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悪は悪でも嫌な悪もいる

「おお、久しぶりではないか、ムムー!」

 馬鹿王子たちが留守なのでやる事がない私は、イスカリオ王国を出てガリアノ王国に出向いた。

 そこで私が力を与えた国境警備の官憲・ボイスに会ったが、彼は会うなりでかい声で呼びかけてきた。

「どう? 上手くやっている?」

 近況を聞いた私に、ボイスは中々驚く事を言ってくる。

「俺は官憲は辞めた! 自由に悪人を捕縛する為に、保安官(シェリフ)になったのだ!」

 保安官は、半官半民の警察である。国の命令には従わなくても良いが、国の法には従う。

 国の命令に従わなくて良いという事は、装備や人員派遣といった協力も仰げないという事である。

 さらに活動は、雀の涙程の支援金で足りない分は、自腹でどうにかするしかない。

「思い切った事をしたわね? 大変じゃないの?」

 そう聞くと、ボイスは暑苦しく答える。

「俺のモットーは、振り向かぬ事さ!」

 うん、私好みの回答。で、そこにいるヤンキーというか、昭和の不良っぽい少女は誰だろう?

「おお、こいつは俺が捕まえて、助手にしたサキって子だ」

「…………うっす」

「ハーッハッハッハ! この通り不愛想なやつだが、よろしくな」

「えーとサキさん? 言っちゃなんだけど、国の後ろ盾もないこの保安官の助手で良かった?

 ちゃんとした官憲の下に入るって道もあるのよ」

「うちはな……」

「こいつのモットーは、躊躇わぬ事だ! 後悔などはない!」

「おっさん、うちが言う事、勝手に代弁すんなや!」

 ボイスをどやしつけたサキという少女、は私の方を向くと、

「国の官憲(マッポ)は嫌いじゃき。何の因果か、おっさんに捕まいやっときに、手伝いしちゅうがよ」

 と恥ずかしそうに言った。

 聞けば、この子は母親を人質に取られ、鉄の仮面をかぶせられて悪事をさせられていたそうだ。

 その母親が人質に取られるきっかけが、官憲による手抜きによるもの。

 以降国は信用していないが、母と自分を救い出した「鋼鉄の刑事」ボイスには恩返しとして助手的な役目をしているとの事。

「このおっさん、うちが世話してやらんと、毎日カサカサのパンを水で戻して食うようなモノグサやき、放っておけんぜよ」

 と話していたが、果たしてそれだけの感情なのかな?

 まあそれはともかく、折角だからこの子もパワーアップさせよう。

 とりあえず、亜空間に収納している材料を取り出して、武器を生成してっと……。

「おばちゃん、何ぜよ? なんも無い場所から物を取り出しちゅうがか?」

 お・ね・え・さ・ん!

 私はサキの頭をアイアンクローで締め上げながら、訂正と説明をした。

「このヨーヨーはオリハルコン製の凄いものだよ。

 ヘリコプター……じゃなくて、空飛ぶ魔獣をも撃墜可能な優れもの。

 だけど、反動が物凄いから、このアームガードをつけてね。

 衝撃吸収と筋力強化の両方をしてくれるから」

「はい、おねえさま、分かったきに、この手ぇ外してくれんかや……」

 教育的指導が済んだから、後は自分で強くなってもらおう。

 そして再びボイスの方を見る。

「最近、何か変わった事はないかしら?」

 そうしたら、ボイスから中々危険な情報を仕入れる事が出来た。




 私はボイスから、

「強盗とか放火・略奪、暴行よりももっと邪悪な事が行われている」

 と聞いたカナニア王国にやって来た。

 ここでは、ラージュ伯爵という男に右腕を奪われ、復讐の為に戦うユーリー・ゲオルグという男が活動しているはずだ。

 まあ、そのラージュ伯爵にも裏次元という領土を与え、悪の組織をやらせているのだが。

「あ、久しぶりだな。相変わらず名前は教えてくれないのか?」

 発見したユーリーは憔悴していた。

「一体どうしたの?」

 そう聞くと、ユーリーは憎々しげに、

「ラージュ伯爵、奴は本物の悪党だ。魔族の方がずっとマシだ」

 と吐き捨てる。

 話を聞くとラージュ伯爵は、カナニア王国に巣食う闇の住人、犯罪者、奴隷商人などを襲い、洗脳して無辜の市民を襲わせていた。

 ユーリーはそいつらと戦うから、自然と正義のヒーローのように称賛されるが、彼にしたらいくら戦って倒しても、それはトカゲの尻尾に過ぎない。

 肝心のラージュ伯爵にたどり着かず、イライラが募っていた。

「奴の悪事は、国を亡ぼすとか財産を奪うとか、復讐するとか、そんなものではない。

 ただ『どれだけ弱い者たちが苦しみ、絶望するか』を見て、楽しんでいるのだ。

 人間をブリキ製の玩具に変えたり、子供だけに絞って魂を抜き出して人形に閉じ込めたものを使って悪事を行わせたり、互いが信じられなくなる薬を開発して愛する者同士の感情を反転させて殺し合わせたり、家族を皆殺しにした上で生き残った一人に『犯人はユーリー・ゲオルグだ』と騙して襲わせたり、とにかく奴の行う悪事は、性格のひん曲がった、人間の腐ったような事ばかりだ」

「それは、何かのエネルギーを抜き取る為とか、そういう事ではなくて?」

「ああ、俺が拷問して吐かせた結果、奴から『力の無い連中の泣き叫び、絶望に覆われる姿を見たくないか? 共に楽しもうじゃないか』と言われた、そういう答えしか引き出せなかった」

「そう……」

「まったく、あいつに力を与えた奴は誰だ?

 元々あいつはただのサディストな人間に過ぎなかったのに、ここまで強力な力を持つとは……」

 ごめんなさい、その張本人は目の前にいます。

 まあ、悪の大首領とか言いながら、私もかなりムカついたので、奴のアジトである裏次元に乗り込むとしよう。


「ほお、これはこれはブルジア公爵令嬢マリア嬢、お久しぶりですなあ。

 貴女が現れる時はいつもアポなしだ。前触れの使者を送るのが、貴族としての礼儀でしょうに」

 私が裏次元に入った時、伯爵は待ち構えていたかのように、転移ポイント近くに立っていた。

「それは失礼しました、伯爵。

 しかし、この裏次元に自由に入れる家臣はいませんので、前触れは出す事が出来ません。

 非礼の程はご容赦下さいませ」

 私はつとめて冷静に返事をする。

「表次元にある我が屋敷でも良かったのですよ。

 まあ、もうその話は終わりにしましょうか?

 して、この度の訪問のご用件を伺いましょう」

 腹の探り合いになる。

「私が与えた力を使って、悪事を働いているようですね」

「お蔭さまで。もしや、気に入らぬ事でもありましたか?」

「いいえ。ですが、気になる事はありました」

「ほう、それは如何なるものでしょう? 気になりますな」

「胸くそが悪くなる、これぞ悪事、私以上の邪悪さ、お見事としか言いようがありません。

 しかし、どうも私が与えた力以上の事が出来ています。

 私は戦闘員や怪人を作る技術を与えましたが、人間を人形に変える力や、魂だけを取り出す力などは与えていません。

 一体どうやって身に着けたのでしょう?」

 伯爵はサディスティックな笑いを浮かべる。

「お気に召しませんか?」

「そうは言っていません」

「おやおや、私は悪の大首領とか名乗りながら、その正体は人死にを嫌う甘いお嬢様でしかないマリア嬢が、私を糾弾しに来たのかと思いました」

「なるほど、私の真実を見抜いているのですね?

 確かに胸くそ悪くはなりましたが、それ以上に私は貴方たちが興味深い」

「強がりを言いなさるな」

 伯爵は嘲る態度だ。だが、そんな挑発には乗らない。

「貴方は私の思惑を超えて来た。これが貴方自身の意思ならば、これは素晴らしい事です。

 やっている事が、私の思惑を遥かに超えた邪悪、善悪は抜きにして興味深い。

 なぜなら、この世界はあるルールによって支配されている。

 それを逸脱して、シナリオに無い行動をしていた。

 これは私の目指す事の一つなのです。

 だからこそ問います。これは貴方が考えた事なのですか?」

 すると伯爵は、片眉をピクっと動かした。

 だがすぐに、元のサディスティックな笑顔に戻り、

「残念ながらマリア嬢、私一人ではなし得ませんでしたよ。

 貴女が私に施した、悪人だけを襲うという呪縛の解呪についても。

 まあ、貴女の呪縛は強烈なので、いまでも私自身は悪人しか襲えないでいます。

 だから、襲って支配下においた悪人に、邪悪な意思を植え付け、彼らにやらせているのです。

 実に困った呪縛を施されましたなあ」

「へえ……、あれを認識したんだ。それは凄いね。魂に刻み込んだはずなんだけど」

「私自身は気づきませんでしたよ。ある方が教えてくれたのです」

「ある方?」

「お知りになりたいですよね? では、お出まし下され」

 その声と共に、私の周囲に六本の柱が現れる。

 そしてそこから結界が作られ、私はそこに閉じ込められた。

 ラージュ伯爵は思いっきり邪悪な笑顔で、舌なめずりしながら話し出す。

「紹介しましょう、こちらドゥーヴェ男爵、フリューゲル大僧正、ゲー博士。

 我が同志たちです。同じように魔人となるべく改造を施しました。

 そして我が腹心シザーアーム。

 まあ、マリア嬢はお仲間のユーリー・ゲオルグから聞いているのですよね?」

 悪い! 聞いていたけど、忘れてた!

 居た居た、あんたの悪事仲間のサディスト軍団が。

「さて、これは当然覚えていらっしゃいますよね?

 貴女の言葉です、『隙あらば、私の組織を滅ぼしても構いませんよ』」

「もちろん覚えています。

 貴方の方こそ、忘れずにいてくれて嬉しいですわ」

「ふん、そろそろこんな慇懃無礼な態度にも飽きてきた。

 当然覚えていたさ。いや、この事ばかりを考えて、ここまで生きてきた」

「では、あの胸くそ悪い所業は、私をおびき出す為だったりします?」

「自己評価の高さも、そこまで来れば大したものだな。

 違うよ。単に俺の趣味だ。言っただろう、人が苦しむ姿を見る程酒が美味い悪人だ、と」

「ええ、覚えています。

 そうか、変わらずクズのままでいてくれたんですね」

「ほざけ!

 皆の衆、あの女を八つ裂きにしろ!

 あの女は俺に屈辱を与えた。絶対に許さん。

 いや、殺すよりも凌辱するのだ。

 肉体だけでなく、精神までも。

 俺の名前を耳にするだけで怯えるようにするのだ!

 あの女の能力は、既に百分の一にまで低下している。

 ただの人間に成り下がっているはずだ!」

 その声を聞いて襲い掛かってくる幹部級怪人たち。

 なるほど、これも私が教えていないやり方だ。

 本当に私の思惑を超えた、素晴らしいクズどもだ。

「ふんっ!」

 淑女(レディ)らしからぬ声を出しながら、私は敵をあっさりと蹴散らす。

 そしてラージュ伯爵の手足を切り落とすと、その首に足をかけた。

「なんでだ? お前は百分の一の力しか出せないはず。

 それなのに何故?」

「貴方の戦闘力は、人間だった時を一とすると、十万くらいに上がっています。

 私自身はそれより一桁少ないくらいに調整したので、ここでも私の思惑を超えました。

 素直に称賛します。

 しかし、私の戦闘力は単純な計算なら十億くらいです。

 百分の一になっても千万くらいなので、元から勝負になっていません」

「化け物め。

 だが、あんた、自分が言った事を覆す気か?

 あんたは俺に、俺の好き勝手にやれば良い、自分は口出ししませんと言っただろう?

 胸くそ悪い邪悪にブチ切れて俺を殺すのは、違うんじゃないのか?」

「貴方の邪悪にはムカつきますし、どうにかしてやりたい気持ちはありますが、そこは悪の大首領、そこは問題にしないと決めています」

「では、どういう事だ? 本性は甘ったれなお嬢様」

「撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけ、という言葉を聞いた事はありませんか?

 私は貴方に、『隙あらば、私の組織を滅ぼしても構いませんよ』と言いました。

 それは『口実さえあれば、私はいつでも貴方の組織を滅ぼす』という事とセットなのです」

「待て! 俺を殺すのか? 出来ないよな!

 あんたは悪の大首領ごっこがしたいのであって、本当に人を殺すなんて出来ないお人好しなんだから」

 そう言った伯爵の首を、私は踏みつけて切り飛ばした。

「うん、人間なら殺すと心が痛むし、悲しい気持ちになる。

 でも貴方、鏡は見なかったのかしら?

 今の貴方は既に人間じゃなく、醜い魔物の顔をしているのよ」

 それは比喩でなく、擬態が解けた後の顔の事を言っている。

 元々は人間だった。

 しかし内心の邪悪に食われたのか、その肌色は青褐色、口からは牙が生え、眼球は赤く、瞳孔は縦長の悪魔のようなモノに変化していた。


 とりあえずラージュ伯爵は倒した。

 だが、まだ終わりではないようね。

19時にも更新します。

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