒せた……。今度の敵は、ムカデと虎の合成がされていたな」
「この前のはクモとライオンの合成でした。
カニとコウモリの合成した奴が最初でしたかね。
段々厄介な敵に変わって来ている……」
私は、ヒヨコちゃんのエンブレムを通じて、悪の秘密結社アクジャネカ幹部イカデーモンに、二つの魔物とホムンクルスを合成した怪人を作るように命じていた。
イカデーモンが作る、いわゆる第一期の怪人たちは、勇者でもあるハインツ王子たちが楽に倒せるようになった。
指導者である私が有能だったから。
そこで、彼にもホムンクルス、つまり私が製造した戦闘員をベースに、より大きなエネルギーを仕込んだ強化型怪人の製造法を教える。
これが第二期の怪人であり、この辺りから倒された怪人はエネルギーが暴走して爆発するようになった。
第一期の怪人は、魔王を基準にすると十分の一以下、本当に小手試しの存在。
第二期の怪人は、私が最初に作って魔王と互角だった怪奇スパイダー男と同レベル。
本当に弱かった馬鹿王子たちが、魔王に匹敵するくらいの強さを持てて、お姉さん嬉しい!
まあ、魔王はパワーアップを果たして百倍の強さに進化したけどね。
そこで第三期の、複数合成怪人は、初期魔王の二倍以上の強さにした。
勇者・聖女・戦士・魔導士のパーティーが力を合わせればどうにか勝てる。
力を合わせる事を覚えてもらわないと、次のステップにはいけないし。
そんな感じで、彼らは複数合成怪人を倒しながら、アクジャネカのアジトである地下迷宮に向けて進行中だ。
「マリアのやつ、悪趣味はモンスターばかり作りやがって……」
元婚約者の馬鹿王子が悪態をつく。
まあ、デザイン的に悪趣味なのは否定できない。
「ですが、まあ我々も強くなりましたね。
あれだけ苦戦していたのに、最近は連携が取れるようになってきた」
「全くだ。それでもまあ、防御役である俺の負担も考えて欲しいな、ハルよ」
「分かっています、戦士ローグさん。今、回復を行いますからね」
こんな感じでパーティーは上手くまとまっているようだ。
乙女ゲームのテキトー戦闘に比べ、ロールプレイングゲームの戦闘くらいには進化している。
でもまだ足りない。
世界の歪みである「怪異」が現れた以上、余り悠長にはしていられない。
もっと強くなってもらわないと。
その勇者一行が攻めてくる予定の我がダンジョンにて。
「サラちゃん」
「はい」
「引っ越しの準備してね。このアジトは捨てるよ」
「あ、はい。どこか良い物件あったんですか?」
「まあね。あと、捨てるのはこの組織もだから」
「え? あ、まあ、悪の秘密結社の存在自体がお嬢様の目的ではないですからね」
「そういう事。ヤン」
女官長から執事に向き直る。執事のヤンは待っていたとばかりに報告を入れる。
「このアジトで言いつけ通り、世界の力を観測していました。
現在のところ、このようになっています」
「うーん、予定より順調ではあるけど、現実の方が切羽詰まってきているかも。
進行を早めないとね……」
そこに荒野の魔女が入ってくる。
「イカデーモンを呼んできたよ。エンブレム越しでなく、直接話すのは久しぶりじゃないのかい?」
「まあ、アレはどういう扱いですので。
あ、魔女さんも引っ越しの準備を進めて下さいね」
「へえ、私も連れていってくれるのかい。ありがたいね」
「まあ、貴方は悪党じゃないですから」
控え室で私は、イカデーモンに当たらな幹部怪人を紹介する。
世界の歪みである怪異と交戦し、初期の幹部コボルト男とヘビヘビンダは死亡した。
勇者一行が攻めてくる中、イカデーモン一人じゃ寂しいだろう。
「こいつが七面鬼、六人の悪人を周辺に配し、実行犯の脳筋をトップに置いた悪趣味な幹部よ」
「おい、大首領、それはないだろ!
頭脳犯である我々は華麗な悪の作戦を考えられる。六人もいるのだからな!」
「その結果、自分内会議が長引いて、全員が納得する最大公約数的な作戦しか出せないくせに……」
これは計算外だった。国家転覆とか、邪教で洗脳とか、そういう奴らを集めて一つの怪人にしたら、自分の中でも意見統一できなくなってしまった。
トップに置いた奴は、悪事が出来たら良いだけで、意見をまとめたり出来ないし。
「続いては……」
「吾輩はアクジャネカ悪人軍団秘密警察のヒトデヒッ(自主規制)だ!」
「黙れ、一般怪人。私が真のアクジャネカ秘密警察第一室長ヘリオゴーストだ」
「えーっと、ちょっと待って下さいよ」
イカデーモンが問いただす。
「お前の名前は、自主規制までがそうなのか?」
「理由は知らんが、そうなのである!」
「で、ヘリオゴーストが本当の幹部?」
「幹部とは違うな。私はお前たちの監視・粛清を司る秘密警察。君たちには実に迷惑な存在なのだよ」
「大首領~、なんでこんな連中連れてきたんですか?」
「まあまあイカデーモン君。次は凄いからね、では自己紹介どうぞ」
「俺は月影、大首領からスカウトされてやって来た」
「……確かに凄いかもしれない。この男も強さを感じない、大首領と同じ感じなのだが、大首領の身を守っている謎の力のようなものが伝わってくる」
「イカデーモン、それを感じられるようになったって事は、君も修行したのかい?」
「フフフ、大首領がいつでも自分を殺しに来て結構、むしろそうしろと言ったのを忘れてはいませんよ。
仲間二人が死んだ今、それを受け継いでいるのはわし一人なのでね」
「……マリエル大首領、あんた他でも同じ事言っていたのか」
月影将軍が呆れている。
デ○ザー軍団改め「レジェンズ」の改造魔人たち用の方便と思っていたようね。
方便なら、あんなギスギス軍団をあえて作らないから!
「月影君。我を取り戻しなさい。
では発表する。秘密結社アクジャネカの司令としてイカデーモンを任命する」
「はっ、ありがたき幸せ」
そう言うイカデーモンを後目に、月影将軍が食ってかかる。
「話が違うぞ、大首領。俺をこの集団のトップに据えるのではなかったのか?」
「トップには置いたじゃない。幹部なんだから。
それでも、秘密結社として組織を束ねるなら、最古参のイカデーモンが適任じゃないか」
「おのれ、マリエルめ、俺を騙したな」
「口を慎みなさい、月影。文句があるなら、この場で力で説明しましょうか?」
「……いえ、ありません。大首領万歳」
こうして、勇者を迎え撃つダンジョンの指揮官を、イカデーモンに押し付けられた。
月影将軍も、あそこまで私との不和を見せつけたら、途中離脱しても「ああ、やっぱりな」で済むだろうね。
彼の本籍は、神話級魔物の改造人間の集団「レジェンズ」。
勇者一行の力を確認する為に、あえて他所の組織に情報員として入り込んだだけ。
黒鉄の城のアニメに出てきた、上半身は人間で下半身が虎の大公と同じような役割。
当然、私への反抗も脚本通り。
この人をアクジャネカにおいて本気で戦わせたら、圧勝するから、八百長の後に負けたふりをして離脱してもらわないとね。
勇者の力はまだまだ、彼や私と戦うには足りないのだから。
アジトでの用事を済ますと、私は魔界に移動する。
正確には、魔界経由で魔王が作った亜空間に入り込んだ。
「魔王陛下、出来ましたか?」
私の問いに、魔王は渋い表情になる。
「魔物同士の合成は良い。しかし、魔物と人間が開発した武器との合成が上手くいかん。
本当に出来るのか? バリスタ超獣とか、要塞超獣とか、そんな奴らが」
私は、イカデーモンに複数合成怪人の製造法を教えたのと同じ頃に、魔王にも無機物と魔物との合成技術、超獣製造法を教えていた。
技術レベルに差があるとはいえ、イカデーモンがあっさりと壁をクリアしたのに対し、魔王は苦戦している。
この辺り、クズ人間でも研究熱心なイカデーモンの方が優秀かもしれない。
あと、魔王は配下の魔物を戦いの中で死なせるのは良いが、こういう実験で死なせるのは嫌がっている。
乙女ゲームの登場人物だけあって、中々優しい部分もあるんだよね。
十人いたら八人失敗で死なせても「進歩の為にはやむを得ない」と割り切る、偽薬師崩れのイカデーモンとは違う。
それなら私も協力し、超獣製造技術をマスターしてもらおう。
魔物を巨大化のスキルで怪獣として送り込む悪事、もう限界が来ていたからね。
その頃、イスカリオ王国郊外。
「怪獣が出たぞ!」
「魔法筒での攻撃開始! どうせ効かないが足止めにはなる」
「了解、さっぱり効かない魔法筒、攻撃開始!
箱戦車部隊は、魔法擲弾で派手にやれ」
「民間人を早く避難させろ。
あいつが来る前に」
「了解、急いで避難させます」
王国騎士から選抜された怪獣攻撃パーティー(Monster Attack Party:通称MAP)は、割り切りの良さと命令系統の明確さが特徴である。
今まで誰一人殉職者が出ていない。
危険と思ったらすぐに「脱出」と言って逃げ出す。
巨大な怪獣は、人間サイズの範疇である魔物に比べて、それほどに強いのだから。
「隊長、後方にあいつが現れました!」
「民間人の避難は?」
「最後の一人を、隊員が担いでこっちに向かっています」
「了解、撤収だ! 巻き込まれるなよ」
MAPの隊員たちが逃げていく。
そこを横目に、赤い巨人が走ってきた。
言うまでもない、国王シュナイデル三世の変身態だ。
活動時間は約三分。
自称「病で衰えた」という国王は、確かに三分前後しか全力で戦えないが、見立てとしてはその倍はいけるはずだ。
だが、私が授けた巨大化スキルと、亜空間から装着させるコンバットスーツ四代目の維持時間が約三分である。
恐らくコンバットスーツの方が先に効果切れとなるから、三分経ったら国王は巨大化した全裸を大衆に晒す事になる。
それを恐れているからか、国王の戦い方は凄まじい。
「おお、パンチで怪獣の胴体に風穴空けたぞ。
そして、首を極めて……、折った!
さらに持っている杖でめった刺し。過剰なくらいな刺している。
背骨をへし折って、その死体を引きずって……、崖から投げ落とした。
強いが、残酷だぜ、赤いあいつ。
つくづく敵でなくて良かったよ、赤いあいつ」
頑張って戦っているのに、自国民からとんでもない呼ばれ方をしている、可哀そうな国王であった。




