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魔王軍の圧倒的強化

 ある日、魔界に激震が走った。

「な……なんだこれは?」

 魔族、魔獣たちは己に漲る力を感じ、興奮している。

 それは魔界の住人においては闘争本能の解放を意味する。

「この力、かつての倍か、三倍か? 俺は三以上の数字は順番知らんからなあ。

 三の次は九だったか、七だったか? とにかく凄い力が内から溢れてきている。

 どおれ、この力を試さねば」

「おい、そこのお前! 恨みはない。俺の力の実験台となれ」

「奇遇だな、俺も暴れたいと思っていた。ではいくぞ!」

 このように、各地で闘争が始まろうとしていた。

 一部は既に始まっていたのだが、その狂奔はすぐに収まる。

 彼らはとんでもない脅威を感じ、頭に上った血が一気に引く。

「魔王様……、魔王陛下……」


 そう、魔王の眷属である彼らは、主である魔王の力を自分たちの力として借りられる。

 これが魔王の魔王たる由縁。

 主従の契りを交わした相手に力を与える代わりに、絶対的な命令権を有する。

 魔物たちは己の力の強化に喜んでいたが、それは魔王の力が強化された恩恵なのである。

 従って、その大本である魔王が降臨したならば、契約という繋がりによって即座に従う姿勢を見せる。

 魔王の力が圧倒的になったのなら、余計に。


「魔王陛下、万歳!」

「偉大なる魔王陛下」

「全能なる我らが魔王」

 あちこちで平伏しながら称賛の声を挙げる。

 これは従属された為というより、強い者を敬う彼らの習性から、思わず出た声であった。

 魔王は天空から、六枚の翼を広げながら、階段でも降るかのようにやって来る。

 辛うじて頭を上げられる、各位の高い魔族は呟いた。

「魔王様の羽根は四枚だった。六枚になられたという事は、種としても一段上にモノになられたか?」




 魔王の城の麓の館にて。

「あの城は戦闘に特化しているから、客人をもてなすには相応しくない。

 我はこのように、普段の生活はこちらでしておる。

 お前は我を魔王らしくないと思うか?」

 そう聞かれた私は、

「いいえ、この上なく魔王らしいと思いますよ。

 私が知っている第六天魔王も、城より麓の館に住んでいたそうですから」

 と答えた。内心、その人は晩年に天主閣と名付けた巨塔に住むんだけどね、と呟きながら。

「お前の元いた世界の魔王か。一度会ってみたいな。

 お前の教えてくれた知識を活かせば、いつか叶うかもしれんな」

 私は魔王との会談で、この世界の形について語った。

 そして、時間というものは一定のものではなく、観測者やその場所の条件によって進み方が変わる事も。

 さらに言えば高次元世界では時を自由に行き来も可能という概念も話した。

 魔王の知能は極めて高い。

 光速における観測者の違いによる時間の違いを聞いて、多少の疑問は口にしながらも理解してくれた。

 それは「光速が必ず一定」「光より速いものは存在しない」という事を証明していないから出た疑問だが、まるめ込まれる事なくすぐに疑問を感じる時点で、単純思考の魔界の住人とは違う高度な知性を感じさせる。

 時間とは一定のものではない、それは長命種で数十年は誤差という魔王には驚くべき知識であったが、同時にその応用も思いつくのが侮れない。

 彼は亜空間の中に、時間の進み方が速いものを作った。

 ここでの十年は、本空間における一日に相当する空間。

 そこでみっちり身体の強化をしても、その空間から出る時はわずかな時間が経過しているだけだ。

 ちなみに、私がその「七つの球を集める」漫画の修行空間を教えたわけではない。

 彼がすぐに思いついたのだ。

 あとは私が施した肉体改造、魔力も体力もこれまでの限界を超えるものへの変換を行った後、魔王は三日に渡ってその空間で自らを鍛えたのだ。

 出てきた時の魔王の力は、少なく見積もって百倍になっている。

 普通に立っているだけでも威圧感が増した。

 そしてこれが、魔族にとって最も効率の良い強化方法でもある。

 魔王の力が増せば、眷属の力も増すのであれば、魔王一人を重点的に強くすれば良い。

 彼らの力も、何もしていなかったのに、十倍には増えている。


「人間は老化しますからね。特訓にお付き合い出来ず申し訳ありません」

「ははは、お前の弱点を聞く事が出来たな。如何に強くても、人間の寿命は短い。

 我がお前と戦う事になったら、我は百年も隠れておれば、我の不戦勝と終わるな」

「いやいや、十分強くなった魔王様なら、私にも勝てるでしょう?」

「お前こそ我を喜ばせる事を申すな。我の見立てでは、今でやっと互角だ。

 お前の方が奸智が回るゆえ、互角であればお前が勝ちそうだ」

 そんな、滅相もない。私はただの頭でっかちなリケジョに過ぎません。

「ところで、お前の方はどうだ? 交換で我が教えたスキルは使いこなせるようになったか?」

「はい、もちろん」

「……我が修行空間に入っていたのは、元の世界ではわずかに三日。

 その短期間で使いこなせるとは、お前はやはりとんでもない化け物よな」


 私が魔王から教えてもらったスキルとは、魔物の巨大化技術だった。

 このスキルで巨大化した生物は、生物学的な制約から解放される。

 サイズが二倍になれば体積は八倍になるから重量も増えて、次第に動けなくという生物の制約。

 それから解放された今、私は怪獣を作り放題なのだ。

 これでロボットもの、等身大ヒーローものに続いて、巨大ヒーローものもこの世界に創り出す事が出来る!


「他に有意義な事はあったか?」

 私は魔王との会談後、魔界に正式に招待され、魔王城の中にある書庫を見せてもらった。

 人間界の図書館は、イスカリオ王国のものとムイハナア商会のものは既に読破している。

 人間と魔族、双方の神話の差異や共通点についても調べたかった。

 それも含めて有意義な発見は多数あるので、披露したい。

「闇の魔法というのを分析しました。

 私が元いた世界では、目に見える力と、潜在的な真空の力と、検知出来ないけどそれを含まないと計算が成り立たないダークエネルギーというものを考えています。

 闇魔法はどうも、そのダークエネルギー、もしくはダークマターというものを利用するようです」

「ふむ、それが何なのかよく分からん。お前たちの計算間違いという事もあるのではないか?」

「計算間違いでなく、計測出来ていないだけかもしれません。

 ただ、闇の力というのが既存の熱や運動エネルギーとは違うものというのが分かったので、私は未知のエネルギーだと判断しました」

「まあ、難しい話は後でじっくりしようか。それで、そこから何か面白い事が分かったのだろう?

 お前の顔に書いてあったわ。まずはそれを聞かせてくれ」

「はい、闇の魔法で空間を作ったり、転移の穴を空けたりするものがありますよね。

 これはそのダークエネルギーを使って重力に干渉してのものと判断しました」

「その魔法は、我以外は使えぬものではあるがな」

「はい、制御が極めて難しいものですから。

 私の予測が正しければ、魔王様は重力を一点だけ極限まで高める事で、このような事が出来るかと思いました」

 私はそう言うと、魔素を濃縮して錬金術によってあるものを錬成する。

 それは陽子と電子を極限まで圧縮した結果、中性子の塊となった縮退物質。

 その中心を空洞にする事で重力崩壊を起こし、一瞬マイクロブラックホールを生成した。

 それは僅かな時間だけ猛威を振るった後、反物質と反応して蒸発して消える。

 結界を張っていたのだが、想像以上の破壊力で、部屋が滅茶苦茶になってしまった。

「失礼しました」

「いや、部屋の惨状などはどうでも良い。

 今のは何だ? 我の目には、とんでもない存在が、一瞬だけ見えたぞ」

「はい、私の世界ではあれをブラックホールと呼んでいました。

 私が作ったのは疑似的なもので、本物はもっと恐ろしいです」

「お前が恐ろしいと言うとはな。それ程のものか……」

「理屈は簡単です。一点に極限まで重力の強い領域を作れば良いだけです。

 私のように縮退物質を錬成するのではなく、ただ単に重力の強い領域を」

「言うのは簡単だ。今の我には出来ん」

「それでよろしいです。ブラックホールの制御は私のスキル『世界の真理(ブラフマン)』でも困難としています。定着してしまったら、世界を滅亡させる、とあります。

 だから魔王様には、重力に干渉し、空間を拡張したり、空間に穴を空ける魔法の行き着く先にこのブラックホールというものがあると覚えていてくれたら良いです」

 魔王は考え込む。

 私にしても「世界の真理(ブラフマン)」から聞いているブラックホールの有効活用は、短時間で消滅するタイプのものについてだけだ。

 一旦定着し、消滅せずに拡大を続けた場合、魔法陣すらも一点に圧縮されて効果を発揮出来ない為、破壊不可能という結論を出していた。

 ただ、この方法は絶対に教えておかないと、と思っている。

 兄に預けた、私を殺し得る武器の起動をする為にも。


「話は変わるが……」

 魔王がそう切り出した。

「お前は本当に悪なのか?」

 魔王の問いに、私はニッコリ笑って、

「神の理に背く私が、悪以外の何物だと言うのでしょう?」

 と返す。だが、魔王は表情を変えない。

「我の目には、お前は善なる者と映っておる。

 お前は悪だと言いながら、その実、大量破壊を行っていない。

 我らは弱い者が犠牲になるのは、弱い者の責任ゆえ、町を一つ焼き払う事に何の躊躇もない。

 しかし、お前がやって来たマッチポンプとやらは、そうした破壊は防がれるのが前提だ。

 悪人が人間や動物を殺す事はあっても、お前自身はそれをしていない。

 お前は、人間も魔物も、本当は死ぬのに耐えられないのではないか?

 だから殺される事が前提の戦闘員とやらは魂があるか不明なホムンクルスであり、改造人間は死んでもおしくない犯罪者。

 さらにその処刑を自らが作った人間の英雄に任せて、結局自分は何もしていない」

「…………」

 なんか心の中を完全に覗き込まれたように思う。

 うん、確かにそうだ。私は悪事は行っても、大量殺戮はしていない。

 したくない。

 アクジャネカ幼稚園計画とか、乗り合い馬車ジャックとか、嗜好品の中に洗脳物質を混入するとか、そういう事は喜んでしているけど、馬鹿勇者たちが解決する事前提だし。

「お前の目的の為に、そのような殺戮は不要、ただこの世界に似つかわしくない強者を次々と生み出す事を行っている。

 だが、敵も味方も死ぬような事は避けては通れぬぞ。

 お前にその覚悟はあるまい」

 ぐうの音も出ない。

 私は所詮、就職活動失敗中の特撮オタクなリケジョ。

 悪事を考えるのは得意だが、その惨禍を平然と眺められると言ったら無理だ。

 特撮番組で、そこまで悲惨な死屍累々は描かれない。

 美少女戦士が最終回付近で次々と敵と相打ちになっていくのを見て、泣いていたのが私だ。

 そんな私に、魔王が優しく言った。

「その役割は我が引き受けよう。

 我らは元より人間を敵と見做しておる。

 お前が語った、この世界の筋書きで、我はそういう役割であったな。

 ならば、我もまた人間の敵、巨悪として振る舞う。

 お前はお前の思う事を成せば良い」

「え……、あの、一体どうして?」

「フハハハハハ、お前という化け物の意表をつく事が出来て、我は嬉しいぞ。

 まあ理由などは有って無いようなものだ。

 あえて言うなら、色々と教えてくれた礼だ。

 それでも不足なら、我がそうしたくなった、魔王の気まぐれとでも思ってくれ」

 そうして魔王は、手を差し出す。

「悪の大首領よ、ここに魔王もおる。

 悪を一人で抱え込まずとも良い。我らにも悪を成させろ」

「分かりました。お願いします」

 こうして悪の大首領と魔王は握手を交わしたのだった。

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