敵も味方ももっと強くしないと
「これはこれは令嬢、お久しぶりでございます」
ペリシ共和国連合を構成するファン・ブローニ共和国、そこに属するムイハナア商会を訪ねた私を、ウォーリー代表が出迎える。
今回はちゃんとアポを取ったから商会の方でも準備が出来ていた。
そして雑談以上に実のある取引が多いのが私である為、彼以外の者も待機している。
キッチリしている所は大好きよ。
「まずは、魔力筒と魔法擲弾についてですな」
皆が、あらかじめ送っておいた資料を読む。
この熱心さ、元の世界でのゼミみたいで懐かしいわ。
これは先日帰省した時に、兄に託した「私を殺せる銃」の簡易版である。
違う世界での、某勇者を育てる家庭教師が開発した銃のようなもので、魔法を発射出来る。
しかし、あの先生みたいに何でも魔法を込められるわけではない。
魔物を倒したらドロップする、その魔物の核ともいえる魔石を使うのだが、火属性の魔物のものは火炎系の魔法、水属性のものは水や氷系の魔法というように制限がある。
この魔石を使った武器は既に存在していて、魔法使いの杖などで魔法ブースターとして使用されていた。
私はこれに改良を加え、筒の中にライフリングの代わりに増幅の魔法陣を刻む。
また、何の役にも立たないとされた、ゴブリンなどの魔法を使えない魔物からドロップした魔石は、魔力を込めておけばバッテリーとして役に立つから、これを起爆剤に利用する。
つまり、これまで何の魔法も放たれなかった無属性の魔石に貯めた魔力を、銃内の魔石に送る事で、魔法使いが魔力を送ったのと同じ効果を得る上に、銃腔内の魔法陣で増幅して発射出来るものとなった。
これはペリシ共和国連合に存在するギルドにとって、極めて有益な事である。
一つには、魔法を使えない者も、これにより魔法を使う事が出来るようになる。
ゴブリンの魔石に込められる魔力は大きくはないが、増幅して放たれるなら十分だ。
売り物として最高、「死の商人」たちの金儲けの種となる。
次に、これまでは屑同然のゴブリンにも価値が出た事だ。
ゴブリンは、ドロップするアイテムは貧弱、魔石は屑同然、肉は臭くて食えたものでない為、地下迷宮や魔の森では、ただの駆除対象でしかなかった。
それが十分な価値を得た事で、冒険者たちの稼ぎになる。
彼らは各地のダンジョンの攻略という冒険を行い、そこで得たアイテムを売って生活の糧にしている。
これまでただ駆除していただけの魔物に価値が出た事で、売る方も買う方も嬉しいビジネスとなった。
なお、ダンジョンに貯まる魔素からこうした弱小魔物は絶える事なく発生するから、枯渇する事もないだろう。
また、魔力だけは膨大だが、素質が無くて魔法という現象を操れない者も、これで職を得られる。
私もそうだが、魔力と魔法という技術とは直結しない。
錬金術や身体強化で魔力を消費出来る者もいるが、案外何も出来ずに持て余すだけの者も多い。
彼らはこれで、魔力を魔石に充填する職を得るのだ。
さらに私が提示した回転薬室にも興味津々だ。
私は原理しか説明出来なかったが、入れ替える事で一つの銃から火炎も氷結も電撃も烈風も、切り替え使用出来る。
あとはギルドの依頼を受けた技術者がどうにかするだろう。
魔法擲弾は、属性持ちの魔石に臨界まで魔力を蓄え、それと魔力を込めたバッテリー的な魔石を衝突させる事で、魔力爆発を起こす弾丸である。
これをバネで放っても良いし、弓矢の先端につけても良し、投石機で放っても良い。
私は、弾頭部分の他に、推進部に風魔法などを使い、自力飛行するいわゆるミサイルを提唱している。
これも「死の商人」たちには美味しい商売道具だろう。
「続いて新型の戦闘用ゴーレムの設計図と、強化パーツの仕様書について話しましょうか」
今度はウォーリー、必要な者だけを残して他の者は隣室での待機を命じた。
そして担当者がすぐに質問に入る。
「あらかじめ送っていただいた設計図の方、こちらは特に疑問はありません。
鳥人のように羽根の生えた空中戦型、両腕にドラゴンの顔がついた格闘戦型、死神を彷彿とさせる巨大な鎌を持った奇襲型、二本の刀と魔法筒を持った万能型、そして多量の魔力筒や魔法擲弾筒を持った強襲型と、実に面白いものばかりです。
問題は、これに搭載するパーツの方ですね。
奇襲型につける認識阻害魔法具、これは理解できました。
空中戦型に載せる、情報交換と思考加速の魔法具、これの意味が分かりませんので、お教え願います。
確かに、飛ばない人間が飛ぶゴーレムを操るとなれば、地上を歩いたりジャンプするのとは違う思考をしないといけないのでしょうが、それにしても過剰なのではないでしょうか?
これだと頭がおかしくなってしまいますよ」
それを理解出来たとは、君は中々素晴らしい技術者だ!
というわけで、私はそれが必要な理由を話す。
簡単な事だ。そうしないと倒せないレベルのゴーレムを悪の秘密結社としては開発するからである。
数は少ないが、魔法攻撃を行う漏斗を飛ばして攻撃するゴーレムを用意しているから、それに対抗するには必要なのだ。
その他にも、過剰出力の魔法筒や、両腕のドラゴンの口から火炎魔法を放射する宝玉の仕様などを話し合ってゴーレムの件は終了。
「続いてはテイムしたドラゴンを収納し、いつでも取り出せるボールについてです」
担当の者たちが入れ替わる。ゴーレム担当の者たちは足早に職場に向かっていった。
この件、実は私は不本意なんだよねえ。
本当はカプセルにしたかったのよ。
でも、技術的に不可能だということで、頑張ってボールくらいになったのよ。
これのキモは空間魔法。
テイムしたドラゴンなりグリフォンなりが快適に過ごせる拡張空間を作る。
その空間には治癒効果と魔力回復効果を持たせるのだが……、
「空間魔法って何ですか?」
「ドラゴンとかグリフォンのテイム自体が無茶苦茶困難です」
という難点を指摘されてしまう。
ただ、彼らは「出来ない」と言っているのではなく「やり方を教えて欲しい」という事だから、私としても一緒に考えて解決してあげたい。
空間魔法は無理なようだから、それを付与した機械を私が提供する事にする。
そしてモンスターのテイムについては、非常に不本意、私の元ネタは特撮の方であって人気アニメの方じゃないんだけど、そのボール自体にテイム効果を付与する事で決着した。
ぶつけて閉じ込めて、その中で自分に懐かせるって、まんまアレじゃないか!
不本意だわぁ、本当に……。
その他色々な「人間の技術で開発出来て、魔法を使えない者や、弱い者でも使える道具」についての打ち合わせが終わった。
ウォーリー代表と私は、二人きりとなる。
まだ用事があるから、そうなるよう依頼していたのだ。
私は彼に問う。
「確認しておきたいのよ。大事な事。
貴方にとって、神殿とは何?」
ウォーリーは悩む事なく、清々しいまでの笑顔で、
「商売相手です」
と断言した。
その回答に満足しながら、私は続ける。
「神像とは?」
「美術品ですな」
「神様とは?」
「見た事ないので、何とも言えません」
「魔界とは?」
「見込み客です」
「魔族とは?」
「今更誤魔化しても意味はないですから言いますが、既に取引している相手です」
「神殿と魔界とが戦争になったら?」
「どちらにも加担しません。ただ、商品だけはどちらにも売らさせてもらいます」
合格! ここまでビジネスライクな事に、感動すら覚えるわ。
私は最後の商談を行う。
「狂った傭兵がいたら、紹介して欲しい」
「は? 狂ったですか?」
私は黙って頷く。
その傭兵には、新しい悪の組織を束ねて欲しい。
私による身体改造を受けて、人間ではない存在になってもらう。
新しい悪の組織は、伝説の魔獣とかを改造した、全員がラスボス級の強さを持つ集団となるから、正直人間辞めないと束ねる事は困難だろう。
そして、元人間でありながら、人間の敵対組織となって欲しい。
私の個人的な好みから、弱い者いじめをする悪ではダメ。
勇者とか聖戦士とか、強い職種を狙いようなバトルジャンキーであって欲しい。
あえて負ける役回りだなんて言わない。
勇者たちを倒す程の強力な存在であるべきだ。
こんな事を引き受けるのは、まともな奴ではないだろう。
「私は戦争が好きだ」とか「興味は強者を壊すこと、他に価値はない」とか「戦うのが面白くて何が悪い!」とか「戦うことでしか自分の居場所を見つけられない」とか、こんな感じの奴が欲しい!
戦いの為には、人間である事すら捨てられる狂気。
一方で本物の狂人ではダメで、狂った事を醒めた頭でやり切るプロフェッショナルでなければならない。
だから、そういう傭兵がいたら紹介して欲しいのだ。
ウォーリーはしばし考え込む。
「一人、心当たりがあります」
居るのか! 言っておいてなんだが、探すのに時間がかかると思っていた。
「連絡を取るのに時間がかかります。
なにせ、危険人物ですから仲間という仲間もいなく、ギルドの依頼に従う事もあれば、カナニア王国の非合法組織に雇われる事もありますし、ガリアノ~イスカリオの国境にある山岳地帯で盗賊たちに腕貸しをする事もあれば、ヤメン部族連合で用心棒をしていたりもします。
つまり……」
「居場所を把握できない風来坊って事ね」
「お恥ずかしながら」
「まあ良いわ。連絡をお願いね。要件も全部教えてくれて結構」
「断ったらどうしますか?」
「その時は見込み違いと諦めます。
常識的な人に、デ○ザー軍団の束ね役は無理でしょうから」
「それが何か分かりませんが、願わくば我々の商売の足しになる事を望んでいます」
そう言って、最後の商談は終わった。
そして私はふと考える。
「間違って、盗賊退治とかラージュ伯爵討伐とかで、巻き添えにして既に倒したりしてないよね?
ちゃんと出てきて、影将軍として活躍しなさいよね!」
我がままながら、そう願わずにはいられなかった。




