さっそく拠点ゲット!
「この馬鹿者が!」
私の顔に乗馬用の鞭が入れられる(まあ、痛くも痒くもないけど)。
父であるブルジア公爵が激怒をしていた。
まあ、無理もないわね。
本来の乙女ゲームのシナリオだと、公爵は娘に与えられた恥辱に激怒し、貴族社会に抗議をした事によって、かえって立場を悪くした。筋を通すタイプで、娘に対する愛情も、自家への誇りも相当にある人物なのだ。
しかし、私はシナリオ通りに動かなかった。
自らを「悪の秘密結社の大首領」と名乗り、王子を馬鹿にし、司祭長にはアドリブが利かないと文句を言った結果、聖女への嫌がらせ行為ではなく、「ちょっとこいつ、おかしい」という理由で処罰という運びになったのだ。
娘に非があるし、それが余りに非常識な発言であり、社交界での言動に全く相応しいものではなかった。
私が公爵家に恥をかかせたわけで、堅物の公爵が激怒するのも当然ですね。
私は公爵の説教を聞き流し、たまに繰り出される平手打ちによって意識を戻されながらも、この世界への転生についての脳内整理をしている。
この世界は、なんとかいうゲームの世界、正直興味がないからゲームの名前はどうでも良い。
その世界は魔法や錬金術が使えて、魔王の住まう魔界と戦っていた。
とはいっても、魔王たちも極めて生ぬるい。
ゲームの設定なのか、私の知っている昭和特撮の悪の組織よりも生ぬるい。
この世界は人間の住む世界と、魔王率いる魔族が住む魔界とが存在する。
人間界に危害を加える魔王に対し、侵攻を食い止めるのが勇者と聖女という役回り。
私を追放したハインツ王子こそ、剣と魔法、それも攻撃と防御をバランス良く使え、属性的に魔王に対して「不死を打破する」スキルを持つ、いわゆる「勇者」というわけ。
頭の方は、どこか「自分の言う通りに物事が運ぶ」と信じているのか、設定されているのか、実にお粗末なものだけど戦闘力はそこそこある。
まあ、私の目から見たら、サッパリなんだけどさ。
聖女というのは、神殿が見出し、承認を与えた神聖魔法の使い手の女性になる。
国が庇護する枢機卿や司祭の神殿から、村にあるような小さな神殿にまで、様々なレベルの聖女が仕えていた。
聖女は祈りを捧げる事で魔物が入り込まない結界を張り、怪我人や病人の治癒を行う。
今回私がいじわるをしたという、聖女リリーは国家級聖女であって、当代の聖女にいずれ代わって国家結界を張る仕事に就く。
このように、聖女は職業の名前でしかなく、人格が「聖なる女性」なのではない。
私がいじわるをしたとする聖女リリーも、良く言えば天真爛漫、悪く言えば常識知らずだった為に、今の人格が目覚める前の堅物公爵令嬢マリアは、事あるごとに立ち居振る舞いを注意しまくった、ようね。
地球の日本という国で生きていた私から見れば、正直パワハラとかお局と言いたくなるようなやり方だったわ、記憶をたどってみると。
そんな私を追放すべく、リリーを庇護する神殿や王子たちが動いたという事になる。
乙女ゲームとやらの初期設定のようで、庶民から神殿に上がって市井の明るさを持った愛されキャラが、私という悪役令嬢を追放するのは、それを通過しないとゲームが始まらないオープニングイベントだった模様。
乙女ゲームにはよくある事みたいね、知らんけど。
で、追放された私は本当に悪堕ちし、荒野の魔女から洗礼を受けて「虚無の魔女」と化すと、魔界と人間界とを繋げてしまい、魔王軍の侵攻による人魔戦争を引き起こす。
聖女は騎士団と一緒に戦いつつ、「攻略対象」と呼ばれる何人かの男性と接近イベントを起こすらしい。
戦争中に何をやってるか! とは言わないわ。
地球にも「戦うトレンディドラマ」と呼ばれた、戦隊内で四角関係、敵組織の女性幹部は戦隊リーダーの恋人だった、なんてものがあったわけだしね。
私の頭がクラクラしたのは、聖女にとって魔王すら攻略対象に含まれていて、展開次第では聖女は人間界と魔界との架け橋となるべく魔界に嫁ぐらしい。
いや、あんた王子と婚約したよね? 王子も「世界の為に」と泣く泣く許可する?
特撮のシナリオとしても、子供が呆れるわ!
という情報がインプットされている私なんだけど、元々のマリアのスキルと、転生したゆえに得た地球人の真理の能力の両方が備わっているみたい。
マリアは錬金術師。それもかなりレベルが高い。
王家との婚約をしていた時期は、汚水を浄化したり、鉱石から貴金属を抽出していた。
魔堕ちしたゲームでは、それを悪用して毒水や麻薬などを作ったり、惚れ薬を作って聖女の攻略対象を誘惑したり、ゴーレムを作り出して聖女たちに立ちはだかったりする力を持っている。
一方、転生した私は界を渡る時に「世界の真理」というスキルを得ている。
微かな記憶で、前世での生命との等価交換で、真理を得る事が出来たみたいね、真理だけに……ってシャレじゃないんだけど。
この真理によって、錬金術スキルは物凄くなった代わりに、元の世界に戻る事は出来なくなった。
という状態なので、シナリオ通りに悪堕ちしても、シナリオ以上の猛威を振るう悪役令嬢になれたと思うわ。
でも、それじゃつまらない!
私は私、ゲームのキャラでも神様の駒でもない。
どうせ悪に堕ちるなら、私が思う悪に堕ちた方が面白いじゃないか!
私には、昭和から令和までのあらゆる創作の知識、悪の秘密結社の情報があるのだから。
「マリア! 聞いておるのか!」
公爵の怒号で、私の意識は脳内整理から戻って来た。
「お前は入牢を望んだそうだな。
その願いをかなえてやる。我が領地においてだけどな!」
「そうですね、そうすべきですわ」
「お前、おかしくないか?
以前は王都に居る事を望み、領地は嫌いではないが、何も刺激が無いと嘆いておったではないか?」
「ええ、領地は嫌いではありませんよ。だから、良いではないですか?」
「お前、何をたくらんでおる?」
「イエ、別ニ……」
すっとぼけた答えに、父の目つきが厳しくなった。
やっぱり怪しんでいるわね。
「脱走とかを考えているなら、無理と思え。
お前も知っての通り、我が領地には魔の森と隣接する場所がある。
その地の城にある牢獄に閉じ込められたら、逃げ出したところで魔物の餌となるぞ」
「存じております」
「ならば、もはや何も言わん。しばらくそこで反省しておれ」
こうして私は、公爵領の果てにある城に連行されていったわ。
その際、「世界の真理」による聴覚強化法を使って話を盗み聞きしてみたの。
兄が父を責めていた。
「マリアがおかしくなったのなら、神殿で祈祷をして元に戻せば良いでしょう?
なんで王家の言いなりになって、辺境の城に幽閉などするのですか?」
父は冷静に返事をしていた。
「マリアはおかしくなどなっておらん」
「なんですって?」
「あれは、本来ならもっと子供の頃にかかる、一過性の病だ。
手に包帯をグルグル巻きにして『これはドラゴンの封印だ』とか、眼帯をつけて『我が魔眼を開かせるか?』などと、夢に夢見がちな男児がかかる病気だ。
お前にも覚えがあるだろう?」
黒歴史を掘り起こされて赤面したらしい兄。
父は続ける。
「王子からの婚約破棄をどこかで聞いて、幼児帰りしただけだ。
だが、公爵家の恥となる言動だったのは間違いない。
王家や神殿への配慮もあるし、あれの反省の為にも、少し怖い目に遭わせた方が良い」
あら、お父様、中々物をよく知っている人ですね。
ただの堅物ではなく、人間の機微までよく見ているじゃないですか。
確かに私のこの言動は、地球で言う「中二病」そのものですよ。
でも、私には言動を実現するだけの能力があり、その後についてもちゃんと計算しているのです!
それをご覧に入れてあげますわ。
幽閉された私は、堅物でキレ者でもある父の甘さに苦笑が漏れましたわ。
色んな物を取り上げて、着の身着のままで投獄したのは、常識の範囲内の対応でしかないですね。
私がこれからする事が分かっていたなら、後ろ手にして手枷を嵌めたでしょうに。
私は自由に動く手を顔の前に持っていくと、指を思いっ切り噛んだ。
後で説明するけど、私の身体は私自身でないと傷つく事はないので。
血が滲む。
その血を使って、牢獄の壁に魔法陣を描く。
そして、こう唱えた。
「動け、ゴーレム!」
その直後、牢獄を兼ねた独立塔が、城から分離して、手足を生やして動き出す。
私は、某大魔王の地上侵攻に使った巨大な歩行城を知っている。
だから、私は必ず幽閉されるだろうから、その建物ごとゴーレムと化して、安全に魔の森を渡ろうと計画していた。
この世界の人間は、ゴーレムとは精々巨大な悪鬼程度にしか考えていないから、建物そのものを動かすという発想はないみたいね。
よく見ると、切り離された城側の城壁に父が上って来て、こちらを見ながら口をあんぐりと開けている。
今ならまだ声が届くわね。
別れの挨拶はしておきましょう、それが淑女の嗜みというやつです。
ではいきます。
「ヌーフフフフ、それじゃあ公爵のとっつぁん、あばよ~~!!」
いやあ、気持ち良い。
この台詞、一回言ってみたかったんだ、リアルな場で!
今日はここまで。
明日17時に再開します。




