お家に帰ってみました!
「マリア! お前、どうしてここに?」
私の父・ブルジア公爵と兄・アレクが目を丸くしている。
彼らは私が「悪の秘密結社」を設立したと伝えたら、王家に通報した後、自主的に領地で謹慎をしている。
私との婚約で得た荘園は没収され、財産も相当に国庫返納を命じられた。
ある意味、婚約破棄をした王子や他の貴族の目論見は成功したのではあるが、今のブルジア公爵家はその者たちからも同情されている。
自分たちの目論見通りにいったのだなら乾杯もしただろうが、はっきりいって「それをさらに超える娘のやらかしで、全然悪くないのにとばっちりがいっている」から、可哀そうなのだ。
他人の悲劇は飯の種とは言うが、想定以上の事態に、どう反応したら良いのか分からなくもなっている。
「警備の者はどうした?
何故王国の敵を名乗る者を通した?」
ブルジア公は家臣たちを怒鳴ったが、私が見せた紙切れによって黙り込んでしまった。
二の句が継げないほど唖然としたとも言うだろう。
「これは……国王陛下からの通行許可と紹介状……だと?
印も封蝋も署名も……全部陛下のものだ、贋物ではない。
なぜ王国の敵のお前が、国王陛下からの書状を持っているのだ?」
その答えは簡単である。
「それは、国王陛下も私の企てに同調するからですよ。
今の私は、王国を守る勇者ハインツの指揮官、オーダ・ギリアム長官でもあります」
そう言って変化してみせる。
「マリア、それは?
お前は魔法は使えないはずだろう?」
兄が尋ねる。そう、私は魔法は使えない。使っているのは錬金術。
そう、決まった術式を描いた魔法陣を二つに分割し、使いたい時に合わせて完成させて発動する。
変化は、私を表面や服装を分解し、錬成し直しているのだ。
私のスキルによって、痛みを感じずに姿を変える術式として完成させている。
その事を伝えると、
「マリア……、お前は一体何者なのだ? 本当に僕の妹か?」
と兄は怯えたように聞いてくる。
隣では父も無言で、それへの返答を待っていた。
私は、全てではないが、自分の思惑を伝える事にする。
その為に帰ってきたのだから。
~~~~~
「……というわけなのよ」
私の説明に、父も兄も黙り込む。
理解が追いつかない……いや、理解は出来たが信じられないという感じだ。
「なあ、マリア。今言った事が本当なら……本当かどうか分からないが……、だったらお前は悪党に成り下がったわけではないんだな?」
兄の恐る恐るの質問に、私は偽悪的な笑みを浮かべながら、
「神の理を破壊しようという存在が、悪でなくて何なのでしょう?」
と言ってみる。中二病をくすぐる場面が嬉しい。
「いや、そうじゃなくてだな、お前に恥をかかせた王子殿下に復讐はまだ分かるが、それがいき過ぎて、王子の民なら皆殺しにするだの、人が苦しむ様を見たいだの、そんな感情は無いか? という事だが」
「ああ、それは無いですわね。
私、勇者であるあの馬鹿を近くで鍛えていますけど、復讐心とか全く持ってませんから。
むしろ、昭和顔じゃない軟弱なイケメンと結婚しなくて、せいせいしてます」
「ショウワとはなんだ?」
「いや、伝え聞くにオーダ長官のしごきはとんでもないそうだが、それにかこつけてハインツ殿下に復讐してるように思ったが」
兄と父が別々にツッコミを入れる。さすがは公爵家の当主、父は謹慎しながらも王国の事情を知っているようだった。
ところで、兄が危惧した、王子への復讐心が行きついてしまった果てに、無辜の民を苦しめたい、王子の側仕えしている者を生き地獄に落としたい、そういうどす黒い感情、それは本来の私が持つ感情ではあった。
乙女ゲームの流れの中で、王子への未練と屈辱と憎悪の入り混じった私は、荒野の魔女の導きによって、虚無の魔女へと変化し、聖女リリーへの憎しみをあらゆる者にぶつける存在となり果てる。
破壊、誘惑、堕落、洗脳、ありとあらゆる嫌がらせを繰り返し、聖女の心が痛むのを楽しむ。
虚無の心を、他人の涙や絶望を食らって埋めようをするが、一瞬はともかくやがて酷い渇きに襲われ、延々と繰り返す存在になる。
それが本来の姿だ。
兄が無意識に、本来の乙女ゲーム世界の設定と接続したのかもしれないが、だからこそ間違った事は言っていない。
「いずれにしても、私は悪人です。それは国王陛下も納得しております。
私は反逆者です、この世界への。
王国に対する反逆だの忠義だのは、実に大した事はないものです」
「王国への忠義が大した事ないって、お前なあ……」
そう言う兄を制し、父が会話の相手に代わる。
「だから、悪の秘密結社の大首領なんて名乗るのか?」
「はい」
「その事で、栄光あるブルジア公爵家の名を、地に墜としてもか?」
怖い表情の父に、私は来訪第二の目的を告げる。
「父上が大事に思い、兄上が継承するブルジア公爵家。
その名誉を守る為に、これを受け取ってください」
私は亜空間収納から箱を取り出す。
「これは?」
「これは私を殺せる道具です」
父と兄は息を呑む。
私は「世界の真理」によって得られた知識を使って、自分自身を改造している。
私自身の体組織と、それが常時発動している防御を突破できる攻撃は存在しない。
「人間界不敗」こと国王シュナイデル3世の攻撃も、私を破壊する事は出来ない。
つまり、私を殺せる存在はこの世界には存在しない。
だから、私を殺せるのは、この世界においては私自身しかいない。
その私を殺せる道具を、家族に託すのだ。
「これは?」
「銃という武器です」
「ただの筒ではないか」
「本来の銃は、この筒の底に鉛で出来た塊を仕込み、爆裂魔法でそれを発射する武器です」
「魔導バリスタのようなものか?」
「そう思って結構です。
ですがこれは違います。この筒の底に集めるのは魔力です」
「魔法を発射する道具なのか?」
「魔法はエネルギーを放射する為の発動条件に過ぎません」
「ではどういう事だ? この筒で何故お前を殺せるというのだ?」
「言っても、きっと父上は理解できませんよ」
「いいから、言え!」
私はため息を吐くと、その武器の力について説明する。
簡単に言うと、銃口の前面に余剰次元を発生させ、それを薬室に込めた魔力を重力転化させてマイクロブラックホールを形成し、その寿命が尽きる前に余剰次元を吸引する。
それによってブラックホール消滅のエネルギー輻射と共に、崩壊する余剰次元が周辺空間を不安定化させながら標的に向かい、当たった相手は空間ごと破壊されるという超兵器なのだ。
私も何を言っているのか分からないんだけど、私のスキルがそういうものだと教えてくれた。
つまりは、敵を破壊するエネルギーではなく、敵の存在する空間ごと崩壊させるから、私といえども抵抗する事が出来ないものだ。
「うん、分からん! 聞くんじゃなかった!」
父が匙を投げた。メルヘンな世界の、本来モブキャラにして良い説明じゃないのは分かる。
だけどここで兄が、真っ当な質問を返してきた。
「それって、とんでもない魔力が必要なんじゃないかな?
僕も父上も、そんな力は無いよ。
そりゃあ、魔法を使えたり、錬金術やスキルがあるから貴族なんだけどね。
それにしても、マリアの言うような事は出来ない。
なんでこんな武器を渡すの?
理屈だけでマリアを殺せるって事にして、公爵家の名誉を回復させるため?」
良い質問です。
ハズレです!
ちゃんと使ってもらいましょう!
「兄上、それを使えるようになるのです」
「だから無理だってば」
「私が鍛えてあげますよ。馬鹿王子の話は知ってますよね?
アレくらいには強化出来ますよ」
「やめろー! マリア、お前、うちの後継ぎを殺す気か?
魔王と戦うべく不死属性に近いものが着いているハインツ殿下と違い、アレクはただの人間だ!」
おお、父上、それは親として当然の発言だね。
でも、甘やかしたらダメだよ。
この悪の秘密結社の大首領マリエル様を殺すのは、ブルジア公爵その人か、ブルジア公爵令息アレクでなければならないんだから。
「私の特訓が嫌ならば、実戦で鍛えるしかないですね。兄上にはこれを渡します」
「これは、腕輪?」
「一切の危険はありませんから、装着して、こうボタンを押してみてください」
「信じるよ。信じるからね! 本当に危険はないよね?」
おっかなびっくり装着し、ボタンを押す兄。
すると兄は黒いボディースーツと、肩や胸部、脛や腕に防具を装着した仮面の男へと変化した。
「これは?」
「ああ良かった! 三代目コンバットスーツ、性能良さそうね!」
初代のコンバットスーツは、亜空間から取り出したオリハルコンやミスリルの粉を蒸着し、全身を守る強固な装甲となった。
しかし、ガチガチに固め過ぎた結果、熱がこもる、汗がたまる、皮膚呼吸できない、言葉が聞き取りにくい、声が外に出ないといった欠点もあった。
二代目のコンバットスーツは、三代目同様にボディースーツ状で、重要な箇所だけを強化人造筋肉で守っている。
初代よりも通気性が良く、鼻や口がオープンになっているから、息苦しさもない。
その分防御力は弱く、また毒ガスなどの攻撃には脆い。
そこで開発されたのがこの三代目である。
二代目の通気性が良いボディースーツに、一部蒸着による装甲化というハイブリッド仕様。
口元は覆われているが、フィルター付き通気口を開けている為、言葉を発す事も出来る。
「そのスーツは、防御だけでなく、常時バフ効果もかかる優れものだから、私が送り込む怪人とかと戦って経験値を稼ぎ、魔法力を限界突破しましょう」
「待て、我々はお前のせいで謹慎中だ。
勝手に外出などまかりならん」
父が堅苦しい事を言う。
でもそう言う事は想定の範囲内。
だから兄上には変身させたのだ。
「何を言っているのですか、父上。
戦場に現れるのはブルジア公爵令息アレクではありませんよ。
謎の剣士・ダークナイトです」
「は?」
私、こういう謎の戦士って好きなのよ。
出来れば第三勢力とかであって欲しい。
でも、細かい設定は後にして、今は兄上が私を倒す武器を起動出来るくらいになってもらうのが先。
「ダークナイトとして、兄上は自分の名を名乗ってはいけません。
謎の戦士として颯爽と現れ、活躍するのです」
「ちょっと待ってよ、マリア。
王国の為に身元を隠して戦うのは百歩譲って良しとするよ。
でも、謎の剣士って言ったって、僕には敵を倒すだけの実力はないよ。
持っている剣で、王子殿下並の活躍なんか出来そうにないし」
「そこは抜かりありません。
国王陛下から、これも預かって来ました」
そう言って、王国の宝物庫に収納されていた聖剣の一つ「稲妻の剣」を渡す。
「稲妻の剣って、違う形じゃなかった?
確か、剣の横に七つの牙がついた、実戦用に見えない剣で……」
「あれ、贋物ですよ。
馬鹿王子もですが、本物は見た事ないから、見せられても信じないんですねえ。
兄上にはこれを使いこなすようになってもらいます。
私を殺せる銃ほどではないですが、この聖剣も使い手を選びます。
だから、聖剣に選ばれ、使いこなせるようになって初めて、あの銃を扱う第一歩と考えて下さい」
無理難題と思える私の発言に、兄はカッコいいコスチュームのまま項垂れていた。
その肩を父上が軽く叩く。
「あんな妹を持った運命だ。
お前は諦めて、マリアの求めるレベルに達するのだ」
兄はトドメを刺されて、その場にへたり込んでしまった。
19時にも更新します。




