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社会の闇のある国

 カナニア王国。

 ここは魔の森に隣接してなく、主要国と等距離にある国である。

 戦乱からは遠く、経済的には繁栄している国、のようだ。

「のようだ」というのは、私の乙女ゲームのデータには詳細情報がほとんど入っていないからだ。

 この国はメインステージではないから、ここでの冒険はない。

 しかし、全く出て来ないわけではないから、微妙である。

 ここにはカジノや娼館、奴隷市場に裏社会といった「闇」が存在している。

 無論、国としては普通に市民が生活して、真っ当な生活を送っている。

 しかし、他の国々に比べて平和ゆえに、内部が腐っているとも言えた。


 かつて悪の秘密結社「アクジャネカ」、そのアジトを攻撃しに来た連合軍がある。

 私の母国イスカリオ王国、その隣国ガリアノ王国、部族連合ゆえに半数が参戦したヤメン部族連合、そしてこのカナニア王国。

 イスカリオ王国は魔の森に隣接し、最前線を担う国だから、はっきりいって軍事国家。

 国王シュナイデル三世という要を中心に、武闘派の貴族たちが放射状に配置されて人類社会そのものを守っている。

 その後継ぎが馬鹿だから、国王としては何とかしてやりたいところだろう。


 その友好国であるガリアノ王国は、産業の発達した国だ。

 農業・林業・漁業・鉱業という豊かな国土から得られる恵みで栄えている。

 だが、それゆえに犯罪者に狙われるという面もあった。

 イスカリオ王国との自然国境を成す山岳地帯や河川地帯は、交通の難所であり、それゆえに各国を追われた犯罪者たちが隠れ住む。

 そして豊かなガリアノ王国の農村や、鉱山労働をしているドワーフ族を襲撃して、その日の糧を得ていた。

 その為にガリアノ王国は、警察機構が発達している。

 魔物との戦いは想定していない為、地道に捜査をして、犯罪者を捕縛といった具合だ。

 そして、彼らはよく殉職する。まるでそうなるシナリオであるかのように。

 私が助けたボイスという官憲も、放っておいたら殉職者の仲間入りしていただろう。

 まあ、そんな国なので、カジノとかは置けない。

 真っ先に警察機構に摘発されるからだ。


 ヤメン部族連合は、その名の通り様々な部族が集団を作り、代表者会議によって「国家」と名乗っているに過ぎない。

 各集団、「八旗」と呼ばれる色別の旗に集う集団は、半定住の生活を送っている。

 季節ごとに居住地を変えるのだ。

 例えば魚人族だと、冬は河口から海の方に移動し、夏は上流の冷たい水辺で暮らす。

 エルフ族だと、冬は山奥の大樹の中に潜んで活動を停止し、夏は人里近くに出現する。

 こんな感じのスタイルだから、カジノとかは無い。

 安定した顧客が出来ないのだから。


 となると、商業国家であるペリシ共和国連合、先の連合軍には物資供給だけしていた国と、このカナニア王国にそういった歓楽街が出来るわけだ。

 ただ、歓楽街と言っても二つの国では性格が異なる。

 商人、船乗り、冒険者が集うペリシ共和国連合の方は、陽気で明るく治安も良い。

 博打で身代失う者も出るが、明日の金儲けには事欠かない為、暗さがない。

 そして、残ったカナニア王国に他の国には無い都市の「闇」が出来たという事になる。


 さて、私がこんな説明をした理由を言いましょう。

 私は五人目の戦士を勧誘に来たのだ!

 馬鹿王子こと勇者、聖女、戦士、魔法使いの四人パーティを私は鍛えている。

 しかし、足りない!

 絶対五人は欲しい!

 でないと、戦隊にならない!

 だから私は、カジノでイカサマをしながら女性を口説き、タバコをふかしながら、

「俺は男と納豆が大嫌いなんだよ!」

 と喧嘩をするような「遊び人」を追加したいと、切に願っている!

 イメージカラーはブラック!

 ブラックさえ加入してくれたら、私はまた悪の秘密結社稼業に戻るのに……。


 といった感じで、私はまた姿を変えてカジノに潜入した。

 それっぽい奴は……いない……。

 イメージ通りの、お子様は入れないダーティな雰囲気なのは確かだけどね。

 本物の持つ、怪しげで色気のある気配が感じれないのよ。

 数件回ってみたけど、全部同じ。

 小悪党が、小銭稼ぎに目が眩んだ小市民を食い物にしているだけ。

 たまに勝たせてやって、満足な顔で帰らせるだけ良心的じゃないかしらね。

 まあ、子豚の内に食わないで、十分太らせてから御馳走にしよう、って肚なんだろうけど。


 と、私の「昭和のヒーロー系いい男」センサー……もとい、正義か強者を感じ取るセンサーが反応した!

 髪の毛の、アホ毛と呼ばれるものが、そうした気配を感じるとピンと立つのよ。

 それに導かれて行ってみましょう。


「ううう……おのれ、ラージュ伯爵め……」

 そこには右腕を切り落とされ、周囲を血で染めている男がいた。

 このままでは出血多量で死ぬのだろうが、その者は残った手で止血をし、気つけ薬を飲んで、気を失わないようにしていた。

 だが、このままでは死ぬのも時間の問題だろう。


「一体どうしたのですか?」

 私はその者の前に姿を現す。

「何者だ! 追手か?」

「追手? 誰に追われているのですか?」

「……ラージュ伯爵の手の者ではないようだな。

 だったら私になんか構うな。

 巻き添えを食らうぞ……」

 そう強がりを言うその男に、私は回復薬(ポーション)をぶっかけた。

「何をする?」

 私の方を睨んで来たが、妙な感覚がしたようで右腕の有った場所を見ると、そこから腕が生えて来ている。

「手が……治っただと?」

 そうつぶやくと、彼は気が緩んだのか、その場に倒れて、寝息を立ててしまった。


「はっ? ここは?」

 しばらくしてその男は、私が取った宿の中で目覚め、思わず跳ね起きる。

「感謝して欲しいわ。

 治してあげた上に、かくまってあげたんだから」

 そう言う私に彼は、

「礼を言う。貴女のおかげで助かった。本当にありがとう」

 と頭を下げる。

「じゃあ、教えてちょうだい。

 ラージュ伯爵とは何者? 貴方は何故、腕を切り落とされたの?」

 その男は語り始めた。


 彼の名は、ユーリー・ゲオルグ、錬金術師だ。

 彼はパトロンであったラージュ伯爵の元で、強化鎧の開発を行っていたという。

 それは自由自在に形を変え、戦場に最適化した形状で身を守るものだった。

 根っからの技術者であるユーリーは、仲間たちと共に研究に励んでいた。

 だが、そんなある日、突然彼らは呼び出されたと思ったら、切りつけられる。

「伯爵、一体どうして?」

「お前ら、楽しそうだったなあ。

 もう研究は完成するんだろう?

 私はなあ、そうして喜んでいる庶民の顔を見ると、虫唾が走るのだよ!」

 酷い理由である。

 さらに伯爵は、別の理由も告げた。

「私は、お前たちの研究が完成しない方に賭けていたんだ。

 なのに、間もなく完成だと? 私が損をするではないか!

 だから、お前たちの研究は、決して完成する事はないのだ。

 賭けは私の勝ちなのだ!」


 だが、ユーリーたちも闇社会を持つ国で育っただけある。

 術を駆使して反撃し、伯爵邸からの脱出を図った。

 だが伯爵お抱えの、シザーアームというあだ名の騎士によって、右腕を切断されてしまう。

 その男も過去の戦傷から、左腕が義手……というかハサミ状になっていた。

 シザーアームのあだ名の由縁である。

 シザーアームはそれで歪んでしまい、他人を殺す前に腕を切り落とす事で心休まるようになっていた。

 そんな歪んだ精神だからこそ、腐れ外道のラージュ伯爵の目に留まったのだろう。

 ユーリーは右腕を切り落とされたが、血を目潰しに使って、どうにか脱出に成功したという事だった。


「なるほどねえ。

 で、ユーリーはラージュ伯爵に復讐をしたいの?」

「ああ! 奴と、シザーアームと、ドゥーヴェ男爵、フリューゲル大僧正、あとゲー博士とか呼ばれていた取り巻きども、まとめて殺してやる!」

 この人は復讐の鬼と化す。

 戦隊……じゃなく勇者パーティの一員にはなれない感じだ。

 私はため息を吐くと、この男に提案する。

「その研究成果を見せて欲しい。

 その代わりに、私が復讐の手伝いをしてあげる」

「なんだと? 失礼だが、貴女に一体何が出来るというんだ?」

「私も錬金術師。理由あって名前は教えられない。こんな社会の闇にいるのだから、理由はお察しで。

 で、私はこういう事が出来るわ」

 私は、ガリアノ王国で披露したコンバットスーツの蒸着を、右腕だけにして見せる。

 ボイスに渡したのとは違うデザインで、悪の大首領に相応しい禍々しい刃を生やしていた。

「なんと!

 これほどまでの術士とは。

 こちらからお願いする、手を貸してくれ。

 これが私の研究成果だ」

 常に懐に入れて持ち歩いていたのだろう。

 研究成果のノートを、ユーリーは渡して来た。

 私のスキルである「世界の真理(ブラフマン)」が解析したところ、地球に居た時に存在した形状記憶合金を更に進化させたもので、魔法工学を使っているから、実際のサイズ以上に巨大化も出来るようだ。

 これは紛れもない新技術。「世界の真理」も認識していない技術という事だ。

 やはりこの男、死なせるには惜しい。


「この技術、復讐に利用してみない?」

「復讐に、ですか?」

「そう。貴方の右腕、簡単に説明すると、切り落とされたトカゲの尻尾を、超速再生したようなものなの。

 とりあえずは動くけど、精密動作とか、全力を込めるとかはまだ無理なのよね。

 どこかの異世界では『リハビリ』って言うんだけど、神経や筋肉の感じを元に戻す作業があるの」

「はあ……」

「つまり、貴方の右腕は完全ではない。

 だから、その右腕と、貴方の研究成果の金属を融合させ、思い通りに変化する武器にしてみない?」

「なんだと? またこの腕を差し出せって言うのか?」

「どうせ一回失った腕でしょ? それに、ひ弱な錬金術師の貴方が、武器も無しで伯爵たちに復讐出来ると思ってるの?」

「いや……」

「だったら、自分の腕のように操れる武器、普段は人間の腕であるから持ち物検査でも見つからない、そういうものが欲しいと思わない?」

 ユーリーは考え込んだ。

 そして、こちらを見る目に鋭い覇気が入り込んだ。

「お願いする。

 私の技術と貴方の技術を融合させて欲しい」


 話はまとまった。

 私は彼の成果物と、彼の右腕を融合させて、生体武器と呼べるものを開発した。

 そして同時に鉄兜を渡す。

「これは?」

「変身道具よ。

 これをかぶると、右腕の生体武器(アタッチメント)と連動して、貴方の肉体を防御スーツが覆うわ。

 前に開発したのは皮膚呼吸が出来ない、汗を大量にかく、熱がこもると散々だったけど、これはバージョン2といったものね。

 防御力はオリハルコン製の前のものよりは弱いけど、刀とかで切られるくらいなら、簡単に弾き返す強度を持っているわ」

 ユーリーは試しに装着してみた。

 そして彼は、復讐の戦士へと姿を変えたのだった。


(前のコンバットスーツは、口元まで防護したせいで、喋れない、息苦しいという欠点を抱えていた。だから、今回は鼻から口にかけては開放しているけど、やっぱりちょっと微妙だよなあ)

 私は、登場時は「邪魔!」「弱いのに出て来るな」と子供たちに罵られたヒーローを頭に思い浮かべ、その像に心の中で謝罪していた。

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