瞳子⑦
箸にも棒にもかからないようなおかしな作品だったらどうしようという心配はいらなかった。
確かに彼が言うようなささやかな、これがSF?というような可愛らしいライトなテイストだったけど、ユニークで、鮮やかで、わたしは素直に、彼の短編小説を好きになった。
「これ、どこかの文学賞とかに応募する気はないの?」
彼は笑った。
「ないよ、ない。確かに前に言ったようにヴォネガットみたいなものを書けたらなという野心はあるけど、それは彼の新作を読めないからであって、物書きになりたいとかじゃないんだよ。自分のために、ただ素直に、湧き出てきてくれたものを形にしているだけで。正直に言えば、一度だけ考えてみたことはあるんだけど、このくらいの分量のものって応募するようなところもなくてね」
「そうなんだ。じゃ誰にも読んでもらえないまま埋もれてもいいわけ?」
彼は考えながら言葉を選ぶように言った。
「そうだね。確かにいずれたくさんの人に読んでもらえたらなという気持ちはあるよ。でも今じゃない。もうちょっとうまく、良いと思えるものを書けるようになったら、こいつらも書き直して、そうしたらいつかはっていうことは考えなくはないかな。でもやっぱり今じゃない」
わたしは納得できない顔をしていたのだろう、彼は続ける。
「それに、誰にもじゃない。瞳子が読んでくれてるじゃない。読んでもらえて嬉しいよ。ね、どうだった?」
そう言ってあの優しい目で微笑み、わたしをまっすぐに見つめる。




