ぶつかる正義と正義
ちょっと前の話。
「大首領よ。貴女の希望にピッタリの場所があるぞ」
荒野の魔女に、「デ○ザー軍団作りたいんだけど、伝説とか神話級の怪物の子孫ってどこにいる?」と聞いた時の答えがそれだった。
この魔女、異世界AIとしてかなり有能。散々文句を言いながらも、ちゃんと情報を教えてくれる。
そこには私の望むモノが存在するとか。
しかし、こうも言っていた。
「そこに入るには鍵が必要だ。その鍵は、ヤメン部族連合の戦士が守っている。
奪ってみるかい? 悪の大首領ならそれがお似合いではあるがな」
話は変わって先日、ムイハナア商会のウォーリー代表から聞いた話はこうである。
「お目当ての傭兵は、ヤメン部族連合で用心棒をしていたりもします」
これは、行ってみるしかないではないか。
私はヤメン部族連合の領域入りする。
ここは国であって、国ではない。
八個の大きな部族の集合体であり、季節によって部族集団である「旗」は生活に適した場所に移動する。
だから、お目当ての集団と会うなら、あらかじめ彼らの予定を知っていないとならない。
まあ、私は調査に来ただけだから、お目当ての集団も個人もないから、フラり歩きをするしかないのだが。
だが……、なんで意外な人たちに会うんだよ!
「去れ! 人間どもよ! 確かに共に戦う盟約はかわした。
だが、聖地に立ち入る事を許した覚えはないぞ!」
鷲の頭の獣人が人間の一行を止めている。
「黙れ! この下等な獣人が!
世界の危機が迫っているのに、我々の指示に従わないと言うのか?」
そう居丈高に返しているのは……げえっ、ハインツ王子。
馬鹿王子がなんでここにいるんだよ!
「下等とはどちらの事かな、この毛無し猿どもが。
水の中で呼吸も出来ぬ劣等生命が我らに指示を出すなど、百年早いわ」
サメの魚人が、差別には差別で言い返す。
「あのお、ハインツ様。獣人たちと喧嘩をしに来たんじゃないんですから、理由を説明しましょうよ」
聖女リリー、こいつは恋愛脳以外は割とまともだから憎めないんだよなあ。
戦闘以外はポンコツの勇者と、恋愛だけがお花畑の聖女、お似合いと言えばお似合いなんだよなあ。
「そうですよ、先輩たち。言い方はかなりムカつくけど、それでも話し合わないと……」
豹の獣人が二人の戦士を宥めている。
ん? 鷲と鮫と豹だと?
よし、私はこっちの味方をする!
……ってわけにはいかないのが残念過ぎる。
この二つのパーティがぶつかる理由って、一体なんだ?
「魔獣を封印してある地下迷宮の封鎖を解く鍵を渡せ!」
あら、私が欲しいものをこいつらも狙っているの?
「黙れ! 魔獣でなく聖獣だ。我々の崇める方たちを愚弄するな」
そりゃそうでしょ。人間と獣人・魚人では観点が違うわけだし。
「あれらが悪の秘密結社アクジャネカの手に落ちたら、大変な事になるぞ!」
うん、私はそれが狙い。
「悪の秘密結社からダンジョンの鍵を守るのが我らの使命。
お前たちにも渡すわけにはいかないのだ!」
段々と雲行きが怪しくなってきたかな?
「お前たちのような弱い者に、何が守れる? 俺は勇者だぞ! 俺にそれを渡せ!」
ああー、やっぱり馬鹿王子。それで相手が言う事を聞くと思ってるのか?
「笑止! 勇者がお前一人だと思ったか? 勇者の印なら、この俺にもある!」
なんですと?
まあ、勇者はこの世に一人ってわけじゃないけど。
「獣人の勇者など、真の勇者ではない。正統な勇者に渡せ!」
馬鹿王子、リリーの制止も聞かず、どんどん興奮しているわ。ダメだこりゃ。
「そう言われて、はいそうですかと従う勇者などおらんわ」
ああ、もう決裂寸前ね。
「では力づくで貰うとしよう、この聖剣の威力をその身で味わうが良い」
おーい、それは完全な悪役もしくは小者ムーブだぞ!
「愚かな人間よ、聖剣を持つ者が自分一人だと思ったか?」
なんですと?
その日本刀のような剣、確かに聖剣だ!
刀身から稲光が走っている。
「勇者同士の一騎打ちのようだ。我々もあっちで戦いませんか? サメ君」
「上等な毛無し猿。選ばれた我々種族の力を思い知れ」
おーい、魔導士のハル君! 君、いつからそんな好戦的になった?
「ったくしょうがないなあ。血の気の多い仲間を持つと、お互い苦労するなあ」
「まったくです」
「でさあ、俺たちも戦わねえか? あんた、かなり強いだろ? 手合わせ願いたいんだわ」
「ははは、まさか同じ感情だったとは。僕は冷静に観察してましたが、貴方も強いですよね。
こちらこそ、一手御指南願います!」
戦士ローグにパンサー君! 何言ってんの?
ああ、探していたバトルジャンキー、ここにいたわ。
でも、求めているのはこいつらじゃないんだよなあ。
「いくぞ、世界の平和と正義の為に!」
「世界の安寧と正義は我ら獣人戦士が守る!」
正義を名乗りながら、聖剣をぶつけ合いやがった!
これだから正義って、創作の中以外では質が悪い代物なのよね。
自分が正義だと思うと、相手の言い分を聞こうともしない。
そして自分が正しいと信じているから、容赦のない一撃を放つ。
両方とも馬鹿勇者だけど、その火力は高く、互角だった。
互角の衝突により、中間でエネルギーがくすぶっている。
それを合図に、他でも戦いが始まりやがった。
こういう時、本当にクソの役にも立たないな、聖女!
獣人は乙女ゲームの「攻略対象」じゃないのか、何の効果も無いようだ。
仕方がない。
ここは私が止めてやろう。
「そこまでだ!」
白いマントと白づくめの装束、顔の分からないマスクをかぶった戦士が舞い降りる。
正体は私だ!
ブルジア公爵令嬢マリアとしては顔バレしたくないし、なにより人間の姿だと獣人たちが言う事を聞かないだろう。
ここは正体不明のスーパーヒーローになるしかないだろう。
こうして私は対決の間に割って入る。
そして凄まじい威圧を行い、くすぶっていたエネルギーをバレーボールの要領で上空に飛ばした。
たーまや~(かーぎや~と自分で言わないと反応がないのが悲しい)。
「なんだ、邪魔をするな!」
「決闘に横入りとは無粋だな」
おい、馬鹿勇者二人! なんだか同じような事を言ってくるんじゃない!
だが、ここは戦いを収める必要がある。
「私の名は白い鳥人ビッグ・ウノ! 対悪の秘密結社の行動隊長だ」
「は?」
「なんだと?」
よし、気勢を削ぐ事に成功したぞ。
では、話をまとめないと。
「君たちは、今は住む者がいないとはいえ、季節で移動して来る者もいるこの場所を崩壊させるつもりなのか?」
「うっ……」
「面目ない。頭に血が上っていた」
「勇者ハインツよ、お前が父から授かった使命は、悪の秘密結社を討て、だ。
なのに何故、獣人たちの聖獣の鍵を必要とするのか?」
「すみません、ビッグ・ウノ様。それには私が答えます」
戦いには役立たずだった聖女リリーが話に割り込んで来た。
いいだろう、聞いてやろうじゃないの。
「私たちは旅に出ながら、悪の秘密結社が放った刺客たちと戦ってきました。
途中立ち寄った神殿で休息を取っていたところ、神託が下りたと、当地の神官が言って来たのです。
マリア様……じゃなくて、大首領マリエルが神獣の墓所を狙っている、そこが落ちれば世界は更に混沌となるだろうって。
王子はそれを知って、墓所を守ろうと、この地にやって来たのです」
神殿か……、本格的に私に対する妨害を始めたようね。
それが目的なら、筋が通っている気が、しなくもなくもないような……。
「勇者ハインツよ。では何故、鍵が必要なのか?」
「俺が持っていれば、マリアの馬鹿に奪われないだろ」
馬鹿ですと? いつも自分が言われている言葉で私を侮辱するとは……、後で覚えていろ。
まあ、まずは落ち着いて話しを進めよう。
「では、鷲の勇者にその事を話せば良かっただろうに。
何故対話を拒んで、居丈高に振舞った?」
「相手は獣人だぞ、話して分かる相手じゃない」
(だからお前は馬鹿王子なのだ! って喉まで出て来てる。我慢、我慢……)
「その件、父にみっちりと説教して貰う事だ。
私は何も言わん。
だが、手合わせしてみてどうだ?
鷲の勇者は、簡単に鍵を奪われそうな相手だったか?」
「いや……、俺と互角だ。俺は散々修行した後だったから、以前の俺よりはずっと強い」
うん、戦いだけは頭がまともだよね。
「そういう事だ、鷲の勇者よ。
君たちはかつて、アクジャネカのゴーレムと戦った勇者・大魔導士連合軍の中に居なかった。
その強さにも関わらず、参加していない。
思うに、君たちはその鍵を守る使命の為に、国を出られないのではないか?」
「その通りだ、白い鳥人よ。
我ら三戦士、ただひたすらに聖なる墓所の鍵を守るのが役割なのだ」
「ならば話は早い。
勇者ハインツよ、聖女リリーよ、要件は伝えただろう?
この三人を突破するのは容易な事ではない。
マリエルが狙っていると知った今、そう簡単に奪われる事はあるまい。
なれば、君たち本来の役目を果たすが良い」
「本来の役目……」
「悪の秘密結社アクジャネカの打倒だ。
今、奴らは天からの戦士の襲撃を受け、幹部二人を失う打撃を受けている」
「あ、それ神殿で聞いた事があります」
リリー、言ってる事に信憑性を与えてくれてありがとう。
あの怪異、言いようによっては天が使わせた私たちを滅亡させる戦士だからね。
「さあ、いくが良い! そして勝利の栄光を父上に届けたまえ」
「うおおお! そうだな、今が好機だ! 皆、転進だ!」
そう叫ぶと、ハインツたちは踵を返して去っていった。
おい、一言謝罪してから行けよ! ああ、聞いちゃいない……。
まあとりあえず、こうしてハインツたちをヤメン部族連合領から追い出す事に成功したわ。
「おい、ビッグ・ウノとやら。
お前も胡散臭いぞ。
俺はお前の事も信用できん。この鼻先がそう告げている」
ロレンチニ器官の事ですね、危機を察知出来るとは優秀なサメさんです。
「私の事を信用せずとも良い。
私もこの地をすぐに去る。
だが、その前に教えておきたい事がある」
「なんだ? さっさと言え」
「貴方たちの力を倍化、いやもっと上にする方法だ」
「「「なんだと?」」」
鷲・鮫・豹の三人の戦士なんだもの、太陽の力を使えるようになって当然でしょ!
私はその方法を伝授した。
ついで、豹の戦士がカレーライスを好きみたいだから、それも伝授してみた。
そして、三戦士が太陽の力を我が力とする為の練習に励む中……、
私は神獣のダンジョンの封鎖を破る鍵を手に入れた。
別に盗んではいないわよ。
鍵はちゃんと彼らの守る神殿に入っている。
コピーしただけだからね(ハート)。
私はヤメン部族連合を訪れた目的を果たせたのだった。
※:鷲の勇者が持っているのは「稲妻の聖剣」ですが、第20話でこれを先にマリアの兄に渡してしまっていたので、整合性を取る為に修正しました。
お兄ちゃんが持っているのは「爆轟の聖剣」としました。




