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イスカリオ王国再び

「おお、十日程姿を見なかったが、一体どうしたのか?」

 私に会うなり、イスカリオ王国国王シュナイデルが問いかけてきた。

 そう、私が「オーダ長官」として勇者パーティを率いるこの国を留守にしていたのは、わずかに十日程だった。

 訪れた世界の歪み「あれ」と戦って、全力を使い果たして寝込んでいたのが三日。

 その際にアジトを襲撃した魔王軍の捕虜を解放し、魔王から面会の返事が来るまでに三日。

 私との会談の後、魔王が特訓で亜空間に閉じこもっていたのが、こちらの時間で三日。

 その後、アジトでお茶して温泉に入って一日休養。

 転移の魔法陣を利用してここに戻って来たというわけである。

 あれ? もう少し休んでいても良かったよね。私、セルフブラック企業やってる?

 とりあえず、何が起きたか、何をして来たかを国王に話した。

 彼は私の目的を知る、運命共同体でもあるのだから。


 聞いた国王は頭を抱える。

「前に聞いた話では、わしと魔王は互角か、わしが強いくらい。

 しかし不死を突破出来ずに、わしは命を使い果たす、という事だったな」

「はい、本来のシナリオでいくならば」

「その魔王の強さが、今までの百倍? もはやわしでは勝てぬではないか。

 一体どれくらいの強さになったのだ?」

「多分、空に浮かぶ月の一つを吹き飛ばせるくらいですね」

「あのなあ……、魔王をそんなに強化してどうするんだ? ……って答えは既に聞いておったな。

 だが、わしで倒せぬとあらば、馬鹿息子にはもっと無理であろう?

 アレも大分強くはなったが、それでも上限はわしの数倍ではないか?

 魔王と比べれば、それこそ桁が違う」

「まあそうですが、問題ありませんよ」

「そなたの味方、というだけでは安心出来ぬぞ。

 そなたが目的を果たした後、人間を憎むあやつがそのまま敵に回りかねん」

「私の個人的な縁だけで問題無しとは言っておりません。

 その事を伝える為にやって来たのですが……ところでハインツ殿下はどうしました?

 気配が感じられないのですが」

 そう聞くと、国王は苦虫を食い潰した表情になる。

「あれは……追い出した。しばらく帰ってくるな、とな」

「また何かやらかしたんですか?」

「やらかした!」

 強くなっても、馬鹿王子なのは変わらないようだ。


 私が不在の間、ハインツは勇者ではない、もう一つの顔の方で仕事をする。

 それが王子という立場だ。

 この国は、魔の森と面しているだけに、国王・王子・宰相が協力して政治と軍事を行っている。

 勇者や聖騎士などの職種(ジョブ)の印を持った王族が、代々その座を継ぐ。

 宰相は有能な貴族から選抜されるが、ここは特に戦闘力の強さを求められない。

 国最強の一角である国王と王子は、共同統治者となる。

 国王が騎士を率いて外征している時は、王子が宰相と共に政治を担う。

 シュナイデルは、自身が病気でもう長くない(※私の見立てだと、あと三十年くらい)から、王子により経験を積ませる方針であった。

 その王子が、とんでもない事を言い出す。

「国境を守らない貴族領には、軍事費供出の為に課税を行う。税率は八割でどうだ?」

 当然、宰相を含めて猛反発が起こる。

 王子にしたら、

「敵の強さが尋常じゃなくなっている。

 装備も城壁の工事も費用が嵩むようになってきたではないか。

 ならば、国境を守る貴族と、我々王国直轄軍の為に、安全な地域は奉仕すべきではないか」

 という思いがあるようだ。

 国王に言わせれば「一見もっともなようだが、本末転倒にも程がある」との事。

「我々が必死に守っているのは民の平穏な暮らしの為だ。

 だから、多少は守られている者が、我々に協力する事はあるだろう。

 だが! 守っている方が偉いのだから、守られている方は感謝して財を差し出すべきというのは、思い上がっておるわ!」

 思い出し怒りでプルプル震える国王。

 詰め掛ける貴族たちに対し、文句がある者は実力で黙らせるという王子。

 宰相が急いで国境視察中の国王に連絡、文字通り飛んで帰ってきた国王が、まず王子をぶん投げた後、ローリングクレイドルで上昇し、パイルドライバーで脳天を床に串刺しし、その後に釣り天井固めで締め上げてケジメをつけた事で、どうにか貴族たちの不平を鎮めたそうだ。

 当然、無茶な課税案は廃止。

 文句を言った王子を、五所蹂躙絡みで黙らせた後、

「強さがあれば、余計な金銭は必要としない。その拳ひとつで魔物氾濫(スタンピート)を防げるようになるまで帰ってくるな!」

 と言って、魔の森まで投げ飛ばした。

 うーん、その根性論も、それはそれでどうかと思うんだけどねえ。

「あの馬鹿は、貴族たちから巻き上げた金で聖剣を追加購入しようとしておった。

 市場で売りに出されている聖剣など、贋作に決まっておろう。

 そんな事も分からんのか、あの馬鹿息子は!」

 うん、さっき思った事撤回。根性論万歳! 馬鹿王子は安上がりに戦えるよう修行して来いや!


「じゃあ、馬鹿の話は置いといて、国王陛下に新しい力を授けますね」

「そなた、簡単に人間やら魔王やらを強化しているが、本当はそんな簡単なものじゃないんだぞ」

「そうですね、素質が無い人は強く出来ません。その場合は改造手術をするしかないですね」

「わしの場合、もう強さは上限いっぱいだ。もうこれ以上は伸びしろがないぞ。

 そなたの見立てでは、まだ成長の余地はあるのか?」

「いいえ、もう戦士としての成長限界に達していますよ」

「では、新しい力とは何だ?」

 そう聞かれた時、遠くの方で爆発が起こる。

 見ると、巨大な多頭大蛇(ヒュドラ)が現れている。

 この魔力は……魔王のだ。早速、悪の一角として働いたようだ。

「国王陛下、これを」

「なんだ、これは? 眼鏡のように見えるが?」

「それをつけて下さい」

「ん? そうしろと言うならやってみるか」

 その瞬間、国王の身体は巨大化し、銀色の装甲と赤いコンバットスーツに覆われたヒーローに変わる。

「デヤアアアア(これは一体何なのだ?)」

「後で説明します。まずは、あのヒュドラを退治して来て下さい」

「デュアッ(分かった)」

「あ、口の辺りの構造から、言葉がエコーのかかった妙な音になりますからね」

「ダァァァ(何だと?)」

「とりあえず、行ってらっしゃい!」

 巨大国王はそのままヒュドラとの戦闘に突入する。

 ただでさえ人間やめてるくらいの強さを持った国王だ。

 巨大化して強化された状態では、魔王の強大化によってかつての十倍の強さを持つヒュドラであっても歯が立たない。

 猛毒による攻撃も、国王と分からないように身を覆う赤いボディースーツに弾かれる。

 だが、戦って三分程で、額につけたタイマーが点滅し、活動限界を知らせた。

「国王……じゃなくて赤い巨人さん、さっさと倒さないと時間切れですよ!」

 その声に呼応し、国王はヒュドラを打ち倒す。

 そして元の姿に戻った。


「ブルジア公爵令嬢……」

「はい」

「あれは何なのだ? どういう事だ?」

「あれは、魔王から教えてもらった巨大化の秘術です。

 ただ、巨大化出来るのは肉体だけで、服までは巨大化出来ないので、巨大化と同時に素っ裸にならないよう、瞬時に全身を特殊素材で覆いました。

 コンバットスーツ四代目と言います。

 コンバットスーツは装着者の実力を相当に強化するのですが、ちょっと問題がありまして……」

「どういう問題だ?」

「巨大化と亜空間(プランクブレーン)から取り出せるコンバットスーツの維持時間が大体三分なんですよ。

 スーツの方が先に時間切れになるから、タイマーで知らせています。

 なので、スーツの活動限界が先に来て、巨大化した状態だと、巨大全裸を国中に晒す事になります」

「大問題ではないか! この馬鹿者が!」

「だから、制限時間以内に敵を倒す必要があります」

「……返す」

「いいえ、せっかく作った巨大化の術式と、亜空間からの強化スーツ装着術式を合わせたアイテムです!

 これは是非とも使ってもらわないと!」

「わしは病気で、もう長くはないのだぞ!」

「だからこそ、死ぬ気で巨大化して戦ってください(どうせ、あなたはあと三十年くらいピンピンしてますから)」

「……わし、あの赤い巨人が自分であるとは周囲には言わんぞ」

「はい、それはご自由に。ですが、理由を聞かせてもらっても良いですか?」

「わしは、もうこの先長くない。だから、国も戦士としての立場も、馬鹿で仕方がないが、息子に譲ろうとしておる。

 教育の真っ最中だ。

 そこに、こんな頼りになる巨人が現れたなら、奴はそれに甘える。

 そうなると、いざという時に助けて貰えば良いと考え、強くならんだろう。

 この先、人間を守るのは次の世代の者たちであり、わしのような老いぼれは影からそっと助けるのが良いのだ」

 確か、私の好きな特撮でも、メッセージとして「地球は人間の手で守る」というのがあった。

 決して救世主頼みになってはいけない、自分の手で何とかするのだ、というもの。

 この国王の意見には納得するし、その方が良いのは確かだ。

 だったら……。

「国王陛下、提案があります」

「却下」

「まだ何も言っていません」

「まだこの病みやつれた老体をこき使おうと言うのだろう?

 もう巨大化だけでいっぱいいっぱいだ」

「いいえ、陛下を使おうという提案じゃないです」

「では聞こう。一体何だ?」

「赤い巨人をサポートする部隊を作るのです。

 この先、巨大な敵、怪獣や超獣が出現します。

 それを退治する専門家を作りましょう」

 国王は少し考えて、

「悪くはないな。わし以外に、巨大魔獣を倒せる者たちが居ても良い。

 だがブルジア公爵令嬢、一個気になった事がある」

「なんですか?」

「怪獣は分かったが、超獣とは何だ?

 何かまた、とんでもない事を考えたのではあるまいな?

 おい、公爵令嬢、目を逸らすな。こっちを向いて、目を見て話せ!」

「イイエ……、ソレ計画中アル。

 魔獣ト武器合体デ生物兵器作ル、知ラナイアルヨ」

「そんなとんでもないモノを作ろうとしていたのか……。

 ちゃんと倒せる程度のものにしろよな」

「あ、それは無理です。

 私の目的の為には、強い悪がどうしても必要ですから、こっちの方で強くなって下さい」

「まったく、困った女性と手を組んでしまったわい」


 とりあえず国王主導で、魔獣攻撃パーティ、通称「MAP」が結成される運びとなった。

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― 新着の感想 ―
「T」ならまだしも「C」だと本拠地ごと捕食されてしまいますからね。
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