婚約破棄され追放されたけど、むしろ望むところです
「マリア、お前が聖女でもあるリリーに事あるごとに嫌がらせをしていた事は分かっている!
お前のような女を王家に入れるわけにはいかない。
お前との婚約を破棄する! そして……」
華やかなパーティー会場で突然始まった断罪劇。
でも私は、こうなる事を予め知っていた。
この次に来る台詞も分かっている。
だから、王子の言葉にかぶせるように言ってのけるの。
「フハハハハハ……、流石は王子である共に勇者の資格持ちでもあるハインツ様。
よくぞこの私が悪の秘密結社『ゲルトロン十字一族ガミランティス』の大首領である事を見破った!
国外追放とする判断は妥当だ!
ここでひと暴れしても良いが、お前のその炯眼に敬意を表し、この場は潔く去るとしよう!」
「は?」
ハインツ王子が思いっきり間の抜けた表情で聞き返している。
何が起こったかサッパリ分からないようだから、もう少し説明をしてあげましょう。
「だーかーらー、私が悪の秘密結社『ジン・ゲルトロン暴魔一族ガミリウム』の大首領って事にしとかないと、国外追放にするなら理由が弱いでしょ!
話に乗ってあげてるんだから、察しなさいよね、馬鹿!」
「ば……馬鹿だと? おのれ、王族に向かっての暴言許さん!
で、秘密結社なんだって?」
「私もうろ覚えなんだから、同じ名前をまた言えないの!」
「なんだ、それは!」
エヘンという咳払いの音がする。見ると、この国・イスカリオ王国の司祭長が厳しい目でこちらをにらんでいた。
「ブルジア公爵令嬢、貴女は自分が何を言ったかお分かりなのか?」
私は満面の笑みを浮かべて、
「はい、十分分かっています」
とスカートの裾を握りながら返答した。
「悪の秘密結社の大首領などと、この国に害を為す者という事で間違いないか!」
「左様です」
「一体何をするつもりか?」
「さて? 何をやったら効果的ですかね?
まだ考えている最中なので、御免あそばせ」
「その悪の秘密結社、ゲルトリア暴魔十字……」
「ごめんなさい、テキトーに知っている組織を名前を繋げたから、なんて言ったか覚えていませんの。
マフ〇ィー・ナビー■・エ△ンみたいな感じと理解していただければ」
「それ自体が何者かは分からないが、それは魔王の手先なのか?」
「司祭長」
「なんだ!」
「よーく考えれば、本物の悪人がそう質問されて、この場でペラペラ喋ると思いますか?」
「ないな! よし、神殿での審問が望みという事だな」
「まあご自由に。存在しない組織の情報なんて、テキトーにでっち上げるだけですから、拷問しても益のある事は聞けませんよ」
「なんだと……」
司祭長は顎に手を当てて、しばらく考え込む。
「今までの流れからして、全部芝居なのか?」
「そうですわ」
「では、貴女を王子の婚約者から外すというこの場は? こんな展開になる予定だった?」
「ああ、やっぱり根回し済みだったのですね。私が何を言っても否定出来るように」
「ゲフンゲフン……」
私に指摘された事で、司祭長は咳払いをし、周囲の貴族たちも目を背けた。
そう、本来この場では私への断罪・婚約破棄・国外追放が言い渡されるはずだった。
単純にハインツ王子が聖女リリーに心変わりしただけではない。
王家に次ぐ力を持つ公爵家の一つであるブルジア公、その力を削ぎたいという理由も含まれる。
堅物「だった」私を煙たがる王子と、その父の足元を掬いたい貴族たちが手を組んでの所業だ。
そして、傀儡として丁度良い、聖女リリーを後々王妃とすれば、宗教界としても都合が良かった事。
それらが融合し、私が何を言っても否定される場が設定されていた。
というシナリオである事が、私の頭の中にはインプットされていたのよ。
私、マリア・ド・ブルジアはこの世界に生きる女性ではあるけど、その記憶には地球という惑星で生活していた辺土名真理という、特撮オタクのものが入っている。
いや、今ではそっちの人格の方がメインね。
その人格は、このパーティーに参加する直前に目覚めたの。
二つの記憶が混ざり合った、何とも言えない気持ちの悪い目まい。
そこで私は、ここが乙女ゲームとやらの世界で、悪役令嬢とかの役割を与えられたという事を知ったわ。
そこからのゲーム展開は全部インプットされ、変えようがない感じ。
でもさ、
「乙女ゲームってなに? スーパーヒーローが戦うゲームしかした事ないわ!」
というのが私なのよ。
この世界に転生したのも、スーパーヒーロー絡み。
花屋でバイトをしていた真理は、某戦隊のコンドルを演じた人のような男性に、結婚式用の花束を包んで渡した。
その男性は店を出た後、ひったくり犯を成敗していたのよ。
悪い予感がして見ていたら、ひったくり犯はナイフを取り出した。
「貴方をまた死なせるわけにはいかない!」
そう思うや否や、私はダッシュをして二人の間に割り込み、刺されてしまった。
そこから先はよく覚えていないわ。
どうにも靄がかかっている。
そして、しっかりと覚醒したのがたったさっきというわけ。
でも、正直婚約破棄上等よ!
マリアの時はともかく、今の私は令和のバイクに乗らないバイクヒーローのなよっちい感じに、ナルシスト成分を足した王子って好みじゃないのよね!
もっと昭和の男くさい感じや、平成初期の精悍な感じが良いのよ。
なよっちいなら、せめて時の列車に乗って、何かに憑依される奴みたいになりなさいよ! って感じ。
だから婚約破棄は望むところ。
でも、神殿が見つけて来た聖女をいじめたから追放、は余りに理由としてアホ過ぎない?
理由がどうであれ、私の追放とブルジア公爵家への制裁は決まっていたみたいだけどさ、ちょっとは体裁を整えなさいよ、って感じよね。
だから、だったらいっそのこと、悪の秘密結社の大首領だったって事にすれば話が早いんじゃないかな?
そう思ったのに、付き合いが悪い連中だこと!
などと考えていたら、王子と司祭長と貴族たちが冷静さを取り戻したようね。
「お前が悪の秘密結社の大首領と言うなら、やはりお前をこの国に置いておくわけにはいかない」
「おおー、ちゃんと軌道修正出来たようですね」
「軽口を叩くな!
お前を国外追放とする! 衛兵、この女を引っ立てよ!」
「お待ち下さい、王子」
私がそう言うと、王子はニヤリと嫌な笑顔を浮かべた。
彼の想定の範囲内の、助命嘆願をすると思ったらしく、自分が優位に立ったと思ったのでしょうね。
残念ながら、私は貴方の理解の外にいると思うのよ。
「なんだ? 今更言い逃れをする気か?
自分で悪の秘密結社の大首領と言ったのだぞ!」
「そう、それです」
「なんだ?」
「それなら普通、牢獄に閉じ込めて、異端審問の末に火あぶりでしょ?
国家に背く存在を、国外追放で済ませたら、猛獣を野に放つものでしょうに」
「いや、それは、その……。そこまですると流石に他の貴族の手前……」
ゴニョゴニョなにかつぶやいている王子に代わって、司祭長が言葉を継ぐ。
「マリア嬢、貴女の虚言に踊らされる我々ではない。
悪の秘密結社など、本当は存在しないのだ。
万が一をと思って、先ほどはうろたえてしまったが、貴女の口ぶりからしてそんな組織はない!」
(正解。これから作るんだから)
「だが、王家や国に対し暴言を吐き、虚言で迷わせた。
悪の秘密結社は存在しないが、貴女は魔に魅入られ、人々を惑わせて楽しんでいる。
だから国外追放は妥当だ!」
私はため息を一つ吐く。
シナリオ通り進める為に、天か神かが調整したのか、頭が悪いのかは分からない。
でも、言わずにはいられない。
「だーかーらー、それは国外追放には理由として弱いの!
そんな虚言癖なら、幽閉して周囲との関係を断ち、その言葉で他を惑わせないようにするのが筋でしょ!
人々を惑わす言葉を吐く者を野に放って、被害を大きくしたらどう責任取るの?
ちっとは、アドリブってのを出来るようにしたら?」
「アドリブ……なんだそれは?」
「言い方変えるね。臨機応変に対応を変えたらどう? って言ってるのよ」
司祭長と王子が、設定を忘れて二人で相談しているわ。
本来は王子が断罪し、貴族たちがそれを了承し、新たに聖女と王子との婚約を司祭長が祝福する、という役回りだったのに、自分たちが結託していたって姿を見せてどうするのよ……。
で、相談がまとまったようね。
「貴女の言う通りだ。貴女もそれを望んでいるようだしな。では王子、どうぞ」
「う、うむ、調子が狂ったな。
マリア・ド・ブルジア! お前のような狂人は牢の中に居るのがお似合いだ。
ただちにお前の父・ブルジア公爵に身柄を引き渡す。
どうなるかは、きっとお前の望んだ通りになるだろう」
精一杯威厳を示して宣言する。
私も一礼し、
「それでよろしゅうございます。では皆さま方、お騒がせいたしました。ごきげんよう」
と言って会場を去る。
王子の横にいる、当事者でありながら展開に着いていけず、モブと化した聖女をチラ見する。
そして衛兵に付き添われ、会場の外に連れ出された私は、扉が閉められる音を後ろに聞きながら、つい悪い笑顔になり、心の中の言葉が漏れて来てしまったわ。
「計画通り!」
とね。
ご覧の通り、テンプレを踏襲しつつ、初手から踏み外した小説が始まりました。
終始こんな調子で進めます。
なんとか著作権に引っかからないよう、崖っぷちでムーンウォークする芸風なので、著作権的にヤバい箇所があったら指摘願えれば幸いです。
19時もアップします。




