瞳子⑧
彼が東京に来るある日、その日はちょうどわたしの乳がん検診の日だった。
去年の検診でひっかかっていたせいで年に一度はエコーとマンモの検診が必要だった。
その日もありがたいことにセーフで、ほっとした私はそれを彼に伝えた。
彼はたいして興味なさそうにただわたしの身体を撫でた。
「チェックしてるの?」
「いや、ただ弄んでるだけ」
わたしたちはお互いに、気持ちの吐露を一度もせず、お互いへの心配も口にしなかった。
大きな地震があってもわたしの街で災害があってもきっと彼はわたしの心配をしないだろう。
だけど、わたしはきっと心配する、口に出せないけど。
大きな災害があって交通網が遮断されたりしたら彼には会いづらくなるなと不埒なことを思ったりする、口に出せないけど。
「孤独に強いものだけが真の愛を知る」、これは誰の言葉だったか何の本に出てきた言葉かは忘れたけれど、わたしはこの言葉の信奉者だった。別に真の愛が欲しいなんて思うようなロマンチストではなかったけれど、孤独に強いことは自分にとっては大事なことだった。
何も求めないことで、臆病なわたしは傷つかない生き方を選んだ。
葛藤は短歌として吐き出した。
しばらく連絡がない時もあった。
わたしたちは、気持ちも確認しないままで当然何の約束もしなかったので、いつ終わってもおかしくないという覚悟はどこかにあった。
なんとなく、今回のこの間隔の空き方はとうとうそのときが来たのかなと思いはじめた頃、ようやく彼からメールが来た。
「間があいてしまってすみません。色々あって、なかなかそっちに行けなくて。ちょっとまだ都合つかなくて予定が立たないんですが、新しく書いたものがあるのでまた読んでもらえたらと思ってます」
わたしはこんな返事を書いた。
「都合がついたら教えて下さい。でも、そんなこと聞いたらすぐ読みたくなる。もしよかったら郵送してもらえないかな」
「了解です。一緒にいる時に読まれるのも照れくさいので先に送ります。感想、聞かせてください。つまらないならつまらないでかまわない。正直なのがいいです」
そして、数日後、彼からのレターパックが届いた。




