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番外編:それを作れば、彼らがやって来る

ギャグ回です。

「あれ? あいつが居なくなった!」

 私は悪の秘密結社アクジャネカのアジト、地下迷宮の中の一室で思わず声を挙げた。

 そこは別名「キワモノ怪人控室」。

 私が冗談で作った怪人たちを待機させていたのだ。


「お嬢様、どうかしましたか?」

 掃除にやって来た女官長のサラが首を傾げる。

「ああ、サラちゃん。あいつ見なかった?」

「あいつ?」

「ええと、ベースボール仮面。顔面が縫い目のあるボールの怪人」

 そう、初代戦隊もの屈指の人気悪役をモチーフに、いや、ほとんど見た目そのままに、私が作り出した奴だ。

 モチーフの怪人は「老兵は去るのみ、若返れ、野球界!」と言って爆散したので、思いっきり若い奴にしたのだが……。

「ああ、あの子たちですか?」

「あの子って、サラちゃん……」

「あの子、イカデーモンに頼んで十人に増やした上で、強化しましたよ」

「え? あのキワモノを十人?」

「だってあの子、『一人じゃ野球が出来ない』って泣くんですよ。

 だから増やしてもらいました」

「まあ、野球は九人いないと出来ないけど……え? 十人? 一人多くない? 控え?」

「大首領、貴女の知識は古いようさね」

 荒野の魔女もやって来て、水晶を撫でる。

「なんでも、指名打者っていうのがいるらしいよ」

「指名打者って、もしかしてベースボール仮面ってパ・リーグのファンだったの?」

「違うね。あの子は異世界の知識があったようで、全然違った事を言っていたよ」

「え? 私が作ったのに、私とは違う知識があるの? 凄く意外!」

「お嬢様、自分の思惑を超えてくる人、自分を上回る存在は大歓迎って言ってましたよね?」

「うん。確かに言った。でも、これは意外だったわぁ~」

 元の世界では特撮オタクだった私。

 そんな私が作った怪人が、野球ファンだったとは意外にも程があるわ。


(なあ、サラ坊。あんたが鍛え上げた話はしなくても良いのかい?)

 荒野の魔女がサラ女官長にひそひそ話をする。

(まあ確かに、ずっと控室にいたから、体が鈍っていたと言ってましたからね。

 ランニングをさせ、素振りをさせ、キャッチボールとやらをさせましたよ。

 私、野球って知らないから、基礎練習だけですよ)

(基礎練習って、素振り一万回とか、体に強力なバネをつけてウサギ跳びとか、そういうのを言うのかね?)

 私も知らなかったが、身近に鬼コーチがいたようだ。

(あと、どこかからスキルというか人格みたいなのが下りてきて宿りまくっていたけど、ありゃ何だったんだろう?)

 三人ともベースボール仮面の事ばかりを気にしていて、キワモノ控室からもう一人、違う怪人が消えている事は全く気にしていなかった。




 イスカリオ王国に激震が走る。

 ここには聖女が張った、悪を弾く結界で守られている。

 強力な敵なら効果が無いが、普通の魔物程度なら入り込む事が出来ない。

 そんな中に、かなり強い敵が複数入り込んできた反応があったのだ。

 勇者一行は、その気配を感じ取る。

 幸いにも、今いる場所から近い。

「見つけたぞ! って、なんだお前たちは?

 なんか気が抜けるくらい間抜けな連中だな……。戦意が漲らん」

 勇者は、頭部が巨大な野球ボールの怪人たちに、戦意を失ってしまう。

「聞いて驚け、見て喜べ!

 我々はベースボール仮面! 異世界の球技をこの世界に広める為に生まれたのだ!」

「えーっと、悪じゃないのか?」

「いや、我々は悪だ。なんなら、悪の帝国と呼ばれておる」

「……どの辺が悪なんだ?」

「大金をかけて優秀な選手を集めたから、周囲にそう呼ばれている」

 この答えに対し、

「別にそれって悪い事じゃないよな」と勇者は言い、

「いや、それだと資金の無い所との差が大きくなりますよ」と大魔導士がツッコミ、

「俺としたら、資金の無いチームがそういうチームに勝つと興奮しマッスル」と戦士が語る。

「……まあ、よく分からんが、お前たちは一体何しに来た?」

 すっかり脱力した勇者が尋ねると、

「勇者一行よ! 我々と試合をするのだ!」

 とベースボール仮面は勇者に向けてバットを突き付けて挑戦する。

「戦うの?」

「野球、しようぜ!」

「ベースボールって一体何なんだ?」

 こうして異文化交流が始まってしまった。


 翌日……。

「なんか知らんが、挑まれたからには受けて立つ!」

 ベースボール仮面たちが持ち込んだ、映像魔法と記憶移植魔法によって、一日で野球を理解する人間たち。

「なんか、ボールを遠くまでかっ飛ばすの、気持ち良さそうだな!」

 馬鹿王子は早速やる気になった。

 後で分かった事だが、ベースボール仮面が見せて映像は、「野球史でもこんな凄いの、見た事はない」と言われる伝説の試合だったのだが……。

 勇者一行は、周囲の貴族の守備兵で、使えそうな者を集めてチームを作った。

 その名前は「王家の忠誠(ロイヤルズ)」。

 ベースボール仮面たちのチーム名はそのまま「悪の帝国(イビル・エンパイア)」となった。

「プレーボール」

 選手にはなれない聖女リリーと、彼女が集めた神殿の神官たちが審判となった。

「王家の忠誠」チームの先発は勇者ハインツ。

 私が超強化したから、野球素人でも普通に百マイル超の直球を投げれる。

「どうだ! 速いだろう!」

 王子は捕手を勤める戦士に向けて、剛速球を投げ込む。

 だが……、

「ベースボール仮面、背番号17番を甘くみない方が良いぞ!」

 一番指名打者にあっさりとホームランを打たれてしまった。

 その後、何とか無失点に抑える勇者。

 初心者の割に、素の身体レベルの高さは伊達じゃないね。

 ベースボール仮面たちの先発選手は、背番号18。

 足を高く上げる事はせず、力の抜けたフォームで投げ込んでくる。

「大して速くない。打てる!」

 馬鹿王子はそう思うが、背番号18のベースボール仮面の投球は、決して真ん中には来ない。

 四隅ギリギリをつく為、三振に打ち取られるか、ゴロやフライを打たされる。

 山なりなのに、急角度で落ちて来るのはカーブという変化球との事だ。

 だが、そうは言っても隙が全くないわけではない。

 背番号18には最強の投球術と引き換えに、「ムエンゴ」というデバフがかかっている。

 背番号17の先頭打者ホームランの後は点が入らない。

 そして、強化されているハインツ、ローグ、ハルは何とか当てる事は出来るのだ。

「おい、左の外野手、動きが悪いぞ。あそこに打て!」

 レフトフライを打ち上げ続けた結果、ある回でエラーが連発、「王家の忠誠」チームは一点を返す事に成功する。

 だが、次の回、そのレフトのベースボール仮面にホームランを打たれ、再度リードを許してしまった。


 ベースボール仮面チームがリードのまま、回は進んでいく。

 そんな中で、ベースボール仮面がタイムを取った。

「おい、そこの怪人! お前だけは許さん! なんか知らんが、魂がお前だけは許さんと言っている」

 そう言って、バットを持ってベンチを飛び出していく。

 そこには、私が作ったキワモノ怪人の一人、ごみ箱仮面がいた。

 そういや、こいつもキワモノ控室から脱走していたんだった。

「おい、お前も俺も、同じアクジャネカの怪人じゃないか。

 なんで目の敵にするんだ?」

「知らないけど、試合中のごみ箱で音が鳴るのを、俺は許せないんだ!」

 この乱闘、勇者たちは完全に蚊帳の外であった……。


 そして九回裏、ランナー二人を出して一打逆転サヨナラの場面。

 ベースボール仮面たちは投手交代。

「おい! なんで指名打者がマウンドに上がってるんだよ!」

「ルール上、問題はないぞ」

 交代して試合を閉めにかかった背番号17のベースボール仮面の、横に大きく曲がるスイーパーという変化球で勇者は空振り三振に打ち取られた。

 ゲームセット!


「物足りん!」

 ベースボール仮面たちは騒ぎ出す。

 そして彼らは、

「我々はもっと強い奴らがいる世界を探す!

 この世界でお前たちと試合が出来た事は光栄に思う」

 と言い残して、いずこかへ立ち去っていった。


「一体何だったんだ?」

 勇者一行は呆れていた。

「まあ、国にも民にも被害が全く出なかったし」

「たまには戦い以外で体を動かすのも良きマッスル」

「私、全然面白くなかったんですけど……」


 こうして私にも、馬鹿王子にも意外な戦いは終わりを告げた。

 この「悪の帝国」たるベースボール仮面のチームが、とある異世界のビール醸造業者(ブリュワーズ)のチームに敗れる事は、私たちの物語には関係のないことだ。

今日は19時にも、同じくギャグ回をアップします。

サブタイトルの元ネタは「フィールド・オブ・ドリームス」です。

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