またまた新しい組織登場
勇者一行はまだ来ない。苦戦しまくっているようだ。テコ入れに、また「ビッグ・ウノ」の装束で行ってあげようかしら?
いや、ダメね。あいつらが自力で強くなってくれない。
あのエネルギーに耐えられる器は、自分で作ってもらわないと。
そんな感じで、影武者(コピー人形)を使って、王国やアジトなどあちこち動き回っている私に、ムイハナア商会から来訪要請があると、荒野の魔女経由で連絡が入った。
「無駄話は無しで。カナニア王国で不穏な動きがあります。
令嬢はこの、ミスター・タイタニアという男はご存じですか?」
ウォーリー代表が一枚の似顔絵を見せてきた。
「さて? ミスター・タイ〇ンなら知っていますが。
肖像画を見る限り、似た感じの渋いオジサマですわね。
で、この人が何かしたの?」
「新しい私設軍隊を立ち上げました」
それだけなら、特に問題が無いようにも思える。
しかし、それだけなら商会が警報を出すはずがない。
あと、カナニア王国というのが不穏だ。
ここは周囲の国にはない、社会の闇、裏社会が大きな勢力を持っている。
趣味に合わなかった事もあって、ラージュ伯爵に作らせた組織は潰したけど、腐れ外道は一匹みかけたら百匹はいると思った方が良い。
ウォーリー代表が説明を続ける。
「その私設軍隊は、黒く塗装されたゴーレムと魔筒・魔法擲弾を使ったものなのですが、それは令嬢の作ったものより性能が上です」
「え? この前見せた、あの五機より上なの?」
それならば凄い事だ。私の上をいくのは、私が望むところ。
残念ながらウォーリー代表は首を横に振り、
「あの五機は正直、性能の評価が出来ていません。動かそうとしても、適任者がいないので。
比較対象は、量産型ゴーレムとなります」
と伝えてきた。まあ、それでも技術レベルが上がったのは嬉しい事。
しかし、商売人の彼らには問題がある。
「ミスター・タイタニアは自分の名前を冠したタイタニアズという軍を作ったのですが、性能の劣るゴーレムよりタイタニアズのゴーレムを使用せよと各国に通達しています」
「それは問題アリね」
「はい。更に彼らは、我々ペリシ共和国連合に対しても、ゴーレムの独自製造をやめて、自分たちの下請けとして、決められた物を生産せよと言ってきています」
「なるほど。私と貴方たちでやっている、マッチポンプによるデモンストレーションや、保険金額釣り上げ、傭兵稼業を自分たちの物にしようという事ね」
「はい」
「では、より高性能なゴーレムの製造に入りましょう。
こちらも、厄介な自走装甲ゴーレムに切り替えます」
だが、ウォーリーはそれでは不足と言う。
「それは我々のビジネス上ありがたいので、頂戴いたします。
わざわざお越しいただいたのは、そのタイタニアズがガリアノ王国に越境攻撃を仕掛け、リョーザン・パークを攻撃している事についてです。
ただの私戦に見えますが、調べたところ、カナニア王国正規軍が物資の支援などをしています。
実は、私どもは密かにリョーザン・パークとも繋がっていましてね。
冒険者の中には、あそこ出身の者で、身分ロンダリングの為にギルドの依頼を受けて功績を上げている者もいたりします。
なので、私どもとしては潰れてもらっては困るのです。
令嬢とは、この件への対応について話し合いたいと思っておりました」
死の商人の面目躍如ってところね……。嫌いじゃないけど。
私の母国イスカリオ王国とガリアノ王国の国境には、多数の山地と河川・沼沢地が存在する。
そこには多数の夜盗・山賊・水賊が住み着き、ガリアノ王国に迷惑をかけていた。
私が蒸着能力を授けたボイス保安官が治安取り締まりを行っている。
ただ、その中でリョーザン・パークだけは違っていた。
確かに多数のお尋ね者が隠れ住んでいる、一大拠点ではある。
しかし「鉄天王」ショーン・ガイという頭目に率いられた彼らは義賊と呼ばれ、悪徳商人からしか奪わず、その物資を付近の農村に分け与えるような事をしていた。
彼らは、「殺さず、犯さず、貧しき者からは奪わず」という掟を自らに課しているとも聞いた。
そして、それを破った者には追手を差し向け、始末して遺族に詫びるらしい。
こうして彼らは、悪徳商人の他、自分たち以外の盗賊、暴虐な代官や官憲などを襲い、その鉄の掟で結束した豪傑たちの戦力で、ここに一大解放区のようなものを築き上げている。
その悪徳商人や暴虐な代官というのは、やはり国境を接するカナニア王国に属する者たちである。
要は、義賊だから見逃されていたのではなく、三つの王国の国境地帯という政治的にややこしい場所に拠点を置き、軍事力としても相当のものがあったから、手が出せなかったとも言えた。
ウォーリーが言ったように、ペリシ共和国連合のギルドとも繋がりがあるわけだし。
うちの月影将軍も、一時リョーザン・パークの世話になったと聞いた。
そんな場所に、タイタニアズは攻撃を仕掛けているとの事だ。
「まあ、被害者側のカナニア王国からしたら、誰も取り締まらないなら自国の武装組織にやらせる、国は公式には関与していないという形を取る、間違った事はしてないけどね」
と言いながら、私も考え込む。
強力な軍閥が出来た、デモンストレーションの為に「義賊」とか呼ばれる好き勝手している集団を叩き潰す、ここまでは真っ当なものだ。
だが、何か引っ掛かる感じがする。
確かに好き勝手に、国を無視して生きてはいるが、私はそういう連中が居ても良いと思っている。
むしろ私の野望の果てには、そういう人たちが増えるだろう。
「雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい。自由とは、そういうことだ」
理系の私でも、ゲーテのこの言葉は至言だと思っているからね。
まあ、私がこれを覚えたのは、とある巨大ロボットアニメからだけど。
そんな、存在しても良いような集団を、あえて潰しに行く。
カナニア王国の国内には社会の闇が多数巣食っているが、あそこは王国としては可もなく不可もなくっていう感じだ。
確かに悪徳商人やそういった者たちからの依頼で軍閥が動く事は考えられるが、優柔不断なモブ王国だけに、積極的な攻勢などは仕掛けないだろう。
となると、王家を動かす力が動いた……。
「ねえ、そのミスター・タイタニアの出自は分かる?」
私の質問にウォーリーは首を横に振り、
「調べさせてはいますが、確かな事は分かりません。
神殿への出入りが多いのは把握しましたが、神官や聖人出身ではないですね。
ここ十数年の情報を洗いましたが、どの国の神殿でも見かけなかったそうです」
「いや、それだけ分かれば十分よ。貴方たち、優秀よね。
そうか、神殿の紐がついた男か」
であれば、その強いゴーレムが「突然生産されるようになった」理由も推測出来る。
神殿は、腐れ外道のラージュ伯爵の仲間としてフリューゲル大僧正という者を侍らせ、私の裏をかいて来た。
彼らには独自の、この世界の神との接触方法がある。
そこから得られた情報は侮りがたい。
それが新型ゴーレムに使用されたのだろう。
また、相手がリョーザン・パークなのも理由の説明が出切る。
あそこは「義」と「侠」という、理系の私にはちょっと説明が難しい価値観で生き、神殿を通じた神への信仰は捨てている。
「山にも河にも、人の心にも神ってのはいるから、何も神殿に寄進して拝むだけが全てじゃない」
と言っているから、神殿にとっては邪魔なのだ。
実際、うちの月影将軍も信仰心なんてものはこれっぽちも持っていないしね。
ここまで状況を読みながら、私はふと何かに気づく。
(なんか、あっさり状況が読め過ぎじゃないか?)
こういう時って、誰かに思考誘導されている場合が多い。
私が地球に居た時、ゼミでの研究でも行き詰まった時は指導教官がさり気なくヒントを出し、大体の答えに誘導していた。
細部では個性が出ても良いが、余りにとち狂った結論を出されたら色々面倒だからだ。
まあ、私の母校の場合、その誘導を突破して「何を食ったらこんな考察出来るんだ?」という奇抜な事を言う変人どもの巣窟だったけどね。
私もその一味の端くれとして、相手の用意した結論には行きたくない……。
「ウォーリー代表」
「なんでしょう、ご令嬢」
「何故私を呼ぼうと思ったのですか?
確かに私が居た方が話は早いのですが、正直私抜きでも何とかなりますよね?
直球で聞きます。
私を呼ぶよう入れ知恵をした者はいませんか?」
すると代表の顔色が悪くなる。
居たようだ。
「はい、技術ギルドから令嬢の意見を聞きたいと言われました。
あとは私どもと同じ商業ギルドに属する者も、令嬢ならどう考えるだろうか、と度々行っていました。
その他にも何人かの口から、名指しではないですが、貴女の意見を知りたいというのを耳にしまして……」
「思考誘導されてしまった、という事ですね」
「はい、面目ない」
ギルドは同業者組合にして、利害調整の会合に過ぎない。
私とムイハナア商会が繋がっているように、神殿やカナニア王国と繋がっている者は多い。
リョーザン・パークとの繋がりだってあるのだ。
既にタイタニアズ、その頭目のミスター・タイタニアと繋がりが有ってもおかしくはない。
お互い、そういうコネクションを追求するのはしない決まりだから、こちらが知り得る情報を、あちらが知っていてもおかしくないし、あちらが流した情報で踊らされる事もあるだろう。
「今は何もしないわ」
私はどう結論を告げた。
おそらく彼らは、私を介入させたいのだろう。
私を動かして何をしたいのか、までは読めない。
まあ、あっさり解決出来るかもしれないが、あえて策に乗ってやる義理もない。
「高性能型ゴーレムの製作方法を教えるから、それで対応して下さい。
あと、リョーザン・パークに横流し出来る、型番にないタイプも考えます。
とにかく、私を引っ張り出したい相手の策には乗りません」
この決断の結果は、この後すぐに分かる事になる。




