ワタクシ、別に正義に宗旨替えしたわけではありませんのよ
私が人間サイドも強くしようと思い立ったのは、ムイハナア商会とのゴーレム委託製造の時からだったわ。
この商会は、私から送られた情報を元に、強力なゴーレムを作成する。
性能は似たり寄ったりだけど、うちの緑褐色で一つ目で斧を持ったゴーレムと、商会の白くてツインアイの上に光る剣を持ったゴーレムなら、人は後者を正義側だと思うだけの話。
どっかのアニメで、試作四号機を敵サイドの外見にしたら、かなり印象的な悪役ロボになったのと同じ感じね。中身は同じ。
そして商会の護衛ゴーレムに、たまにうちのゴーレムをぶつけて、互角の戦いをさせる。
すると、凶悪なゴーレムに対抗できる商会に、各国はゴーレムを発注する。
商会はギルド内の他の商会にも依頼し、その国に合わせた装備をつけて売る。
ギルドに属する者は得をするから、利害でもって結びついた私たち悪の秘密結社に敵対はしない。
なんせ、名義を変えればイスカリオ王国にだって売って良い、「死の商人」を許可する取引相手なんだから、敵に回す必要がない。
こうしたマッチポンプの戦いをさせるのなら……だったら人間でやっても同じ事よね。
私はそう思いついた。
私のこの世界への挑戦、その為には予定調和の魔王なんかより凶悪な悪が必要。
そうだったのだが、同時に人間サイドも強くないと、やはり目的は達成できない。
ここは本来乙女ゲームとやらの世界。
強いのは、戦闘力とか魔法力ではなく、愛の絆。
戦闘は二の次。
どうもゲームの展開的には、
『魔王は私たちに向かって炎を放った。
俺に任せろと言って、戦士は身を盾にして勇者である王子を守る。
だけど戦士は吹き飛ばされ、続いて防御結界を張った大魔導士も倒された。
迫る炎。
君だけは守ると、勇者たる王子は聖女の私を守るべく、身を投げ出した。
私はただ守られているだけ、何も出来ない。
私は愛するこの王子を守りたいのに。
その涙が、愛情が奇跡を起こした。
涙を浴びた王子は、怒りの王子バイオ(以下略)』
……というご都合主義全開のもの!
ストーリーが一方通行な上に、どう戦闘するかは分からない。
愛による覚醒とか、友情による強化とか、怒りによるスーパー化とかは描かれるけど、どう戦うかは問題にならない。
私は思う、
「奇跡に頼らず、通常火力で勝てよ!」
と。
という事で、人間サイドも強化しないと、展開がつまらないのでテコ入れする事にしたわ。
そしてその為には、イスカリオ王国国王シュナイデル三世の強力が必要。
この国王、別名「人間界不敗」という最強戦士は、乙女ゲームの中では早々に退場する。
魔王を圧倒する人類最強の戦士。
しかし、魔王は「勇者」の資格を持たない者の攻撃では、無限に再生を続ける。
最初は互角でも、次第に消耗していく最強の戦士。
その上、この老戦士は病んでいた。
そこで国王は最後の賭けに出る。
自らの生命力を全て使い、魔王を封印する事に成功した。
そして、
「王子よ、ハインツよ。わしに出来たのはここまでじゃ。
倒すのは無理じゃったが、どうにか封じ込める事は出来たわい。
じゃが、わしの封印は一年以内に解けるじゃろう。
それまでの間に、魔王を倒す為の旅に出るのだ。
時間はないぞ、急ぐのだ!
そして聖女よ、どうかこの馬鹿息子を助けてやって欲しい。
よいか! わしの志を引き継ぐのだ!
イスカリオ流は王者の風よ! 全新! 系列! 天破侠乱! 見よ、魔界は赤く燃えている!」
と言い残して死亡して、やっと物語本編が始まる。
つまり、婚約破棄されて自暴自棄になり、荒野の魔女によって「虚無の悪女」への変貌し、魔界から多数の魔を召喚する私と同じ、物語の前提となる人物が国王だった。
乙女ゲームの世界でも、割とお花畑脳だったハインツとリリーに使命感を持たせる役回り。
私がお約束を超越して勝手な行動を取ったせいか、国王の運命も変わった模様。
最強戦力は健在なのだが、王子と聖女もまだ覚醒出来ていない。
そしてここが肝心。
国王は、ゲーム終盤の王子たちパーティよりも強い。
魔王であっても、無限再生というスキルがないと勝てない程だ。
つまり、この人に限っては、私が作る怪人やゴーレムをも蹴散らすくらいの強さなの。
逆に、私はこの人の強さを基準に怪人を作ったんだけど、知らない人からは人間に出せる火力じゃ倒せないとか言われてしまったわ……。
それではいけない!
とりあえず、王子たちをこの人と同じくらいの強さにしないと、話が成り立たない。
だからといって、国王の死を引き金にするのは、ゲーム世界のシナリオをなぞるようで気に入らない。
折角生きているのだから、新しい役割があった方が良いかもね。
というわけで、私はこの国王と密かに会って、王子たちを鍛えて欲しいと伝えた。
強くなる為の装備の作り方や、個人では勝てない敵との集団戦の仕方も添えて。
国王は、出奔した私を見て驚いていたけど、ちゃんと話を聞いて、納得してくれた。
……お前の言葉が真実かを言葉で問うのではなく拳で語る、と言って国境周辺にある山岳が三つ程消し飛ぶ戦いの後ではあったけど。
私、仮にも女性なんだから、殿方と同じ肉体言語で語り合うって、無茶ですわよ。
私の言葉を聞き、納得した後で国王は私に言ったのよ。
「わしはもう余命いくばくもない。
ブルジア公爵令嬢マリアよ、どうせなら貴女が鍛えてやってくれぬか?」
(余命いくばくもない?)
荒ぶるツッコミはとりあえず置いておこう。
悪の秘密結社の大首領が、正義の戦隊の指導者になる。
それ、面白そう!
似たような戦隊もあったよね。
敵組織の参謀長だった人が、身を偽って導士として、正義側の人間を鍛えていく。
その戦隊では、レッドの父親は裏切者で敵の最強戦力となってもいた。
つまり、敵か味方かなんてどうでも良い。
面白ければそれで良いのだぁぁぁ!
あとは、それが敵である必要はないにしても、トレーナーというのは欲しいものよね。
おやっさんと呼ばれる、ある時はスナックのマスター、ある時はバイクショップ経営、またある時はスポーツ用品店店長、またある時は怪獣対策の防衛隊隊長……ってこれは別作品だった。
防衛隊隊長だったのに、宇宙人に入れ替えられたマンションに帰ってきた酔っ払いとか、津波怪獣の目撃者とか、超獣に乗り移られた宇宙飛行士とか、色々だったしねえ。
それはともかく、トレーナー。
私のイメージするトレーナーとは、初心者から世界王者までボクサーを厳しく指導して、
「努力をした者が報われるとは限らん」
とハッキリ言い切った爺さんとか、ロボット美少女アニメなのに鉄下駄でのうさぎ跳びを強要し、
「一人だと単なる火だが、二人なら炎となる」
という名言を残した病魔に侵されたコーチとか、脱落したら一生代表に入れなくするという凶悪なサッカー指導者とか、そんなのだな。
「私、かなり厳しく指導しますよ」
そう言うと国王は、
「一向に構わん」
と即答。
「『私は厳しいが公平だ。職業差別は許さん。勇者、聖女、戦士や魔法使いを、私は見下さない。全て平等に価値がないからだ!』とか言っちゃって良いですか?
「構わん! むしろ、わしが言ってやりたいくらいだ」
「『お前を殺すのは簡単だ。だが、お前が本当に【勇者】なのか、私が試してやる』とかは?」
「むしろ、わしに言わせろ!」
「油の流れる柱を登らせる特訓をして、登って来られない奴を養豚場のブタであるかのように見下ろしながら、かわいそうだけど明日の朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね……って視線を送っても良い」
「むしろ歓迎だ!」
「『あきらめたら、そこで勇者終了ですよ』なんて優しい言葉はかけられませんが」
「無用! 厳しさ一辺倒で十分だ。それで挫けるようなら、我が子に非ず。
王子も廃して、素質のある者を養子に迎えるくらいの覚悟じゃ!」
おお、そっちの方がイスカリオ王国の為には良いのではないだろうか?
アレ、戦闘以外は馬鹿なんだし。
でも、こうして国王陛下と私の価値観が大体同じっていうのを確認出来て嬉しかったわ。
王子の婚約者だった時は、義父と嫁候補という立場での会話しかなかったけど、むしろ今の方が親しくなれたかもしれない。
そう思いながら私は、国王と固い握手を交わした。
あとは、うちのアジトの工作ね。
悪の秘密結社らしく、もっと威厳っていうものが欲しい。
女官長に任せっきりというのもあって、うちのアジト、非常に生活感に満ち溢れているのよ。
スペースコロニー独立を目指したあの一家の官邸のように、いかにも! っていうデザインが欲しい。
それは帰ってなんとかしよう。
あと、私自身!
悪の大首領なのに、全くそう見えない。
いや、別にこの姿がか弱い女性なのはどうでも良いのよ。
そんな姿でも、溢れる覇気からついつい頭を下げてしまう、みたいであれば良いのだし。
でも私って、魔法力は膨大だけど、一見してそれが分からない感じなのよね。
効率を最重視したら、余剰分が外に漏れない仕様になってしまった。
だとしたら、いっそ衣装で誤魔化そうかしら。
でも、地球に居た時の私もそうだし、このマリアの姿でも、どうしてもコスプレ感が出てしまう。
悩みどころだわぁ……。
大体、大首領というのは姿を見えないもの。
私のデザインセンスは壊滅的に悪いから、組織のマークはヒヨコちゃんになってしまった。
そのヒヨコちゃんのレリーフの目が光り、そこから大首領の指令を出せば良い。
あと、幔幕の後ろには石膏で作った骸骨と、私の声を転送する魔法具を置いて、その上から黒い尖がり帽子をマントをかぶせておけば良いでしょう。
かくして私は、
『しばらく馬鹿のトレーニングをしてきます、探さないで下さい』
と置手紙をして、姿を変えて王国に戻ったのである。
サラの、
「何ですかこれは?」
という叫びが聞こえた気がするが、多分気のせいだと思う。




