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脅威の出現

 悪の秘密結社アクジャネカのアジトである地下迷宮(ダンジョン)。

 ここの主である大首領マリエルが不在なのを知る者はわずかに三人。

 転移の魔法陣を使ってたまに帰ってきているのもあるが、姿を見ない日でも、最近なぜか重厚で威圧感が出てきた「ひよこちゃん」のレリーフの目が光り、指令を出して来るから、大首領の不在を感じられない。

 悪の秘密結社らしく、ゴーレムを出撃させたり、怪人を派遣したりと、それなりの悪を行っている。


 ガリアノ王国に出動させた怪人は、ガチものの悪人からの改造人間なので、押し込み強盗や誘拐などを行っているが、熱血漢の治安官憲ボイスの蒸着した姿によって退治されている。

 ボイスの戦闘レベルは上がってきたが、この人、ちょっと特殊なこだわりがあった。

 相手が普通の人間の場合、コンバットスーツを纏わないのだ。

 だから、超戦闘能力になれば楽勝なのに、国境の山岳地帯に籠る普通の犯罪者に対しては、相変わらず苦戦を続けている。

 まあ、人間相手だと戦闘レベルの上昇値は小さいので、私もそこまで気にはしていない。


 ペリシ共和国連合の隊商を襲うゴーレムは、そろそろテコ入れが必要だろう。

 一つ目の緑色の斧を持ったゴーレムは、そろそろ対処されてきている。

 同じ一つ目で、今度は青く塗装し、鞭を振るうゴーレムにしようか。

 仕様変更するという報告を、アクジャネカの裏の窓口であるムイハナア商会に一報しておこう。

 マッチポンプにより、緑ゴーレムを破壊できるムイハナアの白いゴーレムの売れ行きは好調だが、青ゴーレムは強いから、何体か壊されるだろう。

 白ゴーレムの強化ポイントを教えておけば、ムイハナアなら短期間で対処してくれるし、そうなればより彼らの売り上げは伸びるだろう。

 私は密かに、三体で連携攻撃をするホバー移動型の黒ゴーレムを開発しているから、完成したらその対処法も考えないとね。


 本命のイスカリオ王国への攻撃。

 ここは私の趣味全開でいかせてもらっている。

 まずは、人間の思考能力を低下させ、単純馬鹿にする毒ガスを撒く怪人を送る。

 一見凶悪な作戦だが、これは勇者には通用しない。

 なぜなら、勇者ことハインツ王子は既に単純馬鹿で、それ以上酷くはならないからだ。

 戦闘に関してかなり思考が良くなったが、ガスを吸って馬鹿になると、以前の「ガンガンいこうぜ」に戻るだけだ。

 この作戦では、しばらく聖女リリーが単純馬鹿化し、軽傷の者にも治癒(ヒール)の効果を全開マックスでしまくって、数時間後にぶっ倒れたというのだけが戦果だった。

 他にも、村の学校に潜入し、テキトーな教育をして国の将来を担う子供の頭を悪くする作戦……とみせかけて勇者一行を釣り出す作戦も実行したが、自分の教育以上に王子が馬鹿過ぎるし、他が脳筋過ぎて、怪人が絶望して自殺するという、なんとも言えない結末になった事もあった。

 あと、ハインツ王子の評判を落とす偽勇者作戦も行ったが、これも、

「王子がそんなに他人に気を使うはずがない!

 王子はもっとガサツだし、お前以上に酷い事をナチュラルにやってしまう!」

 と看破され、失敗してしまった。

 うん、そろそろイカデーモンの作る弱体改造人間でなく、私が作った奴を出そうかしら。

 イカデーモンの怪人と私の怪人との間には、野球で例えるとリトルリーグとメジャーリーグくらいの差があるからなあ。

 中間レベルが欲しいところ。


 こうして人間側のレベルアップも地道に行っている私たちを脅かす存在が現れ、私は考えを改める事になる。




「なんか来るよ」

 私の不在を知る三人の一人、荒野の魔女パドリラが何かを察知する。

 女官長のサラが魔女とともに様子を伺う。

 一方で執事のヤンが非常用連絡装置で、イスカリオ王国の中で勇者たちの指揮官をしている私に連絡をする。

「なに、あれ?」

 水晶により映写機で映し出されたモノは、怪人とかマモノとかではなかった。

 それかどうかも分からない。

 空間に浮かび上がる黒い影。

 影なのかも分からない。

 そいつ自身の影は無い。

 だから、空間に黒い何かが浮かんでいるだけだ。

 それが歩いてくるのだが、通過した痕が黒い靄を残している。

 その靄に触れた草木は、瞬時に枯れてしまった。

 サラは直感的に危険と判断したのだろう。

 私が彼女に与えた、非常事態警戒を発動する。


 ダンジョンから戦闘員たちが飛び出す。

「イーッ!」

 棍棒を持った戦闘員の一人が「それ」に殴りかかった。

 すると、攻撃が当たったと思った瞬間に、「それ」は消えてしまい、戦闘員はよろける。

 直後、別の場所から「それ」が出現し、他の戦闘員に殴りかかる。

 なぜか「それ」の攻撃は当たるようで、攻撃を受けた戦闘員は黒い灰のようになって崩れ落ちる。

 私が作った戦闘員たちには、割と自分で考える能力がある。

 二人の戦闘員が挟み撃ちにするように襲いかかった。

 だが、また当てた瞬間に「それ」は別な場所に瞬間移動、戦闘員は同士討ちとなってしまった。

 こんな感じで「それ」に向かっていった戦闘員は、全て返り討ちともいえない、ただ降りかかる火の粉を払うような感じで消されてしまった。


「おい、お前は何者だ? こちらの言葉は分かるのか?」

 三悪人の中で、一番理知的なイカデーモンが話しかける。

 先制攻撃しておいて、その後で会話というのも変だが、こいつらだから仕方がない。

 だが「それ」からの返事は無いだけでなく、「それ」の中からエネルギー波が放たれた。

「問答無用って事か!」

 イカデーモンはすんでの所でかわすと、反撃を開始。

 イカの改造人間の彼は、目と思われる位置に墨を吐いた。

 しかし、墨が当たったと思った瞬間、その墨は自分の目に当たり、イカデーモンは悶絶する。

「どいてろ!」

 私はスタイリッシュにしろ、軍人っぽくしろと言ってるのに、ずっと粗暴なままのコボルト男が、相手を抱き抱えるように組み付いた。

 そして「それ」が消えない内に、鋭い牙で噛みつく。

 だが、そこまでが彼の限界だった。

 組み付かれた「それ」が消えると、コボルト男が「それ」と接触していた部分も同時に抉れて消えていた。

 つまり、噛みついた頭部も黒い部分に取り込まれ、消滅している。

 腕・頭部・腹部を失った肉塊が血を噴き出して倒れる。

 おお、コボルト男よ、しんでしまうとはなさけない。


 とか言っている場合ではない。

 三悪人の一人・ヘビヘビンダが毒をまき散らす。

 地面に落ちた毒は蒸発し、猛毒の結界を作り出す。

「俺様に近づく事は出来ねえ!

 その毒の空間を歩くだけで、てめえは腐食して死ぬ!」

 ヘビヘビンダが勝ち誇ったように叫ぶが、その刹那、「それ」が消えた。

「ぐはっ!」

 突如出現した「それ」が手のようなものを延ばす。

 まるでゴム人間の攻撃のように、射程外から伸びてきた「それ」に、ヘビヘビンダは喉を貫かれた。

 そして植物が枯れるかのように、ヘビヘビンダは萎れていき、倒れた。

 おお、ヘビヘビンダ、しんでしまうとは……とか本当に冗談言ってる場合ではなくなった。


 三悪人は、強化された勇者一行でも、簡単には勝てないくらいの強さである。

 正直、魔王と互角だった怪奇スパイダー男が足元にも及ばないくらいの強さであり、私は勇者がそこまでの強さに達するカリキュラムに悩んでいるくらいだ。

 それが二人も瞬殺されてしまった。

 私は急を聞いて駆け付けた時、既に手遅れだった。


「大首領、私も色々知ってるつもりだけどね、アレが何か分からないのよ。

 あんた、知ってるかい?」

 荒野の魔女が困惑声で尋ねてくる。

 私も確証はないが、あれに似た存在を知っていた。


「あれは、世界の歪みよ。

 いずれ出て来るとは思ったけど、予想より早かったし、あんな形とは思わなかった」

「世界の歪み?」

「うん、私がやろうとしている事に対する反作用。

 アレがここに来たのは、ここが飛び抜けて世界から逸脱した存在だから」

「意味が分からないね」

「分からなくても仕方がないわよ。

 私も上手く説明できない。

 なんでも、攻撃を当てたと確定した瞬間に、存在が不確定となって別の観測位置に出現する」

「よく分からないけど、そんなのをどうやって倒すんだい?」

「倒せないわ」

「なんだって?」

「あれは、簡単に言えば見えてはいるけど、存在してないモノなの。

 簡単に言うと、私たちが絵画の住人だとすれば、アレはそこに出来た裂け目なの。

 だからこちらは手出し出来ないし、裂け目に飲みこまれたこちらの存在は敗北する」

「なんだい、それは?

 この世のものじゃないのか!」

「ええ。この世のものじゃない。私に勝つ事が出来る存在よ」


 私が魔改造した私は、この世界の攻撃で勝つ事は出来ない。

 私を破壊するには、私そのものではなく、私の居る空間そのものを崩壊させる事になる。

 そうした私を倒せる武器を、先日私は家族に託してきた。


 つまりは、それを知っている私は、「アレ」の倒し方も知っているという事。

 そう、「アレ」そのものを攻撃すると面倒くさい事になる。

 だから、「アレ」の居る空間、出現する空間そのものへの対処を行う。


「しばらく動けなくなるから、後は頼むよ」

 私は自分が認識している亜空間(プランクブレーン)から真空に接続し、エネルギーを取り出す。

 無理やりポテンシャル障壁に穴を空けてエネルギーを集める。

 そして小さな光の粒に圧縮した。

「空間膨張(インフレーション)! 余剰次元創造!」

 その粒が「それ」にぶつかる刹那のタイミングで、私は新しい世界をそこに作り、膨張させた。

 空間の悪魔ともいえる「それ」は、新しい空間に圧迫されて潰れて消える。


「なんなんだい、あんたのその技は……」

 荒野の魔女が口をあんぐり開けながら聞いてきた。

「空間に空いた穴は、空間を作成して詰め物をすれば良い。

 まあ……言うは簡単だけど……もう限界。

 ごめんなさい、寝床まで運んでいって」


 私はそう言い残すと、魔女に倒れかかって眠りについた。

 膨大な魔力を消費したのもだけど、それを制御していた演算で私の脳にかかった負担は相当なもの。

 間違った空間構築を行うと、「アレ」を倒せないだけでなく、新しい綻びから二つ目、三つ目の「アレ」を発生させてしまう。

 単純に破壊を行う銃に比べて、制御する分大変なのよ。


 こうして眠りについた私を、

「やれやれ……。あんた、いつでも寝首を掻いて良いとか豪語していたよね。

 今ならこの私でも倒せそうじゃないかい。油断大敵だよ」

 とか言いながら、荒野の魔女は担いで帰るのだった。

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