腕試しをしてみよう
悪の秘密結社アクジャネカのアジトにて。
レリーフのヒヨコちゃんの目が赤く点滅する。
『イカデーモン!』
「はっ!」
『イスカリオ王国に向けて、吸血バット怪人を送り出すのだ!』
「はっ! いよいよですな!」
『うむ、期待しておるぞ!』
「ははっ! 大首領に敬礼」
「「「「イーッ!」」」」
『これだよ、これぞ悪の秘密結社! ボイスチェンジャーで威厳がある声にして良かった! やはり大首領といったら艦長とか警部とかギロチン王子とかの声でないとねー』
「あのお、お嬢……じゃなくて大首領。
音声まだ繋がってますよ」
私は急いで通話を切った。
折角の威厳が台無しじゃないか!
まあ、それでも命令は伝わった。
やつが押し寄せて来るまでに一週間はかかるから、それまでに馬鹿王子、別名へなちょこ勇者どもを強化しないと。
王城にて私は皆に告げた。
「情報が入った。これから五日から十日の間に、アクジャネカの怪人が襲って来る。
それまでに、お前らは戦える状態に仕上げてみせよう」
私に鍛えられた四人の戦士は、それぞれパワーアップをしてはいる。
死ぬ寸前まで消耗させて、回復薬を使って全回復させる。
ただの全回復ではなく、筋肉増強剤や魔力増進剤、視力回復薬も混ぜたドーピングポーションを使用。
それを朝起きてから寝るまで繰り返す。
彼らは目に見えて強くなってはいる。
ここでパーティを紹介したい。
戦士ローグ、彼は盾役としても格闘家としても成り立つ。
元々、どっちか一方というのがおかしかったのよ。
圧倒的な防御力とパワー、一方で俊敏性と技巧、両立させて何が悪い?
最初は不満たらたらだったローグも、今では私を「もっと鍛えて下さい」と慕っている。
最近、筋肉と会話するようになっているから、強化でなく技の修練をしても良いかもしれないわね。
魔導士ハル、彼はハッキリ言って賢者の方に進化した。
攻撃も回復も、バフもデバフも、光魔法も闇魔法も、更には呪術に錬金術も使える。
初歩の技だけではあるが。
それでも、魔力を枯渇させては回復を繰り返した結果、人間にしてはとてつもない量の魔力を体内に蓄えられるようになった。
そして私の鍛え方により、肉弾戦もいけるようになった。
剣技はレベルが高くないとはいえ、魔法を纏わせた魔法剣の習得と、破壊されても無詠唱で自動的に全回復させるスキルを覚えさせた事で、何でも出来るようになった。
こうなると立場が無いのが「勇者」ハインツになる。
単純な戦闘力はローグが上だし、万能って部分ではハルが並んでしまった。
だから私は、光の闘気を自在に操れるように鍛えた。
特訓疲れの中、眠らせずに、死霊召喚をした墓場に武器無しで放り込む。
無限に再生する死霊たち相手に、光の闘気を出し続けないとならない。
実戦に勝るトレーニング無し!
最近はどうやら光魔法(初級)を自由に使えるようになり、鑑定したら「神闘士」の称号もうっすら浮かんで来ているとか。
なお、父であるシュナイデル国王からは、
「頭の方も鍛えてやって欲しいのだが……」
と要望されているが、私にも無理というものがある。
いっそ、半導体でも錬成して、脳味噌と入れ替えてやろうかしら。
そして、本来戦闘の役に立たない「聖女」リリーだが、彼女もかなり強くなった。
聖女は皆にバフと幸運を与え、邪を祓い、悪を改心させる能力持ちだ。
だからといって、筋肉が無くて良いと誰が言った?
彼女も他三人と同じく、私が開発した重力十倍神殿で寝起きさせたわ。
最初の三日くらいは泣き言を言っていたが、最近ではちゃんと動けるようになっている。
彼女に授けたのは、死霊召喚をアレンジした魔法陣。
これにより、彼女は胸倉をつかむようにして、相手の魂だけを引っ張り出せるようになった。
そこから無防備な魂に直接語りかける形で、優しく諭して改心させるも、説教して心を折るも、握り潰して完全消滅させるも良し。
私なら迷わず最後を選択するけど、この無意識で婚約者を奪った「決して邪悪ではない」女は、改心させる方を選んでいる。
まあ、肉体から魂を引きはがす時点で、とんでもない苦痛を相手に与えるのだが、別段強調する必要もないだろう。
でもなあ、うーん……、やっぱり物足りない。
どうしても欲しい。
なんで四人しか残らなかった?
五人いれば完璧だったじゃないか!
私的には、RPGの四人パーティじゃなく、戦隊の五人揃って! が理想なのよ。
だけど、初日の基礎練習だけで、もう誰も応募はしなくなった。
試しに国王に五人目になりませんか? と提案するも、
「わしは年じゃ、年。あと病気持ちじゃ。最近じゃパンチ一発で町を半壊しか出来ん。
若い時なら消し飛ばしていたのになあ、老いによる衰えとは怖いものよ」
なんて返された。
まあ、この人は別枠として置いておこうか。
気を取り直して。
私は彼らに装備を与えた。
本当なら、「変身」と叫んだらメンバーカラーの、ピッチピチなボディスーツと仮面に包まれるようにしたかったのだけど、全員から全力拒否されてしまった。
そこで、各人の特性に合わせた武器を開発してみた。
「ローグには戦闘民族の丸盾。
ただの衝撃をそらす丸い盾なだけでなく、この重量で相手を圧し潰すし、円周から刃が飛び出すから投擲しても良い」
「おお! 素晴らしい。で、攻撃の方は?」
「それは臨機応変に。今の貴方はどの武器でも使いこなせるから、相手に合わせて持てば良い。
場合によっては、敵から奪う柔軟な思考も必要よ」
「なるほど、流石は司令! ご期待に応えます、マッスル!」
ちょっと強化筋肉が脳を犯し始めたかしら?
次いこう。
「ハルには棍棒兼任の杖だ。
あらゆる魔法を増幅する上に、敵の魔法も吸収する能力がある」
「なるほど。そしてこの先端の硬い部分に魔法力を込めて、敵を殴れと?」
「それもあるが、もう一つ隠し機能がある。
光魔法を流してみよ」
「おお! 杖の部分が発光した!」
「それを相手に突き刺し、内部から光のエネルギーで敵を爆散させる」
「それは、シュナイデル国王の技、光圧滅砕拳ではないですか!」
「そうだ、貴方もその技を、少し形は違うが使えるようになる」
「このような素晴らしい武器を与えていただき感謝します。武器に恥じぬ働きをいたします」
三番目にはリリーを選んだ。
彼女に渡すのは魔石のついたダーツ。
「あの、オーダ司令、これは?」
「そうだなあ、それに回復の祈りを込めて、隣の馬鹿に当ててみろ」
「馬鹿とは、このハインツ様の事か? って、おい、痛いじゃないか!
あれ? なんか体力が回復した気がする」
「そう、そのダーツは貴女の聖なる気を、維持したまま飛ばせる道具。
聖女の結界は、射程距離に限界がある。
これはそれを延ばせるものと思って欲しい。
今やったように、体力や魔力、気力の回復にも使える」
「こんな素晴らしい、人を傷つけない、私ならでは道具を与えていただけるなんて……。
ありがとうございます、司令。皆の為にこれを使います」
そう涙ぐむリリー。
うん、天然なサークルクラッシャーな部分はあるけど、基本的には良い子なんだよなあ。
で、最後。
「おい、俺には?」
相変わらず態度が尊大なハインツ王子。
でも、こいつにはこれしか渡せない。
「なんだ、この木刀は。俺だけこんなものか?」
「馬鹿が」
「なんだと?」
「持って感覚を研ぎ澄ましてみろ。それが聖剣だと分かるはずだ」
「聖剣だと? そちらこそ馬鹿ではないのか?
聖剣とは宝石が埋め込まれ、金で装飾され、刃はミスリルで出来た……」
「それは宝剣! 王の権威を見せつけたりするには良いけど、実戦の役には立たない」
「ミスリルってだけで十分強いだろう」
そうなのだ。
ミスリル銀は、この世界にある特殊な銀で、魔力をいくら流し込んでも朽ちない特性を持つ。
よって、硬度において最強のオリハルコンや、安価なものなら鉄と合わせて作った武器は、魔法と打撃を併せて使うタイプの武器として丁度良い。
だけど、それは私に言わせたら魔法道具であって、決して「聖剣」ではない。
だから私は、
「その無骨な剛剣は、風を切り、林のように気配を消せ、火のように敵を襲う。
その能力に加え、天を割り、地を割く、まさに聖剣と呼べる力を秘めている」
と説明したものの、どう見ても荒く削った木刀でしかない為、馬鹿は興味を示していない。
更に説明をしようとしたら、伝令がやって来た。
「城外に魔物が来ました。
吸血コウモリの亜種のようですが、人の形をしています。
兵士たちが応戦していますが、まるで歯が立ちません」
予想より早かったわ!
イカデーモンめ、中々優秀な怪人を作ったようね。
でも、こっちも準備はギリギリ間に合った。
「じゃあ、貴方たち、出撃よ!
武器はぶっつけ本番での使用になるけど、大丈夫、それで戦えるから!」
「分かりました!」
そう叫ぶと、四人組は駆けだしていく。
徹底強化されて、初めての実戦。
どれだけ強くなっているかしら?
戦闘は実にお粗末だった。
もっぱら馬鹿が悪い。
「王子、どう戦いますか?」
「ガンガンいこうぜ!」
「え? それだけですか?」
「余計な事を考えるな!
うおおおおおおおおお!」
王子は強力なエネルギーを聖剣に込めた。
繰り返しになるが、こいつは戦闘においては馬鹿ではない。
むしろ優秀な部類だ。
だから、出し惜しみせずに最初から全力でいくのは、間違いではない。
だけどね……。
聖剣を一閃すると、吸血バット怪人や戦闘員もろとも、全てが消し飛んでしまった。
それどころか、余波で周囲にも甚大な被害が出ている。
「凄いよ、これ! 流石は聖剣!」
と喜んでいるけどさあ……。
最初は戦闘員と戦い、その後に敵の攻撃を受けて、ひと通り手の内を全部見せさせてから、反撃の一撃を放つのが特撮の醍醐味なのよ!
プロレスってものを理解しなさい!
一撃でクレーター作るような攻撃をしたら、敵だけでなく、味方の戦力も把握出来なかったじゃないの!
……馬鹿を馬鹿のまま強くし過ぎたようで、私、ちょっと後悔してます。




