瞳子⑨
それから、わたしは悩まなかったわけじゃない。
いろいろ考えたし迷ったし、勿論、苦しんだ。
何ができるのか何をすべきじゃないのか考えをめぐらした。
頭の中で彼のように、物語を作りあげてみた。
そして、試行錯誤をしつつ、わたしはやれることをやろうとした。
まず、高校時代の友達に連絡をとった。
彼女がタレントのヘアメイク兼スタイリストとして売り出し中なことを知っていたし、彼女は社交的で顔が広い気のいいタイプだったからだ。ありがたいことに彼女は懐かしがってくれてわたしを遊びに連れ出してくれた。話題も豊富で人脈も広く、いろんな店や芸能界の裏話にも詳しかった。彼女の紹介でどんどん知り合いは増え、わたしは遊び方を変えた。
ヘアメイクの子いわく、仲良かった遊び友達の多くが結婚や子育てで遊んでくれなくなって寂しかったのだそうだ。だから、タイミングよく現れたつきあいのいいわたしの存在を喜んでくれた。
彼女と飲み歩き、どんちゃん騒ぎにパーティにと明け暮れつつ、頼まれて彼女のアシスタントみたいな仕事をすることになった。彼女はヘアメイク動画に力を入れていてその作成が主な仕事だった。わたしは裁縫も得意だったのでスタイリストのほうの手伝いもしたし、趣味でつくっていたビーズバッグやアクセサリーを使ってもらうこともあった。
少しずつタレントさんと顔見知りになり、また彼らがよく利用する店についても詳しくなった。そういう場所に一人で飲みに行くこともあったし声をかけられ親しくなることもあった。でも、それなりの大物がよかった。大物でなければ意味がなかった。
彼は、ちょうど良かった。
ほどよく好感度が高く、奥さんや娘たちを含めて芸能一家。奥さんはワイドショーのコメンテーターなのでそういう意味でも話題性がある。そして何より、わたしに興味を示してくれた。しかも一夜限りとかのライトな関係ではなくて、もっと長い深い関係を望んでくれた。
言葉は魔法だと思う。
人を動かす魔法。その言葉に心がこもってるかこもってないかはあまり重要じゃない。
こもっていなくても装えば、人を動かすことができる。特に、信じたがってる人ほど簡単に動かすことができる。
わたしはおそらく言葉を操るのはうまいほうだった。
本当の気持ちを言うことは臆するほうなのに、本気でないからこそ思いのままに言葉を操れた。どんな言葉を吐けば、相手に響くかが手に取るようにわかった。
彼にはけして吐かなかった言葉を、このタレントさんには何度でも熱っぽく言うことができた。熱っぽくて、でも空虚で狡い言葉を。
罪悪感はあった。
このタレントさんにもそのご家族にも本当に申し訳ないと思っていた。
でもそれ以上に、わたしには覚悟があった。
これはわたしにとって必要な儀式の一環だった。




