ついでに悪役もスカウトしましょう!
ユーリーの話を聞くに、ラージュ伯爵からはドグサレ外道の臭いがプンプンするわ。
気前の良い主人のふりをして、夢を大きくさせてから砕く事に楽しみを感じている。
賽の河原に連れて行ったら、生き生きとして子供の積み上げた「母恋し」の石を崩して回るだろう。
そして、腐った奴には腐った仲間がいる。
これほど殺されても構わない悪役にピッタリの逸材はいない!
まあ、どれくらい腐っているか、一回自分の目で確かめないとね。
「誰だ?」
私は酒盛りをしている伯爵の前に、天井をぶち破って登場する。
「お前、魔物か? 我が屋敷を壊すとは万死に値する。
だが、見栄えは良いな。よし、お前は成敗した後に慰め者にしてやろう!」
うん、実に理想的な悪役の台詞だ。
私は手に抱えていた物を投げつける。
「こ、これはユーリー・ゲオルグ!
アハハハハハ、お前のよくよく運がない男よのお。
我が屋敷を右腕を捨ててまで逃げ出したというのに、こんな魔物に捕まってしまうとはなあ」
頭をゲシゲシ蹴りつけながら罵っている。
悪役ポイント上昇し続けている、良いね、良いねえ!
「おい、そこの女を捕らえろ。
死ななければ、どんな事をしても良い。
どうせ魔物なんだから、多少の事では死にはしない」
伯爵は蛇がカエルを見るかのような、何とも言えない視線を投げかけると、部下たち、いやこれは自動人形に向かって言い放った。
「私は魔物じゃないわよ、失礼ね!」
そう言うと私は、襲い掛かって来た機械人形たちの胸元を軽く突く。
直後、その人形たちは内側から発火して燃え上がった。
「な、なにをした?」
「うん? そいつの体内に大量の爆薬を生成しただけよ」
「は? 爆薬? 火炎魔法や爆裂魔法とは違うのか?」
「うーん、私魔法は使えないのよねえ。私も錬金術師で、魔力はもっぱら錬成にしか使えない」
「錬金術師……だと? あ、お前、見覚えがある!
お前、イスカリオ王国のブルジア公爵令嬢マリア!」
「あら、私を知っているとは光栄ね。
どちらかでお会いしたかしら? とんと、貴方のような毒蛇に見覚えがありませんわ」
「手配書だ。イスカリオ王国から、国事犯として手配書が回って来たんだ!
その後なぜか、『うちの馬鹿の早とちりなので破棄して下さい』という回状も来たがな」
「あらあら、国王陛下も芸が細かい事ですねえ。
放っておいても何の支障もないんですけど」
「お前、一体何をした?
手配書には城の一部を切り取って歩かせ、魔王に献上したとあったが、はっきり言って意味が分からなかった。
言え、一体何をしでかした?」
「ああ、自分の城の端にある牢獄兼用の監視塔を、魔改造してゴーレム化し、そのまま脱出したのよ」
「もっと意味が分からん」
「そして悪の秘密結社を立ち上げて、怪人を作ってイスカリオ王国を襲ったの」
「さらに意味が分からん、なんだ、悪の秘密結社って?」
「でも、余りに弱くてつまらなかったから、怪人を引き上げて、魔王の城に送り込んだ」
「全然意味が分からん! お前、魔王の手先じゃないのか?」
「違うわよ。私は悪の秘密結社アクジャネカの大首領マリエル。以後お見知りおきを」
そう言ってスカートの裾をつまみ上げる。
呆気に取られている伯爵に、私はある事実を告げる。
「私を捕まえて、変態な事をしようと思ってたみたいだけど、時間切れよ」
「な、なんだと?」
「足元のそれも、人間じゃなくて私が作った爆弾だから」
「な! 早くそれを言え!」
言うわけないでしょうに。
哀れ、ラージュ伯爵は吹き飛ばされて、血まみれの肉体となって転がる。
「だ……騙したのか?」
「別にい~。それがユーリーちゃんだなんて一言も言ってないわよ。
あんたが勝手に勘違いしただけじゃないの」
「ゆ……許さんぞ、こんな屈辱……」
「うん、合格!」
「は?」
傷ついた身体に回復薬をかけて治療しながら言った私の台詞に、伯爵はポカンとする。
「痛い目に遭って、命乞いをするような軟弱者なら、そのままにしておいた。
痛い目に遭ってなお、私に牙を剥いてくるくらいでないと、組織を任せられないからね」
「組織? なんの事だ?」
「貴方、悪事がしたいんでしょ?
思いっきり残虐な事をしたいんでしょ?
その為に普段は善人の仮面をつけている」
「知らんな、何の事だ?」
「そんな貴方にプレゼント!」
「おい、知らんと言っている! 話を聞け!」
「乗り込んできた私を慰み者にしようとか命令した時点で、何言ったって無駄ですよ」
「……確かにな……。で、一体私をどうしようと言うのだ?」
「ではまず、簡単な物理学のお話をしましょう。
数学かな?
直線……前と後ろしかない世界を一次元といいます」
「何の話をし……ぐぇふぉ」
「説明は最後まで聞きましょうね。そうすれば、痛い目に遭いませんから」
(この女、絶対殺してやる……)
「じゃあ、続けますね。前後と左右がある世界、これを二次元と言います。
つまりは紙の世界です。
ここで質問です。紙の表面の住民は、裏の世界を知りえるでしょうか?」
「無理じゃないのか?」
「はい、正解。
こうして捻りを入れて結んだメビウスの輪というもはありますが、それは置いておきます。
基本的に表の人間は裏の事を認知しません。
さて、我々が住む世界は縦横と高さがあります。これを三次元と言います。
しかし、実際には時間という軸もあるので、四次元と言って良いでしょう。
では先ほどの話を思い出しましょう。二次元には裏表があった。
では三次元、四次元の我々にも認知できない隣合わせの世界があるって思いませんか」
「それはそうかもしれないが、だから何だと言うんだ?」
「はい、貴方へのプレゼントは裏次元の支配権です!
この屋敷に入口を既に作ってあります。
正確には私が作り出した裏次元なので、プランクブレーンと言いますが、特撮的には裏次元にしましょう。
あれ、プランクブレーンでも特撮的に通じるか……、じゃあどうしよう。
でも、伯爵を付けた時に響きが良いのは……」
「何をブツブツ言っている?」
「はい、貴方は今日から裏次元伯爵です!
そこをアジトにした悪の組織を任せます!
そこで好き勝手に悪事をやって下さい」
「は?」
「お仲間もいっぱい居たでしょ?
そいつらを引き連れて、表では善良な貴族をしながら、裏次元では悪事の限りを尽くしましょうか」
「……それは分かった。
だが、何故そんな事をさせる?
俺は確かに、お世辞にも性格が良いとは言えず、人が苦しむ姿を見る程酒が美味い悪人だ。
自分で分かっているから、仮面をかぶり続ける事が出来る。
そんな俺に、大っぴらに悪事を奨めるとは、一体何を考えているのだ?
この世界で普通を装うだけの常識を持つ俺より、お前は余程ぶっ飛んだ性格をしているぞ」
はい、お褒めの言葉をいただきました。
ぶっ飛んだ性格とか、オタクにとっては賛辞でしかありませんね!
でも、この悪人に全てをバラす必要はない。
余計な事をされても困るのでね。
「言いましたよね? 私は悪の秘密結社アクジャネカの大首領マリエル。
世界に混沌をもたらす女。
私はいずれ、神をも引きずり下ろす。
その為に活動をしているのよ」
「狂ってるな」
「そう見えるでしょうね。確かに貴方は正常です。
で、真っ当な神経を持つラージュ伯爵、裏次元伯爵として私とは別の組織を作る事を承知しますか? 断りますか?」
「返事の前に聞きたい。それはお前の下部組織なのか?」
「いいえ違います。
貴方は貴方で好き勝手にやれば良い。私は口出ししません。
そして、友好団体ですらありません。隙あらば、私の組織を滅ぼしても構いませんよ」
「言ったな。その言葉、確かに聞いたからな。
なれば、答えは承知、だ。俺の好きにやらせてもらう!」
「良い返事です。
でしたら、このプランクブレーンに用意した、ホムンクルス製造機について説明しましょう。
手勢はいくらでも作る事が出来ますよ~」
私の説明を、表面上は笑顔で感心しながら、時に派手な称賛もして来る。
でも、殺気が隠せていませんねえ。
実に良い!
私の勢力圏から離れているこの国に、悪事を働く別団体があってくれた方が、私も楽になるからねえ。
私を恨んで、寝首を搔いてやろうと執念深く付け狙えば、凶悪な攻撃は私に向かう。
そしてこの国には、貴方に復讐しようとするヒーローがいる。
貴方の悪事は阻止されるだろう。
マッチポンプの仕組みが出来て、実に気分が良いわ!
ちなみにさっき、人の説明を途中で遮った時、「ぐぇふぉ!」と汚い悲鳴を挙げた時、私は奴の深層心理に軽く細工をしておいたのよ。
奴はこの国に巣食う闇の住人、犯罪者、奴隷商人などを優先的に狙うよう、思考誘導されている。
無辜の市民という、弱くて富を持っていない存在は、苦しめて夢を奪っても大して快感を覚えない。
自分と同じ闇の世界の者を、富も名誉も全てを奪い、絶望させてこそ快感を覚えるよう、洗脳してみたわ。
そんな闇の住民同士の抗争に首を突っ込むユーリー、彼はきっと正義の味方にはならない。
助ける側だって迷惑者だったりする。
でも、彼は正義の味方でなく、復讐者なんだからそれで良いのよ。
この国はそういう風に設定しておこうか。
こうして私は、カナニア王国での用を済ませた。
五人目の戦士を見つけるという目的は果たせなかったけど、それなりの収穫は得られたと思う。
私は一回、瞬間移動でアジトに帰る事にする。
「ただいま~!」
いきなり帰ってきた私に、女官長のサラと執事のヤンは驚いたが、すぐに、
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「お嬢様、連絡のひとつ入れてからにして下さいよ!」
と普通に接してくれた。うん、出来る子たち。
「留守を守ってくれてありがとうね。
これ、ガリアノ王国で採れた野菜。
あとカナニア王国の賭場で使われている、四枚のうち三枚が透明になっているテーブルゲームの牌と、血抜きセット。
アジトから出られない君たちへのお土産だよ」
私はにこやかに渡したつもりだった。
「あ!」
サラが何かを思い出して、私を睨む。
「お嬢様、瞬間移動が出来るんですよね?」
「まあ、移動する場所に魔法陣を書いておく必要はあるんだけどね」
「……この前、買い出しに行った時、あの酔う乗り物使わなくても良かったんですよね?
先に何かを派遣して魔法陣を書いておけば、瞬間移動で買い物に行けましたよ?」
あ! 確かに。
あの時の酷い乗り物酔いで、私サラから軽く恨まれていたんだった。
「え? でも瞬間移動だと、荷物を運べないから……」
「今、結構なお土産持って帰ってきましたよね?
はっきり言っていいわけですよね?」
こめかみに怒りマークが浮かんで見える。
こりゃ身分や立場を無視した説教が始まる。
私が悪いと思ってるから、反論はちょっと出来ない……。
さっきまで他国の貴族に見せていた悪の首領らしさはどこへやら。
私も舞台裏ではこんなものだったりするのよ。




