魔王と悪の大首領
釈放した魔族との仲介で、私は魔王と会える事になった。
ただし魔界への立ち入りは許可されず、人間界に顕現しての会談となる。
ちなみに、魔族や自由に人間界に来られるわけではない。
魔界はまた別の子宇宙らしく、二つの世界を結ぶ門を作成しないと移動出来ないそうだ。
それは即ち「召喚の魔法陣」。
これは錬金術と似たものであり、発動には相応の対価を必要とする。
錬金術が物質を分解・再構築する技術であり、召喚は空間を繋ぐ門を構築するというもの。
空間構築については、私は既に会得している。
あの空間の歪みが生んだ怪異を倒したのは、余剰次元を展開して疑似空間を作るもの。
それで三日寝込んでしまうくらいにはエネルギーを消費する。
だが、世間の召喚士がそんな高エネルギーの魔力を扱えるわけではない。
ではどうするか?
手っ取り早いのが、自分の生命を犠牲にする事だ。
考えてみれば、私も死ぬ事で生命を消費し、この世界に転生したのである。
その人がこれから生きる時間というベクトルすら含んだ、生命を対価にする空間構築は分の良い方法だそうだ。
乙女ゲームの世界の話である。
全てを破壊したい虚無の魔女となったマリアは、自分自身の命すら大事にしなかった。
そこで行ったのが、自分の生命を生贄にした魔族の召喚である。
これで世界を混沌に陥れ、破壊しようとしたのだ。
やがて彼女は、魔王をも召喚する。
魔王ほどの大物を召喚するには、莫大な対価が必要だった。
だから最終決戦後のマリアは、もはや回復魔法すらも効かない程に生命を使い果たしていて、死ぬ時は黒い灰となって形を残さずに消滅したのである。
「でも、貴方たちは割と自由にこっちの世界に来てるよね?
どうやってるの?」
実は私はその答えを知っている。
この世界と魔界とを繋ぐ「地獄門」と呼ばれる空間の穴が、世界のどこかに在る。
乙女ゲームの中で、聖女リリーはそこを使って先に魔界に移動し、魔王との信頼関係を構築していたのだ。
そこに種族を超えた愛情とか、そういうクソ甘ったるいご都合主義を除けば、聖女というより中々の外交官、合従連衡って感じがして感心したわ。
なお、その地獄門は余りに強い魔力を持った者は通過できない。
理由は分からないけど、多分ご都合主義でそうなったんだと思う。
ではあるけど、私のアジトを襲った魔人たちは、多分そこを使っていない。
どうしてるのかは気になった。
答えは、
「人間の中には魔族に魂を売り、その代理人となって活動している者が多数いる。
心の中に『闇』を持つ者は、我々と通じやすくなる。
契約を交わす事で、彼らは魔王陛下の力の一部を借りて強くなれる。
しかし、魔王陛下のスキル『従属』の影響下に置かれる為、死ねと命じたら喜んで死ぬようになる。
こう言えば分かるだろう?」
「なるほど、自分の生命を生贄として、魔法陣を作る魔界側の人間が、大量に居るって事ね」
「そうだ。我らとて、いつ襲ってくるか分からぬ者どもを、監視すらせぬような間抜けではない」
私の中で、ワームホールで見たゲームの展開と今回の情報とがピタリと符合する。
聖女は「光と闇は表裏一体」と見て、魔族とは手を取り合えると考えた。
私の中で魔族は、人類と大して変わらぬ作戦を行うものとなる。
敵地に間者、スパイ、透破、草の者、なんでも良いけどそういう存在を置くのはセオリーである。
その者からの情報や手引きによって敵地に侵攻する。
魔族といっても、実に人間臭い。
彼らは思考的にも人間とほとんど変わらないのだろう。
そう言えば、きっと怒るとは思うけどね。
虚ろな目をした男女十三人が、魔法陣を描いて、その縁に座っている。
「魔王陛下の降臨である。者ども、頭が高い!」
その声を合図に、男女は首に刃物を突き立てて、鮮血を噴き出して倒れた。
なお、用事が済んだら回復魔法(魔界のものはゾンビ生成に近いものだけど)を使い、復活させるそうだ。
いくら手勢の数が多くても、毎回使い捨てにするのは資源の無駄との事。
やっぱり魔族、人間臭いわよね~。
頸動脈から噴き出した血は、地面を流れて魔法陣に触れる。
その瞬間、血は魔法陣上方に吹き上がり、集まって球体になっていった。
(あ、やっぱりワームホール)
三次元に空いた穴とは、どっかの異次元人が超獣を送り出すみたいな平面の亀裂ではなく、どの方向から見ても同じに見える球体となる。
まあ私的には、空が割れて、その中から超獣が出てくる演出は大好きなんだけどね。
そう言っている間に、球体から人が現れる。
凄まじいエネルギーを秘めているのが分かる。
大気が震え、周辺に旋風が発生した。
これが魔王、確かに威厳がある。
本当、中性的ななよっとした顔立ちでなければ最高なのに。
「無礼者め。高位魔族は男でもあり女でもある。
女に子を産ませる事も出来れば、自ら産む事も出来る。
中性などという言葉で語るな。我は両性なのだ」
思考を読まれたようだ、流石は魔王!
でも、顕現しての第一声がそれなのは、雰囲気出ないわよねえ。
「黙れ、お前のその思考に付き合う義理はないわ!
お前が我と話し合いたいという、悪の大首領とやらか……。
だが、会談する前に問いたい。お前、一体何者か?」
「ご覧の通り、人間ですよ」
「嘘を言うな! その身体は一体何なのだ? 普通の人間がそのような力を持っているわけがないだろう」
「いえいえ、ただのか弱い女の子です」
「我が目は誤魔化せぬぞ。確かに魔法を使う身体の構成にはなっていない。
そのような回路が見当たらぬ。
しかし、魔力は常に身体に蓄積され、それが身体の全てに強力な力を与えている。
お前、やろうと思えば我を指先ひとつで倒せるであろう」
やはり魔王は出来る奴だ。
指先ひとつで~の続きを歌いたくなるくらい素晴らしい。
私自身の肉体改造は、某「七つボールを集めたら何でも願いがかなう」系アニメの人造人間をベースにしている。
永久動力を周囲の魔素を吸収して行うというアレンジをしているが、基本的に気のようなものを発しない。
つまり、一見して私はか弱い人間種の女性にしか見えないし、感じられないのだ。
だから人間社会のあちこちで、長官なり謎の協力者として振る舞えている。
にも関わらず、この魔王は一見するだけで、私の身体の構造を看破するとは。
私は素直に打ち明ける事にする。
「私のベースはあくまでもただの人間です。そして魔法は使えません。見立ての通りです。
しかし魔力は確かに絶大でしょう。私は錬金術師で、魔力や重力、電磁力を使って物を分解・再構成する術に長けております。
それを利用し、私の全身を構成する細胞、そしてそれを作る塩基を改造しました。
私の細胞一つ一つに、魔力を吸収してエネルギーに変換する微小な魔法陣を刻んでおります。
その他にも様々な術式を刻み込んだ事で、大量の魔力の蓄積と、そこから変換された強力なパワー及び耐久力と再生能力を持つようになりました」
「化け物か……」
「まさか、魔王様からそのようなお褒めの言葉をいただけるとは」
「褒めておらん、恐ろしいと思っただけだ」
魔王は溜息を吐いた。
この辺の仕草もほとんど人間と同じ。
確かに神話にある、元は同じ生物が光か闇か、どちらかをエネルギー源にするかで分かれたという部分は正しいのだろう。
息を整えると魔王は私に、
「談合にはならんだろう。恐らく我が一方的に言う事を聞かされ、拒んだら倒されるだろう。
我の不死属性により、完全消滅は出来んが、それでも復活までには時間がかかる。
我の指先が残るだけでも復活は出来るが、それだと年単位の時間がかかる。
これまで、人間の強者が我をそこまで追い込んだ事はあるが、その時は向こうも満身創痍、もう余力は無かった。
だがお前は、恐らく秒で我を倒し、その後、我の残滓を探し当てて灰になるまで焼き尽くすだろう。
我は物質ではなく、この世に欠かすべからざる存在ゆえ、そこからでも再生は出来る。
なれど依り代でもある身体が戻るまでに数年を必要とし、元の力に戻るには数十年を要す。
それでいてお前に疲労は全くない。戦っても割に合わぬ」
「あ、ちょっと待って下さい。今、さらっと言いましたけど、魔王はこの世に欠かすべからず存在って言いましたね?
ではもしかして、勇者による討伐で不死属性が消されて滅亡するってのは、嘘なんですか?」
「嘘ではないが、そのまま真実でもない。
勇者により魔王で我は消滅する。我として再生する事は、もう二度と叶わぬ。
されど数百年に渡る闇の凝縮により、魔王という存在は再び誕生する。
だがそれは我ではない、別の存在である」
それが、何度もループするという「閉じた世界」とどう繋がっているのかは分からない。
ではあっても、この世界の法則の一部を見られたように思った。
まあ、魔王の存在どうこうは今回のテーマではない。
「魔王様、私は魔王軍を今のような弱いものではなく、もっと強くしたいと思っています。
無論、魔王様自身についてもです。
どうですか? この話に乗るにせよ、拒否するにせよ、深く話し合いませんか?」
「興味深くはある。
だが、何故そのような事をするのか、理由を聞きたい。
納得出来ねば、話になど乗れぬ」
「ごもっともです。でしたら、人払いをお願いします。
他の者には聞かれたくないので」
「その儀、無用だ」
魔王は指をパチンと鳴らすと、私にはワームホールと分かる球体を作り出した。
「我が作り出した、こことは異なる空間である。
お前も、恐ろしくないのであれば、入って来い」
なるほど、流石は魔王、空間系の魔法を使えるってわけね。
今まで他に見た事はなかったわ。
私以外!
「ご覧のように、私も亜空間の作成と、そこへの移動は出来ます。
特に恐ろしくはありませんので、そちらでお話をしましょうか」
そんな私をまじまじと見つめると、
「我は本当にお前が恐ろしいぞ。この能力は魔王以外は使えぬものと思っておった。
我の、数え切れぬ程前の魔王が、この能力で魔界を作ったと伝え聞いておる。
それと同じ事を出来るとあらば、お前は魔王と同等の能力を持っている事になる。
そのような者が、我に何を要求するか、死を覚悟して挑まねばなるまい」
いいえ、過大評価です。
私が作るのは、精々巨大倉庫として使う程度の亜空間です。
魔王の子宇宙に比べれば、子供のお遊びみたいなものです。
そう思いつつも、私は魔王との会談に臨む。
ここまでの事が分かる魔王には、この世界のルール、そして私が何をしようとしているかを、包み隠さず伝えないとね。
思考が読めるみたいだし、嘘をついても無駄なんだし。




