勇者パーティを査定しよう
イスカリオ王国の防衛隊司令をしている私が、なんで悪の秘密結社のアジトに戻ったか?
それは次のマッチポンプの為。
どうもイカデーモンが作る怪人は、もう馬鹿王子こと勇者ハインツたちは軽く倒せるようになった。
イカデーモン自体が、人体実験や薬効の確認が好きなだけの、レベル的には低い薬師だから、はっきり言って大きく期待はしていなかった。
そろそろ次のステージに進みたいけど、まず現在の勇者パーティの戦闘力を確認したい。
というわけで、私が作ったゴーレムを持ちだそう!
「敵発見! ゴーレムのようだ!」
イスカリオ王国王城の見張り員が叫ぶ。
勇者たちに報告が飛ぶとともに、城兵が弓、バリスタ、投石機で阻止攻撃を行う。
全く効果がない。
王国騎士が馬に乗り、長槍により衝撃という近接攻撃を行う。
当然これも効果などない。
さらに魔導士たちが、火炎魔法や電撃魔法を繰り出す。
これも全然ダメ。
あとは勇者たちが出て来るのを待つしかない。
「遅い! ハインツとリリーはどうした?」
招集をかけたのに、今私の前にいるのは戦士ローグと魔導士ハルのみ。
聖剣を持つ勇者と、全員にバフをかける聖女が来ない。
「うーっす、遅れた遅れた」
ハインツがリリーと一緒に入ってくる。
「遅い! 敵はもう城門まで来ているぞ!」
オーダ司令官と名乗っている私が詰問するも、
「大丈夫、いつも敵っしょ? 俺の一撃で倒せるから。
まあ城門まで押し寄せさせたのは悪かった。
埋め合わせは、サクっと倒す事で返すから、よろしく~」
そう聖女リリーの肩を抱きながら豪語するハインツ。
抱き寄せられながら、頬をぽっと染めるリリー。
こいつら、戦う前に逢瀬を重ねていやがったな!
いや、本来ここは乙女ゲームの世界だから、それが正解といえば正解なんだけどさ……。
なんというか、リア充は戦闘中行方不明(M.I.A.)になっちまえ!
「油断しないで!
今まで倒してきたのは怪人のみ。
ゴーレムとは一回しか戦った事はなく、その時はボロ負けしたでしょ!」
司令官らしく私は厳かに言った。
しかし馬鹿は、
「あの時と俺たちと、今の俺たちじゃ違う。
あの時集まった各国の勇者・英雄連合は、ネームバリューこそ凄かったが、今思えば大した強さはなかった。
あんたが鍛えまくってくれたおかげで、俺たちはずっと強くなった。
だから司令は、お茶でも飲みながら見物してたらどうだ」
と完全に油断しきっている。
私がそんな生ぬるい敵を連れてきたわけないでしょうに。
「とにかく、出撃。
城内に入れて市民に被害を出さないように!」
「ほーい、じゃあてめえら、行くぞ!」
完全におごり高ぶっている。
ローグやハルも、最近は怪人を一蹴出来るから、リーダーでもあるハインツに任せっきりな部分が見られる。
自分たちは周囲の戦闘員を倒して、リーダーの為のお膳立てに徹する。
うん、戦隊としては赤の為に、青や緑はそういう役回りなのは正しいけどね。
でも、私が考えるパーティはそれではないのよ!
「国王に連絡。土魔法の使い手を用意し、私の指揮下に入れて欲しい。大至急お願い」
ハインツたちを見送った後、私は副官にそう告げた。
マッチポンプではあるけど、司令官としての仕事もちゃんとしないとね。
私は魔法使いたちが集まると、ただちに戦場へかけつけた。
「おい、でくの坊! お前などこの一撃で終わりだ!」
ゴーレムを発見したハインツは、聖剣を構えると、そのまま強力な一撃を放った。
しかし……、
「なんだと? 無傷だと?」
ハインツは目の前の光景が信じられないとか、二の剣を打つ事もなく、立ち尽くしてしまう。
「王子、ここは私が!」
魔導士ハルが詠唱を開始する。
彼は初歩の魔法は無詠唱で打てるが、どうやら努力をしたようで、高レベル魔法も使えるようになっていた。
「滅却の業火!」
物凄い火炎がゴーレムを襲う。
しかし、やはり無傷で立っている敵に、
「なんでだ? 物理も魔法も効かないのか?」
と唖然としていた。
そしてゴーレムが殴りかかってくる。
「俺が防ぐ!」
戦士ローグが、戦闘民族の丸盾でその一撃を受け止める。
その盾は私が用意した、強力な防御性能を持ったもの。
盾は壊れない。
でも、衝撃を受け止めたローグの足が地にめり込み、少なからぬダメージを受けたようだ。
私が鍛え抜いただけあり、骨が折れたり、内臓が潰れたりはしない。
それでも血を吐くあたり、盾で受け止めた衝撃が、そのまま体内を破壊したようだ。
「リリー、ダーツに回復魔法を込めてローグに投げる!
戦術を変更!
治ったらローグを前面に出す。
ハインツとハルは、魔法攻撃で敵の気をそらす!
リリーはその後、全力で皆の防御力を強化!」
戦場に駆けつけた私は、即座に命令を出した。
「了解!」
「うっしゃぁ! 俺の出番か!」
「攻撃力じゃなく、防御力強化ですか? 分かりました」
三人はその通りに隊形を入れ替える。
だが、勇者ハインツは納得していないようだ。
「ハインツ! 指示に従いなさい!」
「うるさい、黙れ!」
そう叫ぶと、ハインツは聖剣を刺突の構えに変更、そのまま突撃した。
(あの馬鹿……)
私はそう思いながら、ゴーレムを操作する。
そう、あのゴーレムは私が操縦していた。
ハインツたちに指示を出しながら、敵であるゴーレムは私が動かす。
圧勝しないよう、手加減するのは中々難しいのよ。
そんな私のゴーレムに突撃した馬鹿は、見事に弾き飛ばされた。
「ハインツ様!」
叫ぶリリーに私は、
「聖女はそこを動かない! ローグ、これは回復薬だから、ハインツに投げつけて。
荒っぽいけど、ぶつけて割って、それで治療よ」
「はっ」
ローグがゴーレムをけん制しつつ、ハインツへ回復薬を投げる態勢に入った。
その時、
「そんな必要ねえよ……」
とハインツが立ち上がる。
「早くこちらに来て回復だ」
「ああ……」
馬鹿王子が素直に後退して来た。
そして意外な事を話す。
「あのゴーレム、頑丈というわけじゃねえぞ。
俺の聖剣での衝撃が、斜めに逸らされた。
攻撃は全て、あいつの周囲で滑ってしまう。
だから俺の攻撃も、ハルの魔法も効かなかったんだ」
単なる暴走かと思ったが、どうやらそれを確かめる為だった模様。
戦闘に関してだけは、馬鹿ではないという事実を、ここでも示した。
「ではどうする?」
「ローグ、お前も同じ事をしろ。
その盾は砕けない。
だから、相手の攻撃逸らすように盾を使え」
「おう、分かった!」
「俺とハルはあいつの足元を攻撃だ。
本体に魔法が通じずとも、足元を崩せば、攻撃力が弱まる」
「なるほど、本体じゃなく土を掘り返すのだな」
「そうだ。リリー、強化を頼むぞ」
「はい」
勝てない相手に対し、ちゃんと考える事が出来ている。
ここは評価してあげないとね。
さて、こちらの準備が出来るまで、ゴーレム相手に時間稼ぎをしてもらいましょうか。
ドガッ、ゴスッ、バシッ、衝撃音が響く。
ゴーレムの猛攻を、ローグがひたすら耐えていた。
それでも、派手な音の割に、最初よりも威力は低下している。
ハルの使った水魔法により、ゴーレムの足元はぬかるんでいる。
殴った分の反作用で、ゴーレムはスリップしてしまっていた。
それでも、受け流しているとは言っても、ローグの体力は減っている。
ハインツはそんなローグがよろけたら、支えるような献身をしていた。
バフをかけ続けているリリーからも汗が滲んで見える。
強敵相手に精神が消耗しているのだろう。
「よし! 皆、そこから離脱。横によけなさい、必ず横よ!
ハインツ! まだ余力があるのなら、ゴーレムの背後に回って、蹴りでも入れなさい!」
私は次の命令を出した。
「そんな事をしたら、城内に入るぞ」
「いいから、やる!」
ハインツの反論を封じ、ゴーレムを所定の場所まで押し込ませた。
すると、ゴーレムが視界から消える。
私は土魔法師たちに命じて、深い落とし穴を掘らせていたのだ。
ゴーレムはその上に乗ってしまった為、地下深くに沈んでいった。
「今よ!」
私は何やら唱えてみせる。
するとゴーレムが発光し、光が消えるとともに動きを停止した。
私も杖を落として、その場に崩れ落ちる。
「司令!」
「オーダ長官、どうなさったのですか?」
戦闘の疲労もあるだろうに、ローグ、ハル、リリーが駆け寄ってきた。
「大丈夫よ。
これは封印の呪文。
とりあえず地下に落として、動けなくした。
敵が強力なほど、思いっきり消耗してしまう。
だから疲れただけで、身体に問題はないわ。
今日のところはここまでにしましょう」
「我々に耐える戦闘をさせていたのは?」
「この為の時間稼ぎ。今はこれが最善手」
パーティの皆がすまなさそうにしている。
まあ、演技なんだけどね。
私は錬金術は出来るけど、魔法はとんとダメ。
魔道具を使ってズルは出来るけど、本当は封印呪文なんて知らない。
あるのかどうかも分からない。
ゴーレムは単に、動かないよう命じただけ。
でも、こうする事には意味がある。
「このままずっと動かないのか?」
ハインツが戻って来て尋ねる。
私は首を横に振ってみせた。
「はっきりとは分からないけど、封印は持って一日くらい。
明日になると動き出すと思う」
「もう一回同じ手は?」
「通じたら良いねえ」
「いや、通じなくて良い。こいつは俺たちが倒す」
また脳筋な事を言い出したかと思ったが、勇者は案外殊勝だった。
「疲れているところ悪いが、あいつを倒す方法を教えてくれ。
今の攻撃では、全部逸らされるだけだ。
あんた、司令官なんだから、対策を立ててくれよ。
一日もあれば、どうにか出来る。そうだろ? 頼むぞ」
なんか戦闘時の馬鹿王子はカッコいいかもね。
惚れたりはしないけど。
こんな感じで、強敵をぶつける事でパーティの今の強さは把握出来た。
査定完了ってところね。
じゃあ、消耗して倒れた演技はあと二時間くらいで終わって、皆に戦い方を伝授しましょうか。




