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彼と彼女の儀式  作者: 葉月スピカ


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雪乃③

瞳子に連絡とろうかなと考えなくはなかったけれど、物見高いみたいにみえるのも嫌なので今はそっとしておこうと思った。ただ、彼女の関わっているスキャンダルの話題はついつい追ってしまっていた。ミーハーな気持ちと、なぜあの子が?という違和感の両方のせいだったと思う。人を好きになることが稀なあの子が何故よりによってという気持ちは強かった。


SNSや、掲示板といったアングラなところでも、情報を求めてチェックを続けていた。

件のタレントにはきれいな娘が三人いて理想の父親みたいなポジションだったので、世間の衝撃は大きかった。妻もタレントでワイドショーのコメンテーターでもあった。彼女は番組を一週間休んでいる。世間の同情は妻や娘たちに集まり、男性タレントとその不倫相手である彼女に非難が集中していた。瞳子はまことしやかに「プロ彼女」のような呼ばれ方をしていたけれど、わたしが知っている彼女からはそんなイメージはまるでない。でも、彼女には、あの子が本気で落とそうと思ったら落とせない男はいないだろうなという何かがあった。とはいえ、あのタレントが彼女が本気で落とそうと思った男なのかと考えると、あまりにしっくり来なかった。メディアを通した彼はたいした個性のないつまらない男にしか見えなかったから。勿論、生身の彼を知っているわけではないから、瞳子が惹かれる何かを持っていたのかもしれないけれど。


火に油を注いだのは男性タレントの取材対応のまずさだった。囲み取材にはじめは平身低頭の素振りをしていた彼は、相手女性のことを持ちだされたことで激高しはじめた。

「あなたたちに何がわかる。ぼくはこの歳になって何もかも捨ててもいいくらいの真実の愛をみつけたんだ」

絵に描いたように逆上せたこの動画は拡散されて、そのせいで「真実の愛不倫」などとますます騒がれ、魔性の女として瞳子にも注目が集まった。そして、SNSの特定ごっこが始まり、気づいた時には彼女のインスタやハンドメイドの販売サイトが見つけられてしまっていた。


・絶対これ。だってこのブレスレット、この画像のと一緒だし爪もほら同じじゃない?

・ほんとだ。すごい!これで確定だね

・え、この◯◯ってアカウントが例の新魔性の女のものってこと?

・うわ、気持ち悪いの見つけた。この人こっちのリンクだと短歌ばっかあげてる。しかもキモい恋愛の歌ばっかり。不倫に酔ってるね、バカすぎ

・この「森彗星」ってのもこの人の別名ってこと?これでぐぐると、いろいろまた出てきたんだけど


心配になって彼女の本名や仕事先とかが特定されるような情報がインスタやサイトに含まれていないか、ざっと探してみる。大丈夫そうだったけど、でも、これが拡散されて広まると不愉快なDMやメールが相当来ることになるんじゃないか。心配になってきて、わたしは躊躇していた連絡をとってみることにする。


「ご無沙汰してます。元気にしてるかな。もしかしていろいろ騒がれてる件に関わってる?前に教えてくれたインスタとか、SNSは閉じたほうがいいかもしれない。とにかく、ちょっと心配してます。できることがあれば、力になれることは限られてるとは思うけど何かあれば声かけてね。余計なことだったらごめんなさい」            


 案の定、瞳子からはあっさりとした返事が来た。

「大丈夫だから心配しないで。でもありがとう」と。


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