最凶軍団の誕生
ヤメン部族連合から封印を解く鍵をコピーしてきた私は、荒野の魔女に教えてもらった場所に赴く。
そこには何もない。
だが、鍵に魔力を流す事で、それは出現した。
なるほど、空間魔法。
ここにたどり着いても、鍵がなければそこに入れない仕組みになっているのか。
そして本命の鍵穴に入れる。魔力と機械の二段構え。鍵の形だけコピーしてもそれは現れず、空間魔法を解除して侵入しても、鍵が無いと封印は解けない。
強引に壊すと、ここの空間ごとどこかに飛ばされる、中々凶悪な仕掛けになっているようだ。
私は中に入っていく。
ここはダンジョン。
様々な魔物が発生して襲い掛かってくるが、目当てはそんなものではない。
最奥を目指してひたすら進む。
ついに見つけた。
神話級の魔獣、神話に登場する素材、封印しなければならない危険な霊、等等。
私はこのモノたちを改造していく……。
「お目当ての男と接触が取れました」
その連絡を受けた私はムイハナア商会に赴く。
そこにはかなり癖のありそうな男が待っていた。
「俺の名はアリー・スージェ、見ての通り傭兵だ。で、あんたは?」
瞳には不敵な輝きがあり、口元はややニヤついているが目立つ程ではない。
あとは軍服をきちんと着こなし、一見正規軍のような佇まいで握手を求めてくる。
「偽名よね、その名前」
私のカマかけに、
「そうだぜ。名前って呪いの対象にもなるんだ。本名を明かす傭兵なんてそうはいねえよ」
と平然と言ってのける。
その言いぐさが気に入った。それ以上に、そのしゃがれた声が実に良い!
柴田○勝ボイスっぽいのが、私の嗜好にどヒットしたわ!
「私は悪の秘密結社アクジャネカの大首領マリエル。
早速だけど、貴方を改造したい。話は聞いているわね?」
そう問うと、流石に傭兵も苦笑いする。
「無駄話を好まないと聞いていたが、いきなりその話題とは恐れ入った。
強くなれるならこの肉体も惜しくはない。だが、質問させてくれ?
どれくらい強くなれるんだい? それ次第では断るぜ」
もっともな質問だ。
私もちゃんと答えないと。
「私と同じくらいの強さにするわ。
でないと、あの連中は手に負えないからね。
でも、私の強さを知らないと納得できないだろうから、ちょっとお付き合い願うわ」
「分かった。じっくり見させてもらおう」
私を侮らないというのも、歴戦のバトルジャンキーっぽくて実に良い。
私たちは転移の魔法を使って、封印のダンジョン前に出現する。
一回行った場所なら、魔法陣を仕込んでおく事でいつでも移動可能だ。
「じゃあ、披露するよ。あそこに巨大な岩が見えるのは分かる?」
「ああ」
「じゃあ……」
私は空気デコピンをする。
衝撃波が指から弾き出され、空気を振るわせながら飛んでいく。
そして岩は粉みじんになった。ええ、砕けたとか割れたじゃない、ほぼ消滅レベル。
「もう少し見たい?」
そう聞くと、傭兵は笑顔で、
「見たい事は見たいが、証明としては十分過ぎる。
あんた、全然全力じゃなかったよな。それであの威力か。凄えぜ。
是非、その強さを俺に授けてくれ」
「先に言っておくけど、私は私以上の強さの改造は出来ないよ。
一番強くなる改造を自分に施している。
多分、この世界に私以上の者はいないけど、もっと上を目指すなら自分でやってね」
「心得た」
「じゃあ、やるわよ」
私は魔法陣を出現させ、傭兵の身体の改造を行う。
正確には細胞内のミトコンドリア。ここに空間から無限のエネルギーを取り込み、循環出来るよう魔法陣を書き込み、それが細胞分裂で複製されるよう遺伝子も一部書き換えた。
「終わったわ」
「そうなのか? 見た目は変わらないな」
「まだ当分、力加減が難しいと思うけど、あっちの岩にさっき私がした事と同じ事をしてみたら?」
「そうしてみよう」
早速試すが、岩には命中しなかった。
外れた場所に着弾し、巨大なクレーターを作る。
「凄いなあ。では本気を出してみたい」
そう言って傭兵は全身に力を込めた。
あ、それは余り良くない、と言いかけたが遅かった。
私の肉体の制御は、スキル「世界の真理」あってのもの。
この補佐があるから、上手く衝撃波を命中させられたり、力を制御出来る。
それ無しでやった傭兵の身体に異常が起きた。
エネルギーが過剰に身体に流れ込んだ結果、あちこちで血管が切れて血が噴き出し、赤や紫の斑紋が皮膚に浮き上がり、髪の毛はごそっと抜け落ちてしまった。
「いきなりは無理のようね。今、治してあげるわ」
それに対し傭兵は、
「無用」
と断ってくる。
「この無残な姿は、俺の未熟さの現れ。ならば、戒めの代わりにあえて治さん。
強さと代償の醜さ……ククク……痛さもまた心地よきものよ」
うん、今までの悪役に比べ、随分と「らしい」じゃないの!
ご褒美にこれをプレゼントしよう!
「これは?」
「聖剣のひとつ。今から入るダンジョンの奥深くに有った。
今から貴方が見るモノたちの封印の要だったようね。
その聖剣を使えば、新しく手に入れた力の制御にも役立つでしょう」
「なるほど、それならありがたくいただこう」
私たちはダンジョンの最奥まで移動する。
途中で襲ってくる魔物、ここの魔物は最弱がワイバーンや地竜といった下等竜種だから、傭兵の身体の慣らし運転に丁度良い感じだ。
傭兵って言い続けるのも無粋ね。
「貴方に名前を授けて良いかしら?」
「いいぜ。本名なんて長らく名乗っていないしな。で、なんて名前だ?」
「月影将軍よ」
「ほお、風流な名前だな。それよりも将軍? 確かに俺に魔物を束ねて、勇者や各地の英雄どもの脅威になれとは聞いたが、俺が将軍なんかで良いのか?」
「おかしな事を言うわね。名前なんて記号に過ぎないんでしょ?
将軍なんて称号も同じようなものよ。ここは悪の秘密結社。正式な軍隊じゃないんだから」
「心得た。では、堂々と将軍と名乗らせてもらおう」
そして扉を開けたと同時、強力な攻撃がやって来る。
「元気なようね、フェンリル長官」
ちなみに私は結構全力で受けている。ここの魔物は神話級のモノばかり。私でも手に負えない。
だから良い!
続いて天井付近からかぎ爪で掴みかかるモノと、大地より忍びよる蛇の尾が見えた。
「ガルーダ師団長とヨルムンガンド女、甘いわよ」
私は噛みついてきた魔狼長官を引きはがすと、そいつらに投げつけて一緒に弾き飛ばした。
「ぐおおおおお」
雄たけびを挙げながら突進してくる岩の塊と、大男のコンビ。
いや、コンビではないな、連携が悪過ぎる。
「隊長ガルガンチュア、声を出したら察知されるでしょ。
あと石卵男爵、二人で正面攻撃なんて意味がない。死角に回り込むなりしなさい」
と言った私に、毒と強酸の混合液が吹きかけられる。
「ケケケケケ、大首領さん、いくら貴女の皮膚でもこれは防げないでしょ?」
「ふう~、ドクター・アルラウネ。努力は認めるけど、私には効果がないって学習しようね」
私の周囲には、絶えず余剰エネルギーがバリアとなって張り巡らされている。
これもあって、私のエネルギーは外には漏れないし、外部からの攻撃はほぼシャットアウトされる。
ヒョヒョヒョヒョヒョと不気味な笑い声がする。
背後には骸骨頭の死霊が回り込んでいて、私に呪詛をかけていた。
死霊魔導士だけあり、気配が小さくステルス性能抜群だ。
ちなみに呪詛なら、私のバリアーも突破して身に染みつく。
「一番効果的な攻撃、流石ねアークリッチ少佐。でも」
私は呪詛の貼りついた皮膚を自爆させる。その衝撃で吹き飛ばされるアークリッチ少佐。
私の肉体はすぐに再生するから、特に問題はない。
「で、貴方たちは襲って来ないの?」
そう言って、ローンズデーライト参謀とマグネター団長の方を見る。
「ご冗談を。この者たちと違って、私は人為的に造られた改造魔人。
貴女様に歯向かおうとは思いません」
「右に同じく。貴女様の制御なしに、この肉体は維持出来ませんゆえ」
そして奥では聖鎧騎士が座っている。
「いつでも襲って構わない、むしろそれが願いだと言われたが、身体能力は互角であっても、今は勝てるとは思えん。勝算が出来たら挑まさせていただくが、よろしいな?」
「それで構いません。
では皆そろったところで紹介します。月影将軍です」
やっと、昭和史に残るギスギス軍団、内輪揉めばかりだけど、全員がラスボス級の最強、いや最凶軍団が揃ったわ!
期待通り、早速反応がある。
「なんだそいつは、人間ではないか?」
「大首領が連れてきたのだから、いっぱしの者ではあろうが、それでも我ら神話の世界の存在と並ぶ資格はないだろう」
「それを言ったら、大首領も元は人間だよ。ケケケ、あたしたちは弱い相手には従わないわ」
「そうそう、強さを常に見せてくれないとね。
それはそうと、その月影とかいう元人間、いい男だね。その焼けただれた顔とか、最高だよ」
「オレ、よくわかんねえ」
反応は色々。
だが、月影が聖剣を抜くと皆の顔色が変わった。
「なぜそれをお前が持っている?」
「大首領、その『時の聖剣』は我らを封じる力を持つもの。
それを新参者に渡すとはどういう事だ!」
「認めんぞ! おい、新参者! その剣をこのガルーダ師団長様に渡すのだ。
そうしたら手下として扱ってやるぞ」
「おれ、わがんね? それ、だいじ?」
ガヤガヤうるさくなって来た。
しかし、私が何かを言う前に、月影将軍が彼らを一喝する。
「静かにしたまえ、偉大なる魔物諸君!
これは私が一時預かったものに過ぎない。欲しければくれてやろう。
だが、渡せる者はただ一人しかいない。
争いにならぬよう、提案をしたいと思う」
「ほお? ここのリーダー気取りか? 気に入らん」
「まあ良い、聞いてやる。どんな提案だ?」
「この世には勇者、聖女、蒸着保安官、復讐戦士、三獣士、『人間界無双』などの強き者がいる。
まあ、諸君たちに比べれば取るに足らないかもしれないが、それでも邪魔者だ。
こやつたちを倒した中で、最も戦功ある者が、この『時の聖剣』を引き継ぐが良い」
「なるほど、人間崩れ、それは面白い提案だな。
だが一つ聞く。一番の功績とは誰が決めるのだ? 貴様か?」
「まさか。実際に手合わせしてみれば、誰が一番の功績か各々が分かるだろうさ」
「では、そうさせて貰う。
もう一つ質問だ。貴様はここでふんぞり返っているつもりか?」
「フフフ……私も参加するさ。私は永遠の戦いを求めて、人間を捨てたのだからな」
「良かろう、新入り。ここに居る事を許す」
「おれ、それでいいかな」
かくして、新しい悪の組織が出来た。
アクジャネカの別動隊ではない、完全な新集団。
そして弱い者を狙って攻撃する腐れ外道ではなく、強者のみを狙う戦闘集団。
これで勇者とか、兄とか、必要な人間を手っ取り早くレベルアップさせられる!
ダンジョンから出ると、月影将軍が追ってきた。
「マリエル様、面白い役目をくれて感謝する」
「どういたしまして」
「ついては傭兵としての報酬をいただきたい」
「いくら欲しいの?」
すると月影将軍は首を横に振る。
「俺は戦う事が生きがい。勇者たちを強くして、最も強くなった時に戦えという指令は、それに合ってもいるし、合わない部分もある。
だが、この任務を終え、かつ勇者も『人間界無双』も倒し、敵がいなくなった時……。
その時は勝負を挑ませてもらう」
「分かったわ。それが報酬なのね?」
「ああ、なによりの報酬だ」
ここまで立派な悪役、どうしてもっと早く見つけられなかったのかしら。
「それと……」
月影将軍は続ける。
「どうもデ○ザー軍団というのは、何か権利的に良くないと、頭の奥の方から声がするのでね。
それにセンスの無い名称だから、『レジェンズ』と名乗らせてもらう」
「ダメー! そこは私のアイデンティティだから」
「もう遅い。既に皆の承認をもらった。新参者の俺が認められる為には、こういう細部でポイントを稼ぐ必要があってね」
そう言って笑う月影将軍。
良い人材過ぎて、久々に出し抜かれてしまった……。
ああ、大好きだったデ○ザー軍団、もう違う名前になってしまった……。




