鋼鉄の警察
イスカリオ王国とはいくつかの山岳と河川をおいての隣国・ガリアノ王国。
自然国境が出来ているため、両国は適度な距離感を持っていて、ゆえに仲が良い。
ガリアノ王国にしたら、たまに国境の山岳地帯で人為的な崖崩れが起きるのだけが難点だ。
……それの原因であるイスカリオの国王に文句を言っても、謝ってはくれるが、基本的にやめてはくれない。
この危険極まりない山岳地帯は、それゆえに人が入り込まない。
その為に、国に追われるような犯罪者が隠れ住む事がある。
中には義賊と呼べる者たちが籠る、リョーザン・パークと呼ばれる市民にも安全な場所はあるが、基本的にはここに籠る者は山賊・夜盗の類である。
そんな犯罪者に向かって、ある男が追跡を行っていた。
「へへへ、官憲さんよ。お前さんも馬鹿だねえ。こんな山奥まで追いかけて来たら、もう敵は俺だけじゃなくなったぜ」
村を襲い、強盗殺人をした者を、この付近で一番の都市に勤務する官憲が追いかけて来たのだ。
だが、深入りし過ぎたのは確か。
強盗犯が嘲るように言うと、同時に官憲の足元に矢が突き刺さる。
周囲には、やはり脛に傷があるならず者が潜み、官憲を殺そうとしていた。
そして、
「ぐあ……」
強盗犯に矢が突き刺さる。
ここは弱肉強食の世界。
勝ち誇ってさっさと逃げ去らなかった強盗犯が悪いのだ。
彼が他人の命を奪ってまで盗んだ金品は、彼の命を奪った者によって回収されるだろう。
そんな中でも、この官憲はしぶとかった。
矢をかわし続け、山を登っていく。
石を投げつけられ、額から血を流すが諦めない。
どうにか地に足をしっかり着けて戦える場所まで来ると、彼は剣を抜いて身構えた。
「お前、しつけえよ。
命が惜しかったら逃げりゃ良かったんだよ」
身を潜めた犯罪者の声に、その男は叫ぶ。
「敵に背を見せてはならない。
大体、貴様らは逃げようとしても、その背に向けて矢を放っただろう。
ならば、俺は正義を貫き、ただ前進あるのみ!
例え矢によって死す運命が同じでも、逃げての死より、前進しての死を俺は誇りに思う!」
その男の言を、悪党たちは冷ややかに聞いていた。
余りにも熱い叫びだったゆえに、暑苦しくて冷め切った感じだ。
そんな中、どこからか拍手の音が聞こえる。
「いいわあ! その暑苦しさ! まさしく昭和!
太い眉毛と日に焼けた肌、そしてダサい髪型!
どれをとっても逸材じゃない!」
私は思わず拍手をして、その人の前に歩み寄る。
そんな私に矢が飛んで来た。
「おい、あんた、危な……」
矢を弾き飛ばす私を見て、その男は言葉を最後まで続けられなかかった。
硬度10に達した私の身体と、自動的に貼られる防御結界と、演算の結果空間に多数の断層を生じさせるスキルを甘く見ないでもらいたいわ。
呆気に取られているその男に聞いてみる。
「貴方、お名前は?」
「あ、ああ、俺はガリアノ王国国境警備隊所属、治安警備隊のボイス・アインだ!」
「私は、異世界刑事長官の娘・ムムー。
貴方のような熱い刑事を探していました」
「けいじ? 官憲の事か?
まあ、良い。ここは危険です。奴らの取り締まりこそ俺の使命!
ここは俺に任せて欲しい!」
そういうボイスに、私はブレスレットを渡す。
「これは?」
「貴方の情熱は買いましたが、鎧すら着けずに戦うのは感心しません」
「鎧など着たら、山を登っての戦いには役立たない」
「だから、それを着けて叫ぶのです。蒸着! と」
言っておくけど、蒸着って化学用語であって、特撮だけの用語じゃないからね!
金属などを蒸発させて、表面に付着させる処理、または薄膜を形成する方法の一種なのよ。
何故か、誰に習ったか分からないのに、ボイスは「蒸着」と叫ぶと、妙にカッコいい無駄な動きをしてから手を空高く突き上げた。
するとボイスは銀色のコンバットスーツに包まれる!
その時間、わずかに0.05秒!
ここで変身プロセスをもう一度見てみよう。
蒸着と叫んだ後、両手を前に突き出す。
そして体を捻り、右手を左足につけて溜めを作る。
そして右手を高々と突き上げる。
すると雲間から魔法陣が展開され、そこから光の粒子が降り注ぐ。
光の粒子がボイスの身体を覆った。
そして粒子が全身を包む装甲への変化。
これこそ、刑事長官の娘・ムムーなどと名乗っているマリアが開発した、全金属戦士の変身メカニズムなのである!
「……………ッ!」
「え? なんだ?」
「……………ッ! ……………ッ!」
「何言ってんだよ!」
あ、毒対策で口の所もしっかりガードしたから、声が届いてないわ。
改良しないと……。
「……………!!」
何か言うと、ボイスはダッシュをする。
そのコンバットスーツには、筋力強化をするバフ効果もあるから、動きは非常に俊敏になるわ。
悪党の矢や投石を物ともしない。
それはオリハルコンの粉を魔力で形成したものよ、通常の武器どころか、「人間界無双」シュナイデルの一撃にだって耐えられる装甲なのよ。
ボイスは、見つけ次第敵を取り押さえる。
あれ? なんでアレを使わない?
「おーい、ちょっと待った」
「…………」
聞こえていない。
あ! 耳の部分も防御しているから、周囲の音はともかく、こっちの声とかは聞こえないんだ。
仕方ないから私は念話をする。
「あーあー、ボイスさん、聞こえますか? どうぞ?」
「ムムーとやらか? どうした?」
「腰の所にある筒を持って、正義の念を込めて下さい」
「? やってみる」
すると、筒先から強力な光の刃が出現した。
正義の、暑苦しいまでの念を光魔法に変換する機能は正常なようね。
私は成功を確信し、ボイスに返事を返した。
「それは光る剣。敵を切り裂く、最強の剣よ」
「…………」
「おーい、ボイスさん、どうした?」
「気になったのだが、もしこの剣で、この鎧を切りつけたら、どっちが勝つんだ?」
やめろー! 私は漢文に出てくる楚の商人じゃないぞ!
特に考えて作っちゃいない!
だから私は、
「余計な事は考えず、まず敵をちゃちゃっと片付けましょう」
と提案してみた。
とりあえず、ボイスはそうするとの事だ。
そして、一通り犯罪者を取り押さえると、ボイスは戻って来た。
なんかフラフラしてる。
「…………」
「どうしました?」
「どうやったら解除出来る?」
「えーっと、あの番組では解除には何て言ってたっけ?」
「早く教えてくれ」
「よし、キャストオフにしよう。
さあ叫ぶのです、キャストオフ! と」
その叫びと共に、ボイスの身体に密着していたオリハルコンの装甲は、四方に猛烈な勢いで発射され、周囲を破壊した後で消えた。
消えたといっても、元の亜空間に戻っただけで、何回でも再利用できるけどね。
でも、そんな事言ってる場合じゃない。
ボイスが倒れてしまったのだ。
私はどんな状態異常があったのか、即座に機械を使って鑑定してみる。
結果は「大量に汗をかいた事での脱水症状」と「皮膚呼吸不足による障害」と出て来た。
密着させるスーツにはこんな弱点はあったんだ。
口と耳の部分の改良と、冷却機能、呼吸補助機能も追加しないとね。
だが、汗が出切って、濡れているのに汗が出ていないかなり深刻な状態なのに、
「ありがとう、君のおかげで俺は使命を果たせた!」
とボイスは握手を求めて来た。
私はその手を取ると、回復薬を渡す。
これでしばらくしたら全回復するだろう。
「ごめんね」
「何がだ?」
「そのコンバットスーツ、まだ改良の余地があるみたい」
「気にするな。それがあったから、俺は戦えた!」
「でも、君が何を言っているか、外に聞こえてなかったよ」
「そうか。だったら大声を出せば良いな」
「私の声も聞こえていなかったから、念話を使った」
「五感を研ぎ澄ませば良い」
「中が暑くて、汗をかき過ぎ、脱水症状になったでしょ」
「俺の鍛錬が足りなかっただけだ。もっと体を絞れば問題ない」
「そして、呼吸が出来なくなった」
「人間、頑張れば十分くらい水に潜れる。
それを強化して、三十分くらい無呼吸で戦えるようになれば、何の問題もない!」
ああ、なんという脳筋。
実に良いわ! ディ・モールト・ベネ! ってところね。
シュナイデル国王と肉体言語で語り合い、破壊した山を見に来たんだけど、こんな所で思わぬ逸材を見つけられて感激だわ。
「では、ボイス・アイン官憲」
「おう!」
「そのコンバットスーツは貴方にあげます。
これからも悪と戦う時に役立てて下さい」
「ありがとう! ムムーも悪と戦う戦士なのだろう?
何かあったら俺が恩を返す為に駆けつけよう!」
「そう。
なら言っておきたい事があります。
今、イスカリオ王国に侵略を開始した悪の秘密結社アクジャネカ、あそこの怪人には気をつけて下さい」
「聞いている。
我が国から出した援軍も、一瞬で蹴散らされたそうだな」
「あの組織は、世界征服を狙っています。
貴方たちも十分に用心して下さい。
私は、アクジャネカと戦える戦士を探しているのです」
「分かった! どんな敵だろうと、悪は必ず倒す!
どうか、何かあった時には遠慮せずに俺を頼ってくれ。
このスーツ、使いこなしてみせる!」
こうして私はボイスと別れた。
そして、ムムーの装束から元の姿に戻ると、通信魔法を使ってみた。
「アクジャネカの諸君。
標的にガリアノ王国も追加せよ!
怪人を送り込むのだ!」
楽しみが一個増えて嬉しいわぁ!




